圏の恒等射だけで部分圏ができます。が、この部分圏はファイブレーションクラスにはなりません。包含的圏(「色々な包含的圏」参照)の包含射達は部分圏を形成しますが、これもファイブレーションクラスにはなりません。
圏のファイブレーションクラスの定義を少しゆるめて、選択的ファイブレーション部分圏を定義します。その動機・目的は、上記の「恒等射だけの部分圏」や「包含射だけの部分圏」もファイブレーションクラスのように扱いたいからです。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
%\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
%\newcommand{\ot}{\leftarrow }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
%\newcommand{\op}{\mathrm{op}}
\newcommand{\id}{\mathrm{id}}
%\newcommand{\u}[1]{\underline{#1}}
%\newcommand{\o}[1]{\overline{#1}}
\newcommand{\hyp}{ \text{-} }
%\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow }
\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
`$
内容:
結合で閉じた射クラスと部分圏
圏 $`\cat{C}`$ の射集合〈the class of morphisms〉$`\mrm{Mor}(\cat{C})`$ の部分集合を $`\cat{C}`$ の射クラス〈morphism class | class of morphisms〉と呼びます。
射クラス $`\cat{M}\subseteq \mrm{Mor}(\cat{C})`$ が次を満たすとき、$`\cat{M}`$ は結合に関して閉じている〈closed under composition〉といいます。
$`\quad \forall f, g\in \cat{M}.( \mrm{cod}(f) = \mrm{dom}(g)\Imp f;g \in \cat{M} )`$
結合に関して閉じた射クラス $`\cat{M}`$ から $`\cat{C}`$ の部分圏 $`\cat{D}`$ を作れます。次のように定義します。
- 対象集合: $`|\cat{D}| := \{X\in |\cat{C}| \mid \exists f\in \cat{M}.( \mrm{dom}(f) = X \lor \mrm{cod}(f) = X) \}`$
- 射集合: $`\mrm{Mor}(\cat{D}) = \cat{M}\cup\{\id_X \mid X\in |\cat{D}| \}`$
結合は、$`\cat{C}`$ からそのまま受け継ぎます。
射クラス $`\cat{M}`$ が次を満たすとき、$`\cat{M}`$ は恒等に関して閉じている〈closed under identity〉ということにします。
$`\quad \forall f\in \cat{M}.( \id_{\mrm{cod}(f)}\in \cat{M} \land \id_{\mrm{dom}(f)} \in \cat{M} )`$
圏 $`\cat{C}`$ の射クラス $`\cat{M}`$ が結合に関して閉じていて、恒等に関しても閉じているなら、それは圏 $`\cat{C}`$ の部分圏と区別する必要はありません。結合で閉じている射クラスも、恒等を追加するだけで部分圏になるので、部分圏と大差ありません。
結合と恒等に関して閉じている射クラスはもちろん、結合に関して(だけ)閉じている射クラスも部分圏と同一視することにします。
可換四角形の四辺
以下のような可換四角形があったとします。
$`\quad \xymatrix{
\cdot \ar[d]_v \ar[r]^g
&\cdot \ar[d]^u
\\
\cdot \ar[r]_f
&\cdot
}\\
\quad \text{commutative }\In \cat{C}
`$
この四角形を $`S`$ と置いたとき、$`f, u`$ が作るコスパンを
$`\quad \mrm{cospan}(S)`$
と書きます。さらに、このコスパンの左余脚〈left coleg〉と右余脚〈right coleg〉を次のように書きます。
$`\quad \mrm{left}(\mrm{cospan}(S) ) = f`$
$`\quad \mrm{right}(\mrm{cospan}(S) ) = u`$
同様に、$`v, g`$ が作るスパンを
$`\quad \mrm{span}(S)`$
と書きます。このスパンの左脚〈left leg〉と右脚〈right leg〉を次のように書きます。
$`\quad \mrm{left}(\mrm{span}(S) ) = v`$
$`\quad \mrm{right}(\mrm{span}(S) ) = g`$
プルバック四角形は可換四角形なので、同じ記法で4つの射を指定します。
