雪がすごいので仕事に行くのはやめて図書館に本を読みに行った。
面白かった。大谷世代の選手へのインタビュー集。読んでて、『桐島、部活やめるってよ』みたいだなと思った。
大谷という抜きんでた選手が同世代にいるから、みんな大谷のことは話題にするんだけど、インタビューはあくまで大谷のことを語ってもらうのではなく、その人本人のことを中心にしている。だけど、それが否応なしに大谷という人間の輪郭を明らかにしていくもので、それが興味深かった。なんというか、大谷はすべてにおいて完ぺきなんだなということがよく分かる内容だった。と同時に、歯車が狂うではないけど、運や巡り合わせすらも味方につけなければ、成功はできないのだなと思わされた。
最初と最後は藤浪へのインタビュー。まぁこの世代はもともと藤浪の世代で、そりゃもちろんこの代は大阪桐蔭が春夏連覇しているのだから当然である。藤浪ってあまり誰かのせいにする人間ではないし、頭がよくて気遣いできる人柄というのが随所でよくわかるが、このインタビューでは金本監督への恨みといったら大げさだけど、それが伝わってきた。藤浪独特の言葉で「OSを変えられてしまった」らしい。
藤浪の適度に荒れる球はもともとで、四球も死球も前々から多く、それでもずっとそれで抑えてきた。しかし金本監督の四球をとにかく悪だとする方針のもと、根っこの投げ方を変えざるを得なくなる。金本監督だけでなく、やかましいOBやコーチ陣、阪神ファンの圧もあった。そこから藤浪の歯車が狂っていく。
阪神を出てメジャーに行く藤浪。結局、藤浪はかつての輝きを取り戻せていないが、明るくなっている。少なくとも、人生を楽しんでいるようにはみえる。
続いて、大谷がかつて「こいつにはかなわない」と思った大坂選手へのインタビュー。リトルリーグで無双し、大谷に「上には上がいる」と思わせた男。しかし、中学にあがると成長がとまり、硬式ではなく軟式野球をやり、そこで手を抜いたわけではないが真剣にやらなくなり、高校に入った時点で、大谷他、同世代の選手とは圧倒的な差ができてしまっていた。
仙台育英の躍進のきっかけを作った渡辺選手へのインタビュー。東北勢初の甲子園優勝を成し遂げた須江監督に、メジャーへ行けたと言わしめる選手。中学時代に圧倒的なピッチングをし、仙台育英に進学。しかしそこで伸び悩み、打者へ転向する。須江監督は打者としてポテンシャルは圧倒的でプロどころかメジャーへいけると思っていた。しかし、本人曰く、他の圧倒的な選手を見るたびに挫折し、努力することを怠ったらしい。結局大学4年で競技を引退する。須江監督は今でも、指導の仕方を悔やんでいるという。早熟の選手への指導の仕方のノウハウが当時はなかった。
高校日本代表に選ばれプロにもなれた岡野選手。中学時代は補欠で、将来の夢は公務員だった。地元の高校へ行こうと思うが、母親の嘘によって福島の名門聖光学院へ行く。コツコツ積み重ね、エースとして甲子園へ行き、高校日本代表にも選ばれる。高卒でプロにはなれなかったが、社会人野球でコツコツ努力しプロ入りする。彼は、自分よりもうまい選手との差を埋める努力を怠らなかった。一段一段積み重ね、プロ入りする。そんな彼は、高校日本代表での試合後、帰りのバス内で捕手の森友哉に「(大阪桐蔭の藤浪の控えだった)澤田さんのほうがいいですよ」という言葉を聞く。いやーこれはきついな。日本代表なのに、こういうことを言われるのは。森も、聞いてないと思って話していたのだろうけど。
元阪神の北条、ロッテの田村へのインタビュー。光星学院の中軸で、3季連続甲子園準優勝に貢献した二人。北条はプロ入り後、順調に成長していたが、阪神の呪い?の背番号2をつけてから歯車が狂い出す。肩を亜脱臼し、そこから守備やバッティングに狂いが生じていく。そして結局、解雇される。田村は、高校時代常に打っていた。ホームランを打ちまくっていたが、プロ入り後打つほうは諦め、捕手として試合に出つづける。森友哉のようにスタイルを変えずに打つほうも諦めなければと考えることもあるが、捕手に力を注いでいたからまだプロをやれているとも考えている。
当たり前だけど、それぞれにそれぞれの人生があって、もしああだったらもっとうまく行っていたかもしれないと思わせられる。もちろんここに出てくる人たちは、甲子園へ行き、プロになっているわけで、そもそものレベルが違う。高いレベルのなかで、もっとこうしていれば、状況が違えばもっと成功していたかもしれない。
