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トランプ政権の“汚れ役”?ヴァンス副大統領と司法の綱引き

私が少しひいきにしているアメリカ副大統領のJDヴァンスの発言が物議を醸しているようだ。

バンス米副大統領が司法を批判し、波紋を呼んでいる。財務省が管理する個人情報に、政府の新組織「政府効率化省」がアクセスすることを差し止めた連邦地裁判事に対し「裁判官が行政の適法な権力を縛ることは許されない」とX(旧ツイッター)に投稿。三権分立の否定とも受け取れる内容に「専制だ」と反発の声が上がっている。バンス氏の司法批判に波紋 三権分立否定と反発

これは、アメリカ政治やトランプ政権のエッセンスがつまっていてなかなか面白い題材なので少し深堀りしてみたい。

 

そもそも日本語訳は適切なのか?

原文を見てみたのだが、正直「裁判官が行政の適法な権力を縛ることは許されない」の「適法な権力」という訳には少し違和感をおぼえる。私がコンテキストも加味して訳すなら下記のように訳す。

Judges aren't allowed to control the executive's legitimate power
裁判官が、行政府の正統な権限に介入することは許されない。

発言が「the executive's lawful power」なら「適法な権力」はしっくりくるが、あえて「lawful」と言わず「legitimate」という言葉を選択していることは汲むべきだ。「適法」という訳も文脈によっては間違ってはいないが、「legitimate」に含まれる「慣習に沿い、道義的にも妥当である」という意味合いも加味し、「正統な権限」というほうが適訳で誤解が少ない。

 

そもそもここでいう「正統な権限」とは?

では、ここでいう「正統な権限」とは一体何なのか?これは人によってわかれているが、私は文脈的には以下の通り捉える。

  • 政府効率化省(DOGE)と財務省(Treasury)は、共に行政府に属する

  • 行政府で重要な役割を担う人の任命権限は大統領にある

  • 行政府に行政命令をだす権限も大統領にある

  • 行政府内での役割分担や権限行使は大統領の「正統な権限」である

要するに、「行政府内の役割分担や権限行使について、司法が外からコントロールしようというのはおかしいじゃないか」と言っているわけだ。大統領が「COVID-19のワクチンを全国民摂取しなさい」と法律の裏付けなく国民に
強制するのはいけないけど、自分がトップの行政府内の差配については「正統な権限」があるんじゃないか、というのがここでのポイントだ。
ヴァンスは法律家らしく、「セイラ・ロー判決」という「大統領が行政府の大きな権限を持つ人を解任できない構造はおかしい」という過去の判決をひいてきているのも興味深い。

 

そもそもDOGEってどうなのか?

以上のことをみると、言わんとしていることもわからなくもないし、司法と行政の権力の綱引きのようにも見えなくもない。が、そもそもの政府効率化省(DOGE)の法的な位置づけが薄弱なところに問題の原点があるように私は思う。

各省庁というのは、法律によってその役割が定められ、議会によって予算も割り当てられている。その法律で定められた役割と割り当てられた予算に従い、行政を執行するのが、大統領をトップとする行政府の役割だ。

が、政府効率化省(DOGE)の役割を定める法律はないし、予算が割り当てられているわけではない。要するに、「タスクフォース」とか「諮問機関」なわけだ。その「タスクフォース」という位置づけの人たちが、「財務省(Treasury)のデータに好き放題アクセスするのは、正統で適切か?」、「国民の個人情報の保護という権利は侵害されないのか?」というところは重要な点であり、裁判官はそこを問うている。

半沢直樹シリーズの『銀翼のイカロス』で白井大臣が任命した帝国航空タスクフォースの悪役の乃原弁護士が、大臣に任命されているからと言って好き放題やる姿をイメージするとわかりやすいかもしれない(読んでない人は何のことやらと思うが)。

 

やっぱり無理筋

なお、私は、ヴァンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が好きで、何度か紹介している。ラストベルトから生まれたアメリカンドリームの体現者であるヴァンスは、アメリカ社会の構造的な問題に切り込む可能性があるのではないかと、ちょっと期待している。なので、応援したい気持ちはあるのだが、やはりこれは無理筋だ。

立法府である議会の協力を得て、政府効率化省(DOGE)の役割と権限を法制化して、そこに予算をつける、これがあるべき順序だ。きちんと法的な枠組みを定めた上で、財務省(Treasury)の情報を存分に精査すれば良い。

上院も下院も共和党が過半数をとっているのだから、やればいいじゃないかと思うのだが、ここがアメリカ政治の面白いところ。多分、トランプもヴァンスも議会を通すことができるか微妙と思っているのだろう。

アメリカでは議員と大統領は全く別の選挙で選ばれており、連邦議員が大統領を支えるという発想はあまりない。党議拘束が強い日本の政党とは全く異なるのだ。トランプも前回大統領だった時に、「メキシコとの国境に壁を作る!」と言ったのだが、議会から予算が割り振られなかった、という痛い記憶があるので、慎重になっているのだろう。

大統領選挙の際に、大々的に掲げた政府効率化省(DOGE)が、共和党が過半数をとっている状況で議会を通らなかったら、出鼻をくじかれてしまう。多分、トランプ支持者の半分くらいは、大統領令が法律でないことも理解していないので、雰囲気と世論の風で押し切れるところまで押し切りたいと思っているのだろう。

 

頑張れヴァンス

以上のようなことを考えると、今回のヴァンスは汚れ役だ。当然、そういうお鉢が回ってくることを前提に職についているのだから、気の毒とも思わない。そして、こういう汚れ役を今後もヴァンス副大統領は引き受け続けることになるだろう。今回の件は残念ながら支持できないが、今後も引き続きネタを提供して欲しい。なお、アメリカ政治の構造については、下記が非常にわかりやすく、詳しいのでおすすめ。

 







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