- まずは定番、ヨーロッパ軒でソースかつ丼を食べる
- 蘭麝酒を探し福井を走る
- 一乗谷朝倉遺跡
- 漆器の街
- 越前名物おろしそばは大人の味
- 謎の名物ボルガライスを食べる
- ホテルで、目分量蘭麝酒マンハッタン
- 福井神社はモダニズムかっこいい
- そして敦賀で納豆サンドイッチを食べる
福井駅で降りると目の前に大量に恐竜がいてびっくりした。福井は初めてだったので、福井が恐竜を推しているということを初めて知った。調べてみると、福井は恐竜の化石がたくさん出土しているらしい。恐竜はくびをふっている。不思議な駅前である。
僕の目的は恐竜ではなく酒であった。福井には蘭麝酒という数百年前からある古い薬草酒があるらしくこれをいつか飲んでみたいなと思っていたのだ。これはつまり福井蘭麝酒紀行である。
まずは定番、ヨーロッパ軒でソースかつ丼を食べる

残念なことに恐竜には興味がわかなかったのでそのまま素通りして昼ご飯を食べることにした。福井の名物はソースカツ丼らしい。なかでも、ヨーロッパ軒という店がソースカツ丼の発祥の店とのことなので、まずはその店に行ってみることにした。もう1時半を過ぎて2時に迫ろうとしていたので、さすがに混んでいないのかなと思っていたのだけど、店の前には4人ほど待っている人がいた。カツ丼だし、そんなに時間はかからないだろうと思い並ぶことにした。

列に並んでいると風がピューと吹きつけてくる。寒いけれど、天気が良く気持ちのよい冬の1日である。僕の後ろにはすでに3人ほど並んでいる人がいた。すごく人気のある店のようだ。いずれの人も並んでるのを見てあちゃーという顔をしていた。たしかに、この時間に来て並ぶとはあまり思わないだろう。
ソースかつ丼というのは色々なところで食べられている。僕は以前早稲田の辺りでソースかつ丼は実は早稲田が発祥なのだと書いてあるのを見つけたことがあった。ヨーロッパ軒の前で、そのことを思い出し調べてみたら何とヨーロッパ軒はそもそも早稲田で一度店を出して、その店主が帰ってきて福井で開いた店のようだ。つまり早稲田が、ソースかつ丼発祥の地というのはあながち嘘ではなかったのである。
ソースかつ丼について学びながら待っていると15分ほどで店に入ることができた。すぐソースかつ丼を注文した。朝何も食べていなかったので、めちゃくちゃ腹が減っていた。

パン粉が揚がった香ばしいにおいがした。とんかつはさっとソースをくぐっているようだ。食べると、まず甘酸っぱい果実味のあるソースが直接的な刺激をあたえてくる。噛むと香ばしいかおりが膨らんだ。肉は薄めで、ソースの印象が大きい。米と一緒に食べると、なんともおいしい。丼ものというのは常に素晴らしいものであるが、簡易であるが故のバランスの難しさもある。ヨーロッパ軒のソースかつ丼は肉、味、香りどれもシンプルにおいしかった。
あと、ソースかつ丼もよいのだけど、もっと驚いたことがあった。キャベツである。サラダに盛られたキャベツがみずみずしさを失わせないままに、ふわふわに切ってあって、今まで食べたすべてのキャベツで一番おいしいのではないかというようなことさえ感じさせる軽やかさで、これがもう、とんでもないキャベツだったのである。

サラダでうまっと声をだすことはあまりないが、ぼくは思わずうまっとつぶやいてしまった。どうやって作っているのだろう。何か工夫がありそうだ。途中からかつ丼よりもサラダが気になり始めてしまった。とはいえ、ヨーロッパ軒はとてもよいお店であった。

蘭麝酒を探し福井を走る
カツ丼を食べ終えて当初の目的であった蘭麝酒を探しに行くことにした。予約していたカーシェアの車に乗り込む。陰にとまっていた車のハンドルはひんやりしていた。しばらく運転すると市街地を抜けた。街中から東へ向かってずんずんと走って行く。凛とした冷たい空気が広がっているのを感じた。

