昨年の振り返り記事を読み返すと、31日に駆け込みで大掃除をして、ギリギリのタイミングで書いているみたいだったけれど、今年はなぜかしっかり29日頃にはほぼほぼ仕事が納まり、大掃除も30日にはほぼほぼ終え、ほんとうに数年ぶりに、あまり仕事をしなくても問題がない年末年始を過ごせている気がする。
川崎の実家に帰る前に、白楽駅前のドトールで、同じ街に暮らしながらまったく顔も名前も知らない人々に囲まれ、匿名性の中でこのブログを書いている。ふと思えば、中高生の頃からドトールで勉強していたから、もう15年近くドトールに通っていることになる。もちろん店舗はその時々で違うのだけれど、なんだかんだチェーンのカフェではドトールがいちばん心が落ち着く気がする。自宅から白楽駅までの間にはここを含めてドトールが2軒あり、とても心強い。
でも一方で、まだ一抹の寂しさや物足りなさを感じてしまうのは、もはや書斎かのように通わせていただいていて、店を切り盛りされている夫妻はここ数年はどんな仕事仲間よりも顔を合わせていた行きつけのブックカフェが、長崎への移転のために閉店してからまだ3週間ちょっとしか経っていないからだろう。同じくそのお店に通われていた地方紙の記者さんがあるエッセイの中で「地元の行きつけのお店がなくなることは、体の一部がなくなってしまうような喪失感がある」といったことを書かれていたけれど、まさにその通りだと思った。そのお店がない毎日に少しずつ慣れてきてはいるけれども、やっぱり寂しいし、同時にこんな気持ちを抱けるほど愛着のある場所をつくり上げてくれたお二人への感謝があらためて溢れてくる。ここ数年の自分のアウトプットのかなりの割合がこの店での作業によって生まれているし、この記事で紹介する今年の仕事ももちろんそうだ。
そんなこんなで、体の一部がなくなってしまったかのような感覚を引きずりながら年の瀬を迎えている2024年。連日の忘年会ラッシュで疲れた胃腸を引きずりながら、ざっくりと振り返っていく。
今年は後述のようにたくさん仕事したのだけれど、その反動か隙間時間での読書欲が零年以上に高まり、忙しさの割にはわりに本が読めた気がする。新刊ばかりにならないようにすること、人からすすめられた自分では絶対読まなかったであろう本を読むことを改めて心がけた結果、そんな感じのバランスになっている気がする。
読んだ/目を通した中でも、特によかった本や印象に残った本をいくつか、新刊・既刊、初読・再読、仕事の関連資料か否かを問わず挙げておく。2024年刊行で特に自分にとって大切な本になったものだけ、太字/★マークをつけている。(そういう本の著者にはたいてい仕事をお願いしたくなってしまうので、結果的に仕事関係が増えてしまうのだけれど)
・久保友香『ガングロ族の最期 ギャル文化の研究』★
・朱喜哲『人類の会話のための哲学──ローティと21世紀のプラグマティズム』★
・「ふつうの暮らし」を美学する:家から考える「日常美学」入門★
・朝倉圭一『わからないままの民藝』★
・武塙麻衣子『酒場の君』★
・『工藝 87 第八十七号 色染和紙』
・朱喜哲『100分de名著 ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』
・寺尾紗穂(編)『わたしの反抗期』
・金セッピョル、地主麻衣子(編)『葬いとカメラ』
・寺尾紗穂『あのころのパラオをさがして──日本統治下の南洋を生きた人々』
・冨田恭彦『ローティ──連帯と自己超克の思想』
・柳瀬博一『カワセミ都市トーキョー』
・吉田文(編)『文系大学院をめぐるトリレンマ──大学院・修了者・労働市場をめぐる国際比較』
・安積純子・岡原正幸・尾中文哉・立岩真也『生の技法──家と施設を出て暮らす障害者の社会学』
・大賀祐樹『希望の思想──プラグマティズム入門』
・大坪玲子、谷憲一(編)『嗜好品から見える社会』
・栗原康『村に火をつけ、白痴になれ:伊藤野枝伝』
・大賀祐樹『リチャード・ローティ:リベラル・アイロニストの思想 1931-2007』
・千葉雅也『センスの哲学』
・橋本倫史『観光地ぶらり』
・岡野八代『ケアの倫理』
・寺尾紗穂『彗星の孤独』
・朱喜哲『バザールとクラブ』
・向田邦子『父の詫び状』
・朱喜哲『〈公正〉を乗りこなす──正義の反対は別の正義か』
・ヘンリー・ソロー『ウォールデン:森で生きる』
・キャロル・ギリガン『もうひとつの声で』
・伊藤邦武『プラグマティズム入門』
・柏木博『日用品のデザイン思想』
・麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』
