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輝度不変則(Conservation of Radiance)の導出

はじめに

この記事はPBRの根幹となる輝度不変則(輝度保存則)の導出を解析力学の文脈で解説する記事です。ある程度、物理学や幾何光学、解析力学に触れたことがある方を対象とした記事となっております。ご了承ください

輝度不変則

輝度不変則(Conservation of Radiance) or 輝度保存則とは吸収がない限り、光線における輝度は保存されるという法則です。具体的には空間の屈折率 \muと輝度 Rについて

 \displaystyle{
\frac{R}{\mu^2} = Const.
}

が成り立ちます。屈折率の二乗で割った輝度のことはBasic Radianceと呼んだりします。光の吸収などが起きたらその分輝度は減りますが、一方で空間の進行や反射屈折といった光線の純粋な幾何的操作に対してBasic Radianceは変わることがないというのがこの法則の主張です。

この法則はPBRにおいて基礎となる法則です。もしこれがなければ、何もないところでもレイを進めるたびに輝度は変化していきますし、それを計算するためにはレイの広がりだのなんだの色々考慮しなくてはいけないことが出てきます。私たちが何も考えずレイを飛ばせるのはこれのおかげと言っても良いわけです。

今回の記事はそんな輝度不変則を山本義隆氏の「幾何光学の正準理論」[1]で取り上げられていた解析力学な手法で導出を行います。

解析力学

解析力学は「物理的対象が実際に取る経路は何らかの値(作用)が極値となるものに限られる」という変分原理(variational principle)に基づいて物理現象を調べる分野です。物理学の目的の一つは運動する物体がどのような経路を辿るのかを調べることです。具体的な物理法則から経路や性質を求める古典力学などとは対照的に、解析力学は物理的に可能な経路という経路そのものについて着目し、どんな物理法則でも成り立つような普遍的な法則を導きます。分野としては物理数学であり、古典力学量子力学、はたまた今回の幾何光学にも応用することができます(私はプログラミングにおけるフレームワークみたいなのと認識しています)。

解析力学では「極値を取る何らかの値」のことを作用(Action)と呼びます。経路 Rに対してパラメーターをtex: tとして、位置を x(t), y(t), z(t)、位置のt微分 \dot{x}, \dot{y}, \dot{z}と書くことにします。この経路 Rの作用 Iラグラジアン  Lというある関数によって

 \displaystyle{
I = \int_A^B L(x,y,z,\dot{x}, \dot{y}, \dot{z},t) dt
}

と定義されます。この I極値を取る条件はオイラー方程式

 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial x} - \frac{\partial L}{\partial \dot{x}} = 0 
}
 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial y} - \frac{\partial L}{\partial \dot{y}} = 0 
}
 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial z} - \frac{\partial L}{\partial \dot{z}} = 0 
}

であることが知られています。この方程式を満たす経路が作用を極値にする経路となります

ここで重要なのがオイラー方程式はラグラジアンが具体的になんであるかは問いていないと言うことです(精々微分可能ぐらい)。どのようなラグラジアンを考えても、作用の極値問題を考えられます。これは逆を取れば、どうラグラジアンを定義するかは自由であるというわけです。

オイラー方程式の解が実際の運動の結果になるかどうかは適切にラグラジアン Lを設定するかどうかにかかっています。古典力学では運動エネルギー Tとポテンシャル Vによってラグラジアン L L = T - Vと定義することで、ニュートン運動方程式と等価な式になるようにラグラジアンを設計しています。それのおかげで解析力学でも古典力学でも同様の結果が導けるようになっています。結果さえあっていればラグラジアンは何でもいいため、恣意的に設定したりしても問題ありません(実際、指数関数でもばね表現の運動を導けたりする)。

解析力学は基本的に Lについて具体性を与えずに議論を進めるため、解析力学の定理は物理法則に対して普遍的に適用することができます。そのため、解が実際の結果に一致するように適切なラグラジアン Lと作用 Iを定義することで、どんな分野であろうとも解析力学の恩恵をそのまま使うことができます。今回は幾何光学におけるラグラジアンを適切に定義し、解析力学の定理を用いて光の性質について求めていきます。