大谷は、それぞれのああだったらの成功バージョンをかけ合わせているように思う。大谷はもちろん子どものころからすごかったわけだが、それでもリトルリーグで自分よりすごい選手を見て、だから努力したわけだし、すごい選手を見たときに「自分にはかなわない」と諦めるのではなく、その差を埋めていこうとした。大谷も早熟だったが、さらにその上へと熟していった。
高校時代、ピッチャーとしての才能も実績も、藤浪のほうが上だった。プロに入ってからもピッチャーとしての成績は藤浪のほうが上だった。でも、藤浪は阪神という球団の圧力によって、OSを変えてしまった。藤浪は、今振り返って、撥ねつけて変えなければよかったと悔やむ。
大谷は、やっていたことが二刀流という誰もやったことないことだけに、阪神どころか球界全体からいろいろ言われていた。だけど、日ハムが二刀流を応援し、本人も諦めなかったから今がある。自分の軸を変えず、人から言われても自分の意志を貫きとおした。
大谷は、持っている最高のポテンシャルが、最高の環境のもと、本人の性格や向上心によって、最大に開花した例で、すべてが完ぺきに結実した。いくらポテンシャルをもっていても、努力しなければ開花しないし、開花できる環境に巡り会える運もないといけないし、開花させようとする向上心がないといけない。こういう選手は二度と出てこないだろう。
著者は、『桐島、部活やめるってよ』を意識したのだろうか。あの小説も、桐島は登場しないのに、桐島がどういう人間なのかを文字どおり浮き彫りにしていくという、独特の小説である。このインタビュー集も大谷はほぼ登場しないし、インタビューも大谷についてのインタビューではない。なのに、大谷がどういう人間なのかが浮き彫りになっていく。そういう意味で、これは他にはない独特の大谷本であるといえる。
こちらも面白い本だった。このシリーズはハズレがない。
校長って教員免許がなくてもなれるんだな。そういえば、どこかで民間の人が校長になっていたな。こちらは、県庁の職員が辞令で県立の商業高校の高校に就いた話。伏せてはあるが、なんとなく大分商業かなぁと推測した。
いやー、校長って大変な職だなと思った。でもこの人はすごい。極めてまともな人。
というか、自販機に炭酸飲料を導入するとか、くるぶしソックスを容認するとか、ヘアピンとか髪の長さとか、そんな些細なことでさえ、いちいち教職員会議にかけないといけないのか。そんなん生徒の自主性に任せればいいんじゃないのか。そして、風紀が乱れるとか言う教職員がいるせいで、これらの規則が変わらない。校長が動いてそれを変えていくというのはすごいなと思わされた。自分の通っていた学校は、まともだったんだなぁと思った。あるいは自分が、自分たちが従順な羊すぎたのかもしれない。
興味深いのは、生徒のほうも諦めているのか、規則の変更について提案はするが、これまで教職員がずっとゼロ回答しているから、だめだったと言われても落胆しないことだ。なんか、これは日本の縮図だなと思わされた。変わらないことに慣れてしまっている。そしてそれが伝統になっている。伝統だから、それがおかしくても変えようとしない。規則に載ってないのに変わらない。野球部の坊主といっしょである。髪の長さは決まっていないのだ。伝統だから坊主にする。先輩が暴力を振るっていたから、自分たちも後輩に暴力を振るう。だけど最近は、少しずつ変わり始めている。最初に変えようと動いた人たちはすごいなと思う。どんなにおかしくても、これまでどおり変えないほうが楽なのだ。
外から人が入ってくるというのは、こういう意味があるのか。外圧は大事である。特に日本みたいな環境は。もちろん、今回は校長が、極めてまともな感性を持っていたことが大きいが。
まぁしかし、学校教育に携わったことのない人間が、いきなり校長になれと指令されるのはかなわんな。赴任して、いきなりよく分からん会議やら集まりに参加して、めんどくさい常識のない教職員を相手にしないといけないし、この校長、メンタルも強いな。
あと、校長って意外と生徒の存在を認識してるんだなと思った。自分は、おそらく中学や高校の校長に認識されていなかっただろうと思う。問題を起こしていたわけではないし、勉強や部活の成績が秀でていたわけでもないから。全校集会以外で見たこともなかったし。そこで何を話していたかも覚えていない。
校長ってそういえば何してるんだろうなというのはほとんどの人が疑問に思うことだが、校長の考え含めて普段何をやっているかが書かれているから、とても面白い本だった。