蘭麝酒というのはこの地域に栄えた戦国大名の朝倉氏ゆかりの薬草酒として現代に伝えられている。漢方に使われるような様々な薬草が混ぜ込まれていて、一子相伝でその作り方が引き継がれているらしい。どんな味なのだろうかと妄想を膨らませながら車を走らせる。東北では熊が出ているというニュースをたくさん聞いていたので、正直結構運転しているだけでも怖かった。

田舎道をしばらく行くと蘭麝酒と書かれた看板が見えた。右折して、細い道を行くと酒造が見えた。瓦造りで歴史がありそうな建物だ。車を停めて蔵の方へと向かった。

戸を開けて、すみませ~んと声を出してみたのだけど、奥からはなんの反応もかえってこなかった。インターホンがあったので押してみる。しかしやはり誰もやってこない。残念なことにもしかしてお休みなのだろうか。一度外に出て蔵の裏の方に歩いてみると人気を感じた。すみませんと3回ぐらい唱えてみると奥からスタッフの方が出てきてくれた。
「あら、すみません。全然気づきませんでした。お待たせしてすみません」と言いながらスタッフの女性が現れた。普通に営業はしているようだった。
女性は蘭麝酒の説明をしてくれた。丁子や桂皮がはいっているんですよと言って瓶を見せてくれた。どうぞと言って匂いを嗅がせてくれる。丁子というのはクローブのことらしい。コーラをおもわせる甘い匂いがする。元々福井市は北前船の文化があり、中国経由の薬草が色々入ってきたのではないかというような話をしてくれた。薬師寺も近くにあってこの一帯には薬草関連の文化が一定あるようだ。

一子相伝門外不出で製造を続けているらしい。歴史としては400年以上は間違いないようである。残念なことに旅行中だったので、お土産用の小さな小瓶の蘭麝酒を買った。僕は日本に伝わる古い薬草種が好きで、色々調べるようにしているのだけど、古くから伝わる薬草酒というのは、嗜好品としての独特のロマンがあるものである。車なのでその場では飲めないので、カバンに詰めた。夜飲むのが楽しみだ。


一乗谷朝倉遺跡
蘭麝酒は朝倉一族にゆかりがあるということを書いたけれども、酒造の近くには一乗谷朝倉氏遺跡というものがあるらしく、スタッフの方が帰り際に「遺跡と博物館があって、当時の遺構が見えたりしてなかなか立派で面白いのですよ」と教えてくれたので、そちらに向かってみることにした。
朝倉氏というのは戦国大名で、一乗谷を中心に勢力をもっていたが、織田信長に敗れ16世紀に滅びたらしい。一時はかなり栄えていたようで、その頃の町の様子が再現されているようだ。
遺跡は車で五分ほど南下したところにあった。車から降りる。谷とあるように山に挟まれているすこしくぼんだような印象のある場所だ。そこかしこに人がかつて整備したような痕跡が見られ、なかなか大きな城下町があったことがわかる。


当時の街並みが再現されているエリアもあった。500年前とかなわけだけど、なかなか立派である。とてつもなく寒そうであることを除けば基本的な住居としての機能は十分そうである。


そのあと、博物館にもよって、この地域を学ぶなどしてみた。

漆器の街
福井の越前は漆器で有名らしい。前日、調べていたところによると手入れがしやすいなんだったら食洗器に入れたりすることすらできるものもあるようだったので、1つ買ってみたいなと思って店に行ってみることにした。一乗谷からさらに南下すること20分、おしゃれな雑貨屋のような漆器の店が現れた。

