低俗な週刊誌記者のルポかと思いきや、島での売春に関わったさまざまな人への丁寧なインタビューが詳細に綴られていてとても興味深い一冊だった。
島での売春の始まりから、最盛期を経て衰退へ向かっていくプロセスが、島で売春していた女性やブローカー、ヤクザ、置き屋の経営者、島で生まれ育った島民、島を衰退へ向かわせた男を知る者へのインタビューを通して綴られている。
島とは関係ない、九州や四国から来た女性が渡鹿野島へやってきて売春を始める。余所者がそういうことができたのは、島にはすでに芸事などに寛容な土壌があったから。そこに女衒で女を送り込むヤクザ、ブローカーなど裏の人間が絡み、売春が盛んな島として認知されていく。ホテルや旅館に泊まる客も売春目当ての客が多く、置き屋も宴会のために女性を派遣するのでウィンウィンの関係にある。このようにして島全体が風俗のおかげで潤い、風俗とは直接関わっていない島民でも間接的な恩恵を受けていた。
しかし行政による浄化、デリヘルなどの風俗産業の多様化によって売春島は衰退への道をたどり始める。そこに伊勢志摩サミットが追い打ちをかけて売春島は風前の灯となる。そして、衰退への道をたどる背景には、島でホテルや置き屋を経営した一番のやり手だった岡田雅子を溶かしたY藤という詐欺師も絡んでいた…
島にある大手ホテルなどは、売春島というレッテルから脱却すべく、クリーンな島をアピールし観光客を呼び込もうとしているが、かつての賑わいを取り戻すには至っていない。
島の歴史を、インタビューを通して立体的に浮かび上がらせた著者の手腕が見事だった。インタビューや裏付け調査も大変だったと思う。
テーマがテーマだけに手に取りづらいが、読む価値のある一冊。関係者のインタビューにもあったが、こういうのは下劣な週刊誌記者が島に潜入した体験記が面白おかしく書かれるだけ。この本は違ってて、島の歴史を構造的に浮かび上がらせるためにさまざまな関係者にインタビューを行っている。内容の真偽が分からないヤクザへのインタビューも、べつの人へのインタビューや文献などから裏付けも行っている。
この本が読むに耐えたのは、民俗学的価値があるから。特殊な業態で繁栄した島の歴史を知ることできるこの一冊はとても価値があると思う。著者のべつの作品も読んでみたくなった。