
「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子さんが監督・脚本を手がけ、堂本剛さんが27年ぶりに映画単独主演を務めた奇想天外なドラマ。
堂本さんにあてがきした物語で、
駆け出しのアート作家が、何気なく描いた“まる“が瞬く間に世間でもてはやされ、あっという間に社会現象になったが本人は受け入れられない。何を支えにどう生きるかというはなし。今の世相を写し出した作品です。
とらえどころのないようで芯がある堂本さんの音楽家としての拠所を楽しく見させてもらいました!作品そのものがアートな作りで、映像が、芝居が楽しい。そして色々なテーマが見え隠れして楽しめました。時代や環境に流されない自分のアイデンティティをしかり持つこと、自分の「〇」を描けることが生き残りの秘訣だと思いました。
監督・脚本:荻上直子、撮影:山本英夫、編集:普嶋信一、音楽:.ENDRECHERI./堂本剛、主題歌:堂本剛。
出演者:堂本剛、綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン、戸塚純貴、おいでやす小田、濱田マリ、柄本明、早乙女太、片桐はいり、吉田鋼太郎、小林聡美。
物語は、
美大を卒業したもののアートで成功できず、人気現代美術家のアシスタントとして働く沢田。独立する気力さえも失い、言われたことを淡々とこなすだけの日々を過ごしていた。そんなある日、彼は通勤途中の雨の坂道で自転車事故に遭い、右腕にケガをしたために職を失ってしまう。部屋に帰ると、床には1匹の蟻がいた。その蟻に導かれるように描いた○(まる)が知らぬ間にSNSで拡散され、彼は正体不明のアーティスト「さわだ」として一躍有名人に。社会現象を巻き起こして誰もが知る存在となる「さわだ」だったが、徐々に○にとらわれ始め……。(映画COMより)
あらすじ&感想:
〇現代美術家のアトリエを首になった沢田はとりあえず「〇」を描き、食うために古道具屋にアートとして預けた。
沢田はこのアトリエに勤めて4年、主宰者の秋元の言い成りに筆を振るってきた。朝起きに平家物語の掴みを喋って出勤する。(笑)同僚の矢島(吉岡里帆)から「安い金で雇われアイデアをパクられ、自分のアートはどうなるの?」と批判されても「自分の都合だけでは生きて行けん」と意に介しない。
ところが自転車事故で右手を負傷、秋元から「いいタイミングだ、時代に抗うな!パクルな!」と解雇になった。沢田は「俺、何かと戦っていたのか?」と驚く。矢島から「それでいいんですか?」と問われが、そのまま受け入れた。矢島から「あんた何者?」と手を丸めた望遠鏡で見つめられた。

沢田は池の魚にパンくずを与える先生と呼ばれる老人(柄本明)に出会った。先生に「仕事を首になった」lと告げると「3月14日は何の日?31日は?」と尋ねられた。答えられないでいると「円周率の日だ。始まりも終わりもない、繰り返すのみ」とπの数値を喋りながら去っていった。
その帰り、踏切に設置された鏡、交通標識など円形のものが目につく。
ひとり住まいの古いアパートに戻り、「諸行無常!」とマスキングテープを転がし、ひっくり返るとが丸い電灯の傘が目に入る。蟻が這う!画用紙を引っ張り出して左手で筆を持ち〇を描く。蟻を追っかけ次の〇を、こうしていくつかの〇を描いた。

沢田はこの絵を古道具店に持ち込んだ。
古道具店主(片桐はいり)が「質屋ではないぞ」と言う。(笑)「アートだ、売ってくれ!」と“さわだ”とサインして預けた。店を出て路地を歩くと路面に描かれた〇で“けんけん遊び”する女の子の姿が目に入った。〇に意味を感じ始めた!