いろいろな種類がありよくわからないので、店員の方に話を聞いてみる。この辺が使いやすいですよと教えてくれた。品のある風合いをしていて良さげである。漆器を買うのは初めてなのでお手頃なものをつかってみるのがよいだろうと思い、4000円くらいのものを購入してみた。店員の方が会計をしてくれるのだけど、指先に漆器の色が残っていた。実際にこの方がつくられているのだなあと思いながら購入した。(最悪なことには、どこかで漆器をなくして、家で、あれない!!となった。本当に最悪である)
包んでもらっている間レジの前で待っていると神社のお守りのようなものが目に入った。それには漆器神社と書かれていた。スタッフの人に聞いてみると「近くにこういう神社があるですよ。そちらの道を曲がって数分くらいです」と教えてくれた。
せっかくなので寄ってみることにした。

なかなか端正な街が広がっている。少し西に移動すると神社が見えてきた。

これが漆器神社だ。薄暗く裏には木が生い茂っていた。正直熊が出そうな雰囲気が100%だった。めちゃくちゃ怯えながら参拝した。拝殿の天井には職人たちの絵が描きこまれているらしい。見てみたいものだ。地域の固有性が出た神社というのはおもしろい。

日が徐々に暮れ始めていた。

越前名物おろしそばは大人の味
西に移動して越前市に出た。そろそろ夕飯の時間だ。越前市はおろしそばというのが有名なようなので蕎麦屋を探すことにした。大根おろしが蕎麦つゆに混ぜ込まれているものだそうだ。いい感じに歴史がありそうな蕎麦屋があったので、そちらに行ってみることにした。漆屋というらしい。

夜になるとこれが寒い。風がないだけましなのだけど、骨まで冷えそうな寒さだ。おろしそばが有名なのはわかるのだけど、問題はおろしそばは冷たいということである。まあ、でもここで注文しないのも謎だよなあと思い、おろしそばを注文した。席は窓に近かったので、よりおろしそばに向かないようである。手を擦りながらそばを持った。
そばはきれいな切り口で、すんと佇んでいた。つゆは少し泡立っている。

そばをすすってみると、つんと大根の香りがした。かなり鋭い風味である。これを冬に食べるのだからその鋭さはかなりのものだ。そば湯がとろみが強く、そばの合間に飲むとちょうどよかった。これはなんというか大人になったからおいしいなと思えるようになるタイプの食べ物だ。のどの奥で辛みを味わうようにしてそばを食べた。

そばを食べ終えたが、小ぶりだったので、正直、腹5.5分目くらいだった。もう少し何か食べたいなあと思った。福井の夜は静かで冷たい。耳が冷えて痛かった。
謎の名物ボルガライスを食べる
福井の越前にはボルガライスなる名物があることは知っていた。これを食べようか迷ったのだけど、問題は、腹のすき具合が4.5分目くらいであるということだ。ボルガライスというのは、オムライスにとんかつが載っているというかなりボリューム感のある食べ物らしいので、どう考えてもこのあとに食べると、おなかがパンパンになる未来が見えていた。
しかし、そのボルガライスの店はそば屋の真裏にあったのだった。これは、もう食べろと言われているようなものである。普段なら食べないがこれは旅行だし、旅行というのはそれなりに歩くものだしな。カロリーもたいそう消費されていることだろうと、僕は、自分の中で言い訳を作り出して、ボルガライスを食べることにした。
ヨコガワ分店という店なのだけど、なんと、神社の参道に店があるのだ。不思議である。

ドアを開けると、香ばしいバターのにおいがした。店主がフライパンですごい量の米を炒めているのが見えた。奥の席に座った。隣には、ハチャメチャに酔いなかなかに仕上がっている様子のおっちゃんがふたりいた。楽しそうなことは何よりである。洋食屋っぽい店の雰囲気なのだけど、細かくいろいろ注文して、居酒屋のようにも利用できるらしい。
バターとソースの香りに包まれながらしばし待っているとボルガライスがやってきた。ふわーっと湯気がたちのぼっていた。オムライスの上にとんかつがのり、そこにデミグラスソースがかかっている。お子様ランチ的な趣がある。このあたりの喫茶店など20店舗ほどで食べられるらしい。

