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小説『キノの旅 Ⅰ -the Beautiful World - 』ひとくち感想 - 特異な構成で問いかけられる「美しい国」の境界線

時雨沢恵一先生のデビュー作『キノの旅』。その名前は随分前から耳にしていたけれど、実際に読んだのは今回が初めて。電撃文庫というレーベルや、黒星紅白先生の柔らかなイラストから受ける印象を覆すハードな内容の一冊であった。


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引用:書籍情報 - 電撃文庫 


非常にトピックの多い本作だが、まず最初に触れるべきはその特異な構成だろう。 

キノの旅』の主人公は、旅人のキノとオートバイ (モトラド) エルメス。本作は彼ら2人が様々な国を訪れる旅路を描いた短編集であるが、2人はあくまで「部外者」であり、その国の抱えた問題に介入したり、その運命を左右したりといったことは基本的に行わない。そういった意味では、本作の立て付けは「各国を題材にした短編と、それを観測するキノとエルメスと表現できるかもしれない。それでも2人が主人公と呼べるのは、何といっても彼らによる「各物語の締め」が非常に印象深いものになっているからだろう。自分のお気に入りは、ユーモラスながらとりわけ強烈に皮肉が効いている『多数決の国』ラスト。 

そんな本作の舞台は「お互いの考えが分かるようになった国」「多数決ですべてを決めてきた国」「自由な子どもと、決まりに逆らえない大人の国」「第三者を共通の標的にすることで戦争を終わらせた国」そして、「自身の行いが無に帰されている状況を知らないまま、レールに人生を捧げる男たち」と「市民権をかけて人々が争うコロシアム」の6つ。それら一つ一つがある種の寓話として完成されているのはもちろんのこと、ここで特筆したいのは「時系列」や「掲載順」を活用したトリックたち。 

「話数が進めば未来に進む」という当たり前の認識を逆手に取り、『キノの旅』の主人公であるキノとエルメスの誕生秘話 (第0話) を「未来のキノが大人の国を訪れたエピソード」にカモフラージュしてみせた『大人の国』。そして、巻末の『エピローグ 森の中で・a』を読むと全く印象が異なってくる『プロローグ 森の中で・b』。オムニバスという媒体をここまで活用した作品を自分は他に知らないし、これがデビュー作という事実には畏敬さえ感じてしまうけれど、そんな本作でも特に尾を引いているのが『プロローグ 森の中で・b』におけるある台詞。

 

「ボクはね、たまに自分がどうしようもない、愚かで矮小な奴ではないか? ものすごく汚い人間ではないか? なぜだかよく分からないけど、そう感じる時があるんだ。そうとしか思えない時があるんだ……。でもそんな時は必ず、それ以外のもの、たとえば世界とか、他の人間の生き方とかが、全て美しく、すてきなもののように感じるんだ。とても、愛しく思えるんだよ……。ボクは、それらをもっともっと知りたくて、そのために旅をしているような気がする」

-「キノの旅 Ⅰ -the Beautiful World - 」P.11~12 より

 

本作冒頭のこのやり取りを初めて読んだ時は、そこまで深く考えずに「わかる」と頷いていたりもしたけれど、本作ラストを経てこの文章に戻ってくると思わず首を傾げてしまう。「世界とか、他の人間の生き方とかが、全て美しく、すてきなもののように感じる」……? 人の心を読めるようになった結果人と人とが断絶した国や、多数決ですべてを決めて偽りの民主主義を掲げた独裁国や、第三者を犠牲に平和を作った国が、美しい……?  

思えば、本作の副題はそのものズバリ「the Beautiful World」である。本作において「美しい」とは一体何を指すのだろう。前述の国たちは、本当に美しいと言えるのだろうか。このことを考える上でヒントになり得るのが、第4話の「コロシアム」である。 

というのも、本作において「○○の国」とされていないのは、このコロシアムと「レールの上の3人の男」の2つ。後者は (背後には “国” の存在があるが) 舞台が国ではないので「国」とされないのも当然なのだけれど、前者は形の上ではれっきとした国である。いや、本作においてそれは――王が我が儘に振る舞い、来訪者たちの血を娯楽として成り立っているその国は――「国」とは呼べないのだろう。  

思えば、他の国はいずれも「より良い未来/理想を求めていた」という共通点があった。人と人とが分かり合える世界、みんなの意思で成り立つ社会、子どもたちが殺されることのない平和。結果的に悲劇を生んだとしても、その根底にある願いは美しい。それは人間という種の本質でもあるし、キノの「旅をしている以上、辛いことや悲しいことは避けられないけれど、だからといって旅をやめようとは思わない」という信条とも重なってくる。そういった意味では、前述の国たちは現状がどれほど悲惨でも「美しい」ものに違いなく、だからこそ、キノは「コロシアム」にだけは自ら介入し、その残酷な治世を終わらせてみせたのかもしれない。  

本作は他にも語りきれないほどの魅力を持っている。挿絵という言葉に収まらない異様な切れ味を誇る挿絵たち。おそらくこの先も登場するであろうシズ&陸。キノが旅する理由やエルメスとの関係性……。しかし、本書を一読しただけではそれらを咀嚼しきれていないのもまた事実。 

幸い『キノの旅』はアニメ化もされているとのこと。それらの作品を通して本書への理解を深めつつ、いつか来る次の旅路への準備を整えておきたい。




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