長いこと温めていた個人サイト案がようやく形になりましたので、今後のブログ更新はそちらで行おうと思います。 なお、はてなブログがサービスを継続する限りでは、すでにこちらにある内容を移行先サイトに引き継ぐ予定はありません。
移行先:LICJAR.XYZ
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No, this is not about the safety of trans people in the United States, or about the peace and security of Europe, or abortion rights, democracy, freedom, this is about none of that. Individual tragedies weren't the question all along, if they were, I would have killed myself a long ago.
For good or for worse, it's been much simpler than that. Be kind, be respectful, be sincere. That was the bar. I believed at least a portion of them was worth struggling for, or else I would have no reason to still keep motivating myself for anything.
So stop that shit about how we should try to understand, we should have handled better, should, should, there isn't any should anymore beyond this! They can use racial slurs and openly insult a section of their own citizen and spread the most obvious misinformation and literally be convicted dozens of times and still get away with it and people WILL give him the single most powerful seat in this world. Don't you see that? It doesn't matter! I don't want to hear any explanations. People just do not care about even the most basic forms of decency, and no interpretation is going to change that.
学費値上げ反対運動が一番燃え上がっていた頃には運動体のあり方について数々の意見をもらい内部でも日夜方針を議論したが、全員が馬鹿野郎だ。明らかに、政治運動の誠実さや品の良さはその成否と関係がない。
Can you just let me peacefully opt-out of this mess already? Is that still a difficult thing to ask?
ところで、これは私の Bluesky アカウントです:@licjar.bsky.social on Bluesky 死にたくなったときには Twitter よりずっといい場所です。
大学のプログラミング演習で提出したレポートです。去年のアドベントカレンダーでネタが本当になくなったときに使おうかと思っていましたが、Markdown + KaTeX をはてなマークダウンに変換するのが面倒すぎて没にしていたものです。ふと思い出して自動で変換してくれるスクリプトを探したところ存在したので、勢いのまま公開してしまいます。
次節からはレポートそのままです。
今学期は航空宇宙工学科の「宇宙軌道力学」を履修しているので、その復習も兼ねて、2次元ケプラー問題の円軌道・楕円軌道を様々な方法で数値計算してみることにする。
一般の宇宙機の軌道設計においては、惑星の運動を所与とする近似を行ってもなお惑星間の相対運動によってポテンシャルに時間依存性が生じるため、あまりエレガントな計算法がない。対して、ケプラー問題にはハミルトニアン、角運動量、ルンゲ=レンツ・ベクトルの3つの保存量があり、しかも3つすべてを保存する構造保存解法の存在が知られている。更に、初等的な式変形だけで時刻から位置と速度を求める方程式(ケプラー方程式)を導くことができ、これを数値的に求根することによっても解ける。
このレポートでは、まずハミルトニアンを保存するシンプレクティック・オイラー法による計算を行う。シンプレクティック・オイラー法はルンゲ=レンツ・ベクトルを保存しないため、軌道が閉じないことがあることを見る。その後、より高精度に計算できる方法としてケプラー方程式による方法と、Minesaki-Nakamura [1] によるレヴィ=チヴィタ変換を使った構造保存解法を導入し、それらの挙動を見る。
以下のハミルトニアン $H(q _ 1, q _ 2, p _ 1, p _ 2)$ に従って運動する質点の軌道を問うのがケプラー問題である。簡単のため、質点の質量を1、万有引力定数と中心天体質量の積を $\mu$ とした。
正準方程式は、
となる。
また、角運動量ベクトル ${h}$ とルンゲ=レンツ・ベクトル $P$ は以下の表式で与えられ、それぞれ保存する。
軌道形状が円錐曲線になることはよく知られているが、ケプラー方程式のための準備も兼ねて、ここで証明過程を概観しておく。ハミルトン形式ではなくニュートン方程式で書いたほうが見通しがいい。
$r=\left[q _ 1, q _ 2\right]$ として、ニュートン方程式は以下。
3つの保存量は次のようになる。それぞれニュートン方程式の両辺と $r$ の外積、$\dot{r}$ の内積、$h$ の外積を取れば導出できる。なおエネルギーはハミルトニアン関数ではないという意味を込めて $\varepsilon$ で書いた。
ここで、$P$ と $r$ の内積を取り、両者の間の角度を $\nu$ と置く。
最右辺の第1項はスカラー三重積で、適切に順番を変えれば $h ^ 2$ に等しいと分かる。よって、
これを $|r|$ について解き、$\rho = \frac{h ^ 2}{\mu},\, e=\frac{|P|}{\mu}$ とすれば、よく知られた円錐曲線の極座標表示を得る。
この表示からはルンゲ=レンツ・ベクトルについての直感的解釈が得られる。
$r$ と $P$ が同じ向きを向くとき $\cos{\nu}$ は最大になるので $|r|$ は最小となるが、このことから $P$ の方向は近心点を指していることがわかる。そのため、$\nu$ は真近点角と呼ばれる(後に真でない近点角も登場する)。さらに、$e=\frac{|P|}{\mu}$ であるから、 $P$ の大きさは離心率に比例している。
軌道形状が $h$ と $P$ のみで定まるということは、$h$ と $P$ から $\varepsilon$ を計算できるはずである[† 1]。実際、$P ^ 2$ を計算することで、
という関係式を導ける。
$\tau$ を時間刻み幅として、前節の正準方程式を次のように離散化すると、各ステップ $\left(q _ k ^ {(i)}, p _ k ^ {(i)}\right)$ $→$ $\left(q _ k ^ {(i+1)}, p _ k ^ {(i+1)}\right)$ は正準変換となる。
ハミルトニアンが $H(q, p) = K(p) + U(q)$ と書けるときこのハミルトニアンは可分であると言い、そのとき、このように $q _ k ^ {(i+1)}$ を決めたあとそれを使って $p _ k ^ {(i+1)}$ を決めるような離散化をすると一般に必ず正準変換となる。
正準変換になっているということは、この変換が表す運動があり、そこで保存するハミルトニアン $\tilde{H}$ がある。$\tilde{H}$ は $H$ とは一致しないが、両者のずれは $O(\tau)$ であることが知られている。
$\mu=1$、初期条件 $\left(q _ 1 ^ {(0)}, q _ 2 ^ {(0)}, p _ 1 ^ {(0)}, p _ 2 ^ {(0)}\right)=(1, 0, 0, 1)$ とすると、厳密解は円軌道になる。シンプレクティック・オイラー法は円軌道のときにだけ軌道が閉じる。これは円軌道においてルンゲ=レンツ・ベクトルの大きさが0になるからである。
以下に $\tau=0.001$ で計算した1万ステップ分の軌道とハミルトニアンの時間変化を示す。

