口頭での説明が不十分だったので、誤解をまねくかも知れない。若干比喩も混じえてテレスコープ構成を説明する。$`\newcommand{\cat}[1]{\mathcal{#1}}
\newcommand{\mbf}[1]{\mathbf{#1}}
\newcommand{\mrm}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\op}{\mathrm{op}}
\newcommand{\hyp}{\text{-} }
\newcommand{\In}{\text{ in }}
\newcommand{\A}[1]{\langle{#1}\rangle } % Angular
`$
イテレーション
「イテレーションを繰り返す」は日本語として奇妙だが、繰り返す作業の1回分を(ソフトウェア開発の習慣に従い)イテレーションと呼ぶ。イテレーションの通し番号は 1 からにする。
- イテレーション1
- イテレーション2
- イテレーション3
- ‥‥
イテレーション内部での手順をサイクルと呼ぶ。サイクルは堂々巡りでなくて、1イテレーションで1段階の進捗があるので、全体として螺旋状に作業が進行していく。

テレスコープ構成のイテレーション内のサイクルは:
- 入力(2つの圏)を受け取る。
- 前層をひとつ作る(あるいは選ぶ)。
- その前層にグロタンディーク構成を施す。
- できた圏(ファイブレーションのトータル圏)を成果物とする。
ここでの前層は“広義の前層”で、ターゲット圏は集合圏でなくてもいいし、共変関手でもいい。
イテレーションへの入力は2つの圏であり、イテレーションの出力(成果物)も圏である。入出力も明示してサイクル手順を再度書くと:
- ソース圏 $`\cat{C}`$ とターゲット圏 $`\mathbb{V}`$ が与えられる。
- 前層 $`P : \cat{C}^\op \to \mathbb{V}`$ を作る。
- グロタンディーク構成により、$`\int P`$ を作る。
- 圏 $`\cat{C'} := \int P`$ を成果物とする。
次のイテレーションでは、圏 $`\cat{C'}`$ が入力となる。それとは別に、ターゲット圏 $`\mathbb{V'}`$ も与えて次のイテレーションを開始する。
上記の(サイクルの)手順がすべて揃ったイテレーションを仮に完全イテレーションと呼ぶことにして、グロタンディーク構成をせずに、前層を成果物とするときは不完全イテレーション。最後のイテレーションだけは不完全イテレーションが許されるが、最後のイテレーションが完全イテレーションでもかまわない。
つまり、テレスコープ構成全体の成果物は、前層でも圏でもOK。型理論では、最後は不完全イテレーション、代数では最後も完全イテレーションが多い。
混乱ポイント
次の二点が混乱の原因になるだろう。
- すべてのイテレーション(のサイクル内で)、関手圏から対象を選ぶ(関手を作る)操作がある。
- 最後のイテレーション(第nイテレーション)では、グロタンディーク構成はしなくてもよい。そのときは、関手を成果物とする。
特に n = 2 のとき、第2イテレーションでグロタンディーク構成はしないなら、関手を選んで(作って)終わり。
依存型理論では、シグマ型を繰り返し適用するのは普通なので、任意の長さのテレスコープ前層が自然に出てくるが、組み合わせ幾何の文脈では、「(1)組み合わせ構造の定義 (2)幾何構造や線形代数的構造の付加」の二段階で終わってしまう場合がほとんどのようで、脚注より:
長さ 2 だけなら、テレスコープ前層を持ち出すのはオーバーキルだったかも知れません。
長さ2の具体例
イテレーション1:
ソース圏は以下の圏。
$`\quad \xymatrix{
0 \ar@/^1pc/[r]^\sigma \ar@/_1pc/[r]_\tau
&1
}`$
$`\mbf{graph}`$ と置く。
関手圏 $`\mbf{Graph} := [\mbf{graph}^\op, \mbf{Set}]`$ を考える。関手圏 $`\mbf{Graph}`$ から選ぶ対象(関手)は次の有向グラフとする。
$`\quad \xymatrix{
A \ar@/^1pc/[r]^a \ar@/_1pc/[r]_b
&B
}`$
事実上 $`\mathbf{graph}`$ と同じで confusing だが、上記グラフの固有名を $`\mbf{G}`$ とする。(イジワルな例だ。)
$`\quad \mbf{G}: \mbf{graph}^\op \to \mbf{Set}\In \mbf{Cat}`$
$`\quad \mbf{G}(0):=\{A, B\}\\
\quad \mbf{G}(1):=\{a, b\}\\
\quad \mbf{G}(\sigma): G(1) \to G(0) \In \mbf{Set}\\
\quad \mbf{G}(\tau): G(1) \to G(0) \In \mbf{Set}
`$
グロタンディーク構成は $`\mbf{P} := \int \mbf{G}`$ 。ファイブレーションは
$`\quad \pi : \mbf{P} \to \mbf{graph} \In \mbf{CAT}`$
$`\mbf{P} , \mbf{graph}`$ は共に有限圏だから、具体的な絵を描ける。
イテレーション1の成果物は以下の図の $`\mbf{P}`$ 、記号は「半単体集合〈単体的有向高次グラフ〉のグロタンディーク構成」参照。
