
「僕はイエス様が嫌い」で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史が監督・脚本・撮影・編集を手がけ、池松壮亮を主演に迎えて撮りあげた商業映画デビュー作。カンヌ国際映画祭(2024)「ある視点」部門で、日本人監督としては史上最年少で選出された作品でもある。
新進気鋭の監督作品ということで期待して観ることにしました。
小さな雪国の街。淡い異性への憧れで始った少年少女のペア・アイスダンス。これほどの美しいダンスはないと思っていたら、暗い結末で、こんな落とし穴があるとは思わなかった。原因がコーチのホモセクシュアルに対する偏見だった。思春期の淡い恋の中で、ホモセクシュアルの罪を問うという、この視点の面白さに驚かされました。
監督・脚本・撮影:奥山大史、編集:奥山大史 ティナ・バス、音楽:佐藤良成、主題歌:ハンバート ハンバート。
出演者:越山敬達、中西希亜良、若葉竜也、山田真歩、潤浩、池松壮亮
物語は、
雪の降る田舎町。ホッケーが苦手なきつ音の少年タクヤ(越山敬達)は、ドビュッシーの曲「月の光」に合わせてフィギュアスケートを練習する少女さくら(中西希亜良)に心を奪われる。ある日、さくらのコーチを務める元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似して何度も転ぶタクヤの姿を目にする。タクヤの恋を応援しようと決めた荒川は、彼にフィギュア用のスケート靴を貸して練習につきあうことに。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになり……。(映画COMより)
あらすじ&感想:
〇小学6年生のタクヤは吃音で仲間に無視されることの多い子だった。
野球の守備位置はボールが飛んでこないセンター。降ってくる雪を見ていて飛んでくるボールを逃す。冬になると誰もがやりたがらないキーパー役。ミスばかりで「勝てる試合に勝てない」と嫌われる。そんなタクヤがスケートリンクで見つけたのが同じ氷面でスピンする中学1年生のサクラだった。タクヤにはサクラのスピンがまるで夢の中の出来事のように思われた。

〇スピンできないタクヤに荒川が声を掛けた。
荒川はかって名の知れたフィギィアスケーターだった。今はこのスケート場の管理人をしながらサクラのコーチについていた。サクラは荒川のコーチに馴染み、サクラの母親(山田真歩)も荒川を信頼していた。
荒川は誰も知らないがホモセクシュアルで、相方の五十嵐(若葉竜也)にさそわれ彼の故郷であるこの街で暮らしている。
タクヤはサクラのスピンを真似てアイスホッケー靴で回転を試みるが転ぶ。何度やっても転ぶ。荒川はタクヤが脚を上げスピンするサクラを見る姿に自分の青春期の淡い恋心を思い出し、タクヤを手助けする気になった。荒川は現役時代に使った靴を貸すことにした。
尺は90分と短い。それだけに余計なものがない。
どのシーンも細かい感情表現があり見逃すことができない!眠気のあるときや観るのを止めたほうがいい。(笑)
〇荒川はタクヤに歩くところから教え始めた。
荒川はスケーターの練習が終わったあと、タクヤに基本から教えることにした。タクヤの頭はスケーティングで一杯になった。
タクヤはホッケーの練習前に荒川のコーチを受け、その後ホッケーの練習に参加。さらにその後、誰もいなくなったリンクで荒川のコーチを受ける。カップ麺も一緒に食べる。こうしてステップができるようになった。ふたりは歓声を上げた。この姿をサクラが見ていた。サクラはこのときはじめて荒川のコーチを受けている子がタクヤだと知った。サクラはタクヤへの嫉妬からか、練習を止めて帰って行った。
タクヤはリンクを整備する荒川の整備車にくっついてスピンで滑れるほどに技量が上がっていた。

〇荒川はタクヤとサクラにアイスダンスのペアを組ませることにした。
荒川が雑誌“スケート アイ”の表紙を見て、この案を思いついた。荒川は「女子の上手いのはゴロゴロいるがアイスダンスなら日本一になれる」とサクラを説得した。サクラは「日本一にならなくていい」と反対したが「シングルにもいい影響が出る。ジャンプを飛びたいならスケーティングからやり直そう」と勧め、サクラが納得した。
〇大会参加には1か月後のバッジテストを受ける必要があると練習を始めた。
荒川が曲「月の光」を聞かせ、ステップマップを確認させてサクラをタクヤに追わせる。荒川が付きっ切りで指導。タクヤがサクラについて行けるようになった。

