
黒沢清監督作品は苦手!いつも曖昧さが残る。本作は1998年作品のセルフリメイク。両作品観て、すこしは黒沢作品が理解できるかもと挑戦してみました。
娘を殺された父親と彼に手を貸す精神科医が繰り広げる徹底した復讐の行方を、全編フランスロケ&フランス語で描き出すというもの。
1998年版に比べて、プロットはほぼ同じ。娘を殺された男がヤクザからジャーナリスト、彼に手を貸す男が塾の男性教員からフランスで活躍する日本の女性精神科医、娘の殺しの現場はヤクザ社会から臓器売買に関わる財団に変更されている。したがって、本作が臓器売買という社会問題を取り扱い、日本人の女性精神科医がフランスの殺人事件に関わることで、国際的な視点を持つ作品に仕上がっています。
前作は限られた予算で作られた作品だが、本作はそれなりの予算でリメイクし、映像がうつくしく、リアリティが凄く感じられる。
何よりも大切なのは前作ではテーマ“蛇の道”が冒頭近くで分ってしまうが、本作ではラストまで分からない。さらにその奥が描かれ、人の持つ闇の深さを感じる。この映画は怖すぎてトラウマになる、“観たくない”という感覚になってしまう。(笑)
監督・脚本:黒沢清、製作:ダビド・ゴキエ ジュリアン・デリス 小寺剛雄、原案:高橋洋、撮影:アレクシ・カビルシーヌ、編集:トマ・マルシャン、音楽:ニコラ・エレラ。
出演者:フランス語を現地で半年学んだという柴咲コウ、「レ・ミゼラブル」(2019)のダミアン・ボナール、マチュー・アマルリック、レゴワール・コラン、西島秀俊、青木崇高、他。
物語は、
8歳の愛娘を何者かに惨殺された父親アルベール・バシュレは、偶然知り合った精神科医・新島小夜子の助けを借りながら、犯人を突き止めて復讐を果たすべく殺意を燃やしていた。やがて2人はとある財団の関係者たちを拉致し、次第に真相が明らかになっていくが……。(映画COMより)
あらすじ&感想:
ミナール財団の元会計員ティボー・ラヴァル(マチュー・アマルリック)を拉致監禁。
振りむいて、「どうする、やる!」と車の中のアルベールに促がす小夜子。振り向いて見せる小夜子の顔、すっかりフランスに馴染んだという顔の柴咲コウさん。感情のない乾いた顔に驚かされる。

小夜子が先にマンションに入ると、出てくるラヴァルが「フランス語分る」と英語で話す。そこにアルベールが電気ショック銃で首を打ち仮死状態に。ふたりで寝袋にラヴァルを詰め車のトランクに入れて、廃屋の倉庫に運び入れ、手足を鎖で繋ぐ。アルベールがラヴァルの前にTVを運び込み、殺害された8歳の娘マリーの映像を見せる。「16か所に損傷、脳髄の30%、臓器の80%を損失」と遺体損傷状況がアルベールのナレーションで流れる。
ラヴァルは「財団は解散。俺はやっていない」という。アルベールがラヴァルに拳銃を向ける。小夜子が「時間はある」と止め、方向を変えて拳銃をぶっ放し、素知らぬ顔で自転車に乗り倉庫を後にする。どちらかというとアルベールがおどおどしている。小夜子は冷静でリードしている感じ。
ここまでほぼ前作と同じ。女性の柴咲さんがフランス男のダミアン・ボナールを相手に原作どおりの感じを出していることに驚かされる!
病院戻った小夜子は吉村(西島英俊)という日本人男性を診断。
小夜子は吉村の「先生は悩みはないの?」「あります」と会話し「眩暈も吐き気もない」と処方薬を渡す。小夜子は吉村と違って精神的に強い人だった。しかし、精神科で一番大切なのは患者の話しに耳を傾けることだと思うがこれ以上の吉村の話を聞かない。このことが夫婦や子供との関係に影響が出ていると思う。

