Lifeguardというバンドと、バンドが拠点にしているシカゴシーン、及び関連アーティストやシンパシーを感じたアルバムについて書きました。
Lifeguard - Crowd Can Talk/Dressed in Trenches(2024)

Lifeguardはここ数年シカゴのインディーシーンで話題となっているHallogalloというZINEを主宰、及び編集を担当しているカイ・スレーターが率いるバンド。Hallogalloを中心とした同コミュニティのバンドが今では多くデビューしていて、来日もしたFrikoやHorsegirlといった近年話題のバンドも同シーン出身。Lifeguradはベーシストであるアッシャー・ケースがFACS/Disappears/90 Day Menのブライアン・ケースの息子で、ドラムのアイザック・ローウェンスタインがHorsegirlのペネロペの弟だったりする。2024年にMatador Recordsと契約し22年のCrowd Can Talk、23年のDressed in TrenchesというEP2枚をコンパイルした編集盤をリリース。アルビニのエレクトリカル・オーディオ・スタジオで録音されたSquirrel Bite現代版と言わんばかりのストレートに真っすぐな吹き抜けの良いパンクロックで、尚且つギターの音だけ抜き出すとUzedaやJesus Lizardと遜色ないんじゃないかってくらい金属的でささくれだったノイズギターをかき鳴らしインディーロックの大使見易さとハードコアが接続された現代らしい音楽性。スタジオの効果もあってドラムとベースに立体的な奥行きがあり、これによってジャリジャリに歪んだギターサウンドが浮き上がってきて初期衝動的な鋭さがある。Dressed in Trenchesの早急さはDie! Die! Die!も連想してしまう。Crowd Can Talkの方はちょっとGang of Fourも入ってる気がするし、Typecastという曲のアウトロは次作へと通じるジャンクなノイズセッションがある。プロデューサーはマイク・ラスト。彼はシカゴの大御所で90s以降のポストハードコア、アッシャー・ケースの父親であるFACSのライブ盤などにも関わっている。
アッシャーは幼少期から親のバンドを見ていたらしいし(時代的にPonys~Disappears初期)、アイザックも兄弟揃って、というか親がインディーロックのファンで家族ぐるみでバンド活動に協力的で、実家の地下室で毎日ノイズをかき鳴らしていたらしく、バックグラウンドが豊富だったこともなんとなく伝わってくる。Horsegirlのメンバーは初対面時Lifeguardの面々ととにかく音楽趣味が合ったとインタビューで語っていて、Horsegirlの強烈な90sのインディーオルタナへの真っすぐな憧憬とは直接的にやってることは違えど根本の部分で呼応するものを外からでも感じるし、お互い10代でまだ交流のあるバンドが少なかった頃に特別な連帯感を抱いたのではないかと想像してしまう。
Lifeguard - Ripped and Torn(2025)

2025年にリリースされたMatador以降の1stフル。No Ageのランディ・ランドールがプロデュース。各パートの分離が良かった前作とは対照的に、全体的にごちゃっとしたノイズロック、全部一つにまとまった鉄の塊のような音に変貌していて、70s~80sのパンクロックを意識したらしくあえてこのローファイ寄りの破壊的な音を選択したのだと思う。実際2023年にThe Jamのカバーをリリースしてたりする(父親はベルリン期のDavid Bowieのカバーを出しててお互いのバンドの音楽性がよく出ている)。最初の数曲は前作の流れを汲んだ爆走ギターロック、メロディもポップなため直系の続編かと思いきや、M4のUnder Your Reachから明らかにディスコパンク的になっていて、M5のHow to Say DeisarやM7のLike You'll Loseといったナンバーではイントロから捻くれたギターリフが最早ノイズとフレーズの中間とも言える音を鳴らしていて、徐々に新しい表情を見せてくる。前作と比べるとフリーキーなアンサンブルでポストパンクの要素も強く、所々ダビーなアレンジがあったり初期のP.i.L.もチラつく。実際This HeatやWipers、00sのディスコパンクの面々をルーツに挙げていてTweez期のSlintの音でもっとストレートにパンクをやったような雰囲気もある。アルバムを作るにあたって10分超えのノイズセッションを録音しそれを元にした曲も多数あるらしく、M8やM10のインスト、M11のRipped + Tornは部分的にその断片を想像してしまう。アルバムの中心にノイズパートやセッションを長尺の曲として挿入する案もあったらしいけど、普通にポップな方がいいってなってこうなったらしく、そういう振り切り方とか楽曲の爆走具合にエネルギーが満ち溢れていて良い。個人的に前作がSquirrel Baitなら今作はSwell Mapsという感じ。
Sharp Pins - Radio DDR(2025)/Balloon Balloon Balloon(2025)

ちなみにLifeguardのカイ・スレーターはLifeguardとHallogalloの編集の傍らでSharp Pins というバンドでも活動中。Sharp Pinsはつい笑顔になってしまうオールドスクールのギターポップ~ネオアコで、Flying Nunの面々も思い出す。こちらは2025年にアルバムをリリースしていてなんとインディーロックの聖地オリンピアのドンことキャルヴィン・ジョンソンのK Recordsと契約。あまりにも直球だし、シンプルに素晴らしいメロディと美しいハーモニーを聞かせる作風に惚れ惚れとしてしまう。そしてまさかの年内11月にもう一枚アルバムをリリース、こちらはもっとオールディーズのサイケデリックな雰囲気がありジャケから露骨に60s的、Byrdsっぽいことを共通項として個人的にPrimal ScreamのSonic Flower Groove現代版として聞いてしまう。ラフで自然体な感じがロバート・ポラードっぽいとこもある。

