
原作は作家・安部公房が1973年に発表した同名長編小説。未読です。とても難しい作品と聞いています。難しいと聞けば挑戦したくなる。(笑)やはり難しかったです。(笑)
若い人たちのエネルギーで革命は成功するかと思われた“70年安保闘争”。叶わなかった無力の中で描かれた本作。その気持ちが強くあったのではないかなと感じました。この環境は今の時代も同じ。原作とは違ってPCやネットが加味され現代風に改変されている。今の時代に観るべき作品だと思います。
石井岳龍監督が1998年に永瀬正敏を箱男に映画化を試みた作品がやっと27年後に陽の目を見るにいった本作。難解な原作をよく映像化したと思いました。
キャストがすばらしく、ストーリーはミステリアスな展開。テーマが深く難しい原作をエンタテインメント作品によくぞ仕上げたと感嘆しています。
哲学的な作品で観る人それぞれの見方のできる作品。
箱男が犯した犯罪は完全犯罪となるか、箱男が見られたくないと窓を閉めれば世界は闇になる。本物の箱男になるな!せめて覗いて記録は残しておけ!このような感想を持ちました。
監督:石井岳龍、脚本:いながききよたか 石井岳龍、撮影:浦田秀穂、編集:長瀬万里、音楽:勝本道哲。
出演者:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太
物語は、
ダンボールを頭からすっぽりと被った姿で都市をさまよい、覗き窓から世界を覗いて妄想をノートに記述する「箱男」。それは人間が望む最終形態であり、すべてから完全に解き放たれた存在だった。カメラマンの“わたし”は街で見かけた箱男に心を奪われ、自らもダンボールを被って箱男として生きることに。そんな彼に、数々の試練と危険が襲いかかる。(映画COMより)
あらすじ&感想:
〇箱男の出現。
学生運動が火をつけた激動の嵐が沈静化し近い将来反動的な虚即バブル景気に翻弄されることになる空白時代の1093年、新時代の“さなぎ”ともいうべき謎の存在として箱男が生まれ出た。
段ボール箱に入り、小さな窓から覗き、「ただのゴミ、人生のあわれな落伍者。まあそう言え!勝手に蔑め!ところが人生はまさかで蔑まれるのはそっち」と言い、「偽物を全て捨て、本物を手に入れる。お前たちの本当の姿と隠された姿を覗き見る」と嘯く。
箱男の“わたし”(永瀬正敏)は「世界は完全に変わる」と窓から覗く。色彩はカラーになる。“わたし”が求めるものは孤立、完全な匿名性、そして“わたし”だけの暗室と洞窟。
“わたし”が路地のゴミ置き場に移動。すると乞食男に追われ槍で刺され傷ついた。黒装束の男が銃を持って追って来た。“わたし”は一時気を失ったが正気に戻った。
場所を路地から高架下に替えた。そこに女性が「近くに病院がある」と地図と十数万円の金を窓から投げ入れて行った。とてもきれいな脚だった。彼女の脚はこれまでしばしば見ていたものだった。彼女に監視されていたのだ。
〇謎めいた病院(クリニック)の存在。
所持者は軍医(佐藤浩市)だが、薬中毒で治療できず元部下のニセ医者(浅野忠信)が治療行為を行っている。脚のきれいな彼女・葉子(白本彩奈)はここの看護師だった。
軍医は戦火のアフリカ・ソマリアの戦闘に医療従事した医者でニセ医者はその看護師だった。軍医は治療のためアフリカの野草に興味を持ち、その毒性に犯され薬中毒に陥った。そのため医師免許のないニセ医者が軍医の免許で医療治療に当たっていた。日本に戻り、軍医は病院を経営。治療をニセ医者に任せ、本人は研究室を持ち野草類の研究を続けている。
ニセ医者は軍医に呼ばれ、軍医の目の治療を行う。ふたりは“わたし”に興味を持っていた。ニセ医者はPCで“わたし”の居所を示し「所在を掴んでいる、すぐにでも始められます」と安心させる。
謎めいた軍医とニセ医者の関係がみどころのひとつ。
