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小説「呪師」其の弐拾参

新右衛門はやれやれと思って、まずは小助の行きつけらしい居酒屋を同じ中間の善太からの勧めもあり探ることにした。

 

すると何軒かあたっているうちに、「お侍さん、お侍さんは辻井様のご家来ではございませんか?」と声をかける男があった。

 

「いかにもそうだが、そのほうは?」というと

 

男は「俺は大工の太市というもんで、御屋敷の小助さんとはなじみの飲み仲間です。小仕事や修理で御屋敷にも伺ったことが何度もありますよ。」

そう言えば何となく見覚えがあるような気がしないでもない。

 

「そうか。それはちょうどよかった。そなた、このところ小助を見なかったか?」

 

「え、小助さんを探していなさるんですか!。実はおいらも小助さんを探してるんですが。」

 

「お主は何用あって探して居る。」

 

「実は小助さんにお金を用立ててまして、一向返してくれねえんで困っております。はい。」

 

「小助目、なんの金か。呑み代か・・・女か。バクチか?」

「へえ、女…だと思いやす。」

 

「何!女だ?」

 

「小助はどこぞの岡場所の女郎にでも入れあげてたのか。」

太市は

「いえね。そんなんじゃねえんですよ。なんでも「前鬼の命婦」とか言う巫女さんだか尼だかのところへ誘う女がいましてね。確かカエデとかいってたな。最近は見ないけどひょんなことから小助と知り合いになったららしいんで。

小助のやつはその女が信者だもんだから、その前期の命婦のとこへさそわれていったようなんです。まあ、小助にはもったいないようないい女だからはじめはつきあいで引かれていったんでしょうけど。」

 

「で、どうしたのだ。」

「それがどういうわけか小助まで入れあげちまって、最近は俺は酒はやめたんだ。前鬼の命婦様のところにいくのに金が要るからとめっきり付き合いも悪くなっちまって、」

 

「うん、ここ数日、ずっと体を壊していたからそなたも奴を見なんだとは思うが。」

「そうですかい。もう、よくなったんなら、奴は亦、命婦様とやらのところかしれません・・・」

 

「その「善鬼の命婦」とやらはどこにおるのだ。」

「へえ、人形町の水天宮のあるちょっと先です。」

 

「その界隈じゃ最近、百の足の神様といわれて人気ですぜ。」

「そりゃ、むかでさまか?」

「いえ、モモタルと読むようです。何でも足りるから百足様なんだとか。」

 

「そうか、相分かった。・・・いろいろすまぬな。何かわかれば小川町の辻井邸に岩間新右衛門と言って尋ねてくれ。」新右衛門は多少の酒代を太市に掴ませて店を出た。「こりゃどうも!」

 

太市が追いかけてきて、のれんを巻き上げて「だんな、小助に遭ったら金を返すよう言ってくださいよお!」といった。

「おう、言っておこう。いかほどか?」「ざっと十両と三分でさあ。」、

ずいぶん借りたものだと新右衛門は呆れて思った。

 

さて、足を延ばして水天宮の先まで行くと赤に白く染め抜きで「百足大権現」と書いたのぼりが出ている。

お宮というより民家だが、道まで人が並んでいる。

「こりゃ流行り神だな。」

 

ついでに様子を見ようと近づくと、「ああ、お武家様、命婦さまの見通しをしてもらいにきなすったのですかね。どうぞ、こちらにお並びなさいまし。」と「百足大権現」と染め抜いた藍色の法被を着た男に声をかけられた。

 

一応、座敷の前に受付けらしい場所が張り出している。そこに緋色の袴を着けた若い女がいて男らから「カエデさん」と呼ばれていた。ああ、この女が小助の…と思った。新右衛門は確かに美しいは美しいが、まあ小助には似合わぬなと苦笑した。武家の若後家という雰囲気の女だ。

 

所詮、この女も本気で小助を相手にするのではなく、布教のつもりだろう。

 

「ここはどんなことをしてくれるのだ。」と前に並んでいる商家の若旦那風な男に聞くと

 

「え、アナタ、しらないでならんでいるのですか?酔狂なお武家様だ。ここは善鬼の命婦様というエライお方が神通力で過去世の因縁の御見通しをしてくださるのですよ。」

 

「ほお、そなたはよくくるのか?」

 

「いえ、二回目でございます。」

 

「あたるのか?」

 

「それはもう!」

「どうして当たるとわかる?過去世のことなどだれもおぼえはあるまいに」

 

「命婦様がお祈りを始めますと、奥のとばりが左右に開いて徳利に刺した金の御弊が動くんでございます。それは不思議案ですよ。

命婦様が言うには百足様が感応を垂れられたということでございます。

あたしなんざ、前世は高僧に水一杯恵んだ功徳で今の神代があるんだそうでございます。ああ、有り難い 有難い。」と道からもう伏し拝んでいる。

 

「礼録はいかほど納めればよろしいのか?」

「人に依りますが・・・最低でも一両ほどは」と口に男は扇子を当てて

話した。存外に高いな。なるほど、小助の様な中間では借金せねば来られないな。

するとすれ違いざまに見たことのある男が出てきた。

 

なんと「忌部久光」だった。

 

陰陽師の狩衣衣装ではなく今日はまるで町医者か何かの様ないでたちだったが間違いない。

 

「あ、あれは!」「ちょっと用事を思い出した。また来る。」と法被の男に言って新右衛門は列を離れた。




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