Lofree Specterスイッチを使って新たにキーボードを自作することにしました。 前回のブログ記事ではキー配列と基板の設計について書いています。 今回の記事ではケース設計とマウント方法について。
どんなキーボードケースにしようか?
これまで自作したキーボードと似たものを作るだけでは面白くありません。わたしはキーボードを自作するときに何か必ず自分にとって新しい要素を入れたいと考えます。 できればなるべく他の人がやっていないようなことをやってみたい。 さてどうしたものか。
ガスケットマウントという言葉の違和感
キーボードにはガスケットマウントというものがあります。スイッチプレートにタブを付け、そこにフォームやゴムをつけて打鍵時の衝撃を和らげるものです。自作・カスタムキーボードのマウント方式として最近ではポピュラーなものの一つになっています。
一方で、自分はこのネーミングにずっと違和感を抱いています。ガスケットは気密性を保つためのシール材のことを指すものだと思っているからです。実際に気密性を保つような構造のガスケットマウントはないと思います。O-ringマウントはキーボード部分(スイッチプレート、PCB)の外周をぐるっと1周するので、こちらの方が本来の意味でのガスケットに近い気がします。
こうした違和感をずっと抱いていましたが、久々キーボードを自作しようと考えたときにあるアイデアが浮かびます。シリコーンシーラントを使うと真の(?)ガスケットマウントができるのでは?
真の(?)ガスケットマウント
シリコーンシーラントでスイッチのついたPCBとケースの隙間を埋めるというのがアイデアです。
真のガスケットマウント、と言っているのは密封性が(相対的に)高いということです。ガスケットマウントはプレートやPCBの外周の一部にタブをつけて、そこにシリコーンゴムやフォームをつけてケースに固定するものがほとんどです。これが外周の一部だけなのでガスケットという言葉に違和感があるわけですが、PCBの外周すべてをシリコーンシーラントを使ってケースと密着させたらガスケットっぽいじゃん、と思うわけです。
実際に気密性があるわけではありませんが、ケース内の隙間を最小化すると打鍵音に影響がありそうです。以前パテをケース内に詰めると打鍵音が大きく変化する、というのを目にしたことがありましたが、これと似たような効果が得られるかもしれない。パテに比べてシリコーンシーラントを使うメリットは、硬化(といっても弾力性があります)して形状が維持される点でしょうか。
ということで、シリコーンシーラントを使用してキーボードを作ることにしました。キーボードの名前SLNTはSealantの母音の除いた文字列になっています。単語から母音を除くだけでそれっぽくなりますね。
ケースの設計
方針が決まったらケースを3D CADで設計します。今回のキー配列の外形はきれいに四角になっていないので、ケース上面はその外形に沿った穴が開いている形状にしたくなります。それに対応できるようにアクリル箱組みでケースを作ることにして、上面の板はレーザーカットで作ることにします。

ロープロファイルスイッチの特徴を活かすためにケースはできるだけ背が低くなるようにします。ただし、持ち運び用というわけではないので、薄さよりは打鍵感を重要視することにします。
スイッチプレートはなしで、スイッチはPCBにはんだ付けします。ロープロファイルスイッチはキーキャップを選びますが、スイッチプレートがない方が幅が広がるだろうと思ったからです。
ケースは基本3mm厚のアクリルで箱組みします。
以前2mm厚の板を使ったときには明らかに薄くて音が抜けてくる感じがあリました。5mm厚のアクリルを使うとかなりしっかり接着できるので安心感がありますが、一方でできるだけ薄くしたい。ということで3mm。こうするとUSBレセプタクルの先端がケース表面から1.5mm引っ込むのですが、これは全く問題ありませんでした。


接着強度のために側面の左右の板は5mmにしようかとはじめ思ったのですが、すべて3mm厚に揃えるとアクリルレーザーカットで一緒に作れてコストが抑えられるので3mmにします。
底面の板は、打鍵音の観点から剛性が高いほうがいいかなと思い、5mm厚の透明アクリルにします。レーザーカットとは別購入になりますが、穴加工は自分でやるので板を買うだけになり、それほど高くはなりません。また透明にするとケース内の様子を見られるので、フォームを詰めるなどの調整がやりやすくなります。
底板の手前側にはウレタンクッション、奥側にはチルトを少しつけるために市販されているアルミ足、またはアクリルで作った足をつけることにします。
ケースの高さは手前側で17~18mm。使用してみてわかりましたが、この高さならパームレスト無しでも全く違和感なく使用できます。まあでもパームレストがあったほうが自分は打ちやすくて、FILCOのリストレストMacaronの高さとケース上面の高さが一致していい感じです。
ケース上面の板とキーキャップの隙間は0.25mmにし、角のRは1.5mmとしました。後でこれは失敗であることがわかりました。キーキャップの角は結構とんがっているのでこのクリアランスでは角が当たります。またケースとスイッチがついているPCBの位置合わせが非常にシビアになります。いつもこのクリアランスは気分で決めているところがあるので、こういうところを丁寧にやらないといけませんね。
PCB上面側とケース上面板の間はシリコーンシーラントで埋めることにします。シーラントが付く部分としてPCB外周には5mmののりしろを設けてあります。PCB底面〜ケース底板の間はこの時点で真面目に考えていませんでしたが、シリコーンシーラントを外周につけるか、あるいはフォームを貼り付けることにします。
自家製のUSBドーターボードはタップ穴を開けたアクリルの板に固定します。それをケース上面板の底面側に接着します。
アクリル箱組みケースでいつも悩むのは、どのようにネジ止めするかです。
ケース上面にネジの頭があることを許容すれば何も難しさはありません。
しかし私はネジの頭は上面からは見えないようにすると決めています。またメンテナンスができるようにケースの底板は外せるようにしたい。そのためのネジ止めをどう実現するか、いつも悩みのタネになります。
あれこれ考えて、ナットを埋め込めるパーツを3Dプリンタで作ることにしました。 アクリルや3Dプリントなどで箱を作るときに、アクリル自体にタップ穴加工したり、あるいはタッピングネジで止める方法もありますが、何度もつけ外しする場合は強度が不安です。 ナットを埋め込む方法は昔あれこれ考えてひねり出したアイデアですが、今ではアクリルや3Dプリントで箱を作るときの自分の常套手段になっています。 ナット埋め込みする3Dプリント部品とアクリルケースを固定する必要がありますが、あれこれ考えて下図のような構造にしました。


