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駆け足で芸術の秋 美術と文学と映画と

詳しく話すと長くなるが、

先月、日本滞在中の拠点を青梅市に移した。

なぜ青梅市?とよく言われるが、

最大の、でも意識の最奥に隠れた動機は、

たぶん子供の頃から梅干しが大好きだったからだろう。

何せ、青梅市は名前通り、梅で有名なのだ。

 

青梅市は東京の西の端ではあるが、都心までの交通の便はいい。

そのお蔭で、東京のイベントに行きやすくなった。

ただ、あまりにイベントが盛りだくさんすぎて、

つまり選択肢が多すぎて、選ぶのがたいへん。

地方との格差もしみじみ実感され、気持ちは複雑だ。

遠くて行けないのもつらいが、多すぎてとても巡り切れない、

というジレンマもかなり悔しい。

いずれ、慣れていくのかな。

 

それでも何とか巡れたものは、忘れない内に覚え書き、

ということで、駆け足でごめんなさい。

 

まずは、写真家の中川道夫さんからいただいた情報を元に

「生きられた新宿」展へ。

 

半世紀前にニューヨークのMoMaで開かれた

“Shinjuku :The Phenomenal City”展の里帰り展らしい。

 

私が行ったのは幾つかある会場の内の一つ

WHITEHOUSE(百人町)での“Parallax City”展。

 

まず見たかったのは、会場の建物。

1960年に建てられた、磯崎新氏の最初の作品といわれ、

当時はネオダダを掲げる前衛アーティストたちが集う場だったのだとか。

 

私も一応、生まれたのは大分なので、

大分出身の磯崎氏の建築にはつい親近感を抱いてしまう。

 

同じく初期の作品である大分県立大分図書館や、

北京の中央美術学院の美術館もそうだったから、

きっとこの建物も、外観の造形が洗練されていて美しいはず……

しかし、私が行った時はすでに日が暮れ、空もかなり暗かったので、

バルコニーのカーブや1階部分以外はあまりはっきり見えなかった。

せめてもう少し明るかったら……と残念。

 

肝心な展覧会の方は評論家でありながら

優れた都市観察者でもあったといわれる多木浩二氏の、

その時代の空気までえぐってきたような、

心の隅がちょっぴりせつなくなる写真が素晴らしく、

展示は鑑賞者が自分で映写機のスイッチを押すタイプだったので、

人がいない時につい、何ターンも映写機を回してしまった。

(勝手に借用してすみません)

 

会場の一角では、

街を行く人々のさまざまな姿が

壁に大きくプリントされていたが、

中川さんによればこれは、

MoMaで展示された群像写真を

「AI加工して、50年後の姿にしたもの」

なのだとか。

50年前の写真もじかに見てみたかった

という気持ちはあるけれど、

過去と現在を架空の肖像が繋げているのは、

未来にもベクトルが向かっているようで面白い。

 

次に行ったのは、東京都美術館で開かれていた

「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」展

 

この展覧会ついては、すでに多くの人が書いているだろうし、

私自身にとっては、

観客の多さと照明の暗さによって、

作品をじっくりゆっくり観られなかったという意味で

ちょっと残念な展覧会なので、ここでははしょるけれど、

新たな発見はやっぱりあって、

個人的に、初期のモノクロまたは暗い色調の作品に

どういうわけか強く惹かれた。

 

初期のゴッホは、貧しい労働者や農民の暮らしぶりを

絵に描いて世に広く伝えたい、

と考えていたそうだ。

 

勝手な想像だが、

もし彼が写真家になったなら、

やはりきっと素晴らしい作品を撮ったことだろう。

 

最後の展示は最近流行りのデジタル大画面。

絵の展示会場が暗かっただけに、

大画面の明るさとのコントラストが激しかった。

 

その次に訪れたのが、

作家の多和田葉子さんとピアニストの高瀬アキさんによる

朗読&演奏会「嘘から出た真実(まこと)」。

 

テーマは与謝野晶子。

多和田さんが練り上げられた言葉で与謝野晶子の人生や文学をかみ砕いていく。

言葉遊びを極めた後でそっと飛び出す本音は、刃物のような鋭さ。

私は多和田さんの文学の長年のファンなので、

もともと期待値は高かったが、

多和田さんの作品の、

無造作に見えてじつは丹念に練り上げられた言葉と、

高瀬さんの自由にきらめくピアノの音色に、

共演者である赤い日ル女さんの芯のある声が融け合っていく瞬間には

やはりライブならではの、親密さを帯びた凄みがあった。

 

