最近、ビジネスニュースを騒がせている京都の某大手メーカー。その創業者の退任にまつわる問題が波紋を広げている。公表された250ページに及ぶ第三者委員会の調査報告書。法務コンプライアンスに携わる身として、興味深く一読した。
1. 内部統制を「無効化」する強烈なプレッシャー
報告書が指摘したのは、創業者による役員や子会社社長への苛烈な業績プレッシャー。パワハラまがいの言動が常態化し、現場が「不正会計に手を染めるしかない」状況に追い込まれていた実態が浮き彫りになっている。特筆すべきは、「創業者は一部の会計不正を容認していたとの評価を免れない」という踏み込んだ指摘だろう。本来、組織のブレーキ役であるはずの法務コンプライアンス部門や内部監査部門も、残念ながら機能不全に陥っていた様子。
今回の問題は、2015年に発覚した東芝の不正会計問題(いわゆる「チャレンジ」)と構図がよく似ている。トップダウンで強烈な業績達成を求められた現場が、追い詰められた末にやむなく不正へと手を染める――。企業不祥事の典型的なパターンと言えるだろう。こうした構造的問題は、トップが交代し、時間をかけて組織の自浄作用を働かせていくしかない。
2. 転職エージェントからの熱心な勧誘を受けたけれど
実は、私は数年前の転職活動時に転職エージェントから同社の法務部門を勧められたことがある。確かにこの会社の本社は京都府にあり、通勤圏内ではあるが・・・。ちなみに、同社は前職企業の取引先でもあり、営業マンを通じていろいろ情報を入手しているため、全く知らないわけでもない。
同社は、人材の入れ替わりが激しいとは巷の噂で聞いていたが、「OpenWork」でクチコミを確認したところ、驚くような言葉が並んでいた。
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「管理職は土曜出勤が当たり前。ワークライフバランスは期待してはいけない。」
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「幹部は創業者ファーストの思考に染まり切る覚悟が必要」
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「離職率は高く、毎月大量の退職者が発生する」
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「経営者は従業員を『代わりはいくらでもいる』と使い捨てるのではなく大切にするべき」
これらを読み、私は直感的に「これは自分には絶対無理!入社したら絶対後悔する!」と応募はキッパリと断った。軍隊のような規律を求める企業風土の会社では、私のようなタイプは長く働くことができない。そのように判断したからだが、今回の不祥事を目の当たりにしてそれは間違っていなかったと確信。
3. 過去にも予兆を感じた出来事
今回の騒動を象徴する忘れられないエピソードをもう一つ紹介しよう。以前にテレビ東京の「モーニングサテライト」で、様々な企業経営者が学生たちにビジネスの心構えを説く企画コーナーがあった。
私が朝食を食べながらニュースを見ていると、たまたま同社の創業者が登場していた。そして、そのコーナー内で日経新聞を読んでいない学生の一人に対して「君は日経新聞も読んでいないのか!(コイツは話にならんな)」とまるで吐き捨てるように言い放った印象的な場面があった。初対面の孫ぐらいの学生に対する(しかもテレビカメラの前でも遠慮しない)厳しすぎる言動を見て、「この人の下で働く部下達は、さぞかし鬼のような厳しさに晒されているのだろうな・・・」と推測したが、今回の生々しすぎる調査報告書を読んで図星だったと確信。やはり私の目に狂いはなかった(笑)。
ちなみに、学生時代の私はジャンプやスピリッツ等の漫画雑誌を熱心に読んでいたが、在学中には日経新聞なんぞ一度も目を通したことはない(キッパリ)。このようにかなりいい加減な学生時代を送った私だったが、現在の私は「企業法務のプロフェッショナル」と胸を張って言えるので(?)、学生諸君はどうか心おきなく学生生活をエンジョイしてほしい(笑)。

※今だから自白するけど、「ドラゴンボール」の続きが気になって法律の授業で隠れてジャンプを読んでいたことが何度もある(実話)。こんなチャランポランな私でも(以下省略)
4.組織の色を染めるのは、やはり「トップの人間力」
これまでは私は、ブログにおいて「ビジネスパーソンと人間力との関係性」について何度か触れており、その重要性を繰り返して説いている。
組織の大小にかかわらず、企業文化はトップの写し鏡。トップの価値観や言動が、そのまま組織の空気となり、文化となり、やがて行動様式として定着していく。企業の規模の大小に関わらず、この点は変わらない。とはいえ、令和時代において急速に進んだ価値観の変化(ハラスメント=悪)に柔軟に対応しなければ、時代の荒波という「巨人」に駆逐されてしまう。今回の出来事はその教訓を改めて私たちに教えてくれる。

かくいう私も法務部門のマネジャーとして、一つの小さな組織を預かる立場にある。規模こそ小さいが、部門のトップであることには変わりない。制度や規程だけでは、組織は健全に機能しない。最後の最後でモノを言うのは、結局のところ、当人の器量であり、その根底にあるのは人間力。この当たり前の原理を、今回の不祥事を「他山の石」として改めて自分に問い直してみたい。