以下の内容はhttps://masahiroito.hatenablog.com/entry/2026/02/01/162951より取得しました。


松尾剛行先生の『法律実務家のためのインプット・アウトプット術』を読んで

話題の『法律実務家のためのインプット・アウトプット術』を(ざっとですが)読みました。

この業界において松尾剛行先生といえば、信じられないスピードで単著、論文などを量産し、かつ、実務のプラクティスも十分すぎるほどこなされていて、「松尾先生は実は3人いる」「いや10人はいる」などと言われていました。

そんな松尾先生が、惜しげもなくインプット・アウトプット術を開披されるということで、何かすごい秘密を知ることができるのではないか、という期待が高まります。法律家として、常に新しい情報をインプットし続けなければならず、平等に与えられた時間をどう使うのか。また、アウトプットしない限り、世間に自分の存在が知られることが難しく、どうやってそんなスピードで良質の情報発信ができるのか。

しかし、その期待は残念ながら裏切られます。

この「術」は、細かいところでなるほどと思う部分はありますが、多くはそれほど奇抜なアイデアではなく、「わかっちゃいるけれど、やっていない/できない/やる気がしない」ことばかりです。松尾先生といえども、魔法の杖は持っていないのです(本当は、本書に書かれていない魔法の杖をお持ちなのかもしれませんが・・)。

まるで将棋が強くなりたいと思ったときに、プロ棋士の「必勝上達術」なるものを手に取ってみたが、棋譜並べと実戦、詰め将棋のやり方しか書いていなかったときのような落胆に近いでしょう。

なので、本書を読むと自己嫌悪と絶望を感じることになります。スーパーマンと一般人の差を痛感させられます。

しかし、本書が毒になるということはありません。

「一歩でも近づけるようになるために、せめてこれくらいはがんばろう」「王道はないのだから地道にやるしかない」「たまにはこっちに力を入れてみるか」という気持ちになるだけでも十分な効果があります(現に私も、半年ぶりにこちらのブログを書いてみるかという気持ちになりました。)。

こういうノウハウを紹介する本では、ボリュームを増やすために著者が必ずしも自分で実践していないことが書かれていることも少なくありません。しかし、本書の「術」は、どれも非常に解像度が高く、実践に基づいたものであろうという安心感があります。例えば、学会で「質疑を楽しむ」ことの効能が述べられていますが(392頁)、私が学会で松尾先生を見かけると、かなりの確率で質問されており、ちゃんと実践されています(私も、ニコニコ顔で「私は詳しくないんですが」を何度か喰らいました。)。

私が特に本書で共感したのはPart1第5章で「旗」を立てよ、と述べられているところでした。この「旗」とは、自分がやりたい分野を対内・対外的にアピールすることを意味しますが、この「旗」については本書を通じて何度も出てきます。特に若手弁護士が、どうやって自分のキャリアを築いていくのか、どうやってサバイブしていくのかということの重要なヒントが得られると思います。私も弁護士登録前から、この「旗」を強く意識していました。業界全体で「旗」を立てるのは簡単なことではありませんが、まずは事務所内、組織内で「旗」を立ててみることが重要だと思います。

まさにその「旗」を立てるために弁護士1年目に始めたブログ(IT・システム判例メモ)ですが、大変ありがたいことに、松尾先生に本書で(インターネット上の情報の中では)「まさに「使える」コンテンツの一例である」としてご紹介してくださっていました(193頁)。細々と続けていてよかったなと感じる瞬間です*1

itlaw.hatenablog.com

SNSにしても同様で、「コツコツと地道な積み重ねをすることで、長期的に読者がつき、信用が蓄積する」と述べられています(381頁)。各種弁護士ランキングで、若手から中堅でランクインしている方々の多くは、地道に勉強会の運営や、SNSでの発信などを行っています。

また、松尾先生が近ごろ特に力を入れているAIの利用に関する考え方(Part1・第4章)も参考になります。これからの時代、どうやって我々が生き延びていくのか、不安になることばかりですが、少なくとも当面(2030年ころまで)は、「AIなしで目の前の業務を適切に遂行できるスキルがないと、AIを使いこなしてその便益を享受することができない」「短期的には、むしろ従来型のスキルの重要性が高まる」(81頁)ということは、私も大変心強く感じました。

本書を読んでも、99%以上の人は、松尾先生になれるわけではないでしょう。しかし、本書に刺激を受けて、スキルアップ、リスキリングに励めば、少しでも淘汰される時期を遅らせられるのではないかという気がします。

*1:もう一つ自慢をすると、巻末の「定番書籍」紹介のコーナーで、「契約法務」の分野で拙著『ITビジネスの契約実務(第2版)』が紹介されていました(410頁)。これも大変ありがたいことです。




以上の内容はhttps://masahiroito.hatenablog.com/entry/2026/02/01/162951より取得しました。
このページはhttp://font.textar.tv/のウェブフォントを使用してます

不具合報告/要望等はこちらへお願いします。
モバイルやる夫Viewer Ver0.14