待ちに待った下巻!刊行当日にゲットしてウキウキ気分で読んでいたら、内容の温度差に面食らい、今にいたるまでずっとずっと『ファミレス行こ。』のことを考えている……
正直『カラオケ行こ!』を読んでいたときは「いつもの和山節が効いたギャグマンガだ~」と思っていたのに、気がついたら予想もしていなかった結末に着地していて「ここどこ?」となっている。それと同時に不思議な余韻にも満たされていて、静かな満足感がある。
あと読み返せば読み返すほど「あ、そういうこと!?」の連続ですごいですね。描写の細やかさがすさまじい。スルメみたいな漫画だ……
ひとまずここまで読んで、頭に思い浮かんでいることをつらつらと書いていきたい。(※以下ネタバレ含みます)
芯を喰った反社描写
まず前作よりかなり踏み込んだ反社描写に、終始度肝を抜かれていた。創作における反社描写には「いや、それはやらないでしょ笑」と思える絶妙な線引きがあるからこそ、安心して読めるところがあるのだが、今回は「うん………」と思わず口をつぐんでしまうような展開が散りばめられていて、読んでいてかなりしんどかった。
例えば前作では、聡実くんに手を出そうとしたジャンキーを狂児が殴る描写がある。物語としては辻褄があっているので違和感はないものの、現実で同じようなことが起こるとは考えにくい。しかし今回、一般人をスナックに連れ込んでひん剥いて…というのは、ちょっと、いやかなりリアルすぎた。そうなんだよ、まず反社は相手の尊厳を奪って恥をかかせるんだよな。んで、命がかかっている緊迫感を与え続ける。彼らがどういう存在かをひしひしと分からせるような描写が、非常にキッッッツかった………
そして反社の倫理観。普通、歌いきってハグされたら「お、イケたか?」と思うけど、そうじゃないんだよな。記者だろうがなんだろうが、相手のシマに入った時点で、領域展開に引きずり込まれた一般人と同じ。すでに勝敗は見えていて、交渉の余地などあるわけがない。巻き込まれたら、あとは相手の理屈に合わせて振る舞い続けるしかないんだよ。こういうのを見ていると、改めて狂児がいる世界と泥濘を実感して胃がズゥーーーンと重くなる。
あと狂児の私服。インナーが毎回黒ってイヤミスすぎるでしょ。本当に怖い。やっている仕事を見ても、若頭補佐なんて体のいい肩書だということが伝わってくる。本人が望むと望まざるとにかかわらず、狂児にはこの仕事が向いているときているが、しかしここで役職があがったとしても、より深みに沈んだことの証左にしかならんのだよなぁ………何より本人がそれを一番わかっていそうなところがつらい。そりゃ組長の家にロケット花火をブチこみたくもなるて……
反社の人間であるという状況を踏まえて見る狂児
という状況を踏まえて狂児を見ると、その境遇が本当にいたたまれない。救われてほしいが、唯一彼を救えそうな相手が、まだ子供だということも切ない。「黙れ小僧!お前に狂児が救えるか!」である。
本編で聡実に対して狂児が「勉強できんの羨ましいわ~」と言ったり、「就活に失敗して絶望して死にたくなってもこっち来たあかんよ」と言ったり、夜勤明けの聡実に「気ぃつけて 頭狂わんように」と言ったり、縁を切られた家族に対して「元気でやってたら別にええわ」と言ったりしていた背景が、下巻を読んだ後ではズゥーーーンとのしかかってくる。重い。あまりにも重い。しかも狂児は本気の言葉を吐く前後で、どうにもちゃかしてしまう悪い癖があるので、気を付けていないとその真意を取りこぼしそうになる。飄々としているキャラクターだからってなんも考えてないわけじゃないんだよな。なんだこれ本当にしんどいな。
畳の卍敷きがわかる教養もあり、莫大であろう寄付金の計算もできる頭がありながら、ヤクザになった。その先は奈落だと知っていながら、後悔を呑み込んでなお、その世界で生き続ける選択をし続けているのが成田狂児という男なんだなぁ……と事実をひたすら分からされるたび、どうにも胸が苦しくなる。そりゃ聡実くんにふたりの関係について問い詰められても「聡実くんが俺を必要としなくなるまでは 一緒におるよ」としか言えないよ……
なんなら読みながら、昔その道に行ってしまった同級生に再会したときに、彼が「ヤクザなんてなるもんじゃないなぁ」とこぼした言葉を聞いてしまった時の、仄暗い感情がフラッシュバックもした。なんでまともな人間がヤクザをやってるんだよ。先生、これを描くって正気ですか?
