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小説「呪師」其の拾九

 

ヤモリの荒っぽいが手際のよい呪術を目の当たりにした一同は驚いた。

同時に忌部久光の術は本当に聞いていたのか?という疑問も起きてきた。

田島に至っては自分の出したお金でもないのに「五両も出したのに」とさかんにぼやいた。

 

こののち、辻井の病状もよくなり、間もなく登城できようというところまできた。

そんなある日、久光が尋ねてきた。

 

「あれからどうなりましたか?」ということで様子を見に来たようだ。

新右衛門と田島が応対して、ヤモリのことも語った。

久光は苦笑して「だから、まだ終わってはいないと言ったはずです。」というのを忘れなかった。

 

田島は「それでも忌部殿は猫の悪霊は追い払ったと言われたはずではないですか?」と食い下がる。

「あれはあれで効果はあった筈です。こういうものはまず安心していただくのが大事です。魔物は心のスキに乗じますから。ですから一応去ったという風に申し上げたのです。」

田島は大いに不服そうだが、新右衛門はそれを制して

「では、次はなにをどうしたらよいのでしょう?」

 

「ハイ、今度は攻めに転じましょう。」

 

久光は先に門の板間に挟んであった「人型」を懐中より取り出した。

そしてそれにもうひとつ別な人型を添えた。

その新たな人型は人の眼らしき図案が六つ、なにやら他にも図案が書いてあり、一見して何かおどろおどろしい感じのするものだった。

 

「この二つを一緒に重ねて元の場所に戻します。

そうすることで猫や呪符を仕掛けた下手人が現れるはずです。」

 

新右衛門が「猫の死骸はどうしますか?」

 

久光「ああ。あれはもう捨ててしまっていいです。川にでも流せばいい。」

「さようか。」

「ただし、その川流しする際に心に何も残さぬこと。疑いを持たぬこと。それが大事です。可哀そうだと思ってもだめです。情けをかけたらまた戻りますよ。」

「わかりました。誰か猫のことを知らぬ中元にでも流させます。」

「そうですね。それがいいでしょう。」

そしてその日は人型を玄関に忍ばせただけで久光は帰って行った。

 

一方。ヤモリの活躍を辻井主計に報告すると、意外と不快に思う様子もなく、

「ヤモリとか申す奴、乱暴だが「うい奴」だ。華蔵院の僧正殿の手前もあるしな」と金子五両を袱紗に包んで堀田十兵衛を新右衛門と田島をともに華蔵院に礼に向かわせた。

 

此の寺への五両は外部への口止めの意味もあった。なにせ野人の様なヤモリが旗本の令嬢の口を吸うなどあってはならぬこと。ことが世間に知れれば菊の縁談にも障らないとも限らない。

身分制度のある社会では、本来であるなら厳罰に処しても不思議はないことであった。

 

だが、それによって姫の危難が救われて、潜んでいた「もののけ」が退治されたとなると怒るわけにも行かぬ主計であった。

 

さて華蔵院につくとまず、一行は僧正に提携通りの挨拶をすませ、「このたびはこちらの寺男殿に大変世話人になり申した。これは些少ながら」と持参したお布施を差し出した。

 

僧正は恐縮して「いやいや、ヤモリが帰りましていうには、ご当家で猫の悪霊を追い出したのだと言って、蓋に犬と書いたツボを出しましてな。可哀そうな猫の霊が入っているから御経をあげて拝んでくれというのでそういたしました。

今は納骨堂の隅にあります。

ですが姫様に数々無礼も働いた由 本日のお越しはてっきりその件でヤモリを引き渡せとのことかと覚悟もしておりました。どうぞ、どうぞ、そのようなお心遣いは無用になさってください。」

 

その場にはいなかったがヤモリの活躍を聞いた堀田は「あのお小僧さんは一体何者ですか。ただモノとも思えぬが?」

「・・・わからんのです。ただとっさにまじないのようなことをする者でしてな。其のまじないも習ったというよりは直感で思いつくままにしているとも見えます。」

新右衛門が尋ねた。

「では何か秘術を僧正様が彼に授けてよこしたのではないのですね?」

僧正は笑って

「真言秘密の法にかような術はありませぬ。」




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