・中村寛・松尾眞『アメリカの〈周縁〉をあるく──旅する人類学』
・石井直方『やせる筋肉の鍛え方』
・佐藤学『学びの快楽──ダイアローグへ』
・今井むつみ『学びとは何か 〈探究人〉になるために』
・朝吹真理子『きことわ』
・磯野真穂『コロナ禍と出会い直す:不要不急の人類学ノート』
・パース、ジェイムズ、デューイ『プラグマティズム古典集成』(訳:植木豊)
・武者小路実篤『愛と死』
・ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』
・津村記久子『サキの忘れ物』
・ウィリアム・ジェイムズ『宗教的経験の諸相』
・富永京子『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史:サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』
・矢野久美子『ハンナ・アーレント』
・『般若心経・金剛般若経』
・小指『偶々放浪記』
・岡真理『アラブ、祈りとしての文学』
・坂口恭平・道草晴子『生きのびるための事務』
・ナンシー・スタンリック『アメリカ哲学入門』
・中村達『私が諸島である:カリブ海思想入門』
・西村清和(編)『日常性の環境美学』
・網野善彦『無縁・公界・楽』
・井上法子『永遠でないほうの火』
・志村真幸『在野と独学の近代:ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで』
・岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か:ChatGPTが変えた世界』
・ハン・ガン『少年が来る』
・モリス・バーマン『神経症的な美しさ』
・中畑正志『はじめてのプラトン:批判と変革の哲学』
・畑中彰宏『傍流の巨人渋沢敬三: 民俗と実業の昭和史』
・早乙女ぐりこ『速く、ぐりこ!もっと速く!』
・菅原敏『季節を脱いでふたりは潜る』
・スーザン・ソンタグ『他者の苦痛へのまなざし』
・ラルフ・ウォルドー・エマーソン『自己信頼』
・尾崎俊介『アメリカは自己啓発本でできている:ベストセラーからひもとく』
・宇野常寛『庭の話』
・向坂くじら『とても小さな理解のための』
・井上法子『すべてのひかりのために』
映画やドラマは全然見られなかった。特に映画。忙しいとついつい遠回しになってしまう。少ない中でも、印象に残ったのは以下のあたりだろうか。映画だと『夜明けのすべて』、ドラマだと『団地のふたり』がベストかなぁ。『boyfiriend』と『あいの里』という新生リアリティーショーの二大巨頭は両方めちゃハマったが、『あいの里』はシーズン2の中盤以降はしんどかった。
・ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』
・三宅唱『夜明けのすべて』
・濱口竜介『悪は存在しない』
・Darby Wheeler, Rodrigo Bascunan『Hip Hop Evolution』
・『boyfriend』
・『あいの里』
・生方美久『海のはじまり』
・『団地のふたり』
・『虎に翼』
・『光る君へ』
・『1122』
・『海に眠るダイヤモンド』
音楽はたくさん聴いてそれなりにライブにも足を運んだけれど、ちょっとMPが切れてきたので割愛。でも今年は、自分が知らない音楽をたくさん教えてくれる人と親しくなれたので、けっこう聴く音楽の幅が広がった気がする。
あと今年も主に出張ついでにけっこう色々な場所に行けた。京都は取材や大学のゲスト講師などで今年も行く機会が多く、10回くらい行った気がする。あとは、滋賀、秋田(阿仁)、飛騨高山、博多など、普段あまり行かないあるいは初めて行く地域にもけっこう行けた。いわきにもまた行けてよかった。
そして仕事。
毎年言っている気がするが、今年は本当によく仕事をしたと思う。反省点はもちろん多々あるのだけれど、ひとまず自分におつかれさまを言ってあげたい。
便利でよく使ってしまう「両利きの経営」の「深化」と「探索」というフレームワークに則ると、「深化」も「探索」もたくさんした一年だった。
※参考:安斎勇樹「「両利きの経営(ambidexterity)」を推進する3つのアプローチ」※
知の深化(Exploitation)
既存の事業を深めていくこと。絶え間ない改善を重視。
知の探索(Exploration)
新しい事業を開拓すること。実験と行動を通した学習を重視。
まず「深化」。
