2018年にエル・ライブラリーのイベントで講演していただいた杉本弘幸さんの著作を紹介します。
それは2025年3月に発行された、杉本弘幸著『ヨイトマケとニコヨンの社会史 戦後失業対策事業・失対労働者研究序説』小さ子社、です。

ヨイトマケだのニコヨンだのと聞きなじみのない言葉がタイトルに並びますが、ヨイトマケについては美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」が話題となったためにご存じの方も多いかもしれません。何度聞いても涙なしには聞けない名演がYoutubeにアップされています。
https://www.youtube.com/watch?v=8NK9jtPyQdk
本書はそのヨイトマケ、そしてニコヨンと呼ばれた失業対策に従事する日雇労働者たちの姿と労働組合を通じた闘いを史料からあぶりだしていきます。「被差別部落民、在日外国人や高齢者、女性たち、様々なマイノリティやジェンダーバイアスが含み込まれた失対労働者を対象として、ゆらぎやゆがみ、格差・社会的差別などを組み込んだ彼/彼女らの権利主体化過程の解明とその困難を、一次史料をもとに実証的に分析する」という惹句の通り、著者はこれまで資料の発掘と整理にも大きな労力を割いてきました。その成果として、『戦後失業対策事業・失対労働者関係史料集成』(近現代資料刊行会、2024~2025年)が挙げられます。
では本書の目次を見てみましょう。
序章 戦後失業対策事業・失対労働者研究の意義と射程
第一部 戦後失業対策事業・失対労働者とジェンダー・社会的マイノリティ
第一章 全日本自由労働組合婦人部の形成と構造
第二章 戦後失業対策事業・失対労働者と部落問題
第三章 戦後失業対策事業・失対労働者における在日朝鮮人
第二部 戦後失業対策事業・失対労働者と都市社会
第四章 戦後失業対策事業と失対労働者運動の構造と展開
第五章 戦後都市社会政策と女性失対労働者
第六章 戦後失対労働者における自立演劇サークルの上演活動
第七章 失対労働者の存在形態と権利主体化の問題
終章 成果と課題 戦後失業対策事業・失対労働者年表(1946~1960年)
本書は1946年から63年を対象とし、これまで無視されてきた失対労働者の運動について言及し、研究学説史にとっての課題を提示しています。第1部で全国的動向を論じ、第2部で京都市域を事例として論が展開されていきます。多くの資料を渉猟して次々と明らかになっていくその実態、女性や在日朝鮮人団体の運動も多くの紙幅が割かれており、その時系列に伴う変化や「滞留」にも興味をそそられました。
「戦後社会運動史研究については、マイノリティが行う社会運動内も、マイノリティ間においても、常に社会的差別や矛盾が存在するため、マイノリティを分類し、分析する方法では、階層間格差やジェンダーバイアス、社会的差別の問題を串刺しにしてとらえられないことを示」(p.301)した、と結論づけられています。
最後に今度の課題としていくつも提起されていますが、失対事業の研究は始まったばかりだとして、本書を「序説」として位置付けています。
なお、本書の中で当館エル・ライブラリーにも言及していただいています。ありがたいことと喜んでおります。(谷合佳代子)