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「アトランチス」が出てくる藤子・F・不二雄マンガ

 2月27日に新作の映画ドラえもん『新・のび太の海底鬼岩城』が公開されます。そのことが昨年9月6日に発表されて以降、私は映画の公開を待ちながら『のび太の海底鬼岩城』についていろいろと思いをめぐらせています。

 マンガ『ドラえもん』の歴史において、『のび太の海底鬼岩城』の原型的なエピソードとしてよく指摘される作品があります。
ドラえもん』の[海底ハイキング]や[竜宮城の八日間]などです。
 ここでは[竜宮城の八日間]に注目してみましょう。

 

[竜宮城の八日間]は、「小学四年生」1980年8月号において[”浦島太郎のなぞ”にちょう戦]という題で発表され、1982年にてんとう虫コミックスドラえもん』第25巻(1982年8月25日初版第1刷発行)に収録されました。初出時19ページだったものが単行本収録時の加筆によって24ページになりました。

のび太の海底鬼岩城』(連載当初は『のび太の海底城』)は「月刊コロコロコミック」1982年8月号〜83年2月号で連載されましたから、[竜宮城の八日間]がてんとう虫コミックスに収録されたのと『のび太の海底鬼岩城』の連載がコロコロコミックで始まったのは同じタイミングということになります。すなわち、[竜宮城の八日間]の加筆修正作業と『のび太の海底鬼岩城』の執筆開始が同時期だったと推定できるのです。藤子・F・不二雄先生が『のび太の海底鬼岩城』を構想・執筆するにあたり[竜宮城の八日間]を参照されたであろうことは想像にかたくありません。

 

[竜宮城の八日間]は、のび太たちいつものメンバーが夏休みのグループ研究で浦島太郎伝説の謎を解こうとタイムマシンで昔の日本へ出かける話です。昔の日本へ行ってみたら本物の浦島太郎に出会い、海の中へ連れていかれた浦島太郎を追っかけてみると、海底に巨大な都市が広がっていました。その海底都市は何万年も昔、地上で繁栄した国家だったのですが、世界中で戦争が絶え間なく起こるため、平和を好む王が国全体を海底に沈めさせました。海底に沈んだその国は、われわれの暮らす地上世界とは次元が違い、時間がゆっくりと流れます。その国で8日間すごせば、地上世界では800年以上が経過してしまうのです。それが浦島太郎伝説に出てくる竜宮城の正体だった、というわけです。

 既述のとおり、のび太たちが訪れた海底都市は何万年も昔地上で繁栄した国家だったわけですが、地上で繁栄していた時代この国家があった陸地が「ムー大陸」でした。
ムー大陸」は伝説上の失われた大陸として有名ですね。超古代文明を扱ったオカルト本などでよく取り上げられてきました。大昔に太平洋に存在したものの、天変地異や地殻変動によって海底に沈んだ、とされています。オカルト雑誌「ムー」の誌名もムー大陸が由来(の一つ)でしょう。

 

 この「ムー」というワードは、『のび太の海底鬼岩城』に「ムー連邦」というかたちで登場します。ムー連邦は『のび太の海底鬼岩城』のメインゲストキャラクターである「エル」が暮らす海底国家です。

 そのムー連邦と激しく対立し争っていたのが「アトランチス連邦」です。エルはこのように説明します。 

エル「海底には何百という国がちらばっていたが、それらはぜんぶふたつの大きな連邦に属していた。」「太平洋にムー。」「大西洋にアトランチスだ。」
スネ夫「知ってる!海に沈んでほろびたんだよね!」
エル「それはただの伝説。アトランチスはもともと海底の国だった。」「ほろびたのはほかの原因だよ。」

のび太の海底鬼岩城』の作中においては、ムーもアトランチスも、大昔に地上にあった国が海底に沈んだのではなく、もともと海底にあったという設定になっています。

 大西洋にあったアトランチスは太平洋のムーと激しく争ったすえ新兵器の鬼角弾(地上世界の核ミサイルみたいな兵器)を開発しますが、核実験の失敗で自国が滅びる羽目に。

 厄介なのは、国は滅びても鬼角弾の自動報復システムが生き残っていることです。敵から攻撃を受けたと感知したらすぐ反撃できるシステムが作動し続けているのです。鬼岩城の中に設置されたポセイドンは、そのためのコンピューターです。

 

のび太の海底鬼岩城』にはそんなかたちで「アトランチス」が出てくるわけですが、藤子・F・不二雄マンガ史を眺めれば、『のび太の海底鬼岩城』よりも前に「アトランチス」という海底文明が出てくる作品が見つかります。
 たとえば、『海底人間メバル』(1955年)や『海の王子』の[海神ポセイドンの謎](1960年)がそれです。(『海の王子』は藤子不二雄Ⓐ先生との共著)

 この3作品から、「アトランチス」というワードが見られるコマを引用しましょう。

 