今年も引き続き、人文・デザインを軸としたさまざまなフィールドで、たくさんのコンテンツの企画・編集に携わらせていただいた。
一個一個振り返っているとキリがないので、プロジェクトごとにざっくり代表的な仕事を紹介するにとどめるが、書籍やウェブコンテンツの企画・編集はもちろん、登壇やモデレーターなど人前に出る機会が格段に増え、講座シリーズや出版レーベルの立ち上げや、企業向け勉強会、企業の思想の言語化・編集、提言冊子の制作など、「編集」をコアに仕事の幅がぐっと広がった一年だった。お世話になっている研究者の方にお招きいただいた大学院でのゲスト講義や、実務家としての学会発表など、完全に新しいタイプの機会もあった一方で、一球入魂的な書籍やウェブコンテンツもたくさん出せた気がする。編集者冥利に尽きることだが、関わったコンテンツ一つひとつが自分の血肉となり、その後の活動に還流していくのがとても刺激的で、その意味でいまの自分はここまで関わってきたプロジェクトや触れてきたものの集積でしかないことをポジティブな意味であらためて実感している。
続いて、「探索」。
こちらはいま仕込み中のものも多いので、あまりここで言えることは多くはないのだけれど、実は水面下で新たな展開がたくさん起こった一年でもあった。
まず一番大きいのは、編集アシスタントとして並木里圭さんがあらゆる局面でたくさんサポートしてくれたこと。彼女がいなかったら回らなかったこと、チャレンジできなかったこと、知り得なかったことがたくさんあり、(マイクロながらも)チームってやっぱりいいなと純粋に思った一年だった。いつも本当にありがとうございます。ただ、この前「アシスタント」という立場は実質“卒業”してもらったので、来年はいっそういちプレイヤーとして活躍してくれるはず(プレッシャーをかけているわけではないですw)。
また並木さんが加わってくれたおかげで、小規模な哲学の勉強会や読書会など、これまでやりたかったけれどあまり動けていなかったこともやりやすくなり、短期的な売上につながらない探究活動がたくさんできた一年でもあった。
全体的に充実していた1年だったとは思うが、運動があまりできなかったのと、多忙ゆえのストレスか日常的に飲むお酒の量が増えたのは、シンプルによくなかった気がする。後述するように来年は今年以上に忙しくなること必定なので、基礎体力をしっかりつけるためにも、運動と節制をこれまで以上に心がけることをここに宣言する。
ここまで書いたプロジェクトをいっそう深めていくのはもちろん、それ以外に来年は新規プロジェクトが規模の大小問わずたくさんある。どれも楽しみなので、一つひとつ丁寧に向き合っていこう。
中でも、来年自分として最も大きなチャレンジが、最近会った人にはちょこちょこ話しているのだけれど、6年前から暮らしている白楽で、書店+喫茶・喫酒+コワーキングスペースの機能を持つ、つまり書店を軸とした小さな複合文化施設的な場所を立ち上げることになった。いまの編集業は引き続き続けながら、新規事業として始めるかたちになる。
まだ未確定事項が多いので具体的なことはなかなか言えないのだけれど、冒頭で書いた行きつけだった「ブックカフェ はるや」からいただいたものを育てていきたい、というのが一番直接的で大きな理由だ。
本当にここ数週間で目まぐるしく急展開し、いま急ピッチで資金調達や物件契約に向けてのアレコレを進めている。いつか書店をやってみたいという気持ちはあったのだけれど、まさかこんなに早く機会が来るとは思いもしなかったので、自分でもまだ実感がない面もあるが、開業に向けたプロセスが一つひとつ進んでいく中で、少しずつ現実味を帯びつつある。小さくない額の資金を投じることになるし、何せ大きな初期投資が必要なビジネスも小売ビジネスも初めてなのでわからないことだらけだが、良縁が重なり応援してくれる人や相談に乗ってくれる人に恵まれつつあるので、なんとかなる自信はある。不安と楽しみがせめぎ合い、でも楽しみとワクワクのほうが大きい。一見すると唐突に思えるかもしれないが、自分としてはこれまでのさまざまなご縁が結実した、ある種必然的な帰結であるような気もする。
来春オープン予定で、その前にはクラファンも行うかもしれないので、ぜひ温かく見守っていただきつつ、一人でも多くの方にこの場所を一緒に盛り上げていただけると嬉しいです。
来年の12/31は、どんな気持ちで振り返り記事を書いているのだろうか。予測不能すぎるが、とても楽しみだ。
重ね重ね、本年もほんとうに多方面のみなさまにお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年をお迎えください。