ディスプレイクラスと選択的ディスプレイクラス
$`\mrm{PBSq}(\cat{C})`$ は圏 $`\cat{C}`$ のすべてのプルバック四角形〈publlback square〉達の集合とします。$`\cat{M}`$ は圏 $`\cat{C}`$ の射クラスとして、結合に関して閉じていることは特に仮定しません。$`\cat{M}`$ が次の性質を満たすとき、射クラス $`\cat{M}`$ はファイバー引き戻しに関して閉じている〈closed under fiber pullbacks〉といいます。
$`\quad \forall f\in \mrm{Mor}(\cat{C}).\forall u\in \cat{M}.\\
\quad \forall S\in \mrm{PBSeq}(\cat{C}).\\
\qquad
\mrm{left}(\mrm{cospan}(S)) = f \land
\mrm{right}(\mrm{cospan}(S)) = u
\Imp
\mrm{left}(\mrm{span}(S)) \in \cat{M}
`$
ディスプレイクラス〈display class〉は、ファイバー引き戻しに関して閉じている射クラスの別な呼び方です。
任意のプルバック四角形ではなくて、プルバック四角形をうまく選ぶとファイバー引き戻しが射クラスに入る、という条件は次のように書けます。
$`\quad \forall f\in \mrm{Mor}(\cat{C}).\forall u\in \cat{M}.\\
\quad \exists S\in \mrm{PBSeq}(\cat{C}).\\
\qquad
\mrm{left}(\mrm{cospan}(S)) = f \land
\mrm{right}(\mrm{cospan}(S)) = u
\land
\mrm{left}(\mrm{span}(S)) \in \cat{M}
`$
上記の条件を満たす射クラスをファイバー引き戻しに関して選択的に閉じている〈selectively closed under fiber pullbacks〉ということにします。選択的ディスプレイクラス〈selective display class〉は、ファイバー引き戻しに関して選択的に閉じている射クラスの別な呼び方です。
ファイブレーションクラス
圏 $`\cat{C}`$ の射クラス $`\cat{F}`$ が以下の条件を満たすとき、$`\cat{C}`$ のファイブレーションクラス〈fibration class〉と呼びます。
- $`\cat{F}`$ はファイバー引き戻しに関して閉じている。
- $`\cat{C}`$ の同型射は $`\cat{F}`$ に所属する。
- $`\cat{F}`$ は結合に関して閉じている。
$`\cat{F}`$ はすべての同型射達を含むので、すべての恒等射達を含みます。よって、$`\cat{F}`$ は恒等に関して閉じています。つまり、射クラス $`\cat{F}`$ は $`\cat{C}`$ の部分圏だと思ってかまいません。ファイブレーションクラスはファイブレーション部分圏です。
$`\cat{F}`$ を部分圏だと思ってファイブレーションクラスの条件を言い直すと:
- $`\mrm{Mor}(\cat{F})`$ はディスプレイクラスである。
- $`\mrm{Iso}(\cat{C})\subseteq \cat{F}`$ ($`\mrm{Iso}(\hyp)`$ は、同型射達からなる部分圏)
選択的ファイブレーション部分圏
圏 $`\cat{C}`$ の部分圏 $`\cat{F}`$ が以下の条件(ひとつだけ)を満たすとき、$`\cat{C}`$ の選択的ファイブレーション部分圏〈selective fibration subcategory〉と呼びます。
- $`\mrm{Mor}(\cat{F})`$ は選択的ディスプレイクラスである。
選択的ファイブレーション部分圏として要求している条件は、$`\cat{F}`$ の射達がファイバー引き戻しに関して選択的に閉じていることだけです。
$`\cat{F}`$ が $`\cat{C}`$ の選択的ファイブレーション部分圏で、 $`|\cat{F}| = |\cat{C}|`$ のとき、広い選択的ファイブレーション部分圏〈wide selective fibration subcategory〉と呼びます。冒頭に挙げた以下の2つの例は広い選択的ファイブレーション部分圏です。
- 圏 $`\cat{C}`$ のすべての恒等射達からなる部分圏
- 包含的圏 $`(\cat{C}, \cat{C}^\mrm{incl})`$ の包含射達の部分圏 $`\cat{C}^\mrm{Incl}`$
$`\cat{C}`$ の選択的ファイブレーション部分圏 $`\cat{F}`$ があると、左脚が $`\cat{F}`$ の射であるスパン達の圏を構成できます。スパンの圏の結合は、任意のプルバック四角形を使うのではなくて、選択された(上手に選ばれた)プルバック四角形により定義します。そのようにして作られたスパンの圏は、ファイブレーションから定義されたスパンの圏より使いやすいこともあります。
選択的ファイブレーション部分圏の主たる(当面の)用途はスパンの圏を作るときの素材としてです。