カイ・スレーターはLifeguard以前にDwaal Troupeというバンドにも在籍していて、こちらもシーン渦中のかなりジャンクでグッドメロディなUSインディーど真ん中。またFrikoやHorsegirl以外のシーン内のバンドだとPost Office Winterが90sのUSインディーから現代のアコースティック~ベッドルームの流れもなぞったようなハイブリッドなインディーロック。結構みんなそれぞれ好きな音楽を吸収してる自由な空気感はサウスロンドンと比較するとかなりラフな感じで、Horsegirlの音楽性はストレートに90sオルタナのリバイバル。Sonic YouthやDinosaure Jr.をルーツに挙げつつ、わかりやすいポストパンクのオマージュやシューゲイザーを通過した轟音要素が自然に入ってきて、尚且つ歌ものという一点でキャッチーに聴けてしまうのがすごくインディーロック的。Matadorと契約したことでPavementやYo La Tengoの直系と位置できるし、1stのVersions of Modern Performanceはエレクトリカル・オーディオで録音されている。Frikoはシンプルに歌の要素が強く、Arcade FireやBright Eyesといったバンドと比較されることが多い。Hallogalloは2020年当時まだ10代だったバンドのメンバーがコロナ禍でなにかやりたいと作られたZINEらしく、パンデミック禍の連帯感も強くあったのだと思う。

ちなみにHorsegirlは1stリリース後にメンバー全員が高校を卒業、進学を機にニューヨークに引っ越し現在はHallogalloから離脱したらしい。25年に出た2ndのPhonetics On and Onは活動拠点を移してからのアルバムで、音数を減らしたシンプルなインディーロックへ転向。スカスカだけどスロウコアやポストロックとは全く違った歌もの要素が強くヴェルヴェッツを思い出す。ニューヨークはWater From Your EyesというUSインディーの歴史に新しくページを刻むような新進気鋭のバンドが活動していて現在交流があるらしく、こちらも25年にアルバムをリリース(マジでめちゃくちゃ良い)。MatadorのレーベルメイトってのもありインタビューでHorsegirl、Lifegurdにも言及している。ニューヨークは他にもModel/ActrizやYHWH Nailgunといったエクスペリメンタルなバンドも多数同年にアルバムを出していて、シカゴと比べるとかなりフリーキーなインディーシーンが形成されている。ブルックリン繋がりでかつてのAnimal Collective、Gang Gang Gang Dance、Black Diceといったかつてのニューヨークシーンのリバイバルとして捉えられているらしい(ミュージックマガジン2025年8月号で詳しく特集されている)。あと全然関係ないけど同じくブルックリン発のbloodsportsというIceageやUnwoundを思い出すポストハードコア~スロウコアを現代にアップデートさせたバンドが2025年出てきてこちらも最高。
DIYなZINEを元に連帯してインディーシーンが形成されたというのはやっぱりサウスロンドンシーンのことも外せないだろう。こちらのインタビューではblack midiとBlack Country New Loadとの交流が語られていてインタビューを担当した天井潤之介氏は上記のミュージック・マガジンの特集も担当。
今回1stリリースにあたっての特集記事。ZINE始動の詳しい話から後にDIYなフェスへと深化していった経緯などが見れる。
ちなみに2024年10月に出たミュージック・マガジンに今回のシカゴ・シーンがもっと幅広く紹介されてます。Hallogalloは勿論、交流がなくともシカゴという共通項からDehdやRatboys、Finom、Squirrel Flowerといったちょっと上の世代のバンドもまとめたディスクガイドもついている。
先述したニューヨーク・シーンについての号。上記のと並んで二冊読めばかなり充実した現行USインディーを総括できるのではないかと思うし、本記事が何かのきっかけになれば幸いです。
以上でした。サウスロンドンはバラバラですがかなりの枚数このブログで触れてきたのでいつかまとめたいと思ってます。ニューヨークシーンは個人的にとても熱くて、割と00s~10s初期と自分のリアタイと近い頃に雑誌やインターネットで情報を見てきたシーンであり、もうそれがリバイバルの対象になるのかという衝撃があります。あとたまたまSly Stoneの追悼号を買ったらついでに載ってた特集でシーンそのものを知ったという偶然も良かったです。Model/Actrizは元々好きで前作もこのブログで取り上げているんですが、フジロック配信が話題となったYHWH Nailgunは本当に衝撃を受けたし、Water From Your Eyesに関しては個人的にかなりやられました。今後もリリースが楽しみです。自分は世代的にインターネットに触れたのがちょっと遅く、好きな音楽シーンはいつだって後追いだったんですが、現在こうやってリアルタイムで盛り上がってるものがあり、ちゃんと触れることができるのも嬉しく思います。
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Lifeguardのアッシャー・ケースの父親、ブライアン・ケースが在籍したバンド各種について以前書いたものです。最後のアルビニ録音でもあるFACSについてガッツリまとめてます。こちらの最後でHallogalloやLifeguradについて切り込んでいて、その直後にLifeguardが1stを出したということで今回はそこをピックアップ。続編っぽい趣があるかと思います。

