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小説「呪師」其の七

ただ、魔を払うに長じた修験者や陰陽師など探してこいと言われても元よりそのような知り合いもなく当ても、まるでない。

新右衛門にとって、これらはついこの間まではまるで無縁の世界であった。

衝動的に言われたのかもしれないが、考えてみれば殿も随分と無茶なことを言われたものだ。

 

「さて、どうしたものか・・・」といいながら歩き続けるうちに自然といつも吉祥庵へ向かう道に出てしまった。

禅尼はあれからどうしているだろうか、音沙汰もないが・・・

あれから治療費を出せとも言ってこないし、逆に菊を満足な形で返せないので金を返すとも言ってこない。

「その後の様子でも見てみようか」自然と足は行くともなく吉祥庵に向いていた。

 

吉祥庵につくと、山門は閉じていた。

禅尼に見舞いも持参せず、辻井家として口上を述べる用意も何もないので中に入る気ははじめからない。

 

人気もないので安心して暫く汗をぬぐっていると、通用門が開いてなかから丁度ヨネが出てきた。

「あら!そとに誰か来ているような気がして・・・やはり岩間さまでしたか。」

ヨネは笑顔で深々とお辞儀した。

とっさのことで新右衛門は「いやたまたまとおりかかって・・・」と言おうかと思ったがそれも不自然だと思いやめた。

小川町に屋敷のある辻井家の家人が世田谷を通りかかる理由はない。

あるとすれば吉祥庵以外にいくべきところがない。

新右衛門は軽く会釈だけして帰ろうとした。

「禅尼様の様子を見にいらしたのですか?」

ヨネはあけすけに聞いてきた

「いや、・・・そういう訳ではない。」というが、それでもヨネは勝手にしゃべりだした。

「なかなか鼻の怪我はよくなりませんね。…そればかりか、背中にひっかき傷の様なものが出てくるんですよ。朝起きると増えているんですって。妙戎尼がそう言ってたわ。」

妙戎とはその側近で件の老尼のことらしい。

「・・・」

「あの傷はあの獣がやっているんでしょうね。きっと・・・。」

そうなのか?なんということか・・・!「

新右衛門は唾を飲み込んで聞いた。

「ときにおまえ、だれぞ、そういうものを退治できる人物を知らぬか。」

「そうねえ・・・知らないわ。」

「でも」

「でもなんだ。」

「お父っつあんが、私のことを憑き物か何かと思っていろんな人に見せたわ。医者も修験者も陰陽師もいたわ。でも誰も治せなかった。当たり前よね、私病気じゃないもの。でも独りだけ」

「一人だけ?」

「お前さんのそれは病でも憑き物でもない。まあ、仏さんからの送りもんのようなものじゃよ。どう使うか次第でお前さんやお前さんの身近な人を守ることもできる。だから苦にすることはないぞ。って言った人がいたのです。」

「それは誰だ?」

「華蔵寺の和尚さん」

「華蔵寺はどこにある?」

「本所ですよ。」

「こことは真反対の場所だな」

「小川町に御屋敷があるならそうですね。」

「わかった。ありがとう。」

新右衛門は屋敷に還って辻井にあった。

「誰ぞ、めぼしいものに遭えたか。」

「いいえ、それは・・・」

「そうか…仕方ないな。存外に難しいな。」

「なにせ当てがないもありませんから。」

「・・・そうだな。」

「でも興味深い話を聞きました。」といって華蔵寺の和尚の話をした。

おりから茶を持って現れた辻井の内儀、シズノがそれを聞き。

「ああ、華蔵寺ですか?本所の。私の実家はあの近くです。

護摩焚きの華蔵寺と言われて有名ですわ。」

シズノは流行り病で早く亡くなった先妻である菊の母の後添えであるが、主計との間に子供はなく、辻井家の一人娘である菊を実際に産んだ我が子のように惜しみなくかわいがっていた。シズノ自身もまた母を早くなくした娘であった。

今回のことではもう夜も眠れないほど心配している。

 

「其の和尚なら何かわかるかもしれませぬ」

シズノは「岩間殿 それはよいことを聞きました!」と喜んだ。

そして「殿、ことはいそがれます。菊は日に日に弱っております故。」

「そうだな。急がねばならぬ。」

新右衛門「では明日さっそく、華蔵寺へ参りましょう。」

「うむ、菊を連れて行くのは難しいが・・・とりあえず尋ねてみてくれ。」

 

なにも解決したわけでもないのが今の辻井家にはこうした情報も闇夜の灯であった。

 

だが、菊の様子はその日の晩からまたもまったく普通の状態に戻って家人を驚かせたのであった。

 




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