ニセ医者は「遺書だけはしっかりお願いします。事実でないと通用しない」と軍医に懇願する。軍医は「ここで飢えるか自殺したいが、世間を欺いては死ねない。ここに真実は書いてある」と遺書を見せ、ニセ医者の顔を覗き込む。軍医の希望は安楽死だった。
〇“わたし”は葉子を信じ病院で治療を受けることにした。
ニセ医者が治療。「警察に行くのが賢明かもしれないから診断書は準備する」と言い、腕の治療のため麻酔を打った。

麻酔により、 “わたし”は社会に失望、家に住みついた箱男を拳銃で射殺して箱男になった記憶の中にいた。
目が覚め軍医の顔を見て、「あいつだ!この男は箱男になる」と直感した。“わたし”は写真を撮られた。
葉子は“わたし”がカメラマンと知って、自分は元ヌードモデルだと話しかけた。ヌード・モデルで身体も心も壊れ、立ち直れたのはニセ医者のお陰だという。そして「箱を買いたい。箱男に伝えて欲しい。私を助けて欲しい」という。“わたし”はこれを受け入れた。
“わたし”が帰った後、葉子はニセ医者に「うまくやれた」と報告。その後、葉子は軍医の部屋を訪れた。軍医が「すべては妄想だ」と浣腸プレイに誘う。(笑)
〇“わたし”は橋の下の洞窟に戻った。
まず段ボール箱とノートがあることを確認した。「自分を殺そうとしたのはニセ医者だ。葉子はニセ医者の下僕だ。本当に救いを求めているのか」と疑問を持った。(ニセ医者は“わたし”の行動をカメラで監視しノートを持っていることを把握した)。
“わたし”は「葉子が箱を欲しいというのは罠だ」と考えた。本当に欲しいなら彼女自身がここにくることに賭けた。“わたし”はニセ医者が俺を狙う証拠としてノートとニセ医者のネガを残すことにした。
〇ニセ医は軍医に呼ばれ、部屋を尋ねた。
軍医は白衣でダンポール箱の中にいた。葉子は下着のままだった。軍医が「もっと箱男を知らなければいけない、覗いてみろ」という。ニセ医者は「その必要はない、そういう趣味を持っていない」と断わった。軍医は「いつまで待てばいい、私は準備完了だ!」と遺書を差し出した。ニセ医者は「箱は始末します」というと「その覚悟はあるのか?」と聞き返した。ニセ医者が「あなたこそ覚悟はあるか」と聞いた。軍医は「私は幸せだ。全部世話してもらっている。全て約束どおりだ」と返した。
長い会話にいらいらさせられる。(笑)
ニセ医者は葉子に「もうすぐ終わる」と告げた。葉子は「終わったら私はどうなる?」と聞くと「あいつが死んだら消えるだけだ」と答えた。葉子は「箱男に関わって先生は変わった。先生もあの箱を被るの?」と聞いた。ニセ医者は「完全犯罪のためには必要なことかもしれない」と答えた。
〇“葉子が”わたし“を尋ね「箱を処分してください」という。
「朝までに処分してください」というが「ただの箱ではない!世界への出口だ、君も一緒にどうかと思っている」と話すと「あなたはお金を受け取った。約束を守ってください」と言って、帰っていった。“わたし”は「葉子が助けてくださいと言ったことは何か?」を知るために彼女を追った。

ニセ医者の隠れ家
“わたし”はニセ医者の隠れ家を突き止めた。家を覗くとニセ医者が軍医のために安楽死薬を開発しているこころだった。ニセ医者は白衣で葉子はヌードだった。葉子はさきの薬は利かなかったから実験する必要があるとニセ医者に段ボール箱を被らせ、尻から薬を注入しているところだった。安部公房氏もこんなことを書くのか、えらいものをみせられたと思った。(笑)“わたし”は見ておれないと退散、「葉子には似合わない行為、助けたい」と思った。
ニセ医者は箱から出て、「箱を被って確信した。肝心なのは覗くことよりノートだ。書き残す行為それが彼を箱男にしている」と“わたし”のノートを探すことにした。
ニセ医者は夜間、“わたし”が眠っているところにやってきて麻酔を打ち、ノートを奪った。
〇ニセ医者は軍医を自殺に見せかけ殺すことにした。