2枚目は縦の縮尺が非常に拡大されているため分かりづらくなっているが、ハミルトニアンの振幅は縦軸の上にも書いてあるように $10 ^ {-7}$ 程度である。
円軌道のときと同様、$\mu=1$、$\tau=0.001$ とする。初期条件 $\left(q _ 1 ^ {(0)}, q _ 2 ^ {(0)}, p _ 1 ^ {(0)}, p _ 2 ^ {(0)}\right)=(1, 0, 0, 1)$ のうち $p _ 2 ^ {(0)}$ だけを少しずつ減少させていき近心点を中心天体に近づけると、それにつれて軌道形状の誤差は大きくなっていく。
$p _ 2 ^ {(0)}=0.5, 0.3, 0.18$ の3つの初期条件について3万ステップ分の軌道を以下に示した。ルンゲ=レンツ・ベクトルの図示も試みたが、そもそも軌道全体の誤差が小さい場合にも大きく振動したため、あまり意味がないと判断した。しかし、$p _ 2 ^ {(0)}$ が小さくなるにつれて楕円軌道の向きが少しずつずれていることから、軌道が安定しないという意味でもルンゲ=レンツ・ベクトルが保存していないことは見て取れる。



楕円軌道の長軸半径を $a$ 、短軸半径を $b$ とする。また、楕円 $C$ 上の真近点角 $\nu$ の点 $A$ に対し、$C$ と長軸を共有する円 $C'$ に $A$ を長軸に垂直に投影したときの点 $A'$ を考えて、この点 $A'$ とルンゲ=レンツ・ベクトルとの角度を $E$ と置く。 $E$ を離心近点角と言う。
楕円の幾何学的な性質として、次が成立する。
この2式を微分し、適切な係数をかけてから引き算すると、$r ^ 2\dot{\nu}$ の表現が得られる。$r ^ 2\dot{\nu}$ は角運動量の極座標表示であるので、
を得る。$E$ を左辺に集めて時間 $t$ で積分すると、
これがケプラー方程式である。$t _ p$ は積分定数だが、左辺が 0 になるとき $t=t _ p$ なので、近心点通過時刻であるとわかる。$a$ は軌道形状の極座標表示から $a=\frac{\rho}{1-e ^ 2}$ と計算できて、$h, e, \rho$ はすべて初期条件だけから計算できる保存量だから、ケプラー方程式はこのまま求根できて、時刻 $t$ からその時の離心近点角 $E$ が求まる。
$E$ が求まれば、この節の最初の2式が質点の $q _ 1=|r|\cos{\nu}$ と $q _ 2=|r|\sin{\nu}$ を表しているのだから、その右辺に代入してやれば良い。
$\mu = 1$、$h=0.001$、初期条件 $\left(q _ 1 ^ {(0)}, q _ 2 ^ {(0)}, p _ 1 ^ {(0)}, p _ 2 ^ {(0)}\right)=(1, 0, 0, 0.18)$ で10万ステップ分のケプラー方程式を解いた。軌道形状を解析的に計算した上での数値計算なので軌道が閉じることは自明であり、普通に軌道を図示しても意義が薄いことから、プロットは $|r|$-$t$ グラフとし、シンプレクティック・オイラー法によるプロットに重ねて表示した。求根には Python の SciPy ライブラリの関数 scipy.optimize.newton を使用した。

