木村聡著『聯合艦隊「海軍の象徴」の実像』中公選書刊 を読み終えた。
著者は1993年生まれの若手の歴史研究者で当然初めての出会いだが、あとがきを読むとこの本は博士論文「聯合艦隊論」を一般向けに改変したものであるらしい。
得てしてこのような題名のものは、戦争や戦闘、作戦や勝敗などに重点がおかれることが多いが、この本は今まで海軍戦史の一部分でしかなかった聯合艦隊を政治、外交、更には社会との関わりなどにも着目して描く通史である。
聯合艦隊と云えば真っ先に「日本海海戦と東郷平八郎長官」や「真珠湾攻撃と山本五十六長官」などの栄光を思い浮かべる人が多いと思われるが、元々常備されている第一艦隊や第二艦隊などを、戦時や大演習時に統合して臨時に編成される組織であったが、大正11年(1922)12月から常に存在する組織になった。
海軍の中央組織として軍政を担う海軍省と軍令を司る軍令部があるが、何れも予算や人事、作戦計画や命令などの文書を以て海軍全体を間接的に取り仕切る。
然し聯合艦隊司令長官は天皇からの命令を受けそれに従って部下に直接命令を下す。聯合艦隊には海軍戦力の殆どが組み込まれていて、海軍最大の実力組織かつ最大の出先機関である。
巻末に日清戦争時の伊東裕享(いとうすけゆき)に始まり敗戦時の小澤治三郎(おざわじさぶろう)迄歴代24人の司令長官名が掲げられているがこの内時代を画した人物をあげて以下の通りその時代を詳述している。
・日清・日露戦争―伊東祐享と東郷平八郎
・ワシントン軍縮会議の衝撃―竹下勇
・精兵主義の要として―鈴木貫太郎
・美保関事件(艦艇の多重衝突事故)―加藤寛治
・第一次ロンドン軍縮会議―山本英輔
・英雄としての聯合艦隊司令長官―末次信正
・中央集権化と独断専行―山本五十六
・艦隊決戦をめぐる矛盾―古賀峯一
・徹底抗戦のなかの建前主義―豊田副武
著者の調査や分析は鋭く頷かされる面が多いが、中でも聯合艦隊の負の面を語っている以下の点は目から鱗の思いがある。
太平洋戦争後半、ガダルカナル島を始めとする多くの島々で陸軍将兵の餓死や玉砕がみられ、こうした「悲劇」の原因は従来陸軍側に求められていた。
然し自らの作戦のために陸軍将兵を引き出すことに熱心であったにかかわらず、その補給や護衛に力を入れなかった聯合艦隊の要因も無視出来ない。
軍令部や参謀本部には陸海軍の親密な協力なしには勝利はあり得ないという合理的判断があったが、現場の艦隊司令部からすると来るべき艦隊決戦に備えることが優先で、中央の指示は合理的ではないと映った。
「組織全体の作戦目標を統一し劣性な兵力をひとつにまとめて運用する」という聯合艦隊の作られた目的に合致しない動きで統帥の崩壊を来した。
◉今日の一句
閉店の文字は乱れて寒戻り
◉施設の庭、コブシ(辛夷)の花




『聯合艦隊―「海軍の象徴」の実像』
