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小説「呪師」其の五

「菊さまは病気じゃなかったのか。あの狂態が芝居だったとは・・・ああ!」

田島はもうそう早合点して頭を抱えていた。

「いいえ!お芝居でもありますまい」

ヨネが遮った。話には続きがあった。

 

はじめはあたかもすすり泣いていたように見えた菊であったが。それは、次第にクククという忍び笑いに変わっていった。

 

「菊さま?」禅尼が声をかけると、菊はすッと立ち上がって

「だまれ、ババアめ お前なんぞにこの娘を治せるものか!」と野太い男のような声で罵ったという。

そして、さらに菊の余りの言葉に狼狽する禅尼の顔をやおら足で蹴りつけたという。

 

ヨネが言うには妙俊はどうもこの時、鼻の骨を折ってしまったようである。爾来自室に引きこもっている。

その後は禅尼の叫び声で集まった尼僧や娘たちで大騒ぎとなった。

菊はこの後急にふらふらと倒れた。

禅尼の指示で早速倒れた菊はそのまま庫に運び、閉じ込めたと言いうこの事件が三日前のことという。

 

「なるほど・・・これは禅尼様の手におえるものでなかったか・・・」と新右衛門は独り言を言った。

するとヨネが言った。

「恐ろしいのはお菊さまのそのおふるまいだけではありません。」

「?」

「私は見たのでございます。」

「見たとは?」

「お菊さまの後ろに大きな獣のようなものが見えました。」

「え!」

「もちろん、実物の獣ではないのです。あれはきっと狐狸妖怪の類と思います。」

「なんと・・・!」島田は言葉を失った。

「それを見たのはそなただけか、他には?だれかいたか。」新右衛門が訪ねた。

「当初、お菊さまが仁王立ちになったとき居合わせたのは私だけです。

でも、もしそこにほかの人がいあわせても多分あの獣までは見えません。」

「では、なぜそなたにはみえるのだ。」

「わたしはそういう目をもって生まれたのです。人には見えないものが見えるのです。この寺にもそれが原因で預けられたのです。」

 

幽霊やこの世ならざるものを見て口に出すヨネは周囲から気味悪がられていた。このままでは縁談にも差し障ると親は吉祥庵に何とかしてほしいとヨネを預けたのだった。

勿論、ヨネは病気ではない。禅尼は今でいうカウンセリングのようなことをして悩みを聞き、心を楽にしてあげるというのが得意であった。

禅尼はヨネにもそれを施したが元より格別な悩みがあって幻覚を見ているとかではない。

それで利口なヨネは途中から悩みがあるふりをしだした。

「私はお化けが怖いんです。子供のころ親のいうこと聞かないとお化けが来るぞとさんざん言われて育ったので・・・・今だに暗闇見ると何かいそうでもう、怖くて 怖くて・・・」

禅尼はまんまと騙された。

「そうですか。でももう大丈夫。ここはお寺ですからお化けはもう出ませんよ。安心おし。」

 

禅尼はそういうが、ヨネに言わせるとお化けは出ないどころか、幽霊などは四六時中いるという。

 

「でも、お寺ってお化けがいないと思ったら、むしろ多いところなんだなってはじめて思いました。実家の小間物屋の方がずっといないや!」とヨネは娘らしい笑顔で笑った。




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