反復数が多いため分かりづらいが、シンプレクティック・オイラー法の結果は遠心点が少しずつ遠ざかっている。また、位相もケプラー方程式に比べて $t=100$ 近くでは半分くらいずれてしまっている。
この節の記述はほとんど Celletti [2] に基づいている。
まず次の正準変換 $\left(q _ 1, q _ 2\right) → \left(Q _ 1, Q _ 2\right)$ を行う。
倍角公式の形になっているので、これは角度変数を $\nu → \nu/2$ としているのに等しい。こうすると軌道が平らに開かれるので、近心点高度が低ければ低いほど近心点付近での動き方は穏やかになる。また、長さは平方根になっているので、$\sqrt{{q _ 1} ^ 2+{q _ 2} ^ 2}={Q _ 1} ^ 2+{Q _ 2} ^ 2$ である。この値を後の計算のために $D/4$ と置いておく。新しいハミルトニアンは
となる。正準方程式は、
となる。ただし、最後に $H'$ と同じ形が出た部分をエネルギー $\varepsilon$ に置き換えた。
次に原点での特異性を除去するため、正準方程式を形式上で $D$ 倍したい。運動を不変に保つには、時間変数 $t$ を $\mathrm{d}s = (1/D)\mathrm{d}t$ なる $s$ に置き換えればいい。すると、最終的に解くべき正準方程式は次のようになる。
これは角周波数 $\omega = \sqrt{-8\varepsilon}$ の調和振動子である[† 2]。以上がレヴィ=チヴィタ変換である。
[1] によると、この調和振動子を陰的中点法で離散化して計算してからレヴィ=チヴィタ逆変換をかけてケプラー問題の解として読むと、ケプラー問題の3つの保存量がすべて保存される。それを確かめよう。
時間刻み幅を $\sigma$ とすると、陰的中点法の更新式は以下の連立一次方程式である。
解析的に解けるので解いてしまって、その答え
を数値計算することにする。$\mu=1$、$h=0.001$、初期条件 $\left(q _ 1 ^ {(0)}, q _ 2 ^ {(0)}, p _ 1 ^ {(0)}, p _ 2 ^ {(0)}\right)=(1, 0, 0, 0.2)$ としたときの10万ステップ分の軌跡を、シンプレクティック・オイラー法のものに重ねて表示したのが下図である。

レヴィ=チヴィタ変換による方法のプロットは散布図として設定したが、解が閉じていることや時間刻み幅が非常に小さいこともあり、ほぼつながった線に見えている。非常に高い精度で安定していることが分かる。一方、すでに見たように、シンプレクティック・オイラー法はこれほど近心点高度が低いとルンゲ=レンツ・ベクトルの向きが安定しない。
[1] Minesaki, Y. and Nakamura, Y., A new discretization of the Kepler motion which conserves the Runge-Lenz vector, Phys. Lett. A, 306 (2002), 127-133.
[2] Celletti, A., Basics of regularization theory, in Chaotic Worlds: From Order to Disorder in Gravitational N-Body Dynamical Systems, Springer, Dordrecht (2006), 203-230.
† 1: ^ 3つの保存量が独立でなくなっているように見えるが、そうではない。ここでは軌道面が動かないことを前提して2次元平面で計算しているので、角運動量ベクトルの保存のうち方向の保存は問題設定中に織り込まれているのである。しかるにここで登場する $h$ は角運動量ベクトルの大きさであるから、$P$ と $\varepsilon$ が保存しても3次元空間で角運動量ベクトルの方向が保存するかどうかは以下の式のみからは分からない。
ただし、次のことは言える:2次元平面でケプラー問題を計算する数値解法について、それがハミルトニアンとルンゲ=レンツ・ベクトルを保存するなら、角運動量も必ず保存する。
これは 物工/計数 Advent Calendar 2023 の18日目の記事です。3日遅れらしいですね。どうして毎年間に合わせることができないのか......
インターネット生まれインターネット育ちミリオタの中身を完全開示する記事を書く予定だと公言していたのですが、どう考えてもこのアドカレを追ってる層には需要がなさすぎるしあまりにも人生の切り売りすぎて苦しくなりそうだったので、今日は旗章学の話をします。普段だとググれば出てくるようなことを書いてもしょうがないやんみたいな気分になる内容でもアドカレなら布教記事(?)も多いし許されるだろうという魂胆です。(なお、学と付いてますが別に大した学術分野として存在しているわけではなく、基本的にはなんか変なオタクの集団だと思います)
旗に関するありとあらゆる知的活動を総称する語です。現状の用法だと伝統的形式であるとかデザイン論であるとか単なる雑学であるとかが全部含まれている印象を受けます。英語では "vexillology" と言います。"lo" が2回続いて発音しづらいですね。周辺分野としては紋章学 "heraldry" があり、それにも少し触れることになりそう。そういえば、紋章学は中世ヨーロッパに由来する伝統ある分野である一方、旗章学が「旗」といったときにはもっぱら近代以降の旗を指しますね。vexillology という語自体がそもそも 1957 年にラテン語 vexillum(ウェクシルム、ローマ軍のある種の軍旗)にギリシャ語由来の英語接尾辞 -logy を付して造語されたもので、かなり若い概念です。
旗章学にも一応学会みたいなのがあって、日本には日本旗章学協会があり、各国の団体の上に国際団体として旗章学協会国際連盟(fr: Fédération Internationale des Associations Vexillologiques; FIAV)があります。旗章学団体なので当然いい感じの旗があります。

