何かの本で紹介されていて気になったので読んだ。
社会学者である宮台真司の主張や思考に取り憑かれ自殺したS。自身の主張が彼を自殺へ導いたと悔やむ宮台とライターの藤井が、Sの死後、周辺の関係者に話を聞きながら、彼がなぜ自殺に至ったのか分析しようとした一冊。
1990年代の空気感を自分はよく知らないが、バブル崩壊とか阪神大震災、オウムや酒鬼薔薇の事件があったりして、人々の生き方や人生観が揺さぶられ続けた年代だったのだと思う。だからなのか、こういう類の本や『完全自殺マニュアル』のような、今だったら炎上しそうな本が普通に出版されている。
あの頃から30年近く経って、結局なにか変わったのだろうか。技術的にはかなり変わった。インターネットやスマホ、SNSなど。でも、世の中を覆う全体の空気はさほど変わっていないような気がする。
大きな物語が機能しなくなったこの社会でどうやって生きていけばいいのか?
この問いに対する答えは以前として見つかっていないし、見つかっていないからこそ、相変わらず親は子どもにいい学校に行かせようとしている。そこにしかすがれるものがないからだ。メディアもずっと毎年どこの高校から東大や京大に何人合格したかとか、東大生のクイズ番組ばかり放送している。
宮台は当時、意味なんてないのだから脱力してそこそこ楽しめる生き方を見い出せと主張した。個人的に、この主張は間違っていないしというかそれ以外にまともな主張があるのかとさえ思う。革命だのなんだのが失敗し、革命を起こそうとした者が就職すれば資本主義の犬になっていったのを見たり、金儲けに走りバカみたいに踊っていた連中やそれにうんざりしてオウムに走り最後はサリンをばら撒いた連中を見ていた当時の若者はめちゃくちゃ冷めていたのだろうと思う。それでも生きていかないといけないのはしんどい。だからこそ、完全自殺マニュアルがたくさん売れたし、自殺者も三万人を超えたのだろう。
奇妙に真面目な人間は、無意味とはいえ意味を見いだせないといけない。脱力してそこそこ楽しく生きることに一体何の意味があるのかと問う。
宮台の主張や思想に救われた者はたくさんいたと思う。でも、彼のその思想はある意味で劇薬で、人生は無意味だと宣言されてしまったからこそ、どう生きていったらいいのか分からなくなったと苦悩する者もたくさんいただろう。Sもその一人だったのだと思う。薄々気づいていたことだけど、宮台に宣言されてしまったことで、宮台の実験や思想をトレースしたものの、うまくいかなかった。そして自殺した。
一、二年前だったか、宮台が大学で襲われた。彼を襲った者もたしか宮台の著作を読んでいたはずで、襲った後警察の捜査が始まると自殺した。襲った彼も、宮台から何かしらの影響を受けたのだろうけど、結局なぜ行為に至ったのかは不明だ。
宮台は自殺者が出たことで苦悩し鬱になった。もちろんSの家族や恋人、友人は悲しむし、S自身も苦悩し自殺したわけだから宮台が鬱になるのも分かる。でも、自殺ってそんなに悪いことなのかなぁと思うんだよな。親のエゴで強制的にこの世に誕生させられ、やりたくもない勉強や重労働を何十年もさせられる。そして最後に、これまた自分の意思とは関係なく死んでいく。意思を持つ、主体的に行動することが重要と言われながら、結局すべての人間は誕生から死まで受動的なのだ。でも自殺は、自分の意思で死を選ぶわけだから、自殺者は最後は人生に能動であったといえる。もちろん自殺といってもいろいろとあって、やむにやまれず行う自殺が能動的といえるのかという議論はあるだろうけど。
最近は、こういう類の本を見ない。自分が気づいていないだけかもしれないけど。結局誰も、人生を生きるにあたっての万能な処方箋を持ち合わせていないのだ。宮台も、自分の提示した処方箋が多くの人々を救った一方で、同時に多くの人を苦しませてもしまったことを知ったことで、処方箋を提示しなくなってしまった。
おそらく個人でどうにかするということはもうできなくて、社会のほうが整備されないといけないと思う。たとえば、もっと楽に気軽に死ねるようになるとか。人間がいなきゃ社会は成立しなくなるから、人間が積極的に死ねる環境を整えるとは思えないが、生きづらさの一つの要因は、宗教や人権団体とかが、人生は素晴らしいとか生まれてきたことに意味があるとか、一人一人の人間に価値があるみたいなクソみたいな言説を撒き散らしているからだと思う。意味がないものに意味を付与しようとするから、人々は意味を見つけようとし、見つからないから困惑してしまうのだ。
そこそこ楽しめちゃう人間はそこそこ楽しんでから死ねばいいし、つまらんけどもしかしたら今後楽しめるかもしれないと思う人は頑張って生きたらいいし、もういいやと思った人はサクッと死ねるようにしたらいいじゃないか。もちろん、いろんな問題が発生するだろうが、社会的問題よりも実存的問題を重視する環境になってほしいと思う。