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読書の冬(5)『「いとこ会」、やってますか?』、いとこ会を考えるはずがなぜか奇書について考える

 昨年の話題書を続けて紹介しましたが、今日はいわゆる「ニッチ」なテーマの本を。

 

■ 渡辺家系いとこ会編『「いとこ会」やってますか? ――「いとこ会」のつくり方と運営法』太陽出版、2004.

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 こういう「ニッチ」なテーマの本の存在を知るとそれだけで嬉しい………!! 「いとこ会」!!

 実はあまり知られていないことですが(知る必要も特にないですが)私は母方のいとこ会サイトの管理人をしております。われわれいとこは幸いウマの合う集団で、幼い頃の思い出にもいつもいとこたちがいます。しかしそれぞれ年齢を重ねるにつれ一同に会する機会も減っているのが現状。そんな中、何かの参考になるかも、とも思ったのですが、結論として、特に参考になることはありませんでした。親族の状況なんて人によって違いすぎるので当然ともいえましょう。そのかわり、予想以上に「奇書」の趣が感じられ、予想以上に面白く読んでしまった……! 以下面白かったところを紹介します。

 

***

■ 文章が自由すぎる

 第1章はまずいきなり「丼物」の話で始まります。丼物の種類が羅列され、丼物の起源についての話が始まり、丼物の話が2ページと少し続いたところで、親子丼、兄弟丼、親戚丼、他人丼がありますがその間にいとこ煮があります、という導入でやっといとこの話へ。――なら「煮物」の話でいいのでは? 丼の話2ページ以上も要った???――いきなりの文章の自由さに、なんか既にこの時点でお腹いっぱいになりました(丼だけに)。「親戚丼」って卵、海老、シーチキンらしいのですが初めて聞きました。メジャーな料理なんでしょか。

 

 その後、家系図の例が示されいとこの縁の重要さが説かれます。

「ところで、芥川龍之介の短篇小説『河童』では、赤ちゃんの河童は自分の意志で生まれるかどうかを決定できましたが、人間の子どもは自分の意志で生まれたわけではありません。(略)兄弟姉妹でもいとこでもこの関係になったのは、決して自分の恣意ではありません」(p.25) 

 ――『河童』引く必要ある??

 

 少子化によりいとこも減ってしまうというくだりでは、那須与一のいとこは五十人!」という小見出しにへ~そうなんや~と思っていたら、

「仮に与一たち子どもの伯父~叔母が六人として、那須家が多産系で伯父~叔母の子どもがそれぞれ五人いたとすれば、与一はいとこが三十人いることになります。自分の兄弟も含めて一堂に会することになれば合計四十人です。ここには与一たちの姉妹や伯父~叔母の女の子どもは含めていません。女性も含めたらいとこの総合計は五十人を超える…」(p.31)

 与一の兄弟が十人いたらしいというところを除いてはすべて仮定の話やん!! 仮定の話をもとに「壮観というか呆然というか……」と感心する著者。あかん、既に第一章で面白すぎます。

 

 その後も、いとこは親子や兄弟姉妹と違って「ナナメの関係」であることがよい、という話をするのに、「正視よりも流し目で男をコロリと悩殺する美女もいる」とか「最近は筋肉痛や腰痛の湿布薬には、剥がれやすい部位や動きの厳しい関節部分にも従来のようにタテとヨコばかりでなく、ナナメにもぴったりフィットするものが市場に出て」いるとか、電動歯ブラシもタテ、ヨコ、ナナメに同時振動するモーターを内蔵」しているとか、もはや例として説得力あるのかないのかよく分かりません。

 この、ほとんど自由連想といいますか、書いてる人が「これ関係ないんじゃ?」とか判断を入れず頭の中に浮んだことをすべてそのままアウトプットしたかのようなドライブ感が、「奇書」感の一因のようです。

 

■ いとこ小宇宙

 更にその後、いとこ同士の関係を描いたフィクション作品がもっと作られてほしいと提言するところも面白い。吉川英治宮本武蔵』の作中で幼馴染である登場人物を取り上げ、

「武蔵と又八をいとこ(従兄弟)に、あるいは武蔵とお通をいとこ(従兄妹)に仕立てたら、小説はどういう展開になるでしょうか」(p.91)

 と勝手に想定し始めます。「そういう作品を読みたいと思いませんか」。読みたい……かな……?
 小説はどう書こうと自由だが現実の歴史と混同してはいけない、という某作家の言葉をひいたうえで、「ですから、作者は登場人物をどのように扱おうと自由なのです」(p.93)と言い、「あなたも愛読書の主な登場人物を『いとこ同士』に設定し直してごらんなさい」と勧めてきます。「きっと人物評価が変わるはずです」。そうなのか……?
 次には『男はつらいよ』を例に挙げ、寅さんにいとこがいたらどうなるか、マドンナがいとこだったらどうか、という想定が始まります。「このリリーが寅さんのいとこだとしたら……どうなるか? いま思えば山田監督にそれを期待したいところでしたが」(p.94)。山田監督もそんな期待をされるとは思っていなかったでしょう。