このシーンは前作にはないシーン。小夜子というキャラクターをどう捉えるか、これが蛇の道にどう繋がるか?とても大切なシーンとなっています。
アパートの自宅に帰宅した小夜子に夫からTV電話がかかって来るが出ない!
朝、小夜子が倉庫を訪ねると、デイボーが糞だらけで転がされている。
小夜子はホースで水をかけ清潔にする。そして料理を投げ与える。
小夜子とアルベールが手を組んだのは3か月前だった(回想)。
アルベールは小夜子の患者ではなく、診察室を出た後しゃがみ込み悩んでいるアルベールに小夜子が「どうしたのですか」と尋ねたことからアルベールの復讐に加担すると決めたらしい。
小夜子が何故アルベールに加担したいと決めたかが不明。実はこのことでふたりが蛇の関係になるのだがこれが描かれず、ラストで明かされる。これが前作とは異なる点で、ミステリーとしてホラーとして、楽しめる作品になっていると思います。
ラヴァルを尋問すると「アルベールは財団にいた。サークルのメンバーだったよな」と言う。小夜子が「サークル?」と聞くと、ラヴァルが「自分も財団にいた。児童福祉がテーマのサークルだが、子供の売買だ。黒幕はピエール・ゲラン(グレゴワール・コラン)だ。君知っているだろう?マスコミ担当だったろう」と言う。小夜子がアルベールに「ゲランって誰れ?」と聞くと「話したくない!俺は潜入しただけだ」と言い渋る。小夜子は「だたネタをマスコミに売るだけ?」と聞く。アルベールは「ジャーナリストだ。興味を惹かれればレポートする。ラヴァルが言うのはデマだ!」と答えた。ラヴァルが「君は逃げ出した。だから娘が殺された」と反論した。アルベールは「サークルはあったが、人身売買はしてない」とラヴァルの言分を打ち消した。
会話が怖い!(実によく練られた会話であることが後で分かる)前作にはこの怖さがない。
小夜子はこれを聞いてアルベールと財団の関係に疑問を持ったと思う。ここから小夜子主導で犯人捜しが始まる。
小夜子は「ゲランを探そう!」と言い、バーナーでドアーを溶接し始める。これでラヴァルを脅迫するのかと怖くなる。柴咲コウさんが本当に怖い!(笑)
小夜子とアルベールが牧場主として隠遁していたゲランを拉致監禁する。
ラヴァルを誘拐したときと同じようにふたりで協力して寝袋にゲランを入れ車のトランクに乗せて倉庫に運ぶのだが、ゲランの友人である猟師からの追跡を逃れながらの拉致行動がスリリングで楽しませてくれます。

倉庫の中でラヴァルとゲラングを並べ、アルベールが娘マリーの映像を見せながら「娘をお前が殺したか?」とゲラングに聞く。ラヴァルが横から「外国に売っていた。見せしめに殺した」と言う。これにゲランは「どうかしているぞ!君の話はバカげている」と反論し「解放してくれ」と訴える。小夜子は尋問を止め、ふたりをこのまま放置することにし、アルベールが別室からふたりを監視していた。夜にゲランがトイレ要求したがアルベールは無視した。
小夜子の診察室に吉村が訪ねてきた。
吉村は「薬は効かなかった。もうダメかもしれない。皆で僕をダメにする」と訴える。小夜子は「強い薬をだしましょう。一度帰国したら」と答え、吉村の悩みを具体的に聞こうとはしなかった。
小夜子が自宅アパートに戻ると夫からTV電話が入るが無視した。
この夫婦になにがあったか、このことがラストで明かされるという前作にはない蛇の道が説かれます。
朝、倉庫に出向いた小夜子はアルベールを別室に残し、監禁しているふたりに提案をする。
「誰かを犯人に仕立てて!誰でもいい。新しい敵が出れば解放する」と提案した。ゲランが「クリスチャン・サミー(スリマヌ・ダジ)がいい」と言う。小夜子は「上手く口を合わせて」と言い、アルベールを呼びだした。ゲランが「サミーに聞け、財団に置いておくには反対だった。いつか何かやらかしそうな男だった。財団の名簿で知った男だ」と言う。
小夜子は「どちらかを連れて行き確認する。どちらか決めて!」と拳銃を投げた。決着が着くまで別室で待っていた。拳銃の音で、ゲランが勝利し彼を連れてゆくことになった。まるでロシアンルーレットのような殺し方でぞっとした。小夜子はラヴァルの遺体をナイフでメッタ刺しにした。尋常でないこの狂気、これが怖い!

3人は財団の資料を保管している倉庫を訪ねサミーの資料を探した。
ゲランがサミーの写真を見つけた。アルベールがカーテンで隠された棚に臓器のようなものが入った試験瓶を見つけ「人身売買の資料か?」と聞くとゲランが「お前はあの女に操られている。単なる標本だ」と答えた。アルベールはゲランを射殺し、笑った。
前作にはない恐怖を覚えた。「スパイの妻」(2020)で得た知見が組み込まれたのではないかと思った。倉庫への戻り、小夜子がゲランの遺体を刺そうとしたが止めた!サミーの住所は写真に写っているスポーツジムから分った。
小夜子とアルベールはサミーの拉致し監禁した。
サミーがスポーツマンであるため激しい格闘の末、寝袋に入れることが出来た。柴咲さんのアクションを楽しむことになります。
サミーを倉庫に連れてきて寝袋から出すとアルベールを鎖で絞める。小夜子が消火器でサミーの頭を殴りことなきを得た。アルベールは殺すと拳銃を向けるが、小夜子が「もう少し先まで付き合って」と止めた。サミーの監視をアルベールに任せてアパートに戻った。