これくらい小さいサイズならJLCの3Dプリントサービスを利用すると100均みたいな価格になります。 このナットホルダーはタップ穴加工した側面のアクリル板にネジ止めします。 アクリル板のタップの下穴はレーザーカットで開けておくことにします。そうすると穴位置が正確。タップの下穴は0.1mm狭めにしておくとちょうどいい感じ。またこのアクリル板は、箱組みする際の接着部分の補強にもなります。
シリコーンシーラントのテスト
ケース設計と並行して、シリコーンシーラントのテストをしました。 アクリルとの接着性が良いセメダインのシリコーンシーラント 8051Nを選定しました。 シリコーンシーラントはこれまで使用したことがなかったし、どれくらいの粘度で塗りやすさや扱いやすさはどうか全くわかりませんでした。 全ての部品を揃えていざやってみたら全然ダメ、というのは悲しい。 それほど高くもないので惜しまずテストします。
どうやってシリコーンシーラントを塗るか?
シリコーンシーラントは通常シーリングガンを使って塗りますが、これは大きくてゴツいのでキーボードケースの隙間にきれいに塗れる気がしません。 もう少し小さめの何かが必要です。 そこで100均で売っている以下のものを試しました。
- 詰め替えチューブ
- クリームしぼり袋

まずはシーリングガンからこれらに移します。シリコーンシーラントのノズルの先端をカットして、開ける穴の大きさを変えることでしぼり出す量を調整できます。Φ1~1.5mmくらいにしてみましたが、シーリングガンで押し出すのがかなり大変でした。やはりシーリングガンで細かい作業はできないので扱いやすい別のものに移し替えるのは必須です。
詰め替えチューブの口の大きさはΦ2mmくらい、クリームしぼり袋はΦ2-3mmくらいになるように切断しました。これらを試したところ、クリームしぼり袋が作業性が良いことがわかりました。ただし、袋にするための接着シロは塗るときに邪魔になりました。先端部分だけあらかじめハサミでカットしておくのが良さそうです。ヘラなどで塗ったあとに整形することを考えていましたが、トルコヨーグルト並みに糸を引くので難しい。塗ったあと、押し付けて型取りする感じでやることにします。
テストすると、やはりいろんなことがわかります。収穫の一つは、シリコーンシーラントは密閉されているとぜんぜん硬化しない、ということです。クリームしぼり袋に残っていたシリコーンシーラントは1週間くらいたってもまだ柔らかいままでした。硬化させるためには密閉したり厚すぎるといけないようです。
ストレッチフィルムはマスキングに使えるか?
梱包などに使われるポリエチレン製のストレッチフィルムはエポキシ系接着剤がくっつかないので、エポキシ接着剤の作業をするときに保護シートとして作業マットに敷いたりします。これ、シリコーンシーラントもくっつかないのでは?と思って試してみました。予想通りシリコーンシーラントはくっつかないことがわかりました。
これがわかったのは収穫でした。当初はアクリルケースの隙間を全てシリコーンシーラントで埋めようと考えていました。ただ、テストしてみるとシリコーンシーラントは粘度が高くて均一に塗布するのが難しい。1発でうまく成功する気が全くしません。ストレッチフィルムにはくっつかないので、ケース内側にラッピングシートをかぶせ、その上からシリコーンシーラントを盛ることにしました。つまり剥離剤代わりに使うわけです。そうすれば失敗しても硬化後にケースから取り外すことができし、またシリコーンシーラントで作ったガスケットを組み立て後でも取り外しできるようになります。
シリコーンシーラントでスイッチの穴を塞ぐ
せっかくテストするので、別の遊びもしてみました。 Lofreeのロープロファイルスイッチには、LED用の穴が開いています。この穴を埋めれば打鍵音が好みになるのでは?と以前思ったことがありました。 そこで埋めてみました。
シリコーンシーラントを詰めてみた、の図 https://t.co/LGbjuOhMIt pic.twitter.com/cAZo2TkTvT
— 機嫌を損ねたシェフ (@kgnwsknt_chef) 2025年8月23日
LED用の穴とスイッチ内部がつながっているので、スイッチ内部にシリコーンシーラントが入り込んでいかないようにテープを貼ってから埋めました。
結果、打鍵音が低音寄りになって自分の好みになりました。 ただしスイッチ単体なので本当に好みかどうかは基板に取り付けて試したくなります。 でもこれをキーボード1台分やるのは苦行…。もっと扱いやすい別の何か、それこそ先述のパテとかで埋める方がいいのかもしれません。
あとがき
今回の記事ではケースの設計とシリコーンシーラントのテストについて書きました。次の記事では組み立てについて書こうかなと思います。さて、はたして上手くいくのか...?
この記事は自作したオリジナルキーボードunity69、SLNT67で書きました。