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『海底人間メバル』(初出「ぼくら」1955年1月号〜4月号、3月号は休載)

 

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海の王子[海神ポセイドンの謎]』(初出「週刊少年サンデー」1960年16号〜27号)

 

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大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城』(初出「月刊コロコロコミック」1982年8月号〜1983年2月号)

 

 初期SF作品『海底人間メバル』の主人公は「メバル」という少年です。メバルが暮らす海底国の都が「アトランチス」というのです。この海底国は、自分らが栄えるために地上の街を海に沈没させ領土を広げる作戦を始めます。

海の王子[海神ポセイドンの謎]』では「アトランチス」はこんなふうに出てきます。深海を探検した海の王子たちが壊れた潜航艇を発見。引き上げられたその潜航艇の中に少年が生き残っていました。「アポロ」というイケメン少年です。彼は、伝説の国アトランチスの王子だったのです。 
 アトランチス大陸は何千年も昔、地震津波で滅びたと考えられてきました。しかし真相はちょっと違います。アトランチスに大災害を予言をした優れた科学者がいて、彼があらかじめつくっておいた防水建築のおかげで多くの人命が救われていたのです。その人々が長年海底で生活するなかで科学が驚くべき進歩を遂げ、やがてアトランチス人は水中でも呼吸ができるようになったのでした。
 また、『海の王子[海神ポセイドンの謎]』には、アトランチスの守り神として「海神ポセイドン」が登場します。反乱軍の手に落ちたポセイドンは、海の王子たちと戦うことになります。

 

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海の王子[海神ポセイドンの謎]』と『のび太の海底鬼岩城』に出てくるポセイドンの比較

 

 そのように、アトランチスという海底国が登場し、その国で暮らすイケメン少年が出てきて、主人公がポセイドンと戦ったりするところから察せられるとおり、『海の王子[海神ポセイドンの謎]』は、藤子Fマンガ史において『のび太の海底鬼岩城』の原型的な成分を相当に含み持った作品なのです。
 アトランチス、イケメン海底人少年、ポセイドンのほか、(メカと生物の違いはあれど)大イカが登場するのも『海の王子[海神ポセイドンの謎]』と『のび太の海底鬼岩城』の共通点です。

 

 そういう点を意識しながら『海の王子[海神ポセイドンの謎]』と『のび太の海底鬼岩城』を読み比べると、マリアナ海溝の地図、深海調査船トリエステ号の情報、海溝の深さを喩えるのに富士山を引き合いに出すところなど、さらなる共通性が見つかります。その図版を以下に引用し比較してみます。

 

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マリアナ海溝の地図

 

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深海調査船トリエステ号の情報:海の王子』のほうは船名の表記が「トリエス号」となっていますが、「トリエステ号」を指しているのでしょう。潜った深さの数値が「11,500」「10,916」とこの2作品で差異があるのは、当初トリエステ号の水深計は11,521mを示していたのですが、のちに10,916mに訂正された(さらに1995年になって10,911mと判明した)経緯があるからです。『海の王子』と『のび太の海底鬼岩城』が描かれた時代の差がその数値に反映しているわけです。

 

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海溝の深さを喩えるのに富士山を引き合いに出す:のび太の海底鬼岩城』のほうはチョモランマも出していますが、深さの規模の喩えに富士山を使っているという点では共通性があります。

 

 このように、『海の王子[海神ポセイドンの謎]』と『のび太の海底鬼岩城』には、表現が完全に合致しているわけではないものの、ずいぶん印象の重なり合うコマが複数見られるのです。

 

 また、藤子Fマンガ史における「海底国アトランチス人の美少年」の系譜という観点で見れば、『海底人間メバル』のメバルや『海の王子[海神ポセイドンの謎]』のアポロは、『のび太の海底鬼岩城』のエルの先祖的なキャラクターということになりましょう。

 

 ついでにいうなら、「アトランチス」のネタは(これはじつにちょっとしたものですが)『のび太と夢幻三剣士』』(初出「月刊コロコロコミック」1993年9月号〜94年3月号)でも見られます。気ままに夢見る機の夢カセット集の一つに『アトランチス最後の日』というタイトルのものがあるのです。このカセットと使うと「伝説の大陸アトランチスが海底に沈んだとき、主人公の少年が王女さまを助け、やがて新しい王国を作る…」という夢を見られます。

 

 とまあ、そんなことなどを頭に思いめぐらせながら、映画『新・のび太の海底鬼岩城』の公開を待っています。あと3週間ほどですね!

 

※追記

海の王子』の[プロトンの海底都市](初出「週刊少年サンデー」1964年14号)という話では、既存の港湾都市を略奪する方法で新しい海底都市を建造し自分が支配者になろうと企てるプロトン皇帝が登場します。彼が造ろうとした都市の名は「ニュー・アトランチス大陸」といいます。




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