ニセ医者は軍医の遺書を「私は自ら死を選ぶことにした。仮に他殺を思わせる所見があったとしても私の不手際である」と書き直した。“わたし”のノートの一部を焼き捨て書き変えた。遺体を水に沈めるために砂袋を準備した。場所は軍医の部屋、葉子は看護師として同席。
ふたりは箱をかぶり対峙。ニセ医者は“わたし”の成りすまし。“わたし”により軍医に葉子を裸にして抱かせ自殺に誘う長い説得が続く。しかし、軍医はネガを示し「お前は誰だ」と言い逃げ出す。ニセ医者が追い格闘、陽子に射撃を命じた。が、結果は軍医の勝ちだった。

軍医は「このノートが誰のだ」と問う。ニセ医者は「私のものだ」と答えた。軍医は「俺が書いた。お前の正体が見えた。お前は俺の妄想の中にいる。本物の箱男は俺だ」と言い、去って行った。
葉子が「軍医との生活に不満はない、先生は何かに憑りつかれている」と止めに入った。ニセ医者は「放っておけば死ぬが俺が書き完全犯罪にする」とシナリオを書き始めた。
〇「箱を被り自殺した軍医の遺体が海岸に打ち上げられ警察の検視で、ニセ医者が容疑者として捕まり刑事の尋問を受ける」というシナリオ。
ニセ医者は刑事(中村優子)にアフリカ・サマリアの紛争に医療支援で参加し軍医が麻薬で苦しみ、日本に帰り治療を続け、薬を飲んで箱を被り自殺したと長々と述べた。刑事は軍医が段ボール箱を被り徘徊したことに気づかなかったあなたに責任があるという。ニセ医者は軍医から脅かされていたなど反証を書いてみたが、ダメだとシナリオを破り捨てた。
〇ニセ医者は自分が箱男になって軍医を殺害した。
ニセ医者は軍医に「あなたは死んでいる。誰が殺してもいいが私が箱男になり殺すと完全犯罪だ」と告げ殺害した。ニセ医者は居場所を求めて彷徨。“わたし”に出会った。ニセ医者は「お前はニセものだ。誰かが変えた、もういらない」と“わたし”のノートを渡し去っていった。“わたし”はノートを見た。軍医殺しに書き換えられていた。

〇“わたし”は病院を尋ねた。
葉子がいた。「やり残したことがある」とノートを見せた。“わたし”は「ニセ医者はわたしよりわたしらしく書いている。本物の箱男になった。私も本物になる」と話した。
以下、モノカラーで描かれる。
わたしは「見られるのが嫌だ。世界を全部箱の中に閉じこめる」と部屋を暗室にした。そして葉子を抱き、快楽をむさぼり、書き続けた。部屋は荒れ放題!葉子は外に消えていった。
わたしは「葉子は逃げ出したのではなくもうひとつの箱の中に逃げ込んだ。藻掻けばもがくほどブラックホールだ」と葉子を探した。
部屋の外に出て探した。外は闇だった。街には無数の箱が溢れていた。皆、わたしを見つめている。わたしが箱に「この世界を覗き続け妄想し作り上げ支配している。この妄想の中では誰もが偽物だ。空想の産物だった。本物の箱男はそれを覗きながら一喜一憂していた。箱男とは即ち貴方だ!」と語りかけた。
まとめ:
長セリフが続く。暗い部屋での出来事。これにうんざりさせられる。物語を的確につかめたか?(笑)
ニセ医者・浅野忠信の長セリフによる騙しっぷり、異形の医者・佐藤浩市の不気味さ、医者とニセ医者を身体で操る白本彩奈の妖しさによる気持ちの悪いミステリー。段ボール同志のアクションの面白さ。何とか最後まで観ることが出来ました。
ニセ医者が“わたし”に成り代わり軍医を自殺に見せて殺そうとするが、軍医に気づかれ失敗。安楽死を求める軍医を完全犯罪として殺すにはニセ医者自らが箱男となり殺害する他手段はないと決心し実行した。これによりニセ医者は本物の箱男になった。
“わたし”は本物の箱男になるため箱(部屋)の窓を閉じた。気付いたとき周りは闇の中だった。
この闇は誰が作ったか、あなただ!という結末。
怖い話だと思った。我々は毎日ニュースを見るが、見るだけで無関心。これがどのような世界を生むかと警告していると思った。
いろいろな視点があるようで、原作を読んでみようと思います。
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