リントンの定理(「リントンの定理: 概要、実例、注意事項」参照)は、ローヴェアの代数セオリーの理論〈theory of algebraic theories〉/関手意味論〈functorial semantics〉の基盤の上に定式化されるものです。
さらに、ローヴェアの代数セオリーの理論/関手意味論の下部構造としてDiag構成が使えます。Diag構成に関しては「Diag構成: 圏論的構成法の包括的フレームワークとして」で述べていて、当該過去記事が他の関連記事へのリンク集(ハブ記事)にもなっています。
過去記事「曖昧性を減らす: Diag構成を事例として」はDiag構成再論です。この記事でDiag構成について三たび論じます。大規模複雑な構造なので記述に困難が伴いますが、最近の記事「圏論に関する呼び名と言い回し」の方針に従い、出来るだけ誤認・誤解・混乱が少なくなるスタイルで説明します。
概念・用語・記法の整理だけでなくて、Diag構成のメタレベルという新しい概念を導入します。メタレベルは、Diag構成の分類に役立ちます。マイクロコスモ原理/スノーグローブ現象(「マイクロコスモ原理の恐怖」参照)へのアプローチにも、Diag構成のメタレベルが有効そうです。$`
\newcommand{\cat}[1]{ \mathcal{#1} }
\newcommand{\mbf}[1]{ \mathbf{#1} }
\newcommand{\mrm}[1]{ \mathrm{#1} }
%\newcommand{\msf}[1]{\mathsf{#1}}
\newcommand{\mbb}[1]{\mathbb{#1}}
\newcommand{\o}[1]{ \overline{#1} }
%\newcommand{\u}[1]{ \underline{#1} }
\newcommand{\id}{ \mathrm{id} }
\newcommand{\In}{ \text{ in }}
%\newcommand{\On}{ \text{ on }}
%\newcommand{\Iff}{ \Leftrightarrow }
%\newcommand{\Imp}{ \Rightarrow }
%\newcommand{\op}{ \mathrm{op}}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
%\newcommand{\twoto}{\Rightarrow }
`$
内容:
Diag構成とその構成素
Diag構成という概念自体は、「Diag構成: 圏論的構成法の包括的フレームワークとして」、「曖昧性を減らす: Diag構成を事例として」で述べた定義から変えるわけではありません。用語法・記法を整理した上で、メタレベルという新しい概念を導入します。
Diag構成(に必要な構造)を構成する構成素は次のものです(これ以外に後述の編入関手があります)。
- アンビエント・ドクトリン
- ターゲット・ドクトリン
- 形状ドクトリン
これは過去記事の用語ですが、「ドクトリン」は既に「曖昧性を減らす: Diag構成を事例として」から使っています -- 使い続けます。これらのドクトリン達を、「圏論に関する呼び名と言い回し」に従い次のように言い換えます。
- アンビエント・ドクトリン〈ambient doctrine〉
- 形状達のドクトリン〈doctrine of shapes〉
- ターゲット達のドクトリン〈doctrine of targets〉
構成素を表す文字種/フォントのルールを以前とは変えて、次のように約束します。
- アンビエント・ドクトリン $`\mbf{Amb}`$
- 形状達のドクトリン $`\mbf{Shape}`$
- ターゲット達のドクトリン $`\mbf{Targ}`$
太字〈ボールド体〉ですが、固有名ではなくて役割名です(「射影、入射、セクション、レトラクション // 何の名前?」参照))。
3つのドクトリン以外に、2つの編入関手があります。
- 形状編入関手〈shape incorporation functor〉 $`\mrm{J} : \mbf{Shape} \to \mbf{Amb}`$
- ターゲット編入関手〈target incorporation functor〉 $`\mrm{K} : \mbf{Targ} \to \mbf{Amb}`$