解析力学の用語について

解析力学の良いところは座標系や次元に関わらず議論ができるところです。ラグラジアンの座標系を変えたとしてもオイラー方程式の形は変わることがありません。例えば三次元直交座標 x,y,zから極座標 r, \theta, \phiに変えたとしてもオイラー方程式は次のように表されます。

 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial r} - \frac{\partial L}{\partial \dot{r}} = 0 
}
 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial \theta} - \frac{\partial L}{\partial \dot{\theta}} = 0 
}
 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial \phi} - \frac{\partial L}{\partial \dot{\phi}} = 0 
}

極座標変換によってラグラジアンの値自体は変わっていますが、オイラー方程式は座標変換に不変、つまりはラグラジアンの関係性は変わらないということを表しています。

このため、解析力学では座標系に特別性はなく、任意の座標系で議論します。その任意の座標のことを一般化座標と言います。また、別にこれ自体は三次元である必要はなく、任意の次元であっても問題ありません(多粒子系とかで3次元以上を考えたりします)。従って、一般座標は任意次元 Nの座標として \boldsymbol{q} = (q_1(t), ... , q_N(t)) と表記されるのが一般的です。この時のラグラジアン L(\boldsymbol{q}, \dot{\boldsymbol{q}}, t)と表され、オイラー方程式は次のように書かれます。

 \displaystyle{
\frac{d }{d t} \frac{\partial L}{\partial q_i} - \frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}} = 0 
}

また、解析力学ではラグラジアン Lに対して、ハミルトニアン Hと呼ばれる量を取り扱うことが多いです。これは Lに対して次のように定義される量です。

 \displaystyle{
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, t) = \sum_i p_i \dot{q_i} - L(\boldsymbol{q},\dot{\boldsymbol{q}},t)
}

この時の \boldsymbol{p} = (p_1, ..., p_N)とは一般化運動量と呼ばれる量で次のように定義されています。(古典力学で言うとこの運動量に相当する概念)

 \displaystyle{
p_i = \frac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}
}

ハミルトニアン Hは一般化座標 \boldsymbol{q}と一般化運動量 \boldsymbol{p}の関数であり、 \boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}をまとめた空間、相空間(Phase Space)上の関数として表現されます。こうして定義されたハミルトニアン Hに対して、オイラー方程式と等価とされるハミルトンの正準方程式が考えられています。

 \displaystyle{
\frac{d \boldsymbol{q} }{d t} = \frac{\partial H}{\partial \boldsymbol{p}}
}


 \displaystyle{
\frac{d \boldsymbol{p} }{d t} = - \frac{\partial H}{\partial \boldsymbol{q}}
}

ハミルトニアン Hラグラジアン Lと等価な概念ではありますが(ルジャンドル変換)、応用上ではハミルトニアンの方が使いやすいため、主に解析力学はこちらの方を主軸に考えていきます。

幾何光学の解析力学

それでは、実際に幾何光学に解析力学を導入していきます。

幾何光学にはフェルマーの原理というものがあります。これは光線の経路についての原理で、「光線は無数にある経路の内、光路長の極値となる経路を取る」ということを主張するものです。光路長というのは距離と屈折率をかけた量のことです。例えば、ある経路 Rのパラメーター表示を (x(s),y(s),z(s))としてその経路における光路長 Iは次のように定義されます。

 \displaystyle{
I = \int_A^B \mu(x, y, z) \sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2} ds
}

フェルマーの原理はシンプルながら、光の直進性や反射、屈折の軌道を説明することができ、光線が満たすべき物理法則という立ち位置に存在する重要な原理です。

そしてうすうすお気づきかもしれないですが、これはまさに作用の定義と同じ形をしています。つまりは、光路長は光線の運動における作用に相当する量であることがわかります*1。これより、幾何光学におけるラグラジアン \tilde{L}は以下のように定義すればよいことが分かります。

 \displaystyle{
\tilde{L} = \mu(x, y, z) \sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}
}

これにより光線の運動は解析力学的に扱えるようになりました。

この時、光線における一般化運動量 \vec{p}については一般化座標を \vec{r} = (x,y,z)と表記することとして

 \displaystyle{
\vec{p} = \frac{\tilde{L}}{\vec{\dot{r}}} = \frac{\mu(\vec{r}) \dot{\vec{r}} }{\sqrt{\dot{x}^2  + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}}
}

