
今年は下請法改正でお腹いっぱいだというのに、先の国会では、自分の仕事に直結しそうな法令の改正が他にも複数成立しました。
なかでも、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」は、全然ウォッチしていなかったし、担保法制には苦手意識もあるので、ビジネス法務2025年9月号の特集記事は渡りに船。
「新たな担保法制のいろはー基本から実務対応まで」のタイトルに違わず、現行の担保権のしくみの基本から入っていけて、大変勉強になります。
法制化の経緯と課題
特集記事のオープニング「法制化の経緯と課題」(淀屋橋・山上合同の阪口先生)では、新法制定の経緯と、法制審議会の部会で議論されながら盛り込まれなかった制度について概説されていて、全体像を掴むことができる内容でした。
とくに、現行法の問題点が新法ではどのように手当されているかが表にまとまっているのがありがたいです。あと、まとめとして、概ね担保権者の権利を強化・明確化したと結ばれていて、ほっと胸を撫で下ろしました。施行は2027年秋〜冬の予定だそうです。
つまるところ、一番の問題点は、譲渡担保を想定した規定がなかったことで、今回の制定でこれは解決したと言えるのでしょうが、対応表や記事を読んでいると、「占有改定劣後ルール」という耳慣れない言葉が。しかも大変重要らしい。
「占有改定劣後ルール」とは
法学部卒の私、1年生で民法につまずき、以来極力民法を避ける学生生活を送ったのですが*1、つまずいたのは、引渡しの概念や譲渡担保をはじめとする物権。今でも大の苦手分野*2で、毎回基本書などで確認する始末です。
さて、占有改定(民法183条)です。自分の手元に置きながら、意思表示によって他人に占有を移転させるパターンですね。
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
動産譲渡担保では、自分が使う動産を担保提供するので、通常は占有改定が使われるそうですが、これだと占有改定後も引き続き占有者自身の所有物に見えてしまうという問題があります。
そこで、新法では、占有改定で引渡しを受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法で譲渡担保動産の引渡しを受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権等に劣後するという規定が設けられたとのこと(新法36条1項)。
この「占有改定<占有改定以外の引渡し」の特例を「占有改定劣後ルール」と呼ぶそうです。
堂島の大川先生・奥津先生による解説記事によると、
従前は,動産譲渡登記よりも占有改定のほうが簡便・低コストであり,動産譲渡担保権設定者が動産譲渡登記に消極的であること等から,商社等の事業会社が動産譲渡担保権の設定を受ける際は,占有改定により対抗要件を具備するのが通常であった。しかし,譲渡担保新法施行後は,占有改定による動産譲渡担保権は,時間的に劣後して占有改定以外の方法で対抗要件を具備した動産譲渡担保権等に優先されてしまうことになる。これでは担保設定を受けた意味がなくなるので,現在の実務に大きな影響を及ぼすルール変更である。
ー「法制化の主要ポイント①動産・債権譲渡担保権」p.25
とのことで、動産譲渡担保を利用している場合は要注意のようです(他人事…)。解説記事では、経過措置についても説明がありました。
所有権留保規定があるなら必読
所属先では、動産や債権を担保にとることがないので、譲渡担保法制の見直しが進められていると聞いても我関せずだったのですが、成立後、所有権留保も範疇に入っていたと知りびっくり。所有権留保規定は、うちの取引基本契約書にもバッチリ入っていますし、その規定を使って対処することもあるので、髙井総合の髙井先生による解説記事は必読でした。特集記事を通じて言えることですが、各テーマ4ページとコンパクトに収められていて助かります。
対抗要件(買主から売主への引渡し)は不要
所属先の取引基本契約書は、巷の雛形よろしく、「代金完済までは売主が所有権を留保する」旨の定めが入っているのですが、この雛形を顧問弁護士に見せるたび、「(占有改定による)引渡しの定めが抜けていて、対抗要件を備えられていないのではないか」という指摘を受けてきました。
対抗要件なく売主による権利主張を可能とした最高裁判決*3はあるものの、うちの所有権留保契約でも主張可能かを心配してくださっての指摘だと受け止めていますが、雛形を直すのはそう簡単ではなく*4、しばらく放置してきました。
この点、新法では、買主の代金支払債務を担保するための協議の所有権留保については、買主から売主への引渡しがなくても第三者に対抗できることが明記されたので(109条2項)、もう雛形の見直しは不要かな(ラッキー!)と考えています。
再生手続開始の申立て等を解除事由とする特約等の無効
新法では、所有権留保契約は、譲渡担保契約の規定が概ね準用され、条文自体はシンプルです。たった3条しかありません。そのうちのひとつは、前述の対抗要件に関する定め、もうひとつは譲渡担保契約の規定の準用・読み替えのための定めで、残るひとつが倒産解除特約の無効です(110条)。
髙井先生の解説によると、倒産解除特約を無効とする最高裁判決はすでにあるそうで(知らなかった…)、髙井先生のお考えでは、「契約実務において,倒産解除条項は契約書から記載はなくなっていくものと思われる」とのこと(「法制化の主要ポイント④所有権留保」p.37)。また、破産手続の申立てがあったときの規定がないのですが、「譲渡担保新法110条において無効とされる契約解除事由には,民事再生手続開始の原因となる事実が生じたときなどが規定されているが,破産した場合は基本的に当該事由が生じていることからすれば,破産の場合に契約解除できるとする条項についても無効と扱われるものと考えられる」(同p.37)とおっしゃっていました。
雛形から倒産解除特約を削除すべきか
はて、そうすると、こういった解除事由は、取引基本契約書から削除すべきでしょうか。
賃貸借では倒産解除特約が無効(らしい)というのは知られているはずですが、私のところに回ってくる大手デベロッパーなどが用意する契約書を見ていても、まだまだ健在に思うので、取引基本契約書でも残り続けるだろうと想像しています。よって、所属先でも急いで削ることはしない予定。
もっとも、新法では、解除せずとも所有権留保規定を使って帰属清算/処分清算ができますし、将来の取引については売らなければいいわけで、賃貸借と違って解除事由として存続させる理由は乏しくなりそうですが。