編入関手は特に条件を付けずに単なる関手(場合により高次関手)とします。「編入」に特段の意味はない、ということです。
これら、3つのドクトリンと2つの編入関手を、「曖昧性を減らす: Diag構成を事例として」ではDiag構成のセットアップ〈setup for Diag construction | Diag construction setup〉と呼んでいます(過去記事では、ターゲット編入関手に条件を付けてますが)。ここでもそう呼びます。
Diag構成のセットアップ(という構造)をまとめて図示すると次のようなコスパンになります。
$`\quad \xymatrix{
\mbf{Shape} \ar[dr]_{\mrm{J}}
&{}
&\mbf{Targ} \ar[dl]^{\mrm{K}}
\\
{}
& \mbf{Amb}
&{}
}`$
このコスパンが描かれている“場所”(構成素達の居住地〈生息地〉)は、Diag構成のセットアップごとに違います。
圏論的世界とメタレベル
Diag構成のメタレベルは、アンビエント・ドクトリンのメタレベルで決まります。まず最初に、圏論的世界の骨組みであるグリッドのなかのメタレベルを考えます。
以下は、「曖昧性を減らす: Diag構成を事例として // 世界の構造」に載せた表を少しだけ変えたものです。
| $`r = 0 `$ | $`r = 1`$ | $`r = 2`$ | |
| $`\mbf{Univ}`$ | $`\mbf{UNIV}`$ | $`\mbb{UNIV}`$ | |
| $`n = 0`$ | $`\mbf{Set}`$ | $`\mbf{SET}`$ | $`\mbb{SET}`$ |
| $`n = 1`$ | $`\mbf{Cat}`$ | $`\mbf{CAT}`$ | $`\mbb{CAT}`$ |
| $`n = 2`$ | $`2\mbf{Cat}`$ | $`2\mbf{CAT}`$ | $`2\mbb{CAT}`$ |
横方向は、宇宙/圏のサイズレベル〈size level〉で縦方向は圏の次元〈dimension〉です。一般に、サイズレベルが $`r`$ で次元が $`n`$ である高次圏達の $`(n + 1)`$-圏を $`n\mbf{Cat}_{\#r}`$ と書きます(そう約束する)。上の表では、文字種/フォントを変えて表しています。
サイズレベル 0 をどう決めるかは人により基準が違います。ここでは、自然数達の集合を含む最小のグロタンディーク宇宙のサイズを 0 とします。上の表の $`\mbf{Univ}`$ がサイズレベル 0 のグロタンディーク宇宙です。$`|\mbf{Set}| = \mbf{Univ}`$ です。
さて、圏論的世界のグリッドの対角線*1をたどっていきます。
$`\quad 0\mbf{Cat}_{\#0},\;1\mbf{Cat}_{\#1},\;2\mbf{Cat}_{\#2},\;3\mbf{Cat}_{\#3},\; \cdots`$
最初の3つだけを文字種/フォントを変えて表すなら:
$`\quad \mbf{Set},\; \mbf{CAT},\; 2\mbb{CAT}`$
グリッドの対角線では、サイズレベルと次元が一致します。この共通の値 $`k`$ を $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ のメタレベル〈metalevel〉と呼びます。
$`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ ではない高次圏にもメタレベルを定義します。ただし、任意の高次圏にメタレベルが定義できるわけではありません。$`\cat{K}`$ が $`(k + 1)`$-圏で、$`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ への忠実関手を持つとき、(その忠実関手とともに)$`\cat{K}`$ を具象高次圏〈concrete higher category〉と呼びます。忠実関手の概念は高次圏〈n-圏〉のあいだの高次関手〈n-関手〉に一般化する必要はあります。$`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ 上の具象高次圏のメタレベルは $`k`$ と定義します。