バターのにおいがこもったチキンライスが卵にくるまれている。とんかつは薄くて、オムライスに添えられるにちょうどいい感じのサイズである。おろしそばは大人な味で、こちらは高校生な味である。どちらも別方向においしかった。
そして、当然であるが、腹はぱんぱんとなった......
車を返さなくてはいけないので、福井市へ向かって北上した。こんな炭水化物を山盛り食べてしまったら眠くなりそうだなあと思ったのだけど、意外とそんなに眠くはならずに、車の返却地である福井市内までたどり着いた。
ホテルで、目分量蘭麝酒マンハッタン
ホテルについた。普段車を運転しないので、数時間運転するとけっこう疲れる。僕は、一乗谷で購入した蘭麝酒を取り出した。ツイッターで以前、バーテンダーの鹿山博康さんが蘭麝酒とウイスキーとビターズで蘭麝酒マンハッタンを作っていたので、それを真似してみようと思っていた。コンビニでウイスキーを買っていたので、蘭麝酒についていたカップに注いで目分量で割ってみる。
蘭麝酒のスパイシーな香りにウイスキーのパンチが加わる。マンハッタンとはすこし違うけれど、これはこれでおいしい。冷えていないので甘みが目立った。こういう、謎目分量カクテルはやってみると結構楽しい。薬草酒のいいところは酒なのに、どことなく健康の雰囲気があるところである。ゆっくり蘭麝マンハッタンを味わって、こくこくと眠りについた

福井神社はモダニズムかっこいい
安いホテルだったけれど、ベッドの相性が良かったらしくかなり心地よく眠ることができた。朝ご飯を食べに近くの喫茶店に行った。

店に入るとたばこのにおいがした。奥の席でぷはーと老人がたばこを吸っていた。僕はカウンターに座って、モーニングセットを注文した。後ろのテーブル席には、キャバクラかスナックかよくわからないのだけど、ボーイ的な仕事をしているらしい、はたちそこそこの男二人が、この街は云々、先輩が云々、ある種の才能が云々、闊達に会話を続けていた。そんな、青いBGMを背中に僕は食パンをかじった。

あとは普通に福井市内を観光した。

福井神社がモダニズム建築っぽくてすごいかっこよかった。


そして敦賀で納豆サンドイッチを食べる
会社を1週間休むことに成功したので、この後、大阪に移動する予定となっていた。福井駅から北陸新幹線で敦賀に移動する。稲刈りの終わった田んぼをぼーっと眺めた。

敦賀駅に到着した。ここでサンダーバードに乗り換えだ。敦賀駅は駅前にちえなみきという公営の書店があるらしく立ち寄ってみた。子供たちがたくさん来ていてキャッキャと楽しそうな声を放っている。二階の机があるエリアでは勉強している人もたくさんいた。雰囲気はちょっとおしゃれな図書館という感じだ。どうなのだろう。今後こういう公営の書店が増えて行ったりするのだろうか。本は市場の自由な流通がなんにせよ一番よいとは思うけれど、仕方ないのかもしれない。
サンダーバードを待つ間、駅の前にあったびぜんやという喫茶店に入った。

ちょっと暗い喫茶店の中から見えるからっとした外の光というのは良いものである。メニューをめくると納豆サンドイッチなるものがあった。納豆サンドイッチくださいと言うと「ふふ、ちょっと待っててね。めずらしいでしょ」と店主は笑った。

「お口に合うといいけど」
「ありがとうございます!おいしそうですね」

納豆か、どんなもんなのかなと思って手でつかむ。パンはつかむとつぶれてしまいそうな柔らかさだった。納豆は卵で包まれオムレツのようになっているようだ。マヨネーズにきゅうりが挟まっている。納豆がいい粘度で、パンや具をほどよくつつみ、程よく納豆の印象があって、大変おいしかった。今年食べたサンドイッチ大賞であるといえるかもしれない。こんなものが駅前の喫茶店のメニューの片隅に潜んでいるのは素晴らしいことだ。
「これ本当においしいですね。感動しました!」
僕はすごい勢いでサンドイッチを食べた。
「あら、よかった」
店主は少し笑顔をこぼした。店を後にして、僕は大阪に向かった。