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小説「呪師」其の弐拾四

 

新右衛門は久光らしき男の後をつけていった。

これは浅草の方へ行く。久光に間違いない。

街角を三つほど曲がると、何と久光こちらを見て立っていた。

「これは岩間様、なにかみどもに御用ですかな。」と笑っている。

 

「さいぜんからつけておいででしたが・・・」というと

新右衛門は正直に「いや、意外なところから出てこられたので気になって」というと、

笑って「岩間さまこそ命婦に前世占いをしてもらいにおいでですか?そうともお見受けしませんが」

 

「・・・・実は御手前が指摘した小助が蓄電(逃亡のこと)いたしましてな。彼を探すうち、小助が実はこのところ「百足大権現」に出入りしていたとわかったのでござる。」

 

「ほう」

 

久光は「みどもの方は探りです。いわば同業者の。」と言っていたずらっぽく笑った。

「・・・」

 

「立ち話もなんですからどこか茶店にでも」といって茶店ならぬ居酒屋に久光は入っていった。

 

「お手前はいける口か?」

「ええ、仏家と違いまして、陰陽道では飲食の禁忌はありません。」

 

「岩間さまは?」

「や、好きです。」

 

この男、何か、お高く留まっていささか虫が好かぬと思っていたが案外好人物やもしれぬと新右衛門は思った。

「酒が入る前にお尋ねしたきことがござる。」

 

「なんでしょう。」

 

「ほかならぬ小助の行方です。わかりますか。」

「看ましょうか?ただし、わたくしも商売、ここは岩間様のおごりということならどうです。」

「承知いたした。」

 

久光は袖の中から何か票の様なものを書いた冊子を取り出して指で刻限を数えた。

「式占というものですか?」

 

「さよう、」「式盤とかいうものがなくても占えるのでござるか?」

「ああ、慣れたものにあの様なものは無用。飾りでござる。」という。

「ああ、これはギリギリ、かのものが危ないですぞ。」と久光。

「どこにいけば?」

 

「今はいくら探しても無駄でしょう。明日には空亡が明けますから、川へ、水辺へとか出ております。東ですな。時刻は酉の刻です。」

 

「こころえた。」

「さ、今日は岩間さまのおごりですからたんといただきますぞ。」

 

翌日の酉の刻、もう晩秋ともなれば夜である。屋敷より東方の川と言えば大川つまり墨田川である。

 

墨田川と言っても長いので屋敷より東の範囲だけ新右衛門が提灯をもって土手を歩いていくと、果たして誰かが川の前で手を合わせ念仏している。履物は草鞋だがそろえてある。

 

これは身投げだな!

「おい、待て。そこの者、死ぬな!」と声をかけるとなんと男は小助であった。

「あ、あなたは岩間さま?」

「探したぞ。小助」

「勘弁して下せえ・・・」小助は泣き崩れた。光久の占いはあった。

 

とっぷり暮れた土手の上で小助はしゃがみこみ、自らのこれまでをぽつりぽつりと話しだした。

新右衛門が横に並んでしゃがんで聞いた。

 

思ったように小助は居酒屋でカエデと出会った。

始めは「中間さんお酒おごらせてくださいな。死んだ私のお父っあんもさる御旗本の中間だったの」というところから始まった。

 

話はだんだんと世間話から身の上話、そして神様の話になっていった。

今は故あって有難い過去も未来も見通せる神様のお手伝いをしているという。

そのうちその神様が一度。小助に会いたいという。

 

特別にただでみてやるとのこと。

そして言われたのが「そなたが今仕えている旗本の先祖は、お前の先祖を源平の合戦で殺した。お前はいわば先祖の導きで宿世の仇に巡り合えたのだ。先祖のために仇を討たなくては先祖が浮かばれない。お前の未来は暗いぞ。おそらく四十にならぬうちに死ぬだろう。」

小助は25歳だった、後15年と生きないのだと思った。

小助の家は相模の平塚の百姓だったが、先祖が家が平家とも源氏とも知らない。そんな話は聞いていない。

だが命婦から「話はここまで」と言われ次回から一両づつ要求された、命婦の話は荒唐無稽ながら何とも人を引き付けるものがあり、小助はどうしても続きが聞きたかった。

 

そして再度金を工面して訪れた。

「中間の私がどうして今の主家を害せましょう。私の様なものに仇など討つ力はないです。」というと

「術を授ける」としてくだんの黒猫の生き埋め法を教え、また人型を渡された。五両もの金を要求されて金は仲の良かった太市から借りることとなった。

 

「この人型は屋敷の門に忍ばせよ。

猫はとらえて箱に入れ出入りの庭師、大工などに穴を掘らせ、豹尾神の方に穴を掘らせよ。これは人に見られたら効果のない出世のまじないで殿さまからの依頼というが良い」といわれた。

 

埋めたのは太市だった。「なにせ秘密のまじない」と言われ、日が落ちてから密かに穴を掘って猫の入った箱は小助が置いて埋めさせた。

全て小助の仕業だった。

 

ことが露見しそうになり屋敷から逃げて「百足大権現」にいくと、「そなたの様なものは知らない。帰れ。」といわれ、

カエデからも「命婦様に迷惑をかけないで。」と言われた。

 

小助はおいおいと泣き「俺が愚かでした。御手討ちになるのがこわくて逃げましたが、どうせ先がない身の上となって今は大川に身を投げて死のうとしていたところ、ですが、こうして岩間さまに話を聞いていただき、決心がつきました。屋敷に還ってお仕置きを受けましょう。」といった。

新右衛門はしばらく考えていたが、ふいに小柄を抜くと「小助よ、手を合わせて動くなよ。」といった。




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