前の投稿で『オバケのQ太郎』の一編「国際オバケ連合」について書きました。
https://koikesan.hatenablog.com/entry/2026/01/25/191236
「国際オバケ連合」では、各国代表のオバケたちが大原家に集まってバケ連総会を開きます。会議のテーマは世界平和。その中でこんな意見が出ます。
「人間だけの問題じゃないぞ。戦争がはじまればおれたちオバケもまきぞえをくうんだぞ。」
「つまりだな、戦争をはじめるのは首相や大統領たちだ。」
「人間たちは科学の力を悪用して、おそるべき殺人兵器を次々に作っている。」
このように、オバケたちの議論はもっぱら人間に対して辛辣で批判的な内容でした。気の優しいのんびりした性質のオバケ族ですが、人間族のやることに厳しい目を向けているようです。
オバケ族をそうさせている要因に、オバケ族と人間族の歴史的背景があります。その背景を描いた話が、『オバケのQ太郎』の一編「ようこそオバケの国へ」(初出「週刊少年サンデー」1965年30号)です。
「ようこそオバケの国へ」を収録した藤子・F・不二雄大全集『オバケのQ太郎』3巻(小学館、2009年11月30日初版第1刷発行)
「ようこそオバケの国へ」というサブタイトルからうかがえるように、この話はQ太郎と正太がP子のガイドでオバケの国を訪れる内容です。そこで正太とP子がこんなやりとりをします。
正太「オバケの国って、どこにあるの?」
P子「雲の上よ。」
P子「ずーっとむかし、地球にはオバケ族と人間族がいたんですって。」「ところが世の中が進歩するにつれて、ノンビリ屋のオバケは人間にかなわなくなったの。」
正太「やはり人間の方がゆうしゅうだからね。」
P子「追いつめられたオバケは、人間をおどかしたこともありました。このころのいい伝えがいろんなバケモノを想像させたのよ。」「しかし、けっきょくオバケは雲の上へにげちゃったの。」「オバケはうそをついたり、人をきずつけたりできなかったからよ。」
正太「耳がいたいなあ。」
また、「ようこそオバケの国へ」には、人間の乗る飛行機がオバケの国に近づいたとき、自動的に雲が舞い上がって周囲がなんにも見えなくなる一幕があります。P子は言います。「人間にこの国を見られたくないの。」と。
オバケの国の日常的な食べ物である食用雲が人間の工場の煙に汚染されていて、それを食べたQ太郎と正太が噎せて吐き出してしまうシーンも見られます。
P子によれば、かつてはオバケ族も人間族も地上で暮らしていました。しかし、人間社会の進歩によって追いつめられたオバケは、逃げるように居住地を雲の上に移すことに…。
そんな歴史的過去を背負っているだけに、オバケたちは種族レベルで人間に対し根強い警戒心や不信感を抱いているようです。Q太郎ら現代も地上に暮らすオバケたちは人間と個別的な親密関係を築いていますが、種族対種族の次元で見れば、オバケにとって人間は信用できない対象になるのでしょう。
人間に追いやられた種族としての負の記憶がオバケたちの潜在意識の深く刻まれているのでしょうし、雲の上に住むようになってからも公害や戦争などで人間からじかに迷惑をこうむっている様子なので、オバケ族の人間族に対する警戒や不信は残念ながらめったなことでは払拭されないと思われます。
気のいいオバケたちなので、個人レベルでは人間への遺恨はないようですし、会えば人間と心から親しくなれるのですが、種族レベルではそうもいかないのです。
『オバケのQ太郎』という作品は全体的におおらかな雰囲気の理屈抜きで楽しめるギャグマンガですが、「ようこそオバケの国へ」や「国際オバケ連合」といった話ではシリアスな背景や人間への批評性がめずらしく見て取れるのです。