中央に描かれている結び目は船舶上で帆や旗を揚げるのに使う綱(halyard)です。左右の縁の外へ伸びる綱が世界の旗章学コミュニティのつながりを表し、船舶上で使われる綱であることが背景の海の青と合わせて近代旗章のルーツを表しているそう(国際的な場で国などを象徴するために用いられる旗という概念は、たしかに海上旗が由来とされます)。
ヨーロッパにおいて、中世まで旗は紋章にデザイン的に従属していることがほとんどでした。紋章はまず戦場における識別の必要から生まれ、おそらくは12世紀から13世紀辺りにかけて封建領主が自らの地位等を示すために取り入れていったとされます。その過程で紋章学は極めて形式主義的なものへと発展しました。

上の画像(の上4列分)は中世ヨーロッパ紋章の中央にある盾(エスカッシャンといいます)部分のデザインパターンを示していますが、このように模様や意匠に細々と名前が付き、それらを一定の方法で組み立てることによって正しい紋章が作られるという体系になっています。
このような紋章学の体系が先にあり、多くの場合、旗にはエスカッシャンやその一部をそのまま取り出したデザインが使用されました。
上記のような文脈があった上で、近代旗章の始まりというべき最初の変革は16世紀のオランダに起きたとされます。
現在のオランダの地域は中世後期にはブルゴーニュ公国領であり、そこではブルゴーニュ公の伝統的な意匠(下図、ブルゴーニュ・クロス)が使用されていました。15世紀終わり頃にブルゴーニュ領ネーデルラントはハプスブルク家の所領となり、さらにそのハプスブルク家は16世紀中頃にオーストリア・ハプスブルク家とスペイン・ハプスブルク家に分裂しますが、ネーデルラントは後者に相続され、以降スペインもこのブルゴーニュ・クロスを使用しました。

1568年にネーデルラント諸州がスペインに対し反乱を起こすと、南部諸州がスペインに再占領された一方で、北部7州は地域の有力貴族であったオラニエ公のウィレム1世の下で戦いを継続し、これがネーデルラント連邦共和国となります。ウィレム1世は1584年に暗殺されますが、この独立戦争のさなかでオラニエ公の旗(下図)が反乱の象徴となっていき、そのまま共和国の国旗となりました。

近代国家以前の旗は非常に曖昧な存在だったため、旗の起源を巡る議論はよくわからない部分が多いのですが、ともかく、広く伝えられるお話としてはこの旗の色味が変化して現在のオランダ国旗になったということなのです。(17世紀中頃にははやくも橙色が赤色に変更されました:Statenvlag)
さて、18世紀末以降、フランス革命を端緒にしてヨーロッパ中を近代市民革命の波が覆っていきますが、その中でオランダはヨーロッパ初の共和国にして市民革命のルーツだと認知されるようになっていきました。そうしてまずオランダ国旗の色遣いを直接模倣してできたのがフランス国旗とロシア国旗です。

両者とも後の国旗デザインに多大な影響を及ぼしましたが、その仕方が異なるのが面白いところです。
フランス革命の後、フランス国旗の影響で革命旗といえば三色旗という風潮になり、ヨーロッパ中に三色旗が拡散しました。イタリアやアイルランドなどは中央の白帯を共有しているという点で露骨な例ですが、伝統的意味合いを持つ色を3つ選んできて三色旗とする国旗の作り方は基本的にすべてこの系譜です。
直接の影響とみなすべきかどうかはわかりませんが、初期の三色旗には見られず民族主義の高まりとともに出現した現象として、同じ民族や地域で同じ3色を使用するというものがあります。ロシア国旗以降、スラブ諸国の国旗には白・青・赤の同じ配色が選ばれるようになり、これは汎スラブ色と呼ばれていますが、現在までにこのような習慣をつけた民族・地域には他にアフリカとアラブがあります。