そこにしっかり巻き込まれた私は、

いい意味で呆気にとられっぱなしで、

時間の流れさえ変わったかのよう。

 

それは、延ばしたり切り刻んだりふくらましたりできる、

言葉の可塑性というものを、

改めて実感できた、貴重なひととき。

そして、なぜ欧米で朗読会が盛んなのか、納得する。

やっぱり、「自動読み上げ」じゃダメなのだ。文学は。

たとえそれが疲れ目に悩む私には極めてありがたい存在だとしても。

 

たいへん厚みのある人生を生きたように見える与謝野晶子の文学には、

やはりいろんな意味の迫力がある。

そして悲しいかな、戦争というテーマは、

いつまでたっても古びてくれない。

 

その次に訪れたのは、

北京時代からの友人でアーティストの清水めぐ美さんが参加した

「仮定の微熱」。

 

佐々木すーじんさんというアーティストが

2019年から取り組んでいるプロジェクト

「呼吸による音楽」の一環で、

 

佐々木さんが書いたという「呼吸の譜面」を

共作・出演者である田崎小春さんと

清水めぐ美さんが演じるというもの。

2人の呼吸が交わるように響き合い、

ある頂点に達すると、実が成ったことの象徴として、

小さな球が手から落とされる。

呼吸し、命を維持し、交じり合うことで、

新しい生命が生まれ、受け継がれていくが、

それは世界を無限につなぎながら覆う、

緻密な生命の網の一端が切り取られたもの.……

 

そんなことを想像させるパフォーマンスだった。

呼吸を整えるというと、どこか内向きな印象があるけれど、

呼吸とは本来「外」、つまり環境と繋がっているものだ。

 

そして、観客の誰もがやはり「呼吸」をしている。

つまり、単なる鑑賞者ではいられない人々が、

演じ手とそこはかとなく繋がりながら

非日常化された呼吸に耳を傾けている、という状況が面白かった。

 

最後は、駆け込みで映画『国宝』を鑑賞。

やはり私だって時には、流行について行きたい。

それに、映画がフォーカスしているのは、歌舞伎という舞台芸術。

これは大画面で観ない手はない、ということで

画面の大きな映画館へ。

 

作品は評判通りの見応えで、

とくに役者たちの演技力やカメラワークなどが素晴らしかった。

歌舞伎の世襲制度というテーマについても、

分かりやすく、でも適度に後ろに引いた表現で扱われており、

お陰で抵抗感なく、深く考えることができた。

 

じつは私は、人間国宝だった3代目中村鴈次郎さんに

直接取材をするという幸運に恵まれたことがある。

歌舞伎通でもないのに、

ただ北京在住の文化ライターだというだけで

チャンスがめぐってきたのだ。

中村さんが4代目坂田藤十郎を襲名される直前のことだった。

 

その時に目にした、

中村鴈次郎さんの柔らかで艶のある表情やしぐさ、

心のこもった偽りのない言葉は

今も印象に深く刻まれている。

子供の頃に梅蘭芳の舞台を目にした時、

どれほど心動かされたかを語った時の言葉の、

何とも言えない深さ。

その話しぶりには、素人の私をバカにしない

心の広さや大らかさもにじみ出ていたことを

しみじみと思い出す。

 

年齢を重ねた名優の方にはきっと、

時を経ても色あせないようなオーラがあるのだ。

 

映画『国宝』でも、

名女形の晩年の姿を演じた田中泯さんの存在感がすばらしかった。

あれは北斎役を超える名演じゃないだろうか。

 

そんな感慨を覚えながらも、家に帰るとつい、記憶に呼ばれ、

どうしても「さらばわが愛 覇王別姫」が観たくなった。

今は便利なストリーミング時代。

早速作品を探し出して鑑賞し、

やっぱり名作だなあ、と感慨を新たにする。

 

『覇王別姫』において絶妙なのは、

舞台で演じられる世界と

映画の中で現実とされている世界の

絶妙な重なり具合だ。

時代背景も、じつにリアルかつ生き生きと描かれているし、

愛憎からまりあう駆け引きの錯綜ぶりも、何とも生々しい。

 

『国宝』から『覇王別姫』へ。

新しい作品に触発されての、再発見。

これも映画の醍醐味だろう。

 

最後にちょっとショックだったのは、

スラバがこの映画をまったく知らなかったこと。

表現を仕事としていて映画も好きなのに、

お隣、しかも歴史や社会制度の多くを共有する国の

同時代の映画の代表作を知らないなんて。

 

芸術は国境を越える、なんていうけれど、

それは「越える流れ」がちゃんとある時の話なのだと、

改めて実感させられた。

 

 

 

 

 




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