わたしの住む多摩ニュータウンは「限界集落」と揶揄されることがある。老人の多い地区に限定したら限界集落と呼べるのかもしれない。大阪で育ったわたしは自分の住んでいる地域を「限界集落」と揶揄されても「話のネタとしておいしいワ」としか思わないので、「限界集落に住んでまんねん」などと自己紹介したいと思っているのだが、多摩ニュータウンのネイティブ住民には大阪の一部の文化にあるような「おいしい」という感覚は理解不能で、あとから来た者がネガティブキャンペーンを精力的に実施しているようにしか感じないということは理解しているので、「多摩ニュータウンに住んでまんねん」と自己紹介するにとどめている。
若者が少なめの多摩ニュータウンに麻辣湯の店はないが、二郎系ラーメンの店ならいくつかある。二郎系というか二郎そのものがあった。しかもラーメン二郎ランキングの上位の常連の野猿街道店である。二郎系ラーメンを食べたいと思ったときに複数の選択肢があるなんて、まるで都会じゃないか!
……などと思いつつ、「ラーメン松木田田」は、その選択肢のひとつではあったが、年に一度行く程度だった。その頻度になってしまったことを説明するには地図が必要である。
これが、かつての松木田田周辺の地図である。

わたしの散歩ルートは野猿街道沿いを歩くか、多摩ニュータウン通り沿いを歩くことが多い。松木田田は2つの通りの間にあるので、わたしにとってよい立地に思えるが、問題はそれぞれの通りの他の店である。
ふたつの通り沿いには「ひとりで入りやすい味の濃い店」が並んでいて、どの方面から行っても、松木田田に行く前にそれらの店に吸い込まれてしまう仕組みになっている。野猿街道の西側はやや手薄に見えるが、歩く頻度が低く、熊本ラーメンの名店、分田上がある。熊本ラーメンは二郎系ラーメンよりも少ないので、このルートを通るときには確実に分田上に吸いこまれてしまうのであった。
また、野猿街道の東側から西へ歩く場合は、まずバーガーキングにあたる。バーガーキングは立川や新宿に行ったときに見かけはするが、せっかくだからそこにしかない店をと思ってチェーン店は選ばないことが多く、わたしが行くバーガーキングといえばほとんどここである。もしバーガーキング気分でなかったとしても、その先にあるのは野猿二郎なので、このルートから松木田田に行く確率はゼロに近い。多摩ニュータウン通りの西側については、もともと王将があったが、さらにパンチョも開店し、二択を迫られてしまうため、松木田田は意識にのぼってこなくなってしまった。多摩ニュータウン通りの東側には天下一品がある。バーガーキングと同様に、わたしが行く天下一品はこの天下一品であった。
しかし、この鉄壁の守りが2024年の夏に崩れた。天下一品が閉店してしまったのである。

多摩ニュータウン通りを西に歩くルートで、ついに松木田田への道が開かれたのであった。
……といいつつ、道が開かれてからも、そもそも濃いものを食べたいという気持ちが薄れたことや、多摩モノレール通り沿いを散歩することが増えてきたことなどもあり、行ってはいなかったのだが、昨年の秋、久しぶりに行ってきたら状況が大きく変わっていたのだった。

まず、券売機がタッチパネル式のものに変わっていた。それだけではなくて、二郎系でいうところの「コール」が券売機に組みこまれていたのである。
ここで念のため「コール」の説明をしておきたい。二郎系の店では、野菜や脂やニンニクなどを好きなだけ追加することができるのだが、その要望を、食券を出した瞬間に伝えるのではなく、提供される直前に「ニンニク入れますか?」あるいは「トッピングどうしますか?」と聞かれてから、「野菜ニンニク脂」などと言わなくてはならず、それが「コール」と呼ばれている。
最初はそのシステムに戸惑うことはあるかもしれないが、聞かれたらいつものコールをすればよいだけなので、慣れればどうということはないはずである。
ただ、コールが券売機に組み込まれていれば、お店の人が話しかけてくるタイミングを逃すまいと集中している必要がないので、楽でいいじゃんとは思ったのであった。
これが昨年秋に行ったときの松木田田のチケットである。コールが組み込まれていることがわかると思う。

なお、「限定」というのは、秋限定のメニュー「麻辣田田」である。
お店によっては限定メニューの頼み方が難しい場合もあるが、松木田田の場合は券売機で選ぶだけである。
このチケットをinputしたらこのラーメンがoutputされた。

二郎系のラーメンに唐辛子は非常によく合う。唐辛子というか、ピーマン系が合う感じがする。パプリカを大量にかけてもおいしいのではないかと思う。
右の飲み物は、オプションの黒烏龍茶とルイボスティー飲み放題。

一杯目は単価の高そうな黒烏龍茶にしたが、二杯目はルイボスティーにした。スッキリした感じと二郎系ラーメンのマッチング具合が最高であることを発見した。
めでたしめでたし……というところなのだが、この話はそれで終わりではなかった。
後日、別の二郎系のラーメン屋に行ったのだが、それまであたりまえだった「コール」をするのが、わたしにとってストレスフルだったことに気づいたのだ。
食券を買ってテーブルの上に置き、そのあと、まだラーメンを供されていない人の人数を確認し、そこから自分が「ニンニク入れますか?」あるいは「トッピングどうしますか?」と聞かれるタイミングを推測しつつ、時間つぶしにヤフーリアルタイム検索でトレンドを眺める。「見る」のではなく「眺める」。そうでないと自分が「ニンニク入れますか?」あるいは「トッピングどうしますか?」と聞かれたときに速やかに回答できない可能性があるからで、もし特大級の炎上コンテンツを発見したとしても決して深堀りしてはいけない。また、いつもと同じコールだったとしても、いつ聞かれても即答するできるよう、コールの内容を2回ほど脳内でリハーサルを行う。
そして、ついに「ニンニク入れますか?」あるいは「トッピングどうしますか?」と自分の方を向いて聞かれたら、そのタイミングで答えるのだが、「トッピングどうしますか?」ではなく、「ニンニク入れますか?」と聞かれたとしても、ニンニクについてのみ答えてはならない。何を言われようとも、事前に決めておいたコールを発するのである。聞かれたことのみに答えてはならないのだ。
言葉にしてみるとけっこうな頭脳労働である。
思いかえすに、松木田田で食券を置いてからラーメンが来るまでの待ち時間はこんな感じだった。ひとりで行ったけど……。細かく指定しなくてもChatGPTはステレオタイプな画像を作ってくれるんだなと感心した。

そして、あの待ち時間を経験したあと、ふつうの二郎系ラーメンで、「ニンニク入れますか?」あるいは「トッピングどうしますか?」と聞かれるのを待っている時間はこんな感じである。

注文にコールが組み込まれる世界を体験してから戻るのはつらい。そしてそんな些細なことがストレスになっていた自分にも絶望してしまった。もしわたしが、「ニンニク入れますか?」あるいは「トッピングどうしますか?」と聞かれてからコールの作成に堂々着手するような客であれば、まったくストレスは感じなかったことだろう。
そして先日、「そういえばあのときは限定メニューにしたけど、通常メニューはどんな感じだったかな」と思って松木田田に行ってきた。

やはりノーストレスだった。
コールする強靭な精神を取り戻したいと思いつつ、このパラダイスから抜け出せる感じがしない……。
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