以下の3つの過去記事達を通して、Diag構成の概念はだいぶ整理・単純化されました。
2025年初頭における、Diag構成の定式化についてまとめます。$`
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\mbf}[1]{ \mathbf{#1} }
\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
\newcommand{\msc}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\o}[1]{ \overline{#1} }
%\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} }
\newcommand{\id}{ \mathrm{id} }
\newcommand{\In}{ \text{ in }}
%\newcommand{\On}{ \text{ on }}
%\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow }
%\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
%\newcommand{\op}{ \mathrm{op}}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
\newcommand{\fto}{\mathrel{\circ\!\!\to} } % faithful to
\newcommand{\Conc}{\mathrel{\circ\!\subseteq} } % concrete over
`$
内容:
コスパンとしての“Diag構成のセットアップ”
「Diag構成のメタレベル」で述べたように、メタレベル $`k`$ の“Diag構成のセットアップ”という構造は、$`(k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}`$ 内のコスパンです。
$`\quad \xymatrix{
\cdot \ar[dr]
&{}
&\cdot \ar[dl]
\\
{}
&\cdot
&{}
}\\
\quad \In (k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}
`$
コスパンという構造の構成素役割り名は、スパンの構成素役割り名に機械的に「余」を付けます。
- 左上のドットは、コスパンの左余足〈left cofoot〉
- 右上のドットは、コスパンの右余足〈right cofoot〉
- 下のドットは、コスパンの余ボディ〈cobody〉
- 左側のアローは、コスパンの左余脚〈left coleg〉
- 右側のアローは、コスパンの右余脚〈right coleg〉
“Diag構成のセットアップ”という構造を語る文脈では、別な構成素役割り名が使われます。
- 左上のドットは、“Diag構成のセットアップ”の形状達のドクトリン〈doctrine of shapes〉
- 右上のドットは、“Diag構成のセットアップ”のターゲット達のドクトリン〈doctrine of targets〉
- 下のドットは、“Diag構成のセットアップ”のアンビエント・ドクトリン〈ambient doctrine〉
- 左側のアローは、“Diag構成のセットアップ”の形状編入関手〈shape incorporation functor〉
- 右側のアローは、“Diag構成のセットアップ”のターゲット編入関手〈target incorporation functor〉
呼び名がどうであっても、$`(k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}`$ 内のコスパンであるという事実は変わりません。呼び名ではなくて事実が問題です(「リントンの定理: 概要、実例、注意事項 // 注意事項への注意事項」も参照)。
では、Diag構成のセットアップは単なるコスパンか? と言うと、コスパンに条件が付きます。その条件とは、アンビエント・ドクトリン(コスパンの余ボディ)が $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ 上に具象的〈concrete over $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$〉という条件です。つまり、メタレベルが $`k`$ である“Diag構成のセットアップ”とは:
- 余ボディが $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ 上に具象的である、$`(k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}`$ 内のコスパン
です。
具象性の条件について次節で述べます。
具象n-圏
1-圏の場合、具象1-圏〈concrete 1-category〉とは、集合圏〈集合達の圏〉への忠実関手を備えた圏です。記号の乱用により、具象1-圏を次のように書きます。
$`\quad \cat{C} = (\cat{C}, \mrm{U}_{\cat{C}})\\
\quad \text{where }\: \mrm{U}_{\cat{C}} : \cat{C} \to \mbf{Set}\text{ faithful }\In \mbf{CAT}
`$
忠実関手〈faithful functor〉とは、関手の射パートのホムセットへの制限(ホムパート)達がすべて単射である関手です。
$`\cat{C}`$ が具象1-圏であるとき、$`\cat{C}`$ の対象と射は次の解釈を許します。
- $`\cat{C}`$ の対象は、“構造付き集合〈set with structure〉”である。
