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地名屋さんが残した1冊

 先週金曜日のこと。(8/29)
勤務時間中ではありましたが、子どもたちは単元テストに取り組んでおり、支援の必要の無い隙間時間でした。
そこで私は、ほいさっさ!と教室を抜け出して、階段トコトコ2Fへ昇り、後期課程向けの本が並ぶ図書室まで参りました。

何か良い本無いかしら?

目に入った2冊を手に階下へと戻りました。

そのうちの1冊、アイヌ語地名を歩く』を今記事の話題にいたします。

  • ノーブランド品
結婚を期にこの土地で暮らし始めて、40年余が過ぎました。
北海道に寄せる思慕の思いがすっかり定着している私です。タイトルを見るや迷わず手元に寄せたのは、そんな理由によるものでしょう。

 前書きに続くページをめくれば、「札幌という美しい名」というタイトルがトップを飾ります。
著者の山田秀三氏は、札幌という音の響きの美しさに魅せられたというのです。

SAPPOROの何が美しいのか?
どうしてそう感じるのか?
言葉で説明することの叶わないその思いに私は共振したのです。
さらに、
「ああ、私はこの夏札幌に居た」
と呼応したのでした。

 山田氏は明治32年(1899)年東京で生まれ、東京で育ちました。

お祖父様が札幌に住んでおられたため、その地への憧れを抱きながら育ったそうです。
山田氏が念願の北海道に足を踏み入れたのは、昭和の初めのことでした。
氏は、そこで触れた北海道の地名を「何か美しい音だ」と感じたのです。

なかでも札幌っていう言葉の響きがたまらなくいい。ああ、これが北海道だな、とうれしくなった。私にはこれがアイヌ語地名との初めての出会いである。

 その後、アイヌ語地名の残る土地を訪ねて記録に残すことが山田氏のライフワークとなっていきました。
道楽でやったことと書かれてはいますが、山田氏のこの作業への傾倒ぶりが生半可なものではなく、書架に並んだ資料や写真、メモの量は膨大なものとなったそうです。

北海道新聞社からの依頼に応じ、調査の思い出が紙上で連載されました。
その記事がまとめられ、1冊の本となったものが本書です。(初刷1986年)

 北海道の地名に惹かれた山田氏ですが、その独特の音の響きは、そられがアイヌ語由来であるからにほかなりません。

 私がこのような知識を持たず、北海道に憧れていた頃、道内に多くみられる「別」を、本州から遠く離れてここに住みついた人々の心情から名付けられたものなのだろうか?
と勝手な想像をしたものです。
倉本聰氏がドラマで使用した「悲別」という架空の地名にも何か、このような情緒を感じてしまいますね。

しかし、「別」は、川を意味するアイヌ語の「ペッ」に、音が似ているため「別」の字があてがわれたに過ぎないのです。

札幌のサツは、「乾いた広いところ」を意味する「サッ・ポロ」説と、「大きな湿地のあるところ」を意味する「サリ・ポロ・ペッ」説の二つの対照的な説があるようです。

大きいや広いを表す「ポロ」や「ホロ」は「幌」という字があてがわれ、道内の多くの地名に残されています。


このように、アイヌ民族が生み出した地名には、その土地の姿が如実に表現されているのです。
山田氏は、地名の音に着目すると共に、実際に足を運び、それが意味する土地との合致を確かめる旅を始めたのでした。

 和人入植前にアイヌ民族が目にしていた蝦夷地の姿は、当然ながら昭和の時代には変貌を遂げており、地名が意味する地形を探り当てるのは容易なことではありませんでした。

 本書を読みながら、別のもう1冊のことが頭に浮かびました。アイヌ語地名と地形の照合を確かめるために活動した方の著作物…過去記事にも残したはず!
見つけました。
そうそう、これこれ!

kyokoippoppo.hatenablog.com
筒井功によるアイヌ地名の南限を探る』(2020年発行)という本について書いています。

どこで見たどなたの説かはわかりませんが、「アイヌ語に由来する地名は、日本各地に存在する」というものがありました。

黒部は「クル・ペッ」由来
所沢は「ト・コロ」由来
別府もアイヌ語由来である…というように。

えっ!北方の民といわれるアイヌの言葉が日本各地に?

そんな疑問と共に、興味を抱いていた私でしたので、図書館で『アイヌ地名の南限を探る』というタイトルを見つけるや迷わず手に取ったのです。

音がアイヌ語と似ていたり共通というだけでは、単なる語呂合わせに過ぎない…筒井氏はそう断じています。
その上で、地名をアイヌ語由来とする4つの条件を提示しています。

北海道と本土のそれぞれに、同じかほぼ同じ地名が数ヶ所存在すること。
日本語では、まず解釈がつかないこと。
逆にアイヌ語だと容易に意味をつかめること。
その地名が付いた場所の地形、または地物などの特徴が、アイヌ語の意味と合致すること。

の条件を最重要視する筒井氏は、現地に赴き目で見て足で確かめ、写真を撮り検証してゆくのです。

さらには、近隣にアイヌ語由来の地名があればそれも拾ってゆきます。
そうすることによって、たしかにそこにアイヌの集落があり、周辺にも地名を残した証となるからです。

彼の地に赴き、足で歩き、目で確かめる活動は、山田氏の姿勢と重なります。
筒井氏が定めた条件をもとに、アイヌ語地名の南限を定めたものが下記の地図のラインです。



 さて、『アイヌ語地名を歩く』に戻りましょう。
山田氏の活動も、北海道を越え東北地方へと及んております。
内(ナイ)が付く地名に的を絞り、現地調査に赴いています。
東北地方の地図に、内の付く地名を赤字で印していきました。

(それを)見ていると、その中には北海道のアイヌ語地名とよく似ているものが多い。例えば宮城県の保呂内、青森県の母衣内は、北海道にいっぱいある幌内と同じ音だ。
だが、音が似ているというだけじゃ偶然の一致かもしれない。それからは北海道と東北を往復して、その現地を比較対照することを始めた。

山田氏が仕上げた「内の地図」は、下記のように境界線が引かれたようです。

一部重ならない部分はあるものの、山田、筒井両氏の線引きは、ほぼ同じ見解に落ち着いています。
見事なものです。

山田氏も筒井氏も、職業としてこのような活動を行ったわけではありません。

ご自分の興味関心を原動力として追究なさってきた方なのです。
素晴らしく、またとても羨ましい生き方だと感じます。
特に、SAPPOROという音の響きの美しさに惹かれたという山田氏のエピソードは、強く印象に残りました。
このエピソードそのものを美しいと感じる私です。

  *  *  *

 隙間の時間に数行ずつ書き進め、ようやく記事が仕上がりました。 
著書の中で山田氏は、ご自分のことを「地名屋」と称しておられます。
なので、今記事をこのようなタイトルにいたしました。
関連のものを、続けて書くかもしれません。




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