
「月」「舟を編む」の石井裕也監督が池松壮亮を主演に迎え、平野啓一郎の同名小説を原作にデジタル化社会の功罪を描写したヒューマンミステリー作品。
自由死が認められる社会。主人公は「リアル・アバター」という職に就き、自由死したAIの母とその知人である若い女性と生活しながら、母が何故死を選んだのかと「本心」を探す物語。「リアル・アバター」という職業やAI人間、自由死制度、著しい経済格差など未来デジタル社会を示唆するストーリーを面白く観ました。デジタル社会で人としての核心的な部分、“心の問題”をどう扱うかを問うた作品。
本心は複雑な環境条件で隠され分かりづらく本人ですら気付かないことかある。ましてや「リアル・アバター」として働き自分を喪失している主人公が母の本心を掴めるか? “愛だけはデジタル社会に犯されていなかった”という結末に、そうであって欲しいと思える作品でした。
監督・脚本:石井裕也、原作:平野啓一郎、未読です。撮影監督:浜田毅、撮影:江崎朋生、編集:普嶋信一 シルビー・ラジェ、音楽:パク・イニョン 河野丈洋。
出演者:池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子、AI(声)窪田正孝
物語は、
工場で働く石川朔也は、同居する母・秋子から「大切な話をしたい」という電話を受けて帰宅を急ぐが、豪雨で氾濫する川べりに立つ母を助けようと川に飛び込んで昏睡状態に陥ってしまう。1年後に目を覚ました彼は、母が“自由死”を選択して他界したことを知る。勤務先の工場はロボット化の影響で閉鎖しており、朔也は激変した世界に戸惑いながらも、カメラを搭載したゴーグルを装着して遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」の仕事に就く。ある日、仮想空間上に任意の“人間”をつくる技術「VF(バーチャル・フィギュア)」の存在を知った朔也は、母の本心を知るため、開発者の野崎に母を作ってほしいと依頼。その一方で、母の親友だったという三好が台風被害で避難所生活を送っていると知り、母のVFも交えて一緒に暮らすことになるが……。(映画COMより)
あらすじ&感想:
○石川朔也が母の秋子を自然死で知った経緯について。
1年前の夏、「教室にひとり佇む女学性・村田ユキ!突然、その村田ユキが居なくなった」という夢から覚めた朔也(池松壮亮)は母・秋子(田中裕子)が高校生の時と同じように弁当作ることに怪訝しながら、金属溶接の仕事場に急いだ。母から「大雨が降っている、大切な話がある」と電話があったにも関わらず、友人と一杯屋で飲んで帰宅。ゲリラ豪雨で激流となった河川に佇む母が突然川に流され、救出のために朔也は川に飛び込んだ。
1年後、意識不明で入院中の朔也が目覚め警察から母の死は自死だと知らされた。
すぐ帰らなかったこと、村田ユキの事件で苦労させたことで母の死が受入れらえず、死の原因を知りたがった。
自由死制度とは自由死が認可されれば3か月後、医師により薬剤投与による死。自死も認められる。家族には100万円の見舞金が支払われ、公共住宅の継続使用が認められるという。
母の日記に自由死の許可を取り、「大切な話がしたい」と書き残されていた。
○朔也は友人の紹介で「リアル・アバター」という仕事に就いた。
朔也が職場に復帰しようとしたが工場はロボット化され、友人の岸谷(水上恒司)に誘われ、カメラを搭載したゴーグルを装着して遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」、簡単に言えば自分の身体を貸す仕事に就いた。

自由死を選択した老人・若松さんからのリアル・アバターの仕事を引き受けた。
