はじめに
これまでエンジニアとして、いくつかのプロジェクトでマネジメント的な側面に軽く触れたことはありました。でも、ピープルマネジメントのような領域も含めて、正直に言えばまだまだ手をつけられていない部分がたくさんあると感じています。
マネジメントに対して苦手意識があるというよりは、エンジニアリング以外の領域に関する引き出しが圧倒的に少ない。そういう自覚がある中で、「このままだと、何か意思決定をしたりチームと向き合う場面で、言葉や行動に説得力を持たせることができないな」と思っていました。
そこで最近は、マネジメントや組織に関する本を少しずつ読み始めています。まずは理論的に整理された本や、参考文献が豊富に載っているような堅めの資料からしっかり学ぶようにしています。ただ、そういった本だけでは、自分の中で「腹落ちする感じ」がなかなか得られないこともありました。
そのため最近では、実際の体験や現場での試行錯誤に基づいた本にも目を向けるようにしています。特に新しめの本には、最近の組織や働き方の変化を踏まえた内容が含まれていることも多く、今の自分にフィットする視点が得られることが多いと感じています。
そうした中で出会ったのが、このという本でした。今回この記事では、この本を通じて得た気づきや、特に印象に残ったエピソードについて、自分なりの視点から振り返ってみたいと思います。
本の概要
『マネジメントは嫌いですけど』は、ソフトウェアエンジニア出身の著者が、自身のマネジメント経験をもとに綴った全8章からなる書籍です。タイトルの通り、マネジメントに対して前向きになれないエンジニアの立場に寄り添いながら、実務の中で直面する具体的な課題や考え方がまとめられています。
各章では以下のようなテーマが扱われています:
- マネジメントできるのは未来だけ
- 理想を描いて余裕を作る
- 部下は思い通りに動いてくれない
- 学べる仕組みを実装する
- キャリアパスから組織を考える
- 組織の中のお金の理屈
- 完成したマネジメントなんてない
- 正解のない世界でマネジメントをしていく
印象に残った話
解決病からの脱却
本書の第1章では、「マネジメントは未来しか変えられない」というスタンスが提示されていますが、その中でも特に印象に残ったのが「解決病」というキーワードでした。
本書における解決病とは、課題に対して“自分が今扱える手段”だけで何とかしようとしてしまう状態のことを指しています。
特に、人間関係や交渉力に頼った対応がメインになっていくと、その手段の特性上、“自分の間違い”を認めづらくなる構造が生まれてしまうという指摘がありました。
たとえば、人を増やして課題を解決しようとする場合、他組織との交渉や調整が必要になります。その交渉の場では、自分の正しさや正当性を主張することが前提になるため、「やっぱり間違ってました」と素直に軌道修正することが難しくなってしまう。
結果として、間違いを認めることを避けるようになり、視野が狭くなり、柔軟性を失い、本質的な課題には向き合えなくなってしまう——こうした“悪循環”こそが、解決病の怖さとして描かれていました。
この章を読んで、自分の中のマインドセットを改めて見直すことができました。
マネジメントでは、“人を動かす力”や“その場の問題解決力”だけでやっていくのではなく、中長期の視点に立ち、理想の状態から逆算して今やるべきことを選ぶというアプローチこそが重要なのだと、改めて感じました。
技術者はマネージャーを無意識に“テスト”している
「技術者はマネージャーを無意識にテストしている」という本書の一節には、思わずドキッとさせられました。
もちろん、これは意図的に試すという意味ではなく、まだ信頼関係が築かれていない段階で、相手の力量や頼れそうかどうかを自然と探ってしまうという話です。
恥ずかしながら、自分にもそういうところがあったと思います。
日々の会話などから、「この分野、詳しくないのかな」「何かあったとき頼れるのかな」と無意識に気にしてしまうことがありました。
そこに悪意があったわけではなくて、純粋に判断材料が少ない中で、安心して頼れる相手かを探していただけだったんだと思います。
でもふり返ってみると、「マネージャーは何でも知っていなければならない」という無言の期待や、少し硬直した見方をしていたようにも思いました。
マネージャーだって当然人間です。知らないことがあるのは当たり前だし、むしろお互いの知識や強みを補い合える関係を築くことのほうが大事。
この章は、そういう当たり前のことを、自分自身に優しく問い直してくれた気がします。
科学的なアプローチでマネジメントする
第4章の中に、マネジメントにおいても論理的・仮説検証的な思考を活かすというスタンスが語られていました。
自分自身、「できれば定量的に判断したい」「感覚だけではなく、観測可能なデータで意思決定したい」という気持ちはあるものの、
- 何を観測すべきか?
- どうやってチームの健全性を測るのか?
といった部分については、まだまだ引き出しが足りていないとも感じています。
この章を読んで、データドリブンな判断の仕方については、別で本を読んだりして体系的に学んでいきたいという思いを強くしました。
まとめ
この本は、いわゆるマネジメントの基礎を1から体系的に学ぶための本ではありません。
それよりも、「マネジメントの基礎は理解しているつもりだけど、実際に運用する中で気づいたら落とし穴にハマっている」——そんな状態に対しての気づきを与えてくれる1冊だと感じました。
たとえば、「人を動かすスキル」や「早く結果を出すための判断力」といった、一見有用に思えるスキルも、マネジメントにおいては偏りすぎると弊害になり得ます。
そのバランス感覚を取り戻すための“言葉”が、この本にはいくつも散りばめられていました。
そういった意味で、この本はある程度マネジメントの基礎知識や経験がある人が読むと、自分の実践を振り返り、より地に足のついた判断ができるようになる本だと思います。
一方で、マインドセットや心構えという点においては、これからマネジメントに関わろうとしている人、マネジメントに興味を持ち始めたエンジニアが読んでも得られるものはあると思います。
特に、「マネジメント=人間関係をさばくこと」だけではないという視点や、「完璧なマネージャー像を求めなくていい」という言葉には、安心感と勇気をもらえるはずです。
なので、「この本を最初に読むこと自体」はまったく問題ないと思います。
ただし、この本だけを鵜呑みにして“これがマネジメントの全て”と思い込んでしまうのは、少し注意が必要かもしれません。
たとえば本書では、人間関係や交渉によって物事を解決するアプローチに対して、あえて疑問を投げかけるような箇所があります。
それは「その手段だけに頼ると、チームが本来進むべき方向を見失ってしまう」という警鐘であり、非常に大事な指摘です。
一方で、人間関係を丁寧に築いたり、他部署と交渉するスキルそのものは、マネジメントにおいて確実に必要な力でもあります。
本書の意図も、そういったスキル自体を否定するものではないと思いますが、受け取り方によっては「交渉や関係構築=悪」と過度に捉えてしまうリスクもありそうです。
だからこそ、こうした体験ベースの本を読むときには、「著者がどんな場面でどう考えたのか」を丁寧に読み解きながら、他の視点や知識と組み合わせて受け取ることが大切なのだと感じました。
もちろんこれはこの本の内容やスタンスを否定したいわけではまったくありません。
自分にとってはとても誠実で信頼できる一冊でしたし、今後もこうした実践ベースの本から得られる視点を積み重ねながら、自分なりのマネジメント観を育てていきたいと思っています