と定義されます。 \dot{\vec{r}} / \sqrt{\dot{x}^2  + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}は正規化された接線ベクトルなわけですから、この単位方向ベクトルを \vec{e_r}と表記すると

 \displaystyle{
\vec{p} = \mu(\vec{r}) \vec{e_r}
}

と書くことができます。 \vec{e_r}というのは光線の進む向きを表していますし、屈折率 \muがかかっているため、これはある種光路長の進みを意味する量であると言えます。つまりは \vec{p}は光線の進行を表すベクトルと考えることができ、これを光線ベクトルと言います。

これで解析力学の導入は終わったかのように見えますが、実はちょっと問題があります。ラグラジアンには正則という概念が存在し、正則であるラグラジアン解が一意的に決まることが知られています。対称的に正則ではない(特異な)ラグラジアンは解は不定になります。つまりは、特異なラグラジアンからは実用的な解が得られないと言うことです。

正則かどうかはラグラジアンに対して、一般化速度 \dot{\vec{r}}に対するヘシアンが0でないかどうかで判定されます。各変数の二回偏微分について調べてみると

 \displaystyle{
\frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{x}^2} = \mu \frac{\dot{y}^2 + \dot{z}^2 }{(\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}) ^3}
}
 \displaystyle{
\frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{x} \partial \dot{y}} = \mu \frac{- \dot{x} \dot{y} }{(\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}) ^3}
}
 \displaystyle{
\frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{x} \partial \dot{z}} = \mu \frac{- \dot{x} \dot{z} }{(\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}) ^3}
}
 \displaystyle{
...
}

となるため、ヘシアンについては

 \displaystyle{
\begin{vmatrix}
\frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{x}^2} & \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{x} \partial \dot{y}}  &  \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{x} \partial \dot{z}}  \\
\frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{y} \partial \dot{x}} & \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{y}^2}  &  \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{y} \partial \dot{z}}  \\
\frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{z} \partial \dot{x} } & \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{z} \partial \dot{y}}  &  \frac{\partial \tilde{L}}{\partial \dot{z}^2 }  \\
\end{vmatrix}
= 
\frac{\mu}{(\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}) ^3 }
\begin{vmatrix}
\dot{y}^2 + \dot{z}^2 & -\dot{x} \dot{y} & - \dot{x} \dot{z} \\
-\dot{x} \dot{y} & \dot{z}^2 + \dot{x}^2 & - \dot{y} \dot{z} \\
 - \dot{x} \dot{z}  & -\dot{y} \dot{z} &  \dot{x}^2 + \dot{y}^2 \\
\end{vmatrix}
= 0 
}

というように0となります。すなわち、このラグラジアン \tilde{L}は特異であることが確認できました

ということでこのラグラジアンを直接使うのはやめて、別の等価なラグラジアンを考えます。レンズ系など、幾何光学で扱う系は計算のために一般的に光軸と呼ばれる基準となる軸を仮定します。この光軸をz軸とした座標系を考え、光線の軌道を zをパラメーターとした x(z), y(z)として表現することができます。

この二次元座標 (x(z),y(z))は幾何的には z=0に光線を投影した点であり、光線はこの二次元平面上を動く点となります。このような二次元平面のことを配位空間(Configuration Space)といい、 Nと書きます

配位空間上の点における z微分をプライムで表示するとして

 \displaystyle{
\frac{d x(z)}{d z} = x', \frac{d y(z)}{d z} = y', 
}

とします。この時、3次元空間における微小量 ds dzの関係性は

 \displaystyle{
\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2 + \dot{z}^2}ds = \sqrt{dx^2 + dy^2 + dz^2} = \sqrt{(\frac{dx}{dz})^2 + (\frac{dy}{dz})^2 + 1} \; dz = \sqrt{x'^2 + y'^2 + 1} \; dz
}

と書くことができるので作用の定義を次のように変形することができます。

 \displaystyle{
I = \int_{A_{z}}^{B_{z}} \mu(x, y, z) \sqrt{x'^2 + y'^2 + 1} \; dz
}

