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ルビーとエメラルド

 小指さんによる『偶偶放浪記』(たまたま放浪記)。

有名な観光地などではなく、人々が日々の生活を営むありきたりの場所…そこを偶偶(たまたま)訪れて、目に入ったものや気持ちに響いたものを写真に撮り、漫画にし、文章にしている…
そんな一冊です。

こんな場所あんな場所、様々なところに立ち寄り、目に止まったお店に入ってご飯を食べれは、食レポもしっかりと。



今記事では、本書の中で特に印象に残った「子安」にまつわる部分を書き残すことにします。

子安

 小指さんの故郷は横浜です。
横浜と聞くと、山下公園、外人墓地など、キラキラとしたオシャレなイメージが浮かぶかと思うのですが、小指さんのご実家がある場所は子安浜
小指さんによれば、
「横浜」で一、二を争う激渋スポットなのだとか。

とある日のこと、小指さんは、子どもの頃から馴染のある子安駅周辺を歩きました。

その日の朝の描写です。

窓を開けると、時々明らかに見覚えのある太陽の粒子や、塵、においが、何十年も前から同じ形のままやってきたような気になる日がある。
 その日も偶然、そんな気分の日だった。

小指さんにとっての子安は、幼少期に受けた親の愛を思い出させる場所でありながら、お父さんが亡くなってからは、ご自分への呵責がつのり一時期全く立ち寄れなくなっていたそうです。

しかし、気持ちは少しずつ変化して、「幸せな記憶まで手放す必要はない」との思いから散策を再開し始めたのです。

ルビーとエメラルド

 大口商店街の思い出に浸りながら歩く。
昔よく立ち寄ったパン屋さんは残っていたものの、代が変わっており、店内は寒々しいしい印象に感じられるのでした。
幼かった頃の小指さんのお気に入りは

てっぺんに真っ赤なドレンチェリーとアンゼリカがのったカップケーキ。

耳が悪かった小指さんのために、お父さんはせっせと耳鼻科通いに付き合ってくれたそうで、病院で大泣きした日などにそのカップケーキを買ってもらったのです。

小指さんには、赤いドレンチェリーはまるでルビーのように、緑のアンゼリカはまるでエメラルドのように見えて、さんざん眺め尽くした後は、それをほじくり出して水で洗い、それをまた手のひらで眺めてから、ようやく歯の先で小さくかじり取って食べたのですって。

もう、あんなに美味しくて楽しい体験、大人の私が体験することってあるんだろうか

 宝石のように貴重に思えたカップケーキのトッピング。
小指さんはとことん愛しみ味わい尽くしたのですね。

あらあら、私の幼少期の思い出までが立ち昇ってきましたよ。
「春日井のジュースの素」で作った飲み物の、人工的な色や匂い。
それをマドラーの先の小さなスプーンでひとすくいひとすくいして味わったこと。
チョコベビーも、一粒ずつ取り出しては手の平に受けて食べたりしていたなあ。

 夕暮れの大口商店街に、ちらちら歩く親子連れ。
いつの間にか小指さんは、人目も憚らず路上で大泣きするのです。

もし、私が大人になっても横浜に住み続けて、普通に就職して、結婚して、子供も産んでいたら、あの中の誰かになっていたんだろうか?
 両親の心配事や不安も減って、少しでも家族の中に幸せな時間が生まれてたんだろうか。自分のやりたかったことって家族の感情を振り回してまで続ける必要のあることだったんだろうか。

 小指さんとご家族の間に生まれた感情については語られてはおりません。
お父さんが亡くなったことで、小指さんが感じることとなった呵責の理由も語られてはおりません。

魅力的な表現で本を書き、画家としてのお仕事もなさっている、さらには音楽活動もしておられる小指さんは、私にとっては眩しいくらいの存在です。

それでも、心の中に、このような哀しみのようなものがあるのですね。
いや、違うな。
このような哀しみの種をお持ちだからこそ、小指さんはあの町、この町、あの路地、この風景に心惹かれ、それを表現せずにはいられないのでしょう。

京急線の思い出

 子安は、赤い電車京浜急行電鉄の路線にある駅です。
そして私にとっても、京急線はとても思い出深いのです。
私のノスタルジーも、掻き立てられます。

なので、ちょいとこいつもお邪魔させていただきます。

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