沢田はコンビニ店員として働くことにした。
モーという若いべトマナム人店員の指導を受けながら働くことになった。モーは日本語も上手く「人間は“まる”だよ。福徳円満!」と指導を受ける。(笑)
勤務帰りに見る月は“まる”だった。(笑)アパートに着くと隣の部屋の横山(綾野剛)に「飯奢って!」とせがまれたが、断った。
〇画商から沢田が描く “まる” 、「円相」の買い取り注文が入って来た。
夜、突然画商の土屋(早乙女太一)が訪ねてきて「私が認めたものだけ一枚100万円で買う、“円相”「〇」を書いて欲しい」と註文が入って来た。沢田は驚いた!100万円、100万円とぶつぶつ呟いた。これが隣に部屋のマンガ家の横山に聞こえたようだ。
沢田は左手で〇を描いて、これが100万円、ふたつ描いて200万円と驚いた。
コンビニで客として現れた同クラスにいた吉村(おいでやす小田)から「今でも絵を描く夢を追っているなら絵はないか、俺、現代アートに投資しているから」と聞かれた。
沢田はスマホで“円相”という言葉を調べた。「悟りや真理、仏性、宇宙全体などを円形で象徴的に表現したもの」とあった。
沢田はコンビニでも床にモップで“まる”を描いて100、200、300と呟いているとて店員のモーから「絵描くと疲れるね!」と冷やかされる。(笑)「雨が降ってる、鳥はどうしている」と聞かれる。(笑)「羽根が重くなり、眼に雨が入り見えるのかと自転車で思っていたら転んだ」と話すと、「これ流行っている!すぐ眠れるらしい」とスマホにある動画「円相」を見せられた。沢田がちょっと感動した!
沢田は古道具店主に預託した“まる”の行方を聞くと「男が持って行った!」と3万円くれた。その帰り道で見えるものは全部“まる”に見えた。(笑)
アパートに戻り土屋に電話すると繋がらない!突然、壁に穴が開き、隣の部屋の横山の脚が出てきた。横山がこちらを覗いていた。(笑)
沢田は画廊のショーウインドーに自分が描いた「円相」が展示してあるのを見た。
〇沢田は飯屋で横山と「今の窮地から逃れるか」と論議し、沢田が描く“まる”を笑った!(笑)
横山はマンガ家と名乗り、「眠れないから慰謝料払え!」と寿司の奢りを求めてきた。(笑)
横山は「働き蟻の2割は働かないで8割が働く。この2割に意味がある」という。(笑)「自分は人の役に立ちたい、マンガで世界を変えたと思っているが、それが2割に入っている。苦しい」と嘆く。(笑)沢田は「ゆっくり働いたらダメなの?」と聞くと「役に立たないやつが出直して何ができる」と怒る。「口は拭ける」と答えると「お前はやばい!口が拭けるのか」と怒る。沢田はテーブルに〇を描いた。横山が「やっておれるか!生きている価値なし、バカだ」と叫んだ。(笑)
〇沢田が画廊から個展のための作品を依頼された。
沢田は「まる」の絵をウインドウに飾っていた画廊を訪ねた。画廊の女将・若草(小林聡美)が「あの絵は現代美術館が250万円で買った」という。沢田は「僕の絵で、3万円しかもらってない」と抗議した。(笑)「絵の作家が現れた」と沢田は特別室に案内され「個展をやりたいので10点描いて!」と持ち掛けられた。

沢田はアパートで個展用の作品を描いていると、当然、地震が襲ってきた!1月31日だった。部屋の壁から横山の足が覗き、「気象変化で状況は悪化、どうすればいい」と問うてきた。(笑)この男、なにやかやと理由を見つけて働きたくないらしい。
〇沢田の個展は大盛況!時の人になっていった。
会場を訪れた沢田は観客に取り巻かれるという人気ぶり。「一緒に撮って!」と女学生にストーカーされる。吉村から「マネージャーやってやる」と付き纏われる。マスコミに追っかけられ、「もう戦争はないメッセージ」を求められる。