以上のような事情で、オランダ国旗は間接的に現在の国旗デザインのほぼ全てに影響を及ぼしており、ゆえに近代旗章の始まりだと言えるということです。
対象とするものの輪郭を歴史的に定めたところで、いよいよオタク大好きトピックであるところのデザイン論に入っていきたいのですが、その前に用語を導入する必要があります。まぁ 旗章学用語 - Wikipedia の抜粋なんですが。この記事はずっとググれば出てくるような話しかしません泣
2006年に北米旗章学協会が "Good Flag, Bad Flag: How to Design a Great Flag" という小冊子を作り、これがあちこちで参照されるようになっているので、話の出発点として紹介します。この冊子によると、良い旗を作るためには5つの法則があり、
であるそうです。冊子には具体例も多く載っており、短いので一読しておくといいでしょう。さて、この5法則は比較的常識的な内容なので、これ自体がおもしろいというものではありません。むしろ、これを出発点に逆に非常識的だが良いデザインを探すなどするのがおもしろいのです。
紋章学では色をティンクチャーと呼び、それをメタルとカラーの2つに大別します。基本的に前者は白と黄(シルバーとゴールド)のこと、後者がそれ以外です。その上で、Rule of Tincture とは、メタルとメタル、カラーとカラーが隣接してはならないという考え方のことを指します。
例えば、イギリス国旗の白い部分はスコットランド旗に由来しますが、意図してか意図せずしてか、白が赤と青の間のメタルとして機能して綺麗にまとまっています。
このことを極めて賢く使ったのが南アフリカ国旗です。アパルトヘイト終焉後に作り直された国旗は、オランダ国旗とアフリカ民族会議旗の色を全て取り入れました*1。前者は赤白青で後者は黒緑黄(汎アフリカ色!)なので色の総数は実に6色になりますが、前者の白と後者の黄を戦略的に配置することで大変高いレベルにまとまっています。

似たような例としてセーシェル国旗も挙げるに値するでしょう。南アフリカ国旗と比べると、南アフリカ国旗がシェブロンの形においてもヨーロッパ紋章学の伝統にいくらか沿っているのに対して、こちらはそういったことには全くお構いなしなパターンを採用しているのが特徴的です。旗が旗竿にかかっているときはカントン部が一番目立つので、どこかの角になんらかの焦点を作る場合はカントンの角が選ばれることが一般的なのですが、セーシェル国旗はその点でも掟破りなデザインだと言えます。

英語圏で大変有名な例ですが、アメリカのメリーランド州旗はとんでもないデザインでありながら味わい深く人気の高い旗です。

ぱっと見ると意味不明ですが、なんとこれはイングランド式のエスカッシャンそのままです。要素に分解してひとつずつ見ていきましょう。
まず、全体の構成はふたつのフィールドのクオータリー(quaterly)です。黒と黄からなる方はベースが黒と黄の交互縦列(パリー、paly)で、それが左上から右下への太線(ベンド、bend)に沿って色反転(カウンターチェンジ、counterchange)されています。もう片方はチャージとして bottony という形式のクロスがあり、それを赤と白のクオータリーでカウンターチェンジしています。
と、一度エスカッシャンが見えてしまえばなーんだといった感じなのですが、これが中世紋章学の範疇を超えて21世紀まで愛されているのはエスカッシャンとしても極めて非典型的だからだと思われます。カウンターチェンジ自体が相当レアであり、それがクオータリーの4面全てにかかっているのはさらに珍しいと思われます。配色も赤と黄がかなり彩度が抑えられた色味になっていて独特の雰囲気を出しています。また、動植物や人工物などの具体的なモチーフが一切含まれていないことも時代を超えて生き残るのに大きく貢献したのでしょう。
イスラーム圏には文字を図形などの形にして書く書道芸術があり、それが現代ではロゴや旗に広く使われています。ロゴとしてはエミレーツ航空やアルジャジーラが有名でしょうか。


国旗では、露骨な例としてサウジアラビア国旗やアフガニスタン新国旗のように長方形に整形したものを中央に配しただけのものがありますが、もっと洗練された例もあります。
イラク国旗とイラン国旗はそれぞれ「アッラーフ・アクバル」と「アッラーフ」が中央に書かれていますが、ヨーロッパ的な三色旗にチャージとしてとてもよく溶け込んでいます。
特に後者は2つの点で極めて優秀です。まず、中央のチャージはその部分単体で国章になっており、単に左右対称できれいな意匠というだけでなく、その形状に様々な意味が込められています。そして、上下の緑と赤の縁には一見伝統的な文様が刻まれているようですが、この文様の穴あきパターンがまたも「アッラーフ・アクバル」と綴っているという芸の細かさです。