従って、配位空間におけるラグラジアン Lを次のように定義されます。

 \displaystyle{
L(x,y, x',y', z) = \mu(x, y, z) \sqrt{x'^2 + y'^2 + 1}
}

この新しいラグラジアン Lは先ほどの \tilde{L}と等価な(結果が同じになる)ラグラジアンです。この時、 Lのヘシアンを調べてみると0にならず、 \tilde{L}と異なり正則であることが確認できます。

 \displaystyle{
\begin{vmatrix}
\frac{\partial L}{\partial x'^2} & \frac{\partial L}{\partial x' \partial y'} \\
\frac{\partial L}{\partial y' \partial x'} & \frac{\partial L}{\partial y'^2} \\
\end{vmatrix}
= 
\frac{\mu}{(x'^2 + y'^2 + 1)^3}
\begin{vmatrix}
y'^2 + 1 & - x' y' \\
-x' y' & x'^2 + 1
\end{vmatrix}
= 
\frac{\mu}{(x'^2 + y'^2 + 1)^2}
\neq 0 
}

なので、幾何光学では性質が良い配位空間上のラグラジアン Lを使用して、議論を進めていきます。これは特に光学ラグラジアンと呼ばれます。

同様に配位空間におけるハミルトニアン Hも定義することができます。配意空間の座標を \boldsymbol{q} = (x,y)と書くとして運動量 \boldsymbol{p}は次のように求められます。

 \displaystyle{
\boldsymbol{p} = \frac{d \boldsymbol{L}}{d\boldsymbol{q}'} = \frac{\mu \boldsymbol{q}'}{\sqrt{\boldsymbol{q}'^2 + 1}}
}

これを用いてハミルトニアン H

 \displaystyle{
H(\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}, z) = \boldsymbol{p} \cdot \boldsymbol{q}' - L = - \sqrt{\mu(\boldsymbol{q},z)^2 - \boldsymbol{p}^2}
}

と得ることができます。これは特に光学ハミルトニアンと呼ばれます

こうして光線におけるラグラジアン Lハミルトニアン Hを定義することができました。解析力学ラグラジアンハミルトニアンの形に問わず理論を展開しているので、これらにおいても解析力学の諸定理が成立します(ここが解析力学の強みですね)。これらの諸定理から光線に関わる法則について求めていきます。

正準変換とシンプレクティック条件

ここからは幾何光学から離れて今後に必要な解析力学の定理について話していきます。ここではあまり解析力学の深い話はせず、概要だけ述べていこうと思います。

ハミルトニアンラグラジアンとは異なり、座標変換にある程度の条件が付けられます。ラグラジアンにおいて座標変換が許されるのはオイラー方程式の形が変わらなかったためです。一方でハミルトニアンに対応する正準方程式は座標変換によっては形が変わってしまいます。

正準方程式の形を変えないような座標変換のことを正準変換(Canonical Transform)と呼び、ハミルトニアン対する座標変換はこれに限られます。例えば \boldsymbol{q}, \boldsymbol{p}から \boldsymbol{Q}, \boldsymbol{P}の変換を考えた時、新しく作られるハミルトニアン Kに対して

 \displaystyle{
\frac{d\boldsymbol{Q}}{dz} = \frac{\partial K}{\partial \boldsymbol{P}}, \frac{d\boldsymbol{P}}{dz} = - \frac{\partial K}{\partial \boldsymbol{Q}}
}

が満たされる必要があります。こうなるような変換を直接に考えるのは難しいため、実際は母関数という関数を考えて生成するのが一般的です。

正準変換によって新しい座標系で取り扱ったとしても正準方程式が変わらないため、その結果は変わることはありません。面白い話として一般化座標 \boldsymbol{q}と一般化運動量 \boldsymbol{p}を入れ替えるような変換もある種の正準変換とされています。そのため、ハミルトニアンにおいてはもはや一般化座標も一般化運動量も区別する必要はありません。

また、重要な性質として正準方程式に従った経路上のある点からある点への変換は正準変換になることが知られています。そのため、経路上の運動は正準変換を集めたものとして考えることができます。

相空間の座標を \boldsymbol{\eta} = (\boldsymbol{q}, \boldsymbol{p})と表記し、初期値 \boldsymbol{\eta_0}から始まる経路 \boldsymbol{\eta}(\boldsymbol{\eta_0}, z)正準方程式から求められたとします。

