近代大阪の企業者群像 : 機械工業を中心に / 沢井実著. 大阪大学出版会, 2025.3 294p, 20cm
(書影は出版社のウェブサイトよりリンク取得)
著者の沢井実氏は、1953年和歌山県生まれで、東京大学で博士課程を経て大阪大学で経済学博士を取得し、現在は大阪大学名誉教授。専門は、日本経済史、日本経営史で、現在は京都にある住友史料館館長である。さらに、わが『大阪社会労働運動史』第10巻(公益財団法人 大阪社会運動協会編・発行)の編集委員代表に就き、40年近く続いたこの刊行事業を締めくくる役割を担われたことも、感謝の気持とともに付け加えたい。
本書の帯には、〝「商都」大阪は同時に「工都」であった〟という見出しが記されており、本書刊行の意図は、以下のようにアピールされている。
「大大阪」の時代、大阪は「商都」、また「東洋のマンチェスター」として名をはせたが、同時に「工都」であり、機械金属工業が集積する都市でもあった。本書では、戦前期大阪の機械工業界において重要な地位を築いた企業の経営実態を明らかにし、9名の野心的な創業者のケーススタディを通して、企業発展の主体的条件を考察する(出版社のウェブサイトより)
<9名の創業者型企業家像(戦前期)>
本書に登場する企業者は次の9名であり、戦前期大阪における彼らの企業者活動を通して企業経営、技術革新の実態に迫り、経営者を中心とした人的ネットワークのダイナミズムを追跡している。
- 若山瀧三郎(若山鉄工所)
- 溝口 良吉(溝口歯車工場)
- 酒井 寛三(酒井寛三商店)
- 椿本 説三(椿本チエィン製作所)
- 桑田 権平(日本スピンドル製造所)
- 小林愛三・品川良造兄弟(大阪変圧器)
- 山田多計治(大阪機械製作所)
- 柴柳 新二(恩加島鉄工所・日本鍛工)
彼らが活躍した時代は、後発工業国日本が技術的キャッチアップに邁進していた時代であった。彼らはさまざまなルートを通じて欧米諸国の先進技術を懸命に学び、制約の多い日本にそれを定着させようと努力を重ねた。
<彼らの共通点と経済成長の内実>
対外的技術格差の縮小、キャッチアップを企業者精神の根底に据え、不足する経営諸資源を豊富な人的ネットワークを通じて調達するというのが、本書の登場者の共通点である。
彼らは、いずれも数多くの同業者の中でも際立った「成功者」である。しかし、著者の関心は、成功の秘密ではなく、彼らの日々の小さな実践と革新、変化する流通・市場、経営環境に対する彼らの認識にある。戦時期における軍需の拡大は、企業家にとって事業拡大の大きな機会であったが、酒井寛三(第3章)にとっては、軍需拡大は逆風であり、桑田権平(第5章)も自らが開業した会社が軍需生産を拡大すると、静かに退場し、学術支援に邁進するというように。
これらの過程は、ドラマに仕上げたいようなタッチで、各章とも人間像に迫って描かれている。
終章では、「戦前期大阪は、創業者型企業家、Captains of Industry に活躍の舞台を提供しただけでなく、彼らが継起的に出現したことが重要であった。創業者型企業家の継起的出現を準備したものこそ経済成長の内実であり、時代精神であったといえよう」(p.264)と結ばれている。
そして、西日本一円から関西、大阪にやってきて活動の場を定めた、さまざまな背景を有する人々の努力の結晶が、経済成長の内実であり、革新の源であったと。
伍賀 偕子(ごか ともこ)