ちなみに、このようにイスラーム書道が取り入れられている場合、アラビア語は右から左へ書くので、旗のホイストは右側になります。間違えて左ホイストで掲揚しないように気をつけましょう。
ベタ塗りのフィールドの中央に文様や紋章を置いただけのデザインではとても近代旗章らしい洗練が感じられないものですが、一方で近代旗章らしさとヨーロッパらしさがある程度分かち難いのも事実であり、どの程度ヨーロッパから離れるべきかは難しいところです。そこへいくと、ロシアとその周辺はやたら優秀な例が多いように感じます。ソ連は確かに民族芸術の政治的活用に長けていたと思いますが、ソ連時代はシンボルに鎌と槌を使わされていたが解体後云々、みたいな例もかなりあり、簡単にソ連の影響だと断じるのも早計でしょう。
カザフスタン国旗は中央に太陽とソウゲンワシが描かれており、これだけだとちょっとつまらないものになっていたであろうところ、ホイストに縦に伝統文様を配することで少し対称性を破っていて上手いです。

似たようなことをしている旗にベラルーシ国旗があります。こちらはヨーロッパの国なのでヨーロッパから離れるとかいう話ではないと思いますが。
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並べてみて気づいたんですが、両方 1:2 の縦横比なんですね。文様の取り入れ方はカザフスタンの方が洗練されているように感じます。ベラルーシ国旗は文様と2色旗部分の間に細い白線を縦に入れるとかすると繋がりが良くなる気がするんですがねぇ。
ネネツ自治管区は横に入れるパターンです。前節のイランにも似てますね。こういう幾何学的文様の場合はやっぱり色と色の境に入れるのがきれいだなぁ。ロシアにはもう一つヤマロ・ネネツ自治管区というのもあって、そちらも全く同じことをしています。
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さらに同じくロシアから、もうちょっと大胆なケースとしてチュヴァシ国旗を出しておきましょう。中央にあるのは生命の樹と呼ばれるものですが、ここでは特にテュルク系神話でいうところのそれです。とはいえこの図案が典型的なそれというわけではなく、突厥文字の見た目に似せて独自に図案化されたものであるようです。ネネツ自治管区旗とうまく左右端が揃わないと思ったら、こっちは 5:8 か......*2
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チュヴァシ国旗の下側の赤色は当然生命の樹が立っているところの地面を表しているわけですが、旗全体を比率が偏った2色旗としてまとめ上げる機能も果たしています。生命の樹の幹の左右の線をそのまま地面に差し込まずに左右に逃したのもうまいですね~。
これは理系大学生のブログ記事なので議論の出来は大目に見てほしいのですが、これから日本には近代旗章が(ほとんど)ないという話をします。
「近代旗章の歴史」の章で書いたように、近代旗章が誕生したときにヨーロッパで起きた転換は2つありました。それを再び明確に記しておくと、ひとつは旗章デザインが個人や血筋を表す紋章学から独立したこと、そしてそれと革命旗としての使用が合わさり、旗章の表すものが国民、民族ないし地域の集団的かつ市民的なアイデンティティになったということです。
日本国旗は近代旗章だと言っていいでしょう。いや実のところ、これから論じますが、日本ではこれがおそらく唯一の近代旗章です。日本国旗は中央に日の丸を配していますが、日の丸はただの円形なので紋章としては使われておらず、すなわち紋章から独立した旗章デザインです。旗章の意味としても、歴史的経緯から忌避されがちであるとはいえ、日本国民としてのアイデンティティを表明するものとしてよく使われていると言えます。
では他の旗はどうなのでしょう。近代旗章には国旗の他に地方行政区分の旗、民族旗、政治イデオロギーの旗などがあります。順番に見ていきましょう。
地方行政区分の旗として日本では都道府県旗のみならず市区町村旗までがかなり広く制定されています。Wikipedia の市町村旗一覧記事からランダムな場所を選んでスクショを撮ると、こんな感じです。



日本にいると相場感がわからないと思うのですが、市区町村のレベルでこれだけきれいな見た目の一覧になるのはおそろしく高水準です。例えば以下は左がアメリカの州旗の一覧からの抜粋、右が郡旗の一覧からの抜粋です。


中央の紋章に絵が描き込まれている他にはデザイン要素がなかったり、あるいはブロック体でデカデカと州名・郡名を書いているのに至っては本末転倒です。ヨーロッパに行くとだいぶマシになることもあります(特にドイツ以東)が、ならないこともあります。今度は動物や武器が複雑に描き込まれたエスカッシャンをそのまま、とか、あるいはフランスの場合はそういう紋章学デザインを下手に更新しようとした結果企業ロゴのようなものが組織的に大量生産されている気配があります。これは最悪です。