若松さん(田中泯)の指示通りに禅寺に詣で、海岸で夕陽を眺める仕事だった。若松さんは朔也が映し出す夕陽を眺めながら「幸せだ、ここに来れてよかった」と家族に見送られる中で医師の処置薬で亡くなった。朔也は若松さんの言葉に母を思い出し泣いた。
これはよいアイデアだ、槍ヶ岳から日の出を見て死にたい!(笑)
○朔也は母の死の本心を聞くため「VF(バーチャル・フィギュア)」を作ることにした。
岸谷がVF製造会社社長・野崎氏(妻夫木聡)の娘さんのアバターをやっていて、この縁で野崎氏を母の日記や手紙、写真アルバムなど資料を持って野崎氏を訪ねた。

くも膜下出血で亡くなったVFの中尾(綾野剛)に会った。確かに人間に思えた。「心があるのか?」と聞くと野崎氏から「心はないが、最近のニュースや手紙などのデーターがVFに入っており、さらに学習能力があり、(私たちが)心を感じるようになる」と説明があった。
朔也は「まやかしだ」と帰ろうとすると、野崎氏は「本物以上のお母さんを造る」と製造室に案内された。母と撮った写真を入力した映像を見た。朔也が「笑顔の方が自然だ」と言うと「それは貴方の思い過ごしだ」と言われ愕然とした。
野崎氏が「お母さまの友達・三好彩花(三吉彩花)の情報を入れれば新しいお母さま像が出来る」と勧めた。朔也は造ってもらうことにした。
朔也は三好彩花に会い、一緒に住むことを薦めた。
彩花が「仮想空間で会いたい」というのでそうした。美しい庭園で黒猫姿の彩花に会った。朔也はハンサムなアニメ姿だった。「唯一の友達でした」と言い、「母は自ら死を選んだ?」と聞くと「そうです」と言う。
彩花は「今、避難所で生活している」というので、朔也は彩花に母の部屋に住むことを薦め、彼女が受け入れた。
彩花がスーツケースひとつで引っ越してきた。
朔也は彩花が村田ユキに似ていると思った。彩花は母の関する資料を沢山持っていた。朔也は「父は、産まれてすぐ離婚、顔を知りません。母とここにふたりで過ごしていました。母の部屋を使ってください」と話すと「先に行っておきます、少し変ですが、怖くて人に触れません」という。

朔也は彩花を伴いVF母を引き取りに野崎氏を訪ねた。
彩花を残してVF製造室に通されVF母に会った。母から「新しい仕事どう?」と聞かれ「驚いた!」と答えると「朔也は貯める子だから」と口笛を吹く。朔也は「母だ!」と泣いた。野崎氏が「誤っていることを言ったら、そんなこと言うなと言ってください。精度が上ります」と補足説明した。
○朔也と彩花、VF母との三人の生活が始まった。
朔也は母に「何で自分に言わないで死んだ」と聞く。「自由死というのがよく分からなかった」と言う。朔也が自由死を説明しても「分からない」と言って消えた。しばらくして現れ、「母さんも聞きたい!優秀なあなたがあんな事件を何故起こした!村田ユキはどうしているの?家にいるのは三好さん、ふたりと一緒に仕事をしたことがある。あなたは三好さんとユキさんを一緒にしてない」と言い、消えた。母な朔也に何を伝えたいのか?
彩花は「まともな料理も作れず、早く仕事を見つけて家を出る」という。朔也は「それおり母と話して欲しい。それで母は学習する」と要請した。次の朝、彩花は朔也の申出を受け入れ「当分ここにお世話になります。敬語を使わないで話して欲しい」と言う。
朔也と彩花はゴーグルを掛け、VF母を見ながら話した。
母は気分が良いらしく踊っていた。彩花が「朔也さんは私を通して別の人を見ている。私の過去を知らない。お母さんは何か言わなかった」と聞く。朔也が「母が生きている時に聞いた」と話すと、「仕事が見つかったらお母さんのテーブルに花を置いて、出て行く」と言う。
彩花は大きな秘密を持っていて、朔也には迷惑を掛けたくないと早く出て行きたいようです。彼女の本心は?