この時、 \boldsymbol{\eta}(z)というのは常に正準変換であり続けなくてはいけません。その条件はシンプレクティック条件として表現されます。シンプレクティック条件とは経路 \boldsymbol{\eta}(z)  = (\eta^1, \eta^2, ...)に対する \boldsymbol{\eta_0} = (\eta_0^1, \eta_0^2, ...)のヤコビ行列 M (ベクトルの成分の添え字は上に書くことにします)

 \displaystyle{
M = 
\begin{pmatrix}
\frac{\partial \eta^1 }{ \partial \eta_0^1} & \frac{\partial \eta^1 }{ \partial \eta_0^2} & ...  \\
\frac{\partial \eta^2 }{ \partial \eta_0^1} & \frac{\partial \eta^2 }{ \partial \eta_0^2} & ...  \\
... & ...  
\end{pmatrix}
}

が1である必要があるという条件です。

 \displaystyle{
\det{M} = 1
}

このシンプレクティック条件から光線の性質を考えることで輝度不変則を求めていきます。

Liouvilleの定理

前節で述べたシンプレクティック条件は変換のゆがみみたいなのを表せるヤコビアンに対して強い制約を与えていました。そこから相空間上において体積の保存則を示す重要なLiouvilleの定理を導くことができます。今回は一般化はせず、分かりやすさのため光線の相空間(=4次元)で議論を進め、Liouvilleの定理を導出していきます。

初期値を \boldsymbol{\eta_0}とする光線 \boldsymbol{\eta}(\lambda, \boldsymbol{\eta_0})にたいして、少しだけ離れた初期値  \boldsymbol{\eta_0} + \delta  \boldsymbol{\eta_{0(i)}}. (i = 1,2,3,4)を持つ4つの光線 \boldsymbol{\eta}^*_{(i)} =  \boldsymbol{\eta} + \delta  \boldsymbol{\eta_{(i)} }について考えます。

これの各成分は

 \displaystyle{
\eta^{\alpha} + \delta \eta^{\alpha}_{(i)} = \eta^\alpha (\lambda, \boldsymbol{\eta_0} + \delta \boldsymbol{\eta_{0(i)}})  
}

これは \delta \etaが微小であることを考えれば、一次近似で

 \displaystyle{
\eta^\alpha (\lambda, \boldsymbol{\eta_0} + \delta \boldsymbol{\eta_{0(i)} }) = \eta^\alpha(\lambda, \boldsymbol{\eta_0}) + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^1} \delta \eta_{0(i)}^1 + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^2} \delta \eta_{0(i)}^2 + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^3} \delta \eta_{0(i)}^3 + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^4} \delta \eta_{0(i)}^4
}

と表記することができます。よって、各光線の変位 \delta \eta_{(i)}^\alpha

 \displaystyle{
\delta \eta_{(i)}^{\alpha} = \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^1} \delta \eta_{0(i)}^1 + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^2} \delta \eta_{0(i)}^2 + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^3} \delta \eta_{0(i)}^3 + \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^4} \delta \eta_{0(i)}^4
}

となります。これは行列で書けば \etaヤコビアン M

 \displaystyle{
\delta \eta_{(i)}^{\alpha} = 
\begin{pmatrix}
 \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^1} &
 \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^2} & 
 \frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^3} &
\frac{\partial \eta^\alpha}{\partial \eta_0^4}
\end{pmatrix}

\begin{pmatrix}
\delta \eta_{0(i)}^1 \\
\delta \eta_{0(i)}^2 \\
\delta \eta_{0(i)}^3 \\
\delta \eta_{0(i)}^4
\end{pmatrix}
}

となるので、ヤコビアン M使って各光線の変位は次のようにまとめることができます。

 
\displaystyle{
\bigl(
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(1)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(2)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(3)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(4)}
\bigr)
=
M
\bigl(
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(1)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(2)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(3)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(4)}
\bigr)
}

ここから、両辺の行列式を取ります。この時の左辺が表す量は微小ベクトル \delta \eta_{(i)}たちが張る4次元体積 \Delta Vを表します。

 \displaystyle{
\Delta V
=
\det\!\bigl(
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(1)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(2)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(3)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{(4)}
\bigr)