Diag構成のセットアップのメタレベルは、アンビエント・ドクトリンのメタレベルです。メタレベルが決まるためには、アンビエント・ドクトリンが $`k\mbf{Cat}_{\#k}`$ 上の具象高次圏である必要があるので、そのことはDiag構成のセットアップの条件として要請します。
アンビエント・ドクトリンとなるための資格条件については、もう少し一般化する必要があるかも知れません。単純な具象性では狭すぎるでしょう。が、今はとりあえず、上で述べた単純な具象性をアンビエント・ドクトリンの条件とします。
メタレベル 0 のDiag構成のセットアップ
Diag構成のセットアップのメタレベルが 0 なら、アンビエント・ドクトリン $`\mbf{Amb}`$ は $`0\mbf{Cat}_{\#0}`$ 上の具象1-圏です。これは、$`\mbf{Amb}`$ が $`\mbf{Set}`$ 上の具象圏であることです。この状況のDiag構成のセットアップを図示すると次のようになります。
$`\quad \xymatrix{
\mbf{Shape} \ar[dr]_{\mrm{J}}
&{}
&\mbf{Targ} \ar[dl]^{\mrm{K}}
\\
{}
& \mbf{Amb} \ar[d]^{\mrm{U}}
&{}
\\
{}
& \mbf{Set}
&{}
}\\
\quad \In\mbf{CAT}
`$
ここで、$`\mrm{U}`$ は具象圏の構造を定義する忠実関手です。なんらかの忘却関手と考えられるので $`\mrm{U}`$ と書いています。
形状達のドクトリン $`\mbf{Shape}`$ もターゲット達のドクトリン $`\mbf{Targ}`$ も圏〈1-圏〉になります。このDiag構成のセットアップにおける図式達の空間〈space of diagrams〉*2は次のようになります。
$`\text{For }\Sigma \in |\mbf{Shape}|, X \in |\mbf{Targ}|\\
\quad \mrm{Diag}[\Sigma](X) := \mbf{Amb}(\mrm{J}(\Sigma), \mrm{K}(X) ) \; \in |\mbf{Set}|
`$
単純な例として $`\mbf{Amb} = \mbf{Shape} = \mbf{Targ} = \mbf{Set}`$ として、形状編入関手もターゲット編入関手も恒等関手とすると、$`\mrm{Diag}[\Sigma](X)`$ は単なる関数空間〈関数集合〉 $`\mbf{Set}(\Sigma, X)`$ です。$`X = \mbf{B}`$ (ブーリアン)と置くと、$`\mbf{Set}(\Sigma, \mbf{B})`$ は述語達の集合となります。つまり、この事例の図式とは述語です。図式空間は述語達の集合〈0-圏〉です。
メタレベル 1 のDiag構成のセットアップ
Diag構成のセットアップのメタレベルが 1 なら、アンビエント・ドクトリン $`\mbf{Amb}`$ は $`1\mbf{Cat}_{\#1}`$ 上の具象2-圏です。これは、$`\mbf{Amb}`$ が $`\mbf{CAT}`$ 上の具象2-圏であることです。この状況のDiag構成のセットアップを図示すると次のようになります。
$`\quad \xymatrix{
\mbf{Shape} \ar[dr]_{\mrm{J}}
&{}
&\mbf{Targ} \ar[dl]^{\mrm{K}}
\\
{}
& \mbf{Amb} \ar[d]^{\mrm{U}}
&{}
\\
{}
& \mbf{CAT}
&{}
}\\
\quad \In 2\mbb{CAT}
`$
ここで、$`\mrm{U}`$ は具象2-圏の構造を定義する忠実2-関手です。忠実2-関手は、ホム圏ごとに忠実関手になるような2-関手として定義できます。
形状達のドクトリン $`\mbf{Shape}`$ もターゲット達のドクトリン $`\mbf{Targ}`$ も2-圏になります。このDiag構成のセットアップにおける図式達の空間は次のようになります。
$`\text{For }\Sigma \in |\mbf{Shape}|, X \in |\mbf{Targ}|\\