このような事実をもって、英語圏では日本の旗章デザインがもてはやされることが少なくありません。
しかし!それは表層的なデザインのみの評価であって、旗としての性質に切り込むとそう単純ではないはずです。この記事を読めている日本語話者なら大半は直感的に分かると思いますが、日本の旗章デザインは「家紋」の系譜にあり、都道府県旗、市区町村旗ともに、その大半は自治体の紋章が先にあって、それをフィールドに貼り付けただけのものを旗章としているのです。
そして ―これは私の仮説に過ぎませんが― その紋章への依存が一因となって、日本には住民の市民的アイデンティティの表明に使われる自治体旗はひとつとして存在しません。噛み砕いて言うとこういうことです:私は東京が好きですが、そこで私が東京都旗を家に掲げても東京への愛を表現しているとは受け取られず、むしろ東京都の窓口か何かに見えるだけでしょう。これは東京都旗が根本的に東京都章の旗であり、東京都章が根本的に「家紋」だからです。
いやいや、さっき挙げていた欧米の例を見ると、欧米だってそんなもんじゃないのか、そうおっしゃるかもしれません。それに真面目に答えようと思うと国や地域によってかなり変わってくるので長くなるのですが、全体に占める割合はともかく、極めて近代的と言えるレベルの旗章はあります。そして、少なくとも英語圏では、自治体旗の市民性への意識は高まってきています。
よく取り沙汰されるのはアムステルダム(左)とシカゴ(右)です。お土産屋に市旗をかたどったグッズがあったり腕に市旗のデザインをタトゥーとして入れる人がいたりといったことがここやここに書いてあります。
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北米では、おそらくはここらへん(Roman Mars による TED トーク)などが起爆剤になって自治体旗を見直す動きが生じており、以来米国では旗章再制定の話題に事欠きません。なんとこの記事を書いている間にもミネソタ州の新しい州旗が決まりました。めでたい!
Minnesota Unveils New State Flag Design - The New York Times
新旧比較はこんな感じ。
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こうして市民からの公募とコンペで旗を選ぶと、その選ぶプロセス自体に連帯感を形成する効果があるのも合わさって、よく愛される旗になるのではないでしょうか。っていうかこれ最近の再制定の中でも相当いい出来ですよ、いいなあ。
日本はほぼ単一民族国家ですが、完全な単一民族国家ではありません。民族旗があることを期待するとすれば、やはりアイヌと琉球ですよね。さて調べてみるか......
アイヌ民族旗だと思われている旗は中央のシンボルから全部砂澤ビッキがでっちあげたもので当人は今アイヌ運動アンチになっているのでその文脈での使用中止を求めている、琉球王国旗だと思われている旗は明治期に出版されたものを Wikipedia が広めたが実在していた根拠は全然ない、わかりました...
— りちゃ (@LicjarXeymelloz) December 20, 2023
旗の真正性なんて象徴性に比べれば些細な問題だとも思うが、そのレベルで旗に愛着を持つほど日本には旗でアイデンティティを表現する文化がございませんというオチでこの話は終わりです
— りちゃ (@LicjarXeymelloz) December 20, 2023
訂正:アイヌ運動アンチになったのは砂澤ビッキの子の砂澤陣です。本人は亡くなられています。
とまぁ、こういう状態なんですね~。
アイヌ民族旗はこちらです。デザイン結構好きなんですが、ビッキが独自に作ったシンボルだったとは。しかし使用中止を求められているということは、細々と使用されてはいるということです。日本国旗の他に日本に独自の近代旗章が現存するとすれば、これが一番近いものかもしれません。シンボルの真正性なんてシンボルとして普及してしまえば些細な問題ですからね。
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琉球まわりでも(琉球王国旗とは別で)かなりいい線行ってた試みがあり、それが「沖縄旗」というやつなのですが、あまり市民の関心が高くなくて立ち消えになったそうです。このデザインに関してはヨーロッパ的すぎるという見方もできるのでしょうが、少なくともこれで近代旗章を意図しなかったわけはありません。

