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クロニクル(ジョシュ・トランク)

 ハイスクールで周囲からいじめられ、疎外されている青年がいる。
 ある日、超能力を手にし、友達も出来、人気者にもなり、空も飛べるようになる。彼はその力で、食物連鎖の頂点=最大捕食者にならんと、妄想を肥大化させていくだろう。シンプルな展開。子供の頃誰もが一度は見た「夢=映画」。

 「クロニクル」というタイトルや、地下(洞窟)、ビデオ撮影、超能力、空中浮揚、世界への憎悪、破壊衝動、最後にチベット仏教とくれば、やはりそこにある「傾向」を認めないわけにはいかない。この作品は、明らかに村上春樹オウム真理教と親和的だ。

 大澤真幸は、若者がオウム真理教に駆り立てられた初発の動機=原点は、「超能力=空中浮揚」にあったと述べている(『生権力の思想』)。重要なのは、それが身体的な問題であるとともに、コミュニケーションの問題でもあったということだ。

 「超能力=空中浮揚」は、「ここ」という局所的な空間に縛られているという条件から、身体を解放する。それが空中浮揚によって、身体が「ここ」にも「そこ」にもいることができれば、「そこ」にいた他者との無媒介的なコミュニケーションが可能になる。

 この作品の主人公「アンドリュー」は、超能力を手にして友達を得る。一人は、もしかして自分が彼であったかもしれないほど身近な他者である従兄の「マット」であり、そしてもう一人は自分とは真反対の人気者で、政治家志望の黒人「スティーヴ」だ。すなわち、アンドリューにとって、最も近い他者と最も遠い他者という両極的な存在として設定されているのだ。

 あるとき彼ら三人は、地下に通じる洞穴を見つけ、好奇心から潜入する。普段からビデオカメラで何気ない日常を撮影しているアンドリューは、このときも洞窟内の光景を撮影しようとするものの、鉱物が放射線を発しているせいか、映像は乱れ途中で切れてしまう。これ以降、三人は超能力を得ることになる(だから、放射能に汚染された彼らが生還したかどうかは、本当は定かではない。後にカメラは地下に置きっぱなしであり、その後洞穴はふさがれてしまったという場面があるが…)。

 このように見てくれば、想起されるのは、やはり村上春樹だろう。『羊をめぐる冒険』から『ねじまき鳥クロニクル』を経て『1Q84』へという村上のクロニクル=年代記ものは、「地下=アンダーグラウンド」という異空間において、切断されていた君とぼく、「ここ」と「そこ」とをつなぎ合わせ、再びコミュニケーションを可能にさせていくという構造をもっているからだ。

 そして、村上が、オウム真理教の教祖・麻原を、「物語=偽史」の語り部として、半ば本気でライバル視していたことも今や知られた事実だろう。オウム真理教とは、そして彼らによるといわれる地下鉄サリン事件とは、「地下」の「辺境最深部」(太田竜)から、地上の市民社会への一撃を目論んだ、まるで自らが『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』で描き出した「やみくろ」のような存在であるように村上には見えたのだ。したがって、その後村上は、自ら生み出した「やみくろ」に対抗するように、「物語=年代記」を紡いでいくことを余儀なくされる。

 映画に戻ろう。この作品は、洞窟=地下にもぐった三人が超能力によってつながり、空中浮揚の練習をしてその能力を身につけることで、より親密なコミュニケーションが可能になっていく。だが、後半、徐々に超能力が強大化していくにつれ、三人の手に余るようになり、特に家でも学校でも疎んじられてきたアンドリューは、他人や社会を破壊する力として、それを使わずにはいられない。いわば、前半は村上春樹の世界であり、後半はオウムの世界なのだ。

 では、アンドリューの一代記でしかない本作が、なぜ「クロニクル」と呼ばれねばならないのか。それは、アンドリューが、いつもハンディカメラを手離さない青年であるからだ。

 冒頭、鏡に写ったアンドリューが、その自らの姿をカメラに収めている。それは鏡像を自分だと思い込んでいる、この人間なるものを映し出す、映像というメディアのあり方そのものを表しているシーンだ。

 しかも、アンドリューは、マットが説くプラトンの洞窟の比喩をなぞるように、洞窟内でカメラを回し続ける。なるほど、カメラに映るのは、すなわち映画とは、実体(イデア)の「影」でしかないだろう。アンドリューが妄想を見ているのではない。映像に映ったアンドリュー自体が、実体ではなく「影=妄想」としてのアンドリューなのだ。ひょっとしたら、観客は、洞窟内に残されたその映像を作品として見ていたのかもしれない。

 いわば、この作品は、映画なるものの「クロニクル」なのだ。

中島一夫




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