ふたりに未来はあるか
んじゃ、聡実くんとの未来ってナシですか?と言う話なんだけど、正直に言うと大人として上巻を読んだ時点では「ナシ!聡実くんはカタギの世界に戻ってふつうに生きな!」と思っていた。狂児と対等になろうともがいていて、ある程度相手の境遇も理解しているが、それでも想像が及んでいないことが多い。いい子ではあるし、大人としてそのまっとうさに救われる部分もあるが、それでもあまりに幼すぎて多方面に危うい。背中を任せる相手としては十分ではない。
しかし、下巻で彼の成長を見て認識を改めるものがあった。
自分でどうしたいか整理をし、相手がいる世界を理解しようとするだけの知性があり、それを踏まえたうえで自分と相手が幸せになる道を考え続けることができる。そして、不均衡な関係をイーブンな関係に清算してから開始しようとする冷静さがある。何より、上巻での「美味そうやな」と下巻の「美味そうやな」の対比。聡実くんから、それまではなかったであろう包容力の片鱗が垣間見え、上巻からの著しい成長を感じた。
これまで狂児のタトゥーには「聡実のサポートがなかったから自分は歌下手に認定されてしまったので、今後も聡実の助けが必要である」という暗黙の了解が織り込まれていて、それがお互いを縛り続ける不均衡な枷になってしまっていた。それがあり続ける限り、聡実には負い目があり、離れることはできない。そしてそれを消させるということは、狂児に必要とされる理由を失うことにもなる。
それを清算しようとするのは、お互いがいなくても生きていけるという事実を認めること。と同時に、自分を負い目という形でしか縛ることができなかった狂児を、解放するということでもある。凄まじい喪失の予感を一身に引き受けながら、大切なひとを解放しようとする。令和の等価交換すぎやしないか?
この肝の据わり方に、大学生とは思えない並々ならぬ覚悟を感じて「この聡実くんならややこしい運命の手綱を握れるかも」と思えたのだった。聡実くんがした2回目の確認は、「自分が狂児を好きかどうか」だけでなく「自分が人生を賭して、狂児を好きでい続ける覚悟があるかどうか」を確認していたのだろう。多分、聡実くんはこーんな舐めた真似をして一生お互いを縛ろうとしていたズルい狂児に、ずっとずっとムカついていたんじゃないですかね。
最後に狂児の車に乗らなかったのも、食べ物をねだる関係から「ファミレス行こ。」と言える関係を選んだことも、狂児のさん付けをやめたことも、カタギとしてヤクザに向き合っていこうとする意気地じゃないですか。200万円の腕時計を相手に軽々と与えられてしまう狂児に、500円玉貯金を渡すまっとうさで一生付き合っていくのだという、相手の土俵に決して乗らず生きていく気概が、すばらしいラストだなと思ったのだった。今は無理でも、数十年経って本当の意味で対等になれたら、それこそが狂児にとって本当に人生の歯車が狂ったことになるんじゃないだろうか。そうならいいなぁ。
ここまで重たい内容を読ませる和山さんの凄み
否が応でも湿っぽくなるような展開が続く『ファミレス行こ。』なのに、お茶漬けのごとくサラララーっと読めたのは、本当に和山さんがスゲーからだなぁと思う。構成力とか、頭の中どうなってるんですか……重いことを重く書かず、核心は読み手に委ねつつ、緩急をつけて物語を軽やかに進めていく。この徹底したイズムが本当にカッコよくて、めちゃくちゃいいもの読ませてもらいました!ありがと!という気持ちである。
あと、自分はBLというジャンルをほぼ通らずに来たのですが、自分が相手にとっての唯一無二であり、友愛の延長線上から始まる湿っぽい関係をBLと定義するなら、これはどちらかというとボーイミーツボーイというか、聡実くん成長物語なのかなぁとも思ったのでした。いや、全然その方面をわからないで言っているので、違っていたらすみません。
ところで聡実くんのお父さんって何者?
で、ここまで読んで最後まで気になっているのが「聡実くんのお父さんって何者?」である。あのガンギマリな眼、半開きの口、ボサボサの髭。疲れ切った公務員とはいっても、ちょっと独特な出で立ちすぎやしないか。
ここからは完全な妄想になるんだが、なんか平日っぽいときも家にいるし、もしかして警察関連の方だったりする?なんだったらマトリか公安だったりする?狂児の情報網にひっかかってなさそうなのも、もしかしてその可能性があるのかなぁ……と思ったり。そういう方面で読むと、まだまだ面白く味わい深いですね。
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