\quad \mrm{Diag}[\Sigma](X) := \mbf{Amb}(\mrm{J}(\Sigma), \mrm{K}(X) ) \; \in |\mbf{CAT}|
`$
単純な例として $`\mbf{Amb} = \mbf{Shape} = \mbf{Targ} = \mbf{CAT}`$ として、形状編入関手もターゲット編入関手も恒等2-関手とすると、$`\mrm{Diag}[\Sigma](X)`$ は単なる関手圏 $`\mbf{CAT}(\Sigma, X)`$ となります。$`\Sigma`$ を小さい圏、$`X = \mbf{Set}`$ と置くと、$`\mbf{CAT}(\Sigma, \mbf{Set})`$ は余前層達の圏となります。つまり、この事例の図式とは余前層です。図式空間は余前層達の圏〈1-圏〉です。
メタレベル 2 のDiag構成のセットアップ
Diag構成のセットアップのメタレベルが 2 なら、アンビエント・ドクトリン $`\mbf{Amb}`$ は $`2\mbf{Cat}_{\#2}`$ 上の具象2-圏です。これは、$`\mbf{Amb}`$ が $`2\mbb{CAT}`$ 上の具象3-圏であることです。この状況のDiag構成のセットアップを図示すると次のようになります。フォントを変える代わりに上線を引いています。
$`\quad \xymatrix{
\mbf{Shape} \ar[dr]_{\mrm{J}}
&{}
&\mbf{Targ} \ar[dl]^{\mrm{K}}
\\
{}
& \mbf{Amb} \ar[d]^{\mrm{U}}
&{}
\\
{}
& 2\mbb{CAT}
&{}
}\\
\quad \In 3\o{\mbb{CAT}}
`$
ここで、$`\mrm{U}`$ は具象3-圏の構造を定義する忠実3-関手です。忠実3-関手は、おそらく、ホム2-圏ごとに忠実2-関手になるような3-関手として定義すればいいのでしょう。
形状達のドクトリン $`\mbf{Shape}`$ もターゲット達のドクトリン $`\mbf{Targ}`$ も3-圏になります。このDiag構成のセットアップにおける図式達の空間は次のようになります。
$`\text{For }\Sigma \in |\mbf{Shape}|, X \in |\mbf{Targ}|\\
\quad \mrm{Diag}[\Sigma](X) := \mbf{Amb}(\mrm{J}(\Sigma), \mrm{K}(X) ) \; \in |2\mbb{CAT}|
`$
単純な例として $`\mbf{Amb} = \mbf{Shape} = \mbf{Targ} = 2\mbb{CAT}`$ として、形状編入関手もターゲット編入関手も恒等3-関手とすると、$`\mrm{Diag}[\Sigma](X)`$ は単なる変換手2-圏 $`2\mbb{CAT}(\Sigma, X)`$ となります。$`\Sigma`$ を小さい圏(を2-圏とみなしたもの)、$`X = \mbf{CAT}`$ と置くと、$`2\mbb{CAT}(\Sigma, \mbf{CAT})`$ は余インデックス付き圏達の2-圏となります。つまり、この事例の図式とは余インデックス付き圏です。図式空間は余インデックス圏達の2-圏です。
おわりに
Diag構成は、Diag構成のセットアップのもとで図式空間を定義する手法です。「図式」という呼び名を採用してますが、メタレベル 0 の簡単な(自明な)例では 図式=述語、メタレベル 1 の簡単な例では 図式=余前層、メタレベル 2 の簡単な例では 図式=余インデックス付き圏 でした。メタレベルが違うと、Diag構成で定義される“図式”は様変わりします。同じメタレベルでも、セットアップを変えれば様々な“図式”を定義できます。
Diag構成の図式空間は、アンビエント・ドクトリンのホム空間のことです。Diag構成はホム空間しか使ってません。ホム空間が驚くほど多様で豊かな構造を持つ、ってことなんでしょう。
*1:「デカルト・タワーを求めて」で、恐怖の対角線〈fearful diagonal〉と呼んだ対角線です。
*2:用語「空間」の使い方については「変換手意味論とブラケット記法 // 「空間」という言葉」参照。