- $`\cat{C}`$ の射は、“構造を保つ写像〈structure preserving map〉”である。
具象圏が備えている忠実関手は忘却関手と解釈できます。
- $`\mrm{U}_{\cat{C}}`$ は“構造付き集合”の構造を忘れて、台集合を対応させる関手である。
具象n-圏〈concrete n-category〉は、(n -1)-圏達のn-圏 $`(n -1)\mbf{Cat}_{\#(n - 1)}`$ への忠実n-関手を備えたn-圏と定義すればいいでしょう。問題は、忠実n-関手の定義が(僕は)よく分からないことです。かっこよくて説得力がある定義が思いつきません。
かっこ悪くて説得力があまりない定義ですが、圏の次元 n に関して帰納的に忠実n-関手〈faithful n-functor〉を定義します。
- 忠実0-関手とは、集合のあいだの単射である。
- 忠実n-関手とは、そのホムパートが、忠実(n -1)-関手となるn-関手である。
忠実n-関手を、特殊な矢印 $`\fto`$ で表すことにします。n-圏 $`\cat{K}`$ が具象性を定義する忠実関手を持てることは次のように書けます。
$`\quad
\exists U.\, U : \cat{K} \fto (n - 1)\mbf{Cat}_{\#{n - 1} } \In n\mbf{Cat}_{\#n}
`$
n = 1 なら次のようです。
$`\quad
\exists U.\, U : \cat{C} \fto \mbf{Set} \In \mbf{CAT}
`$
「$`\cat{K}`$ が具象n-圏」と言った場合、次の2つの解釈があります。
- 上記のように、具象性を定義する忠実関手を持てる〈忠実関手が存在する〉。
- $`\cat{K}`$ と、具象性を定義する忠実関手 $`U`$ をひとつ特定したペア $`(\cat{K},U)`$ を、記号の乱用で $`\cat{K}`$ と書いている。
ここでは、「具象n-圏」をニ番目の意味で使うことにします。
図式としての“Diag構成のセットアップ”
「Diag構成のメタレベル」で述べたように、“Diag構成のセットアップ”(という構造)のメタレベル(と呼ぶ自然数値)は、重要な分類基準です。メタレベルが変わると、議論の様相がガラッと変わります。
既に述べたように、メタレベルが $`k`$ である“Diag構成のセットアップ”とは、次のような構造です。
- 余ボディが $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ 上に具象的である、$`(k + 1)\mbf{Cat}_{\#{k + 1}}`$ 内のコスパン
これを図示すると次のようです。
$`\quad \xymatrix {
\cdot \ar[dr]
&{}
&\cdot \ar[dl]
\\
{}
&\cdot \ar@{o->}[d]
&{}
\\
{}
&{k\mbf{Cat}_{\#k}}
&{}
}\\
\quad \In (k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}
`$
これは、素朴な意味で、ターゲット $`(k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}`$ 内に描かれた“図式”です。図式の“形状”は次の有向グラフ〈ドット&アロー図〉です。
$`\quad \xymatrix {
\cdot \ar[dr]
&{}
&\cdot \ar[dl]
\\
{}
&\cdot \ar[d]
&{}
\\
{}
&\cdot
&{}
}
`$
形状(である有効グラフ)の頂点のひとつの行き先は $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ に固定されており、辺〈矢印〉のひとつの行き先には条件(忠実であるべし)が付いています。残りの頂点〈ドット〉と辺〈アロー〉は、自由に行き先を決めてかまいません。
極めて一般化された“図式”という概念(「Diag構成のメタレベル」参照)を定義するための定義デバイス〈defining device | device for defining〉である“Diag構成のセットアップ”が、素朴な図式により定義されます。
構造と構成素の書き方
“Diag構成のセットアップ”を表す変数〈一般名〉としては、筆記体のラテン大文字 $`\msc{A}, \msc{B}`$ などを使うことにします。個別特定の“Diag構成のセットアップ”を表す固有名にサンセリフ体の名前を使います。例えば、メタレベルが 1 である自明なセットアップ(後述)は $`\msf{M1Triv}`$ という固有名で名指します。
「Diag構成のメタレベル」で約束したように、構造(図式として表現できる)の構成素役割り名はボールド体の名前とします(固有名と区別しにくいという問題はあるけど)。$`\msc{A}`$ という“Diag構成のセットアップ”の、構成素役割り名 '$`\mbf{Targ}`$' で識別される構成素は $`{^\msc{A} \mbf{Targ}}`$ と書くことにします。右上下添字は他の目的に使うことがあるので、あまり使わない左上に“Diag構成のセットアップ”を記入します。
個別特定な“Diag構成のセットアップ”として、メタレベルが 1 である自明な“Diag構成のセットアップ” $`\msf{M1Triv}`$ を定義しましょう。構成素役割り名(単なる記号的存在)それぞれに、実際のモノ〈セマンティックな存在物〉を割り当てます。
- $`\mbf{Shape}\mapsto \mbf{CAT}`$ (コスパンの左余足への割り当て)
- $`\mbf{Targ}\mapsto \mbf{CAT}`$ (コスパンの右余足への割り当て)
- $`\mbf{Amb}\mapsto \mbf{CAT}`$ (コスパンの余ボディへの割り当て)
