
是枝監督作品。第76回カンヌ国際映画祭でLGBTQを扱うクィア・パルム賞、さらに坂元裕二さんの脚本賞という2冠獲得作品。作曲も3月に他界された坂本龍一さんが手がけたもので注目されています。これだけで観るに値するんですが、最近の是枝作品は作り込み過ぎ、凝り過ぎ?苦手な作品になってしまいました。(笑)さて今回は、「どうかな?」と出かけました。(笑)
監督:是枝裕和、脚本:坂元裕二、撮影:近藤龍人、音楽:坂本龍一。
出演者:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子、他。
物語は、
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。
「怪物」とは何か、登場人物それぞれの視線を通した「怪物」探しの果てに訪れる結末を・・・というサスペンス&ヒューマンドラマ。(映画COMより)
あらすじ&感想(ねたばれ:注意):
冒頭、棒状ライターを持ち唸り笛を鳴らしながら暗い森を歩く少年!繁華街で起きたビル火災に駆けつける消防車。消防車の後を追う自転車の少年たち。深い闇を抱える湖の町で起こった火災事故。冒頭から画はスリリングで美しい!どんな事件なっていくのかと興味をそそられます。

パートのベランダからこの火事を眺める麦野早織(安藤さくら)と小学5年生の息子・湊(黒川想矢)。早織は夫を亡くしてシングルマザーとして湊の成長を楽しみにランドリー店で働いている。湊は「豚の脳を移植した人間は人間?担任の保利先生が言うんだ」と話しかけた。
早織がバイト先に顔を出すと湊の担任の保利(永山瑛太)が火災ビルの中のガールズバーににいたという噂を聞く。
アパートに戻ると、玄関に湊のスニーカーの片方しかない。探してみるが見つからない。風呂場を覗くと湊の足に真っ黒なもの、髪が絡みついていた。何を聞いても返事をしない。
部屋を覗くと、銀紙を貼ったおもちゃのボールや短冊など工作物が部屋一杯だった。思春期にはすこし早いが、お父さんがいてくれたらと思いながら過ごしていた。
絵具が付いた服が洗濯機に投げ込まれ、湊の顔に傷があるのを見つけた。問正すと「虐められている、担任の保利センだ」と言う。
その夜、早織は湊が居ないことに気付いた。友達の母親から鉄道跡地で見たと聞いて、車で出かけた。暗いトンネルの中を捜していると向こうから湊が「かいぶつ誰だ」と叫びながら現れた。
湊を車に乗せて帰宅中に「何があったの?」と聞くと「お父さんとは違う!」という。何が何だか分からない!ドアーが開いて湊が車外に落ちた。びっくりした早織が車を路肩の木にぶつけて停止した。
病院で念のためCTを撮った。湊は「脳に何かあったか?」と気にする。保利から「お前の脳は豚の脳だ」と言われたという。