矢島は革命家になって「一生懸命働いているが、搾取されている」と声を張り上げていた。沢田と見つけて「寿司を食べた!アートに言いたい!」とサインを送ってきたが無視した。また、大家からは「主人が癌になった。“まる“を描いて!」とねだられるが、断った。なんの関係もない怒りを買わねばならなくなった。
横山から「俺のこと笑っただろう。嘘つくな!俺だって描けるただのまるだ。ここから抜け出せると思うな!」とおかしな因縁を吹っ掛けられる。(笑)
TVで秋元が「私が育てたといってもいい」と自慢する。世の中、人の〇で賑わい、平和が“まる”のCMが流れ出す。世の中、すべてが“まる“に乗って動き出した。沢田は「これがアートか?おかしい!」と考え始めた。
そのとき、画商の土屋が沢田を訪ねてきた。
土屋が「あなたの絵は買えない!心に安らぎを求めている期待に応えてください。あなたは手品のできない手品師だ」と言って帰っていった。
〇「売れないアートに価値はない、もっと稼げる作家になれ」と若草から発破を掛けられた。
若草は「世間の人が求めているものに答える」ためにと、沢田のインタヴューをCMを撮った。
沢田は「何年も変らない生命が繰り返される。生まれて死ぬ、永遠に。円にもそれと同じことが言える。永遠に続く、始まって終り、終わって始まる。人間が発明した永遠、これが円周率に繋がる」と喋ると、若草が「これはいい」と認めた。
〇このCMを見た横山が「沢田の「〇」の中は欲だ!自分が沢田だ!」と行動に出た。
沢田の部屋のドア、廊下、そして街のいたるところに「まる」が貼られた。横山が「今日から俺が沢田だ。円の中が欲に満ちている。円の中は無だ」と行動を起こした。

トンネルの中はこの張り紙で埋まり、「沢田!沢田!」と人が集まり「円」ブームの輪を作った。沢田の「〇」はまさに社会現象となった。
すばらしいアート映像になっている。
沢田が池の魚にパンくずをやる先生に会って「〇」の中身を知ろうとした。
先生は「次は23日だ」という。沢田は「あのとき描いたのがひとり歩きしとんでもないものになって、あのときの“まる”にならない。何を描いたらいいのか?〇の中に何を描いたらいい」と問うた。先生は「一服差し上げよう」と茶室に誘った。
茶室で先生はお茶を立て、沢田はそれをいただいた。お茶を立てる動作も、飲む動作の“まる”だった。壁の掛け軸に「これくうて茶のめ〇」と書いてある。沢田が意味を聞くと「江戸時代の禅僧のものだ。円相を饅頭に見立てて、つまりそういうことだ」と説明した。「円周率は無限に続く宇宙。饅頭を喰って宇宙に委ねましょう」と言った。沢田が「ますます分からない!」と声を上げると「分からないからバタバタするな!“まる“だよ」とお仰る。(笑)沢田は饅頭を喰った!
〇沢田はいろいろな色で、いろいろな大きさで、いろいろなもの、画用紙に障子に天井にビルの屋上にと〇を描いて自分の「〇」をアピールした。(笑)

現代美術館でこの「〇」が展示されたが、沢田は若草のやりかたに疑問を持った。
展示会に多くの鑑賞者が集った。若草が「よろしくお願いします」と挨拶をしていた。沢田はその場を離れ、「これでは前の「〇」と同じでないか?」と考えていた。そこに土屋の娘がやってきて「私はあの人のペット、新種のペット」と言って去っていく(幻覚?)。(笑)
沢田が会場に戻ると、矢島のデモ団が展示妨害に現れ、大混乱になっていた。矢島が手を丸めた望遠鏡で沢田を覗いていた。
沢田はアパートに戻り、破れた壁から横山に「よかったらどうぞ」と美術館で出された寿司を差し出した。(笑)横山は「いつかは失敗すると思った」と言った。沢田は「成功しないと諦める?そんなことはない。人としての本源的な欲望がある。自分を生きるという身勝手な実感がある。たとえ役に立たなくても何かに泣き、泣けて自分が絵を描きたいという気持ちは誰も止められない」と話した。横山は「やっぱり俺は成功しない。お疲れさん、お帰り」と答えた。(笑)
横山は沢田の代行を降りた!