- $`\mrm{J}\mapsto \mrm{Id}_\mbf{CAT}`$ (コスパンの左余脚への割り当て)
- $`\mrm{K}\mapsto \mrm{Id}_\mbf{CAT}`$ (コスパンの右余脚への割り当て)
- $`\mrm{U}\mapsto \mrm{Id}_\mbf{CAT}`$ (余ボディの具象性を表す矢印への忠実関手の割り当て)
これらの割り当ては(素朴な意味の)図式を定義して、それは次のように描けます。
$`\quad \xymatrix {
\mbf{CAT} \ar[dr]_{\mrm{ID}_\mbf{CAT}}
&{}
&\mbf{CAT} \ar[dl]^{\mrm{ID}_\mbf{CAT}}
\\
{}
&\mbf{CAT} \ar@{o->}[d]^{\mrm{ID}_\mbf{CAT}}
&{}
\\
{}
&\mbf{CAT}
&{}
}\\
\quad \In 2\mbb{CAT}
`$
こうして定義された個別特定な“Diag構成のセットアップ”が $`\msf{M1Triv}`$ なので:
- $`{^\msf{M1Triv} \mbf{Shape}} = \mbf{CAT}`$ (コスパンの左余足の値)
- $`{^\msf{M1Triv} \mbf{Targ} } = \mbf{CAT}`$ (コスパンの右余足の値)
- $`{^\msf{M1Triv} \mbf{Amb}} = \mbf{CAT}`$ (コスパンの余ボディへの値)
- $`{^\msf{M1Triv} \mrm{J}} = \mrm{Id}_\mbf{CAT}`$ (コスパンの左余脚の値)
- $`{^\msf{M1Triv} \mrm{K} } = \mrm{Id}_\mbf{CAT}`$ (コスパンの右余脚の値)
- $`{^\msf{M1Triv} \mrm{U} } = \mrm{Id}_\mbf{CAT}`$ (余ボディの具象性を表す矢印の値)
$`{^\msf{M1Triv} \mbf{Shape}}`$ は、好みによって次のように書いてもかまいません(「構造とその素材の書き表し方」参照)。
- $`\mbf{Shape}_{\msf{M1Triv} }`$
- $`\msf{M1Triv}_{\mbf{Shape}}`$
- $`\mbf{Shape}( \msf{M1Triv} )`$
- $`\msf{M1Triv}( \mbf{Shape} )`$
- $`\msf{M1Triv}.\mbf{Shape}`$
- $`\msf{M1Triv}[ \mbf{Shape} ]`$
一般名と固有名、構造を指す名前と構成素役割り名の区別が出来ている(「射影、入射、セクション、レトラクション // 何の名前?」参照))なら、具体的な書き方はどうでもいいです。
Diag構成はホム二項n-関手
Diag構成は、“Diag構成のセットアップ”のもとで、図式達の空間〈space of diagrams〉達*1を系統的に作り出す手法です。その実体は、アンビエント・ドクトリンのホム二項n-関手です。このことを説明します。
$`\msc{A}`$ が、メタレベル $`k`$ の“Diag構成のセットアップ”であるとき、Diag構成〈Diag construction〉と呼ばれる二項n-関手〈双n-関手〉が定義できます。
$`\quad {^\msc{A}\mrm{Diag}} : {^\msc{A} \mbf{Shape}} \times {^\msc{A} \mbf{Targ}} \to k\mbf{Cat}_{\#k} \In (k + 1)\mbf{Cat}_{\#(k + 1)}`$
形状 $`\Sigma`$ とターゲット $`X`$ に対するDiag構成の“値”は次のようになります。
$`\text{For }\Sigma \in | {^\msc{A} \mbf{Shape}}|, X\in |{^\msc{A} \mbf{Targ}}|\\
\quad {^\msc{A} \mrm{Diag}}[\Sigma](X) :=
{^\msc{A} \mbf{Amb}}( {^\msc{A}\mrm{J}}(\Sigma), {^\msc{A}\mrm{K}}(X) ) \; \in |k\mbf{Cat}_{\#k}|
`$
$`\msc{A}`$ のアンビエント・ドクトリン $`{^\msc{A} \mbf{Amb}}`$ は $`(k + 1)`$-圏なので、そのホム空間は $`k`$-圏になります。つまり、メタレベル $`k`$ のDiag構成の図式空間は$`k`$-圏です。特に、メタレベル $`1`$ のDiag構成の図式空間は$`1`$-圏です。
多くのケースで、アンビエント・ドクトリン $`{^\msc{A} \mbf{Amb}}`$ は内部ホム〈internal hom〉を持ちます。内部ホムを使ったDiag構成の定義は次のようになります。ブラケットが内部ホムです。
$`\text{For }\Sigma \in | {^\msc{A} \mbf{Shape}}|, X\in |{^\msc{A} \mbf{Targ}}|\\
\quad {^\msc{A} \mrm{Diag}}[\Sigma](X) :=
[ {^\msc{A}\mrm{J}}(\Sigma), {^\msc{A}\mrm{K}}(X) ]_{^\msc{A} \mbf{Amb}} \; \in |{^\msc{A} \mbf{Amb}}|
`$
この場合、Diag構成の図式空間はアンビエント・ドクトリンの対象になります。
「Diag構成のメタレベル」より:
Diag構成の図式空間は、アンビエント・ドクトリンのホム空間のことです。Diag構成はホム空間しか使ってません。ホム空間が驚くほど多様で豊かな構造を持つ、ってことなんでしょう。
Diag構成は、編入関手により変形されたホム二項n-関手(または内部ホム二項n-関手)です。
*1:用語「空間」の使い方については「変換手意味論とブラケット記法 // 「空間」という言葉」参照。