$`\mbf{P}\\
\quad \xymatrix{
{}
&{(0\mid A)}
&{}
\\
{(1\mid a)} \ar[ru]^{\A{A, a, \sigma}} \ar[rd]_{\A{B, a, \tau}}
&{}
&{(1\mid b)} \ar[lu]_{\A{A, b, \sigma}} \ar[ld]^{\A{B, b, \tau} }
\\
{}
&{(0\mid B)}
&{}
}`$
もっと直感的・簡潔に描けば:
$`\mbf{P}\\
\quad \xymatrix{
{}
&{A}
&{}
\\
{a} \ar@{|->}[ru]^{\mrm{src}} \ar@{|->}[rd]_{\mrm{trg} }
&{}
&{b} \ar@{|->}[lu]_{\mrm{src} } \ar@{|->}[ld]^{\mrm{trg} }
\\
{}
&{B}
&{}
}`$
イテレーション2(不完全)
ソース圏は $`\mbf{P}`$ 、ターゲット圏は $`\mbf{Set}`$ 。
共変関手圏 $`[\mbf{P}, \mbf{Set}]`$ を作る。関手圏の対象は、グラフ $`\mbf{P}`$ の頂点と辺への集合割り当てと、$`\mrm{src}, \mrm{trg}`$ への写像割り当て。
関手 $`\mbf{F}`$ (固有名)を定義する。
$`\quad \mbf{F} : \mbf{P} \to \mbf{Set} \In \mbf{CAT}`$
$`
\quad \mbf{F}( (0\mid A) ) = \mbf{F}(A) := \mbf{Z}\\
\quad \mbf{F}( (0\mid B) ) = \mbf{F}(B) := \mbf{Z}\\
\quad \mbf{F}( (1\mid a) ) = \mbf{F}(a) := \mbf{Z}^2\\
\quad \mbf{F}( (1\mid a) ) = \mbf{F}(a) := \mbf{Z}^2\\
\quad \mbf{F}(\A{A, a, \sigma}) = \mbf{F}(\mrm{src}@a) =
\lambda\,(n, m).m : \mbf{Z}^2 \to \mbf{Z} \In \mbf{Set}\\
\quad \mbf{F}(\A{A, b, \sigma}) = \mbf{F}(\mrm{src}@b) =
\lambda\,(n, m).m : \mbf{Z}^2 \to \mbf{Z} \In \mbf{Set} \\
\quad \mbf{F}(\A{B, a, \tau}) = \mbf{F}(\mrm{trg}@a) =
\lambda\,(n, m).n + m : \mbf{Z}^2 \to \mbf{Z} \In \mbf{Set}\\
\quad \mbf{F}(\A{B, b, \tau}) = \mbf{F}(\mrm{trg}@b) =
\lambda\,(n, m).n + m : \mbf{Z}^2 \to \mbf{Z} \In \mbf{Set}
`$
$`[\mbf{P}, \mbf{F}]`$ は長さ 2 のテレスコープ前層になる。
代数からの例
前節は小さい圏の例だが、大きい圏の例。似た例が「事例: 加群に至るファイバー付き圏の系列」にある。
イテレーション1
- 入力: 体の圏 $`\mbf{Field}`$ と圏の圏 $`\mbf{CAT}`$
- 前層: $`\mbf{Rng}[\hyp] : \mbf{Field}^\op \to \mbf{CAT}`$ (圏を値とする反変関手、すぐ下参照)
- グロタンディーク構成: $`\int \mbf{Rng}[\hyp]`$
- 出力: $`\mbf{AllRng} := \int \mbf{Rng}[\hyp]`$
$`\mbf{Rng}[\hyp]`$ は: 体 $`K`$ に、$`K`$ を係数体とする(可換とは限らない)環達の圏を対応させ $`K \mapsto \mbf{Rng}_K`$ 、体の射(実は体の拡大 $`K\hookrightarrow L`$ )にスカラー体を制限する関手 $`\mbf{Rng}_L \to \mbf{Rng}_K`$ を対応させる関手。
圏 $`\mbf{AllRng}`$ の対象は、依存ペア $`(K, A)`$ (体 $`K`$ 上の環 $`A`$)で書ける。
イテレーション2(完全)
- 入力: 環の圏 $`\mbf{AllRng}`$ と圏の圏 $`\mbf{CAT}`$
- 前層: $`\mbf{RMod}[\hyp] : \mbf{AllRng}^\op \to \mbf{CAT}`$ (圏を値とする反変関手、すぐ下参照)
- グロタンディーク構成: $`\int \mbf{RMod}[\hyp]`$
- 出力: $`\mbf{AllRMod} := \int \mbf{RMod}[\hyp]`$
$`\mbf{RMod}[\hyp]`$ は: 環 $`(K, A)`$ に、$`A`$ を係数環とする右加群達の圏を対応させ $`(K, A) \mapsto \mbf{RMod}[K, A]`$ 、環の射に係数環を制限する関手 $`\mbf{RMod}[L, B] \to \mbf{RMod}[K, A]`$ を対応させる関手。
圏 $`\mbf{AllRMod}`$ の対象は、依存トリプル $`(K , A, M)`$ (体 $`K`$ 上の環 $`A`$ 上の右加群 $`M`$)で書ける。