吉村が自殺した。吉村のフランス人の妻が突然ナイフを出し「全部終わらせる」と首を斬ったという。小夜子は「あの世は痛みのない場所です」と慰めた。小夜子には何かが欠けていると思った。
アルベールは大ばさみ、鋸、ペンチなど肉体解体資材をサミーに見せつけ「質問に答えないと切り落とす」と脅すが、サミーは何も喋らない。これも嫌なシーンだった。アルベールはウインドウに自分を写し、銃を向ける。アルベールには迷いが出て来ていた。
小夜子に夫から「フランスに行ったのは甘かった。こちらは楽だ。ビザが切れたら戻って来い。一緒に住まなくてもいろいろな形がある」とTV電話が入った。夫婦の間には何か大きな問題を抱えているようだ。
小夜子が倉庫に顔を出し、サミーの指をハサミで挟み「取引をしよう」と提案した。
サミーは「あの娘を知っている。何を見返しにくれるか?」と聞いてくる。小夜子は「アルベールが何を聞いてもサミーだと認めないで」と提案した。「何が狙いだ?」と聞かれたが返事しなかった。小夜子はアルベールにサミーが呼んでいると告げた。
サミーが「人違いだ!俺はフランソワ・バルテズだ」とアルベールに注げた。「なぜ今になって?」と聞き返すと「話が通じないからだ。クリスチャンの居場所は分る。お前は何を知りたい」と問うた。小夜子が「サークルだよね」と口を挟んだ。するとサミーが「ならサークルの最高責任者に会わないと分からない。デボラ・ミナールに会え!」と答えた。
アルベールは怯えた!「生きているのか?」と聞く。サミーは「死亡記事なんかどうにでもなるもんだ」と答えた。小夜子は「やっとたどりついた!」とアルベールに声をかけた。
サミーはデボラの臓器売買のやり方を喋った。そして「君の娘が殺された場所に俺が連れていってやろうか。デボラは多分そこにいる」と言う。アルベールは「罠だ!」と言うが小夜子が「他に手段はない」とデボラに会うことに決めた。
アルベールは「妻のローラ(ヴィマラ・ポンス)がいる。サークルで重要な地位にあってデボラに気に入られた。妻が娘を渡したりしない。妻とはうまくいっていない。娘はひとりぼっちだった」と言い出す。
小夜子はこれを聞いて「蛇の道だ」とアルベールを見つめた。
小夜子とアルベールはサミーの案内で荒廃した遊園地にあるデボラのアジトを訪ねた。
サミーが「中にヤクザがいる。頃合いを見て合図する。俺は臓器を取りだすときに写真を撮っていた。このことを君も知っている。娘は俺が殺した!」とアルベールに告げた。アルベールはサミーを即時、射殺した。
小夜子はこれで復讐を終わりにはしなかった。アルベールに「奥さんに会って来なさい」と勧めた。
アルベールがアジトに入ると銃撃戦が始まった。
金属音に怯えながらアルベールが身を隠し敵を射殺していく。アルベールはこの場所にいたことがある。2階に消えていく小夜子を見てアルベールがこ彼女を追う。すると娘マリーのTV映像が小夜子のナレーションで映し出される。さらに敵を追うと多数のTVに「私の娘の映像」と小夜子の娘の映像が流れる。アルベールは「知らなかった、君の娘も!」と叫んだ。
これに唖然とさせられた。小夜子は自分の娘とアルベールの娘が同じ方法で殺されたビデオを入手していた。
アルベールはその奥で拉致した子供たちと一緒にいる妻ローラに会った。ローラは「デボラは亡くなった。跡を継いだが私には無理。これでお終い!マリーは私に懐かず、貴方とならうまくいくと任せた。どうなったか知らない」とナイフでアルベールを刺そうとしたが、アルベールは拳銃で射殺した。アルベールは「これで終った。ローラが娘をつれてきて、デボラが選別した。君の娘もだ」と言い訳したが、小夜子は認めなかった。
小夜子は「残りはひとり」とアルベールを倉庫に連れ戻し鎖に繋ぎ、最後の食事と料理を投げつけ去って行った。

小夜子に夫からTV電話は入った。「ふたりだけならうまくやれた。でも昔のことは忘れよう」と言う。小夜子は「娘を売ったのはあなた?」と声をかけた。これが一番怖い話だった!
まとめ:
小夜子が病院でアルベールに出会って話を聞き手伝うことにした復讐劇が人身売買をする元財団を潰し、何よりも依頼人のアルベールにも復讐するという予想外の結末に驚愕しました。
ここに至シナリオに一分の狂いもなく、伏線(蛇の道)が繋がり、拉致した容疑者の尋問により変化していく感情が綿密に組みこまれていく展開、見事でした。
臓器売買という大きな社会問題に夫婦関係と親子の関係(ネグレクト)が絡む複雑な人間の闇が“蛇“になっていることに恐怖を感じます。
元財団の施設で殺されたアルベールの娘マリーと自分の娘のTV映像を小夜子のナレーションで映し出シーン、ここまで隠されていた伏線にカタルシスを覚えた。
ラストシーンで小夜子が夫に「娘を売ったのはあなた?」と投げる言葉、この締めの言葉がどん底に放り込んでくれました。この作品は二度と観ない!
柴咲コウさんの演技は素晴らしかった。最初何を考えてるのか分からなかったが次第に狂気を帯びてきて、最後の言葉は怖かった。フランスの俳優さんたちの演技も素晴らしかった。いい国際映画が出来たと感心しています。
この作品で黒沢清監督作品が少し分ったように思いました。
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