早織は校長に保利のいじめを訴えることにした。学校に着くと玄関で校長の伏見(田中裕子)が玄関を磨いていた。校長室に入ると教頭の正田(角田晃広)、4年生までの担任・神崎が駆け付け、伏見が席を外した。正田が「校長はお孫さんを事故で亡くしたばかりで・・」と言い訳し、早織の意見を聞いて「調査します!」ということになった。
翌日、早織が学校に出かけると、校長、教頭、学級担当の品川、神崎、保利が現れ一斉に「すいませんでした」と頭を下げ、保利がまるでシナリオを読むように「すいませんでした」と謝罪。何を謝罪するのか分からない、まるで「帰れ!」と言わんばかりだった(笑)
早織はスーパーで買い物中に伏見が店内で走る子供に足を掛けて転ばせ知らんぷりしている姿をみた。(笑)
その後、父兄会が持たれ、早織が覗き見ると、一方的な謝罪でなんら変化のないものだった。
湊は学校を休むこともあったが、ある日足に傷を負って帰ってきた。早織は学校に抗議にやってきた。校長の伏見は我関せずの態度、正田は保利に会わそうとしなかったが、保利の方から接触してきて、「湊が星川依里(柊木陽太)を虐めているんだ!」と激しい口調で抗議した。早織は「あんたがガールズバーに火を点けた!」と言い返した。湊には保利という男が最低に見えた。
湊が外出して帰り部屋で大暴れした。部屋に入るとそこに棒状のライターがあった。湊は一体何をしているのかと配になった。
早織は湊と依里は5年生になって初めて同じクラスになったと知った。クラスの母親から依里はやさしい子だ」と聞かされた。早織は依里の家庭を訪ねた。家には誰もおらず依里だけだった。玄関に湊のスニーカーがあった。依里の腕に傷があるのを見た。やさしい子で、風邪で寝ている湊に手紙を書いてくれた。
早織は依里を連れて学校に乗り込み保利に会わせることにした。依里は「先生が湊君を虐めた」と証言した。保利は激しく動揺した。同席した校長以下、無視する態度に出た。早織は伏見に「お孫さんを轢いたのはご主人ではなくあなたでしょう」と抗議した。早織は弁護士に相談することにした。
学校側は父兄会を開き、保利がいじめの罪を認め謝罪した。地方紙にも「生徒に豚の脳と罵倒し暴行を働いた」と掲載された。
早織は保利の教師辞任を聞いた。早織は湊が怪我したという知らせで学校を訪れた。生徒から保利センだと聞かされた。保護室で待っていると管楽器の鳴る音を聞いた。湊がほっとしたような表情でトイレからもどってきた。
台風接近の夜、湊が「お父さんは何に生まれ変わるか?」と聞き「僕は可哀そうではないよ」と言って眠った。湊は死を考えているのかと早織は不安になった。
その湊が居なくなった。そのとき「麦野!」と保利がアパートを訪ねてきた。
ここから担任の保利の視点からこれまでの経緯が語られます。
火事の夜、保利は恋人の広菜(高畑充希)とこの火事を見ていた。そのとき自転車で走る教え子たちに会った。写真撮られて「ガールズバーか」の声を聴いた。
広菜はしっかりもので毒舌を吐く。色っぽい人だった。保利はこんな彼女が好きだった。アパートに戻ると金魚鉢で浮いた金魚を見つけ「(ワーカーホリックの)保利君みたい、可哀そう」という。(笑)このエピソードがラストで生きてくる。
エピソードが突飛ではあるが面白く、次々と繋がってくる“凄い脚本”になっています。
登校時、湊ら4人が走り去ったあとに依里が座り込んでいるのを見て「いじめか?」と近寄り声を掛けた。「なんでもない」と明るい声が帰ってきた。しかし、保利は依里のスニーカーがびっこであることを知った。父親とのふたり暮らしで何かあるかもしれないと関心を持った。教員室では校長・伏見の職場復帰の挨拶があった。
国語の時間に自分が5年生のとき作った作文を紹介し「未来」という宿題を与えた。
教室で騒ぎが始まって、駆けつけると湊が体育着袋を振り回して暴れていた。保利が「やめろ!」と止めに入り、肘が湊の鼻にあたり出血した。校医が「たいしたことではない」と言うのでそのままにしておいた。
しばらく置いて、図工の時間に絵具だらけになりながら港が依里に馬乗りになっているところに出会い止めに入って、湊の顔に傷をつけた。
資料室で準備しているところに教頭、学級主任、神崎が飛び込んできて、「父兄から暴力で訴えられた。学校を守れ!」と謝罪のリハーサルをさせられた。保利は説明すれば分かってもらえると考えたが、教頭以下の説得に応じた。
早織が学校を訪ねてきたとき、たどたどしい口調で謝罪した。「飴を舐めているのは不謹慎!」と早織に注意されたが、これは広菜が言う「精神安定の方法で全く悪意はなかった。

保利は依里の傷のこともあり、家庭訪問することにした。父・清高(中村獅童)に会うと「先生は安給料で大変だ!」と軽蔑され、「依里の脳は豚の脳だ!しっかり治してやる」と話した。保利は「豚の脳!」が清隆から出たことに驚き、早織がいちゃもんをつけていることに腹が立った。

ある日、トイレに閉じ込められ「怪物さん!」と大声で騒いでいる依里を救いだした。このときトイレから出てくる湊とすれ違ったので湊がやったなと。猫の遺体が発見され、これも湊の仕業だと思った。
しかし、保利は父兄会で、校長の指示に従い、全面的に謝罪した。
早織が湊が足に傷を負って帰ってきたと再度学校に抗議にやってきた。当初学校側はこれに対応しようとしなかったが、保利は真相を話すべしと早織に会い湊が依里を虐めていることを伝えた。
すると早織は依里を連れて学校にやってきて保利に会い、依里の口から「絵具事件の際、湊の顔の傷は保利の暴力でできた!」と証言させた。保利は「依里が直接見ていたのにこの発言は何故か?」と強い疑念を持った。
弁護士が介入すると知った学校側は生徒が保利をどう思っているかのアンケート調査を実施した。保利に不利と結果が出て、校長の伏見から「学校を守りなさい」と言われ、父兄会で正式に罪を認め謝罪することになった。地方新聞にも事件の概要が載った。これで保利の退職が決まった。しかし、保利の腹の中は収まらなかった。
保利は求職中にもかかわらず今なら確認できると湊に会いに学校に出かけた。しかし、湊が逃げ出し足を怪我して衛生室に収容された。保利は死のうと死に場所を捜したが死に切れず、管楽器の鳴る音を聞き、ほっとしてアパートに引き上げた。
保利と広菜が一緒にいるところを新聞記者に写真を撮られ、広菜は顔が出ると去って行った。ひとりになった保利はどうしても分からないと湊と依里のことを考えていた。水槽の金魚が浮いたので金魚鉢に移し水を補充しょうとしてこぼした水が生徒が書いた「未来」の作文の上に散った。(笑)その作文は依里のものだった。読むと上段一列はみなとの名前。湊の作文を調べるとほしかわよりとなっていた。ふたりの関係が読めた!そのとき台風が接近していた。
保利と早織は台風でがけ崩れが発生している中で、鉄道跡地のトンネルを抜けその奥にある廃車の電車を発見した。中を覗いたが、ふたりがいた気配はあるが見つからなかった。
早織の視点を読み、保利の視点を読むと、両者の虐めの見方の相違、学校側の対応が明かされる。次に子供の視点で事件が描かれその真相が明かされる。これが脚本の面白さです。
火事の翌日の登校日。湊は依里に悪戯しようと誘われたが加わらなかった。「可愛いやつがクラスにやってきた」と思っていた。そんなことで楽器室でふたりでしゃべる機会があった。依里は「豚の脳」なんて平気で話す飾らない子だった。
教室で「湊は依里に惚れているキスしてみろ」と騒がれた。湊は頭にきて暴れた。そこに保利先生が止めに入った。
帰校時、依里は靴箱に悪戯され裸足で歩いていた。そんな依里に湊は靴の半分を貸した。(笑)湊は自宅に戻り風呂場で髪を切った!
ふたりは学校が終ればトンネルを抜けたところにある廃車の電車で遊ぶようになった。
依里が死んだ猫を鉄道跡地に「生まれ変われる」と埋めるのにつき合った。そのとき依里が棒状ライターで枯草に火を点けたので「危ない!」と水筒で水を汲み、消した。その際、水筒にドロが入った。
湊がトイレにいて、依里の「怪物だれだ!」と助けを聞いたが、虐めの連中がいたので関わらなかった。保利に救出するのを確認し、不甲斐ない自分に嫌気していた。
車内をいろいろな工作物で飾り、食べ物を備蓄し、怪人ゲーム(頭に動物の絵を載せそれを言い当てるゲーム)でお互いの気持ちが繋がるのを確かめていった。遊園地のジャングルジムで遊んでいるとき「時間は元に戻る、生まれ変われる」と信じるようになっていった。そんな中で、湊は依里にキスしたい変な気持ちを体験し、依里も同じだと言った。湊は恐ろしくなり家に逃げ帰った。