次の日、横山は沢田が働くコンビニを尋ね、「適当に描いて、沢田をやったが売れなかった。お前、なんで自分が沢田と言いきれるんだ?」と聞く。沢田は「自分に確証はない」と答えると店員のモーが「それ仏教で無我というんだよ」と言った。沢田は「諸行無常か!」と応えた。横山は「気を付けて帰って来い!」と右手のギブスに“よこやま“とサインした。

〇沢田は若草が望む「〇」を拒否した。
沢田は右腕のギブスが取れ、右手で絵を描き始めた。古道具店で自分の絵の売れ具合を聞いた。よく売れていた。しかし、“けんけん遊び“の〇を見ても女の子の姿は出て来なくなった。横山は「アパートが取り壊される、インドに行く」と沢田を誘った。
沢田は右手に筆を持ちキャンパスを黄色で塗りつぶし、この絵を若草に提示した。
若草は「この絵は駄目、〇あっての沢田の円相!この絵の上に円相を描いて!」と註文をつけた。沢田がその通り描いた。綿草が「正式に契約させてください」と言ったが、沢田は右手のげんこつで〇の中をぶち抜いた!
〇沢田は自分が描いた色紙「〇」をモーに与えて消えた!
コンビニ店員のモーに辞めることを伝えた。モーは色紙に沢田の「〇」を求めた。沢田は黒のサインペンで描き「何の価値もないが一番うまく書けた!」と話した。モーは「雨の日の鳥の話はきれいで心地よかった。本当に薄い毎日だがそう思わないとやっていられない。今度一緒に山の向こうでバイトしよう」と感謝した。地震が起きた。23日だった。
沢田が破いた絵は外国人に買われていた。
沢田は自転車で散策中、交通統制員となった先生が「底辺×高さ÷2 割る2だ」と黄色の三角標識(停止)を出したが、沢田はこれを無視して走り、事故ったらしい(笑)
まとめ:
沢田は仕事を失い食うために「〇」を描いて「アートだ」と古道具店に預けた。その「〇」が画商の手にかかり、ネットを通し、画廊の戦略に乗せられ、あっという間に人気作品となった。そうなると、批判者が現れ、模造品が出て、いわれのない不条理な立場に追いやられた。
沢田は「自分を生きるという身勝手な実感を大切にして、たとえ役に立たなくても何かに泣き、泣けて自分が絵を描きた」と自分の絵を描くことを決心した。
アートとして一人歩きし始めた「〇」。製作者本人の沢田さえその価値が分からない。まさに現代ネット社会の恐ろしさを描いた作品だった。
この作品は堂本さんにあてがきした作品と監督が明かしています。
堂本さんの演技はまさに沢田と思いました。飄々としているが胸の奥には強いものを持ち、何よりも人への優しさがり、時代に合わせられる人だと思いました。
監督作品でお馴染みの片桐はいり、小林聡美さんを始め、皆さんの演技。これなら時代を生き抜けると思わせてくれるアートの演技でした。
アイデンティティと寛容、仏教の精神を見直そうとしている。
この作品、貧困、外国人労働者、ネット社会、差別、孤独、地震等と今の時代の社会環境をどう生きるかを問う作品になっています。
同じ芸術の道を志ながら、矢島は社会改革に高い理想を頑固に追い、現状からはズレていく。横山は孤独で過去にしがみつき時代から取り残されていく。その中で沢田は仏教的な考え方を軸に、自分らしく生きる、アートな人生を生きてはどうかと問う大きなテーマ作品だとみました。
映画そのものがアートになっていた。励まされる、人生を考えさせられる、とても面白かった!!
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