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小説「呪師」其の弐拾弐

ぶじに光明供を終えるや小助の病は数日で回復した。

同時に辻井家にとってはやはり小助の病は猫の祟りという決着になってしまった。

 

小助が本復してから二日ほど後、陰陽師・忌部久光がやってきた。

「ご当家から御用の方がお出でだと隣家から聞きまして、さっそくまかり越しました。

みどもはしばらく下総の叔母が病で祈祷を乞われまして留守に致しておりました。ご不自由をおかけして相すみませぬ。留守中に何かございましたか?」

 

堀田が客間で応対して小助が猫の死体を川流しをしたこと。

その後、俄かに急病で倒れたこと。華蔵院から泰岳が来て光明供に至った一連の話をした。

久光は「それは、それは、大変にご不自由をおかけしました。御屋敷で猫の法要に光明真言の秘法までされたとはなんとも。

みどもがおればそのような大仰なこともせずに済みましたのに・・」と首を垂れて言った。

 

「で、小助とやらは本復したのですか?」

「はい、お陰にて」

 

「まあ、それはようござった。あれから何事もないようであればまあ、深く詮索をせずに終わることも大事です

世の中にはどの道にても敵は必ずあるもの。辻井様のようなお旗本でもそれは同じことでしょう。いいや、なおさらそうかもしれません。

あ、これは口が過ぎましたな。お忘れくださいませ。」

 

堀田は苦笑いした。

「で、今後はもう何も術のようなものは必要ではありませんか?」

 

「猫の式法をつかったのは誰か、呪詛の人型を門に刺したのは誰か?

気になるところではありますが、深追いは禁物。

敵が断念すれば、それは一体どこのだれかなどは詮索せぬが上策というものでしょう。」

 

「・・・さようなものですか。」

「ではみどもはこれにて」と出張費と籠代を少し多く包み帰ってもらうこととなった。

 

 

さて堀田や新右衛門、田島、縫らも見送り、門のところまで来て久光は「そうそう、忘れるところでした。くだんの人型も納めてまいりましょう。」と門の板間を見てみると

 

「あれ、人型がない。これはなんとしたこと。誰か抜かれたのか?」

 

縫が「華蔵院のおともの人が抜いていきました。」と告げた。

 

「え、華蔵院でももっていった?何と勝手なことをされるものか。

それはいつです。」と久光は舌打ちした。

 

「光明供をした日でござるが。」

 

「…小助というものはそれまで床に伏していたのですね。」

 

「一体いつから」

「猫の川流しは忌部殿が帰られて後、すぐにさせましたが。」

久光は少し首をかしげるとハタと手を打った。

「御用人!これはゆゆしきこと。今回の下手人はその小助というものかも知れませんぞ!」

「なんといわれる!」

 

「小助の病は猫の祟りに非ず、呪詛に手を貸した者をあぶりだすのが、かの呪符の効果でした。

それで小助は病にかかったのだと思われます。

華蔵院が人型を持ち去ったので。みどもの術が破れて小助は本復いたしたに相違ない。

これはご当家でその者を厳しく詰問せねばなりません。」

 

そう久光が言って帰ってから、すぐに堀田はこの話を主計にした。

 

主計は「あの小助がのう…だが、小助のような中間にそのような大それた術の心得はないだろう。そうだとしても誰かが騙すか、金をやって密かに細作せしめたのだろう。しばらくは無暗に詰問などせずに様子を見るほうがよかろう。」

 

だがこの話をどこから聞いたのか。小助はその日の晩にいずこかに逃亡してしまったのだった。

家中一同は「やはり!下手人は小助か」と思うようになった。

 

堀田は江戸市中で小助の行方を捜す一方で新右衛門を呼んで「小助の出自を探れ」と命じた。

堀田には小助がご当家に恨みを持ち怪しげな術を使うなどと言う荒唐無稽なことはどうしても腑に落ちなかった。

ただ、金の欲しさから何か頼まれたのかもしれないとは思った。

 

新右衛門はまたも当てのない探りに出されることとなった。




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