絵具事件は図工の時間に、机に絵具を落として依里に悪戯するものだった。依里が雑巾で絵具を拭き取る。相手が「お前は依里とラブラブか」と囃したてるので依里の雑巾を取りあげ上げようとして依里と湊がもみあい、折り重なって倒れた。そこに保利が喧嘩と勘違いして飛び込んできた。
このあと、ふたりの関係がバレないようにと依里が湊に会うのを避けるようになった。湊が電車で依里がやってくるのを待っているこころに母親が湊を捜しにきてトンネルで出会った。そのとき湊は依里の姿をみたので、心配でしかたなく車から落ちた。
湊が早織に「保利の虐めを受けている」と告白したのは依里との関係を誰にも知られたくなかったからだった。
どうしても依里に会いたいと依里の家に出かけた。このとき依里の父親から「依里はおばあちゃんのところに行く」と言われ、依里も納得したように返事した。しかし、ドアーが締まって「嘘なの!」と依里が本心を伝えてきた。
退職した保利が学校に訪ねてきたとき、「会うと依里との関係がバレる」と逃げ、足に怪我して保健室にいた。そのとき校長の伏見に誘われ、「トロンボーンを吹いてごらん」と言われ、ホルンの伏見と一緒に吹いた。なんかいい気分になっていた。伏見は「自分だけが得られる幸せなんて幸せじゃない、誰もが手に入れるものが幸せ」と教えた。
台風の夜、湊は依里を誘い出し鉄道跡地の電車の中で過ごしていた。電車が土砂に埋まったがふたりはここから外に出て、明るくなる空を仰ぎ「生まれ変わったのかな!」と笑った。
まとめ:
脚本賞の作品だけに、テンポよく展開し、ミステリアスで笑もあって、ファンタジー。大きなテーマを語りながらエンターテインメント作品になっていて楽しめました。3章作りになっていて、章が進むにつれて事件の輪郭が見えてきて観る人の心を引っ張り込みます。ふたりの子の感情が上手く描かれていました。そしてラストで怪物とは何かに行き着く展開はすばらしい。
「怪物は誰か?」と物語を追いましたが、出てくる人みんな怪物でした。ひどいのは依里の父親、校長の伏見いや社会そのもの。(笑)
みんながこういう怪物を心に持っているということ。規制概念の中で自分に都合のいいように建前しか考えられないこと。
湊と依里が廃車の電車から這い出し、夜明けの空に「生まれ変わったかな!」と微笑むラストシーンは、規制概念に拘らない自分たちの世界探す怪物だった!その生死は分からないが・・・。
どの怪物もすばらしい演技でした。やはり怪物の中で、黒川想矢君と柊木陽太君の演技がすばらしかった。中でも柊木君が登校時に登場したとき、男子か女子か分からない、言葉つきも女性っぽい。女の子だと思っていました。すばらしいキャステイングと自然な演技でした。
依里に対する学校サイドの関心の無さが一番つらく、学校は大怪物だと思います。(笑)
坂本龍一さんの音楽、やさしくうつくしいもの中に希望を感じるものでした。
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