特別企画

カルト宗教出身の激強JKが裏格闘技の世界へ身を投じる! 格闘×サスペンス?な異色作「一勝千金」が面白い

「ダンベル何キロ持てる?」の作者・サンドロビッチ・ヤバ子氏原作の格闘マンガ

【一勝千金】

裏サンデーにて連載中

 女子専門の裏格闘技団体を舞台としたマンガ「一勝千金」が面白い。本作は2023年5月より、小学館のアプリサービス「マンガワン」と、同社によるマンガ配信サイト「裏サンデー」にて連載中。そのほかLINEマンガ、ピッコマ、まんが王国などの他サービスでも読むことができる。2024年7月頭の段階で総掲載話数が30話にも満たない、新進気鋭の作品だ。

 原作は「ケンガンアシュラ」、「ダンベル何キロ持てる?」で知られるサンドロビッチ・ヤバ子氏。作画は「ダンベル何キロ持てる?」を担当したMAAM氏であり、両名がタッグを組んで世に放つ第2作目となる。

 サンドロビッチ・ヤバ子氏が得意とする格闘マンガでありながら、本作においては、作中に登場する組織の政治的な働きかけが描かれる。加えて格闘マンガとしてのバトルシーンにおいても高いクオリティを誇り、異色の格闘マンガとして連載が行なわれている。

【【CVファイルーズあい】『一勝千金』コミックス1巻発売記念PV】
YouTubeにて公開されているPVでは、「ダンベル何キロ持てる?」の主人公・紗倉ひびきの声を演じたファイルーズあいさんがナレーションを担当
「ケンガンアシュラ」はサンドロビッチ・ヤバ子氏が原作、だろめおん氏が作画を担当する形で2012年より連載が行なわれた
「ダンベル何キロ持てる?」はサンドロビッチ・ヤバ子氏が原作、MAAM氏が作画を担当。いずれもアニメ化されている

いつ崩れるのかハラハラする、危うい均衡が生み出すユニークさ

 物語の大筋は、学生時代から親交がある3名の女性が、それぞれの抱えた閉塞感を打破するため、女子専門の裏格闘技団体・戦乙女(ヴァルキュリア)を立ち上げて一攫千金を狙っていくというもの。

 戦乙女の発起人は、実力は確かなものの、網膜剥離によって表舞台を引退した元裏格闘技選手・天馬希望(てんまのぞみ)、暴力団対策課に在籍していたこともある汚職警察官・伊織いちか、細々と運営している独立系暴力団の組長・美谷はなの3人。この団体を勢いづけるため、引き込んだとある女子高生の様子がおかしくて……? という形でスタートする。基本的には戦乙女のオーナーである希望の視点がメイン=主人公となっているが、本作の台風の目になる女子高生・本郷姫奈はとにかく異質な存在として描かれる。

 姫奈は、かつて化学兵器による国家転覆を目論んでいたカルト宗教団体・神の軍勢の教祖に、養女として引き取られた過去を持つ。本気で国と一戦交えるつもりだった教祖によって設立された特殊部隊に放り込まれ、徹底的に戦闘スキルを叩き込まれたという(余談だが、神の軍勢についてはその詳細が「ケンガンアシュラ」にて描かれており、本作はサンドロビッチ・ヤバ子氏原作の過去作品と同一の世界観であることが示されている)。

画像はコバヤシショウ氏の公式Xより

 見た目はかよわい女子高生にもかかわらず、格闘技界に名を轟かせる屈強な選手たちを寄せつけない強さを見せつけ、戦乙女を観戦する荒くれどもを熱狂させていく姫奈。リングインの際には「革命の時間だよ~♪」などとフランクに観客を煽るが、その出自を知る読者としては、どういう意図で言っているのか勘繰ってしまうところもある。そんな姫奈が持つ無視できないバックボーンや底知れない狂気を感じながらも、団体運営のために試合を組んでいく希望たちオーナー陣……。この危うい均衡がいつ崩れるのかハラハラさせられる、一筋縄ではいかないユニークさが本作の面白味となっている。

格闘マンガとしてのクオリティの高さ+女の子のかわいさ

 そんな設定のユニークさが目立つ本作だが、まず純粋な格闘マンガとしてのクオリティも高い。作画担当のMAAM氏が描く女子格闘選手たちは、その筋繊維に至るまで意識されながら描かれていることが伝わってくるほどのリアルさを帯びている。そんな選手たちによるパンチやキックが生み出す迫力は、読者をひと目で引き込むだけの絵力がある。

 あまりに強すぎるため、対戦相手を瞬殺してしまう姫奈と駆け引きができる実力者が参戦するようになってからは、リングの形状を利用した戦い方や、中国拳法の化勁(かけい)や震脚(しんきゃく)といった技も登場し、バトルシーンの見ごたえが一層アップする。キャラクターのルーツについての深堀りや、武術的なウンチクを交えた技の解説など、これぞ格闘マンガ! といった魅力をしっかりと見せてくれる。

 そうした格闘マンガとしての土台があった上で、MAAM氏によって描かれる女子キャラクターのかわいさが効いてくる。容赦のない打撃やそれに伴う流血、ゴリゴリの格闘技をやっている女の子がかわいい(そして試合中にそのかわいい顔を焦りや苦悶に歪ませる)というギャップは、ファンタジーバトルものに登場する女性キャラクターとはまた違った味わいがある。

 現在展開中の最新エピソードでは、姫奈たち戦乙女所属の選手と別団体・殺戮武闘会の選手による3体3の交流戦が描かれている。強敵たちとのトーナメント戦を終えたばかりで怪我が癒えていない戦乙女の選手たちに代わり、天馬希望とともに団体を立ち上げた側のいちかとはなが参戦。第1話から登場しているものの、これまでに描かれていなかった2人の戦闘面に光が当てられた。交流戦は一勝一敗で、最後の一戦にすべてが託された大一番を迎えている。この記事を読んで「一勝千金」に興味を持たれた方は、ぜひ姫奈の持つ底知れない狂気を覗いてみてほしい。

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