 さらに笑ったのがこの後。「文学作品にいとこが登場しなければ、私たちが公私の日常で触れ合う機会の多い人を、あなたの『バーチャルいとこ』にしてみたらどうでしょうか」(p.94)と著者は提案し、その効用をモレノの心理劇になぞらえます。そして、実際にこれをやってみた「横井民雄さん」の例が挙げられます。定年退職後の横井民雄さんは、ムッとしたときに「こいつがいとこだったら」と想像してみるという「バーチャルいとこ」をやることで人間関係が改善した(!)そうなのですが、それを受けて著者は言います。

「考えてみてください。現役で有能だったから中高年の体格的特質、すなわち短足・猫背・メガネ・バーコードの頭髪・重量下降型でも、どうということもなかったし、逆に尊敬や敬服もされました。でも実際に肩書きがはずれ、かつての権限も行使できなくなれば、体格は醜いハダカ同然です。周囲の評価を覆すのは何事につけ、ご本人の意識改革しかないのではありませんか」(p.96)

 ひどくね!? 横井さんが何をしたというんや!!

 

 ……横井さんへの暴言はともかくとして、すべてが「いとこ」に関連付けられてゆくさまは、まるで稲垣足穂少年愛の美学』ですべてを肛門に関連付けてゆくあのくだりを思い出してしまいました。ちょっと文学的な例すぎるか……いやでも「いとこ」に関連付けるより「肛門」に関連付けるほうが異常度は高いな……。ともあれ、私は、著者が自らの謎の連想と信念において何らかの一点を中心とする小宇宙を作ろうとしている書物が好きなようです。そしてそれを「奇書」と感じるようです。壮大系奇書(例:シュレーバー回想録)が存在する一方で、これは非壮大ながら「いとこ」という一点で世界を再解釈・再系統化・再構築しようとする点において、やはり奇書といえるのでないでしょうか。小粒系奇書といえましょうか。「いとこ会」という地味なテーマを通して、「奇書」の条件を考えさせられることになるとは思いませんでした。壮大系奇書や文学的奇書は脚光を浴びたりカルト的に愛されたりしやすいですが、そうでないところに数多の、小粒系奇書、世俗的奇書の宝の山が存在するのではないか、と思いました。

 

 

■ 実践編はふつう

 後半はいとこ会実践編です。ここは単にイベント運営や飲み会・カラオケ大会でのふるまいハウツーって感じでした。後半が本書の主要部分ではあるんですが、私は前半が面白かったです。奇書の奇書力は現実の話になると失速するようです。しかし、たしかにいとこ会イベントってたしかに誰かがやろうと言い出さないといつまでもやらないな……ということには気付かせてもらったので、今度早速いとこ会イベントを開くこととなりました。あと思い出の食べ物をみんなで食べるというのはいいですね。著者たちのもち搗きいとこ会は楽しそうですが、もち搗きをするほどのエネルギーはないので、うちらはポン菓子でも食べようかと思います。

 

■ 新入社員のニックネーム?

 表紙には「渡辺家系いとこ会編」とありますが、まえがきによると実質的な著者は坂川山輝夫氏。この方は「現代コミュニケーションセンター」というのを設立して企業や官公庁で講演をしてきた人らしいです。そういう世界には疎いので存じあげなんだ。「聴衆を絶対眠らせない」という自負をお持ちらしいので、本書で思いつくままに書かれたように見える自由連想無駄小ネタの数々も、実は読者を飽きさせないための計算された技術なのかもしれません。

 ところで著者紹介の「1973年から2002年までの30年間、毎年の新入社員のニックネームを描き出してマスコミや各企業の教育担当者を沸かせてきた」というのが謎だったので、何じゃそらとネットで調べてみたところ、「新入社員のニックネーム」というのをこの方が始めて、2003年以降は公益財団法人日本生産性本部(すごい名前だ)、2018年からは産労総合研究所というところに移って今も発表され続けてるらしい。ちなみに2024年は「セレクト上手な新NISAタイプ」、2023年は「可能性は∞(無限大)AIチャットボットタイプ」。そうどすか。坂川氏がつけたネーミングを見ると「パンダ型」(1973年)に始まり「ボディピロー型」(2002年)で終わっています(この時代に較べると今はずいぶん若者をヨイショするようになったのであるな)。他の年も「たいやきクン型」「テレフォンカード型」「浄水器型」「形態安定シャツ型」とか、単に流行もんにこじつけただけやん感があります。




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