日本にはイデオロギー生産能力がないので[要出典]、独自のイデオロギーの旗というのもありません。それはいいとして、輸入したイデオロギーを表現する場合にはどれくらい旗が使われるのでしょうか?イデオロギーそのものの旗を掲げる場合は欧米でも少ないイメージですが、各イデオロギーには色が当てられており、政治団体の旗がその色に従っていることが多いです。
しかし、ここでも日本には近代旗章の文化がなく、従来のデモで見られるのはてんでバラバラの色をした無数ののぼりです。それらはしばしば激しい色で文字が大きく書いてあるだけのもので、識別性はひどく、象徴性はなく、視覚的示威効果以上のものがありません。
このため、性的少数者を表す虹色旗はその発祥地でも十分に画期的な発明でしたが、日本においては特に新しい現象だと感じられます。相当に世界的な現象であるためこれをもって日本に近代旗章がひとつ増えたとするのはなんかずるい気がするのでカウントしないでおきますが(恣意的な勘定)、アイデンティティを表しているものとして説明しなくても通用する旗があるというのは本当に幸せなことです。
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見てきた通り、日本では地方行政区分の旗、民族旗、政治イデオロギーの旗、いずれにおいても近代旗章や近代旗章の概念が普及しているとは言えません。地方行政区分の旗はせっかくいいものがたくさんあるのだからもっと市民のレベルで活用されるべきです。民族旗は使い始めるところからでしょうか。政治的場面においては、デモに持っていくのぼりのデザインなどについて今一度考えてみてはどうでしょうか。掲げるだけで連帯を示せる共通の記号というのは極めて強力な武器です。
ブログ記事ってどうやって終わるんだっけ。一年も書いていなかったので忘れました。知ってることを適当に書いて終わりにしようかな、という考えで書き始めたのですが、完璧主義の癖がどんどん出てきてしまって今回も1万字です。
実は旗章学に関する記事は過去に計画したことがあって、箇条書き段階の下書きもあるんですが、そこで書きたかったことの7割くらいはここで書けてしまいました。その下書きはもっと大仰で一貫したテーマになっていまして、それが敗因だったのかもしれません。実際には旗についてあれこれ互いに無関係なことを語りたいだけであったようです。
これで軍事と旗の記事が揃ったので、あとはずっと逃げ続けている "越境" の記事を書けば私の SNS ヘッダー画像(下)の要素が揃うじゃん。でも越境の記事、くせものなんだよな~~~全然進んでない どうか辛抱強くお待ちください。
https://x.com/LicjarXeymelloz/status/1737449804408689027?s=20
https://x.com/LicjarXeymelloz/status/1737449804408689027?s=20
*1:この国はこういうのが好きで、同時期に国歌でも同じようなことをしています。
*2:ここらへんで旗の縦横比について調べ始めてしまいました。変な比率の旗が見たい人はネパール国旗とトーゴ国旗を見ておくと幸せになれるでしょう。
パイロットの物理的入力を機械的に操舵面に伝達する場合、航空機の性能は人間の認知機能・身体機能や機械の精度・応答性などに起因する限界から逃れることができない。このため、航空機の制御を機械的リンクからコンピュータと電気信号によるものに切り替えようとする試みは電子式計算機の黎明期から存在していた。やがて電子系統の性能向上と制御理論の発展が進むと、1970年頃にこの "Fly-by-Wire (FBW)" という概念はついに実用的な価値を見つけるに至る。戦闘機への応用である。
戦闘機にとって、その機動性の高さは常に存在意義の中核をなしてきたと言っていい。従ってコンピュータ以前の戦闘機開発の歴史とは推力と空力の絶え間ない改善の歴史であった。複葉機、金属製機体、引込脚、ジェットエンジン、エリアルール、これらはいずれも推力ないしは空力に関する静的な技術である。
そのような中で出現した、コンピュータの計算能力を借りて機体を制御するという「アクティブ制御」のアイデアは、動的な側面での初めてのパラダイムシフトと言ってよく、全く新しい時代の到来を意味していた。そうして1970年代初頭に始まった開発計画の中で、米空軍はそのような次世代機を "Control Configured Vehicle" (CCV, 運動能力向上機) と呼称した。これは文字通り解釈すれば「制御によって設計された機体」の意である。制御と暗に対比されているのは空力性能だろう。
運動能力向上機から始まった機動性追求の系譜は静安定緩和や推力偏向などの技術を受け入れて発展していき、1990年代には曲芸という他にない形態の機動を可能にした。 "Supermaneuverability"(超機動性)の時代が来ているのであり、ドッグファイトの常識が完全に書き換えられる時ももはや遠くない―― しかし、湾岸戦争でステルス機 F-117 が輝かしいデビューを遂げると最新鋭機のアイコンは一夜のうちにステルスに取って代わられ、高すぎる機動性はあっという間に不要なものとみなされていった。今では、かつて曲芸を披露し未来を見せてくれた実験機たちのほとんどが博物館入りしている。
運動能力向上機の系譜は、アクティブ制御によって高い機動性を引き出すという思想から、他の時代には見られないパンク的ともいうべき外観をしばしば有していた。1970年代初頭の登場から1990年代中頃の突然の衰退まで、電子制御と機動性が機体設計を支配した四半世紀は戦闘機設計の歴史において実に特別な時代であった。
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