}

右辺はそれぞれ行列で行列式は分離することができ、微小ベクトルの行列式は同様に \delta \eta_{0(i)}たちが張る4次元体積 \Delta V_0を示します。

 \displaystyle{
\Delta V_{0}
=
\det\!\bigl(
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(1)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(2)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(3)},
  \delta \boldsymbol{\eta}_{0(4)}
\bigr)
}

ということで、行列式を取った方程式は次のように初期値時点での体積と時間発展後の体積の関係性を意味するものになります。

 \displaystyle{
\Delta V = \det(M) \Delta V_0
}

そして、ヤコビアンMはシンプレクティック条件により行列式が1であることが要請されます。これは

 \displaystyle{
\Delta V = \Delta V_0
}

となります。これは分かりやすく言えば、相空間上の体積が光線の経路に沿って移動させてもその大きさは変わらないことを示します。

解析力学ではこれをLiouvilleの定理と呼びます。先ほども述べたようにヤコビアンというのは変換に対する空間のゆがみを表すパラメーターとして見なすことができます。その行列式が1であるということは空間のゆがみによって曲げはすれども、その大きさ自体は変えるようなことはしないことを意味します(なのでシンプレクティック条件からある意味自明な性質でもあります)。

Etendue保存則

Liouvilleの定理により相空間上の体積の大きさというのは光線の運動に対して不変であるため、相空間上の体積から何らかの保存量が考えられそうです。

ここで、点Aから放たれる光線 \boldsymbol{\eta}を基準として、開始地点Aを微小にずらしたA1,A2を用意し、その点を通る2つの光線 \boldsymbol{\eta_1}, \boldsymbol{\eta_2}をそれぞれ考えます。更に、点Aを通るけど微小に方向が違う2つの光線 \boldsymbol{\eta_3}, \boldsymbol{\eta_4}を用意することにします。

この時、基準の光線 \boldsymbol{\eta}と変位させた光線 \boldsymbol{\eta_i}の差分 \delta \boldsymbol{\eta_i} = \boldsymbol{\eta} - \boldsymbol{\eta_i}は次のように書くことができます。

 \displaystyle{
\delta \boldsymbol{\eta_1} = (\delta q_{1x}, \delta q_{1y}, \delta p_{1x}, \delta p_{1y})
}
 \displaystyle{
\delta \boldsymbol{\eta_2} = (\delta q_{2x}, \delta q_{2y}, \delta p_{2x}, \delta p_{2y})
}
 \displaystyle{
\delta \boldsymbol{\eta_3} = (0, 0, \delta p_{3x}, \delta p_{3y})
}
 \displaystyle{
\delta \boldsymbol{\eta_4} = (0, 0, \delta p_{4x}, \delta p_{4y})
}

となります。そして、これらの差分ベクトル \delta \boldsymbol{\eta_i}が相空間上で張る体積 \delta Vについて考えます。これは

 \displaystyle{
\delta V = 
\begin{vmatrix}
\delta q_{1x} & \delta q_{1y} & \delta p_{1x} & \delta p_{1y} \\
\delta q_{2x} & \delta q_{2y} & \delta p_{2x} & \delta p_{2y} \\
0 & 0 & \delta p_{3x} & \delta p_{3y} \\
0 & 0 & \delta p_{4x} & \delta p_{4y} \\
\end{vmatrix}
}

と書かれます。ブロック行列の公式を使えば、これは分解されて

 \displaystyle{
\delta V = 
\begin{vmatrix}
\delta q_{1x} & \delta q_{1y} \\
\delta q_{2x} & \delta q_{2y} 
\end{vmatrix}

\begin{vmatrix}
\delta p_{3x} & \delta p_{3y} \\
\delta p_{4x} & \delta p_{4y} \\
\end{vmatrix}
}

それぞれ微小ベクトルの行列式として得られます。この行列式の幾何的な意味を考えてみます。

まずは左の項ですが元々の光線の意味を考えると \boldsymbol{\eta_1},\boldsymbol{\eta_2}の座標の変位ベクトルの行列式であるため、 A1, A2, Aが張る微小な面積に相当することになります。これを dAと表記することにします。

 \displaystyle{
dA = 
\begin{vmatrix}
\delta q_{1x} & \delta q_{1y} \\
\delta q_{2x} & \delta q_{2y} 
\end{vmatrix}
}

