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小説「呪師」其の拾参

「そなた どうしてそれを知っているのです?僧正様から聞いたのですか」

「誰にも聞かねえ、知っているわけじゃねえ。」

 

「わかるだけだ。」

「わかる?」

 

新右衛門が聞いた。「じゃあ、なぜわかる?」

ヤモリは「わかるからわかるんだ。理由はねえ。」

「ではなぜそのようなことになったのか?そなたにはそれがわかりますか」

「ああ、」と無造作に言う。

「なぜだ。言ってみろ。」

そうするとヤモリはまたニヤッと笑った。

「それ、人にも聞く態度ではねえな。」

「こ奴!いわせておけば。」と新右衛門は怒った。

「和尚さんがいつも言っているだ。人にもの聞く時は丁寧にしなきゃダメだど。そうじゃねえのかい。」

「たしかに、それは私たちが悪かった。で、このとおりです。教えてはくれませぬか。」とシズノは腰を折って再度頼んだ。

 

「教えたところでアンタたちにゃ何もできねえ。無駄だ。」

「おのれ、無礼が過ぎるぞ!」と新右衛門

「この人が聞くんでおらァ本当のこと教えてるだ。おめえに言ってるんじゃねえ。ひっこんでろや。」とヤモリはぎろりと目をむいた。

 

こいつの眼は獣と一緒だなと新右衛門は思った。

 

「このような者、相手にはなりません。バカバカしい。もう参りましょう。」

もう、シズノを促して帰ろうとすると、ヤモリが後ろ向きで鉈仕事を続けながら言った。

「屋敷の裏に灯篭があるだろ。その真下掘ってみろ。おもしろいもんでんぞ。」

 

 

屋敷に還った新右衛門は田島にその話をした。

屋敷の裏にはたしかに六尺(凡そ180センチ)もの大きな石灯篭があった。

 

「えっ、じゃあ、念のため下を掘りましょうか」

 

「馬鹿を言われるな、あの石灯篭はでかいぞ。誰があんな重いもののしたにものを埋めるのだ。でまかせに決まっている。」

 

「でも裏に灯篭があると言ったんでしょう。」

 

「島田殿、どこの屋敷にも石灯篭位あるだろう。そんなザレごとを真にうけてはならぬ。第一、あの石燈籠の下など掘ったら灯篭が倒れて割れるやもしれぬ。」

 

「・・・それもそうですね。」

 

だがシズノはそうは思わなかった。

庭師や人足を頼んで巨大な石灯篭を動かし.真下を四尺もほらせたのである。

 

だが、結果は物の見ごとに何も出なかった。

シズノは力を落として、ほとんどものを言わなくなった。

 

「あ、あの小僧目‼からかいおって!この際だから一言、僧正にいってやる。このような口から出まかせの得体の知れぬ者を身近に置けば災いになりますぞと忠告してやる!」

始めから何も出ない筈と言っていた割には新右衛門の怒りは相当だった。

 

伝染するように若い田島もいきりたった。

ふたりはシズノが止める間もなく血相変えて飛び出していった。

 

 

華蔵院に憑くと二人は玄関で「僧正様はご在宅かあ!」と大声でいった。

 

僧正は折よく寺にいた。

 

ふたりはまなじりを釣り上げてことの次第を話し、ヤモリの出鱈目を難じ、はたまた、「あのものは大ウソつきです。かような怪しい者を寺においていけません。これは僧正様のなさることとも思われませぬ!」とまで言った。

 

「・・・わかり申した。」そしてヤモリをこれへ呼べと役僧を呼んで命じた

ややあってヤモリが現れた。

 

「和尚さま、なんでしょうかの」ヤモリは蹲踞してものを言った。

僧正には丁寧だった。育ての親でもあるからだろうか。

 

「貴様は嘘つきだ」顔を見るや田島が進み出て罵った。

ヤモリはまたニーッと笑った。

 

新右衛門も「何がおかしい!お前の言う通り、六尺もある石灯篭をのけて下を掘ったがなにひとつ出なんだぞ。これをどう言うのだ。」

 

ヤモリは「お前らよう」と言いかけたが僧正が「ヤモリよ。言葉を改めよ。」

と止めたので「ハイ」と言っていいなおした。

 

「じゃあ、お侍さまがた。おめえさま方は石灯篭持ち上げて掘ったが何も出ないと怒りなさるが、おらァ、石灯篭の下掘ってくれとはひとことも言ってないんだわ。」

 

「おらのいう灯篭というのは火をともす奴だ。庭のその石灯篭ってやつは火がともるんかね、お侍様よ?」

 

「いや。・・・火は灯らんが・・・灯篭は灯篭であろうが!」

 

「そうかね、おらの村なんかでは灯篭ってのはお祭りの時火を入れて軒に下げたりするやつだ。・・・・火がはいらない灯篭ってのおらは知らねえな。

第一それじゃ灯篭の役はしなかんべ。」

ヤモリはふんと鼻でせせら笑った。

 

田島が一段と声を荒げた。

「だがその石燈籠以外にお前の言うそのようなものは当家の裏庭にはない!」というと。

 

その時、新右衛門は「あ、」と小さく声に出した。

 




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