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なぜ「ものとする」は契約書で使うべきでないのか

多忙を言い訳に先送りしていた、契約書のひな形とその解説、いわゆるプレイブックの見直しをしようと思い立ちました。ここでひとつ問題が。
所属先のひな形は「ものとする」が健在で、そのために若いメンバーもよく使うので、この取扱いをどうしたものかと家にある書籍を漁ってみたのですが、ほとんど見当たらず、Xにポストしてみました。

予想を超えて多くのことを教えていただき、整理までしていただいていたのですが*1、私もメモを。

改めて、文献を教えてくださった櫻町先生、休みにかまけている間に深掘り&まとめてくださったdtk先生はじめ、コメントをくださったみなさま、ありがとうございました。

法令用語としての「ものとする」

吉田利宏著『新法令用語の常識[第2版]』には、「ものとする」には次の用法があると説明されています*2

  1. 「しなければならない」の緩和表現(「やや義務付けが弱く、合理的な理由があればそれに従わないことも許されるというような解釈余地が生じ」る)
  2. 語呂(なくてもよいが、あったほうが語呂がいいからついている)
  3. 解釈上の疑義を避けるため、念のために規定を設けるというような趣旨(「ものとする」がないと創設的な意味が加わってしまう場合がある)

契約書の「ものとする」を取り上げる文献

「ものとする」を契約書で使うべきでない理由をバシッと説明してくれる文献がないものかと家で探した際、目に止まったのは、堀江泰夫著『契約業務の実用知識〔第2版〕』の「ある裁判官の思い出」という名のコラムでした。民間企業に出向に来られた判事補が「契約書でよく利用される『甲は,乙に対し◯◯するものとする』という表現は,裁判官の感覚としては,単なる確認条項であり,給付条項に思われる(つまり,勝訴判決を得ても強制執行できない)ので,あまり使用しないほうがよいのではないか」とおっしゃったというお話が紹介されています*3

なるほどと思いつつ、もっとズバリ言及している文献はないのか?とXで助けを求めたところ、櫻町先生が2つの文献を教えてくださいました。

該当部分はここですね。

司法研修所民事弁護教官室「民事弁護実務の基礎〜はじめての和解条項〜」p.7

こちらは以下が該当部分。

「東京簡裁書記官に訊くー民事訴訟手続を中心にー」(LIBRA Vol.21 No.10 2021/10 p.16-17)

判例では、東京高判平成16年9月29日(平成14年(ネ)第1413号)で、「違反の場合に債務不履行による解除権や損害賠償義務が発生するというのであれば(略)契約条項も「乙は生活者以外に商品を販売してはならない。」(法令用語上は「…するものとする」は訓示規定,弱い義務を定める場合に使用されるのが通例である。)と定めるべきであることなどを考えると,本件の場合における「乙は生活者に販売するものとする。」との定めからは,控訴人主張のような具体的な義務を導くことはできない。」と述べられていることもXで教えていただきました*4

Xで多くを教えていただいた後、改めて調べてみると、以下の書籍にも記載がありました。

  • 日本組織内弁護士協会監修の『〔改訂版〕契約用語 使い分け辞典』*5
  • 鈴木学・豊永晋輔著『契約書作成のプロセスを学ぶ(第2版)ービジネスに寄り添う契約実務の思考法ー』*6

給付条項・確認条項・形成条項、債務名義

ところで、訴訟や執行の経験が少ない若手には、上記の文献に出てくる「給付条項」などの意味がピンとこない人もいるのでは…と思います。実際、所属先のメンバーは説明できないと思う。

「そういうときは、法律用語辞典でも引きなさい」なのですが、引いてみると「債務名義」以外はそのままは載っていませんでした。「給付の訴え」とかは載っているので、そこから推測はできますが、このあたりは法曹向けの教育を受けていないとピンときにくいかも(私も教育を受けていないので、理解が誤っているかも)。

「ものとする」の良さ

「ものとする」がついていると、場合によっては蛇足で済まないわけですが、どうしてこうも契約書で浸透しているのか。

これは、新旧の法令用語の常識にあるように、「しなければならない」と書くのはどぎついので弱めたいとか、なんとなく語呂がいいとか、そういうことなのだろうと想像しています。
どぎついなら、「〜を支払う。」で止めとけばいいというのがプロの考えかもしれませんが、「支払う」だと、義務であることのニュアンスが弱いあるいは欠けるように感じられ、「ものとする」を目印にしているのではないかな。

結論、契約書に使う分には問題なさそうだが知ってはおく

債務名義では、給付条項に「ものとする」をつけてはならない、あると強制執行できない(らしい)ですが、所属先で契約書を債務名義にすることはほぼないので*7、「ものとする」撲滅を目指す必要はないように思っています。

相手が行政だと、「ものとする」があると厄介なことになるのでは?というご指摘もあったのですが、所属先が契約を締結する地方自治体はそんなこと言わなそうだし*8、重要な契約はないので、所属先に限ってはここも目くじらを立てる必要はないと考えています。

ということで、所属先は以下のルールでいこうと思いました。

  • 「ものとする」を使ってもよいが、相手方が使わないなら、わざわざ書き足さない(本来はなくてよいもの)。
  • 自社ひな形も、多用は控える(例:みなすものとする→みなす)。

*1:dtk先生のこちらの記事です。

*2:p.49以下。ルーツである林修三著『法令用語の常識』にも同じことが書いてありました(p.48以下)

*3:p.19

*4:「具体的な義務」とは、生活者(最終消費者の意味のようです。)への直接販売義務のこと。「原価セール事件」とも言われる、有名な判決にこのような記述があったとは。実際の契約書は、「乙は、商品の推奨販売に努め生活者に商品を販売するものとします。」だったそうなので、そりゃ直接販売義務を定めていると主張するのは無理があるのでは…

*5:p.79-80

*6:p.31-32

*7:私の経験では、執行認諾文言付公正証書にしたことがあるのは事業用定期借地権設定契約のみですが、それとて執行認諾文言がついていないもののほうが多かったです。金消契約だと債務名義にすることも多いのだろうか。

*8:なぜなら日本語が残念な契約が多いから…




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