次に、はにかむふたりが手をつなぎペアになった状態で、スイングダンスのステップマップを示し、スタート。最初、ふたりはへらへら笑いながら滑る。荒川は「照れるな!」と指導する。三人が一体となって練習に励んだ。
三人は天然の湖に出向き練習をする。
荒川の車で出発。凍てついた湖でのアイスダンス。ふたりの踊りに荒川が加わり3人で踊りまくった。幸せそうでとても美しい映像だった。

テスト前、最後の練習、
リンクでタクヤが練習していると、サクラが「合わせてみる!」と近づき、荒川が居なくても、ふたりで練習する。ふたりはまるで夢の中で踊っているようだった。ふたりは教室でもとても満たされた気分になっていた。
荒川も満たされた気分だった。ベランダから港街を見下ろしながらタバコを吸っていた。そこに五十嵐が出て来てタバコを欲しがる。若葉竜也さんのこの動作がエロっぽい!
〇荒川と五十嵐がスーパーに買い物の出掛け、ふたりがいちゃついているところをサクラに見られた。
スケート場で荒川とタクヤが準備体操でふざけ合っていた。サクラがそれを見た。
サクラが荒川に「先生はタクヤ君が好きなんですか?男の子に女のスポーツをやらせて楽しいんですか。気持ちが悪い」と練習せず、帰っていった。
〇バッジテストに、サクラが欠席した。
荒川とタクヤがテストの最後までサクラが現れるのを待った。サクラは来なかった。
タクヤは「やっぱり、嫌だったんだ」と呟いた。タクヤはサクラに何があったかを全く知らない。
タクヤはアイスホッケーの練習に参加することにした。
サクラの母がスケート場に荒川を尋ね「サクラはスケートを続けるので近づかないでほしい」と申し出した。

荒川は五十嵐にタクヤとサクラのことを「羨ましかった、ちゃんと恋していた、真っすぐに。ここに来てよかった。もうコーチの仕事はない」と話して聞かせた。五十嵐が「君のコーチの仕事はどこにでもある、自分は親父の跡を継ぐのでここを離れられない」という。荒川はひとりで東京に戻ることにした。
春になり、タクヤは中学生となり野球の練習が始まった。
〇荒川はこの街と五十嵐を捨て、東京に戻ることにした。
荒川がフェリー乗り場に向かう途中でタクヤに出会った。スケート靴はタクヤにプレゼントした。ふたりはキャッチボールで別れを惜しんだ。荒川がわざと暴投してボールを拾いに走るたくタクヤに「ごめん!」と挨拶して去った。爽やかな別れだった。
帰校時、タクヤがサクラを見つけた。タクヤは躊躇したがすぐにサクラの元に走りだした。
まとめ:
タクヤとサクラの淡い恋心で描かれる美しいアイスダンスから、まさかという結末。痛い!作品だった。
美しい息の合ったタクヤとサクラのダンス。絶対にバッジテストにパスすると思っていたがサクラの都合で不参加となった。その原因がコーチの荒川がホモセクシュアルでタツヤにも手を出しているというサクラの妄想だった。
ホモセクシュアルで生きることの難しさを、どこにでもある青春期の淡い恋の中で描くというテーマ性がすばらしい!
タクヤが何も知らず荒川との別れを惜しみ、サクラは何事もなかったように荒川が残した「月の光」で練習を続ける。荒川がこの街に居ることが出来ず五十嵐と別れ、フェリーのデッキで佇んでいた。
帰校時、タクヤは荒川の姿を認めて走り出した!タクヤは荒川に何を伝えたか?もやもやが残る!
アイスダンスシーン。越山敬達さんと中西希亜良さんがこの微妙な感情を上手く演じています。特に中西さんの端正な横顔が美しい。池松さんの自然で優しさ一杯のダンスコーチもよかった。湖で見せる3人の歓喜のダンスは素晴らしかった。
荒川にとってのセクシュアリティは人生の全てを失わざるを得ない罪なのか。この問題の難しさを感じる作品でした。
****