朔也はレストランの元オーナー家族からリアル・アバターの仕事を引き受けた。
家族からに指示で、レストランで豪華な食事をしてケーキの贈りものを受け取り急いでクライアントにケーキを届けた。しかし、ケーキを受け取った家族から「汗臭かった!」と訴えられ、リアル・アバター派遣会社のAIから「成績不良で首寸前です」と警告された。この仕事も楽ではない。AIで監視される社会に厳しさが描かれる。
朔也不在時、彩花はVF母から呼び出され、朔也の過去が明かされた。
彩花は母の呼び出しにゴーグルをつけて話を聞いた。母は「朔也のこれから先のことが心配。朔也は頭もいいし何でもできるのにまともな仕事につけない」と話す。彩花が「村田ユキさんという方のことですか?」と聞いた。・・・・・
朔也が戻って母と話をした。
「朔也は純粋だから話せないことが沢山あった。彩花さんには何でも話せる。だから仲良くなった。私は大恋愛をした。大好きな女性だった。子供が欲しくなって女性同士では子供が産めないし精子提供してもらった」と話す。朔也は「ふざけるな!」と怒った。
朔也が「このFV母は本当のことを言っていない」と彩花に話すと、母が「あなたが彩花さんとユキを一緒にしてない?」と横から口を出す。
朔也は高校生のとき先生から「村田ユキはそういう子だ。金に困っているわけでもないのにあんなことをして、お前の人生無駄になるぞ」と注意されこの先生の首を締めたことを想い浮かべた。
彩花が「その話、お母さんから聞いた」と答えた。朔也は「逮捕され高校を退学となっただけだ」と答えた。朔也は「VFの母のデーターはバグか、トンチンカンなことを言い出した。女性と付き合っていたとか、精子がどうとか、私は自由死の理由を聞きたいだけだ、もう分からない」と彩花との話を止めた。
テーブルの上に花が飾ってあった。
彩花は仕事が見つかったからと、翌朝、彩花は家を出ていった。
○朔也は病院患者の見舞をするリアル・アバターの仕事中、人助けでネットの英雄となった。
朔也は見舞に持っていく買い物中、クライアントが「こいつは何でも聞くぞ!」と出鱈目な指示を出してくる。メロンを買っているとき、店員の娘に文句をつけて買うのを止め、休憩しようとコインランドリーに入った。そこで、難癖をつけて女性を侮辱し暴力を振る男に出会った。クライアントが「殺せ!クズ!」と指示してきた。朔也は高校教師から侮辱されたことを思い出し、男に挑み掛かり首を締めた。この映像がネットに流れた。リアル・アバター派遣会社のAIが契約破棄を伝えてきた。
岸谷もアバター同士が殺し合うミッションが与えられる状況に、朔也に「中国に行こう」と誘う。
朔也が家に戻ると彩花が料理していた。
彩花が「私はここにいる、とりあえず食べて!」と言う。彩花は何故戻ったの?