一方で右の項についてです。光線ベクトルは何だったかと言うと光線の方向ベクトルを屈折率分だけ伸ばしたものなので、その差分の行列式は立体角を屈折率 \muだけ遠くに引き延ばした面積となります。光線の方向ベクトルが張る立体角 d\Omegaとしたら、その面積は \mu^2 d\Omegaに相当します。

ただし、今は配位空間の光線ベクトルを考えているため、これを配位空間に投影したものが求めたい行列式に相当する事になります。配意空間の光軸(法線)との角度を \thetaとすれば、配位空間に投影した面積は \mu^2 \cos{\theta} d\Omegaとなります。すなわち、

 \displaystyle{
\mu^2 \cos{\theta} d\Omega = 
\begin{vmatrix}
\delta p_{3x} & \delta p_{3y} \\
\delta p_{4x} & \delta p_{4y} \\
\end{vmatrix}
}

が成り立ちます。よって、微小ベクトルが張る体積 \delta Vは次のように書くことができます。

 \displaystyle{
\delta V = \mu^2 \cos{\theta} d\Omega dA
}

そして、弧の体積はパラメーターの発展(光線が進む)に対して不変であることがLiouvilleの定理から保証されています。すなわち、この量は光線の進行に対して常に同じ値を取り続けます。

 \displaystyle{
\mu^2 \cos{\theta} d\Omega dA = Const.
}

この量をEtendueと言い、Etendueは光線の進行に対して保存量になることが導かれました。これをEtendue保存則と呼びます*2

輝度不変則

前節で光線はEtendueという量を保存し続けるということがわかりました。私たちは輝度が光線の進行に対して保存されることを示したいのですから、このEtendueという量にあやかればうまく行きそうです。これを用いて輝度不変則を導きます。

ある微小な面積 dAが立体角 d\Omegaの光を放った際、その輝度を Rとして表します。この光が吸収されることなく、別の平面 dA'放射輝度 R’として全ての光が照射されているとします。この R R’が等しいことが示されれば輝度不変則の証明となります。

 dAが放つ光の放射束 dF dA’が受け取る放射束 dF’は等しいと仮定します(吸収がなく、全て照射されているという意味です)。

 \displaystyle{
dF = dF'
}

放射輝度の定義から R dFの関係は次のようになります。 R' dF'も同様です。

 \displaystyle{
dF = R \cos{\theta} d\Omega dA
}

先ほどの式をこれで展開すれば

 \displaystyle{
R \cos{\theta} d\Omega dA = R' \cos{\theta'} d\Omega' dA'
}

が得られます。この時、各 dA, dA'における屈折率を \mu, \mu'とすればEtendue保存則により

 \displaystyle{
\mu^2 \cos{\theta} d\Omega dA = \mu'^2 \cos{\theta'} d\Omega' dA'
}

が成り立つので、

 \displaystyle{
\frac{\mu^2}{ \mu'^2 }  =\frac{\cos{\theta'} d\Omega' dA'}{\cos{\theta} d\Omega dA}
}

これを代入すれば、結果として

 \displaystyle{
\frac{R}{\mu^2} = \frac{R'}{\mu'^2}
}

 dA'はどこであるかなどは指定していないため、吸収がない限り光線の進行においてどの時点でもBasic Radianceは同じ値を取り続けることが導かれます。すなわち、

 \displaystyle{
\frac{R}{\mu^2} = Const.
}

というように輝度不変則を得ることができました。

参考文献

[1] 山本義隆 著. 幾何光学の正準理論. 数学書房, 2014, 322p..

[2] 山本義孝 著. 古典力学の形成 ニュートンからラグランジュへ. 日本評論社, 1997, 373p..

[3] K. Hiroe. 解析力学. EMANの物理学. EMANの解析力学 (参照 2025-05-26)

*1:歴史的にはフェルマーの原理から変分原理という考え方が生まれたので、むしろこうなることは当然ちゃ当然です

*2:Etendueは別の配位空間に移しても変わらないんでしょうか...? 輝度不変則では放つ側と受け取る側が違う光軸の配位空間を考えている気がするので、ちょっと気になる(多分大丈夫だとは思うんですが)




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