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ブラック・クランズマン(スパイク・リー)

 スパイク・リーはいつもあまりに直球なので、ある時期からちょっと食傷気味だったが、これは彼の最高傑作ではないか。

 

 まずは、原題「BlacKkKlansman」(黒の一族の人間)が多義的で示唆的。

 今作のテーマである白人至上主義団体KKK「クー・クラックス・クラン」が、「black」「man」に挿まれることで、コロラドスプリングス警察で初の黒人刑事となった「ロン」(ジョン・デヴィッド・ワシントン。デンゼルの長男)がKKKへと、つまり黒人が白人団体へと潜入捜査をするという破天荒のストーリーがほのめかされている。と同時に、依然として世界は白人中心に回っていて、その外側に黒人はじめマイノリティが排除されているという世界の構造そのものが示されているとも読めるだろう。

 

 ここまでだったら、いつものスパイクの直球。だが、今作はひねりが効いている。

 

 その黒人と白人の間に、第三の要素「ユダヤ人」が挿まれているのだ。ロンの同僚でユダヤ人の「フリップ」(アダム・ドライヴァー)の存在である。

 

 当初フリップは、ロンのKKK潜入計画に乗り気でなかった。見かけが白人なので、当然のように、彼は「白人」の側に位置していたからだ。だが、そのために、彼が黒人のロンの代わりに潜入するはめになる。

 

 ユダヤ人は、歴史的に差別されてきたものの、見かけが白人で社会の中に溶け込んでいる。紛らわしくて見分けがつかない。だから「反ユダヤ主義」の歴史は、いつも「誰がユダヤ人か」を明確に同定することをめぐってきた。「ユダヤ人」とは、すでに白人社会の中に「潜入」している存在なのだ。

 

 KKKは白人至上主義の純粋性を不断に保とうとする団体だ。とりわけユダヤ人の紛れ込みには異常に敏感である。今作でもフリップは、危うくウソ発見器にかけられそうになる。フリップは、KKKの中に潜入しているかぎり、自らが「白人」であり「ユダヤ人」であるという、作中出て来る「二重意識」(デュボイス)を抱きながら、かつ自らの「ユダヤ性」を否認し続けなければならない。

 

 これは、いつもロンが「黒人」であり「アメリカ人(の警察官)」(したがって黒人の暴動があれば、彼らの「敵」にならねばならない)であるという「二重意識」を抱いているのと一緒だろう。フリップはKKKに潜入することで、そのことに気づかされるのだ。最初はロンのなりすましでしかなかったフリップは、こうしてロンと一体化し、まさにKKKの中の「ロン」になっていく。ともに「二重意識」を抱いた二人の刑事が「一体」となる、究極のバディものともいえる。

  

 原作ではほとんど目立たないユダヤ人問題を、今回スパイク・リーが前面に出したのはなぜか。

 

 それは、黒人と白人という人種差別が、社会の階級的敵対を覆い隠す働きをしているからだろう。「ユダヤ人」とは、社会に内在する、その階級的敵対性そのものを表す存在なのだ、と。

 

 白人が黒人を差別する本当の理由は肌の色ではない。白人社会の安定した平和の秩序を、階級の違う「奴ら」が乱し、腐敗させようとする「脅威」としてあるからだ。すなわち、本当の理由は、社会の外側ではなく内側にある「脅威」であり、それが社会に紛れ込んだ=潜入した「ユダヤ人」となって表れる(ジジェク『絶望する勇気』ほか)。いや、正確に言うと、「それ」は表面には見えない。「奴ら」を不断に排除しようとする行為として、「それ」は表れるのだ。

 

 だが「ユダヤ人」は外見が同じだ。だから、文化や名前や言語などの「ちょっとした違い」を暴力的に線引きすることでしか排除できない。「反ユダヤ主義」が常に暴力をともなうゆえんだ。

 

 「アー」の発音で電話の相手が黒人かどうかすぐに分かると豪語する、KKKの指導者デビッド・デュークを、ロンが最後までまんまと出し抜き続けることは、この言葉の「ちょっとした違い」が、いかに本当に「ちょっとした違い」でしかないか、「彼ら」が「奴ら」を差別する理由が、いかに曖昧な「違い」でしかないかを暴き立てている。ロンとフリップの、一体化した「奴ら」としての大笑い。

 

 差別とは、電話の向こうの、今言葉を交わしている相手の、だが目には見えないこの脅威なのかもしれない。

 

中島一夫

 




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