SF母がおかしなことを言い始めた。「ネットを見るとコインランドリー事件が話題になっている。“英雄の非暴力的抗議”として話題になっている」と。
彩花がネットを調べ「閲覧回数が50万回数を超えている。名乗り出た方がいい」と言う。そこに「私が朔也は英雄だと言っておいたよ」とイフィーと名乗る男から電話は入った。彩花が「世界で有名なアバターで、私も好きだ。私には関係ないが、朔也君は英雄になった」と喜んだ。
○朔也はイフィーが彩花を好いていることを彩花に伝える役を引き受けた。
朔也はイフィーから英雄として豪華なホテルのパーティーに招待され、彩花を伴って参加した。踊ったこともないのに彩花を誘い踊った。そこにイフィーから会いたいと連絡が入り、彼のアトリエで会った。イフィーこと鈴木ルイ(仲野太賀)はアバターデザイナーで部屋は仮想空間。彼は障害者のため車椅子で作業していた。豪華な食事をし、イフィーは彩花と仲良く踊る仲になっていた。朔也は「英雄ではない」と言ったが、イフィーとこれまでの2倍以上の額でリアル・アバター専属契約をした。イフィーは彩花にひと目惚れした。

ここから朔也の人生は変わった。
朔也は母も彩花も目に入らなくなり、いそいそと仕事、イフィーのオフィスに出掛ける。
イフィーから彩花の関係を聞かれ同居人と答えたことで「彩花が好きになった。ここで生活すれば彼女に生活は保障される。ふたりの間を取り持って欲しい」と持ち掛けられ、朔也が引き受けた。
朔也は彩花に「あっちの世界に行きたい。そのためには何でもする。きみはイフィーの手なら触れる(踊っていた)」と話し、彩花と別れることにした。
夜、朔也(イフィーのアバターとなり)は彩花とクリスマスプレゼント探しに装飾店にやってきた。
彩花がランプを選ぶと朔也はイフィーに意見を聞いた。イフィーが喜ぶ。朔也が「それがいい」というと、「私はあなたの一緒に居られるから買い物に来た」という。朔也が、「あなたが好きだ」と告白すると「あなたは誰?」と逃げ出した。朔也が「本当の話がしたい」と言うと「私はセックスワーカーだった。だから人に触られるのが怖くなった。私はユキさんに似ているがユキさんにはなれない」と告白した。朔也は「そんなこと言うな!私はあなたが好きでない」と答えた。朔也は混乱していた。
彩花は「昨夜、イフィーに正式にプロポーズされた。過去を喋ったが、それでもいいと言われた。イフィーの意見を聞きに行く」と出て行った。

朔也は縁台でVF母と久しぶりに話した。
母が最期だから滝を見たいという。ふたりで滝を見た。朔也は「お母さん、石川秋子よいう人を知りたかった。大切な話というのを聞きたかった」と話すと「最後だからいう。あなたを産んでよかった。ものすごく愛している」と話す。あまりにもあっけない話で朔也は驚いた。すると「私は今、最高に幸せ、今なら死んでもいい」と言った。朔也は止めなく涙が出てきた。「それもっと冗談っぽく言った“本心”だったの。今までありがとう、又会おう」とゴーグルを外し、天に手をかざした。そこに彩花の手が触れてきた。彩花が戻ってきていた!
まとめ
VF母親が「あなたを産んでよかった。ものすごく愛している。私は今、最高に幸せ、今なら死んでもいい」と明るい希望の光の中に去った。そこに彩花が現れ朔也の手に自分の手を添えるという結末。
“母の話したかったことはこれ“というほどの呆気ないものだった。
VF母はかなりのバグもあったが、母親なら誰もが持つ母性、これが失われていなかった。母の悩みは「朔也が犯した罪を克服して生きて欲しい」だったが、朔也と彩花の出会いを見て、これなら大丈夫と消えて逝ったのではないでしょうか。朔也も「この言葉で十分!これから先を生きていける」と母の愛を感じたということ。
一方、朔也と彩花。
朔也はリアル・アバターで身体をクライアントに売った生活。彩花をイフィーに売ったが、彩花の心はイフィーに買われなかった。彼女には朔也を愛する心が育っていた。なんとも美しい恋物語だった!
デジタル化社会にあっても、“愛さえあれば本心を感じとれる”がテーマでした。
池松壮亮さんの演技。真面目で優しいが自信がなく魂を失くした男、まさにリアル・アバターでした。田中裕子さんのどこか明るい、希望を捨てない暖かい母親。最期の言葉が救いになるいい演技でした。三吉彩花さんの演技は、セックス・ワーカーだったというからチラ見せシーンもありましたが、この時代を腹括って生きる覚悟が見える演技、よかった。
デジタル社会が面白く描かれていました。
自由死を認める制度、リアル・アバター、VF、SNS、貧富の格差などの功罪、隠したくても隠せない、人との関係が希薄になる状況が面白く描かれていました。
作品の結末は石井監督の願望、こうなる未来社会であってほしいですね!
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