湯川 豊著「海坂藩に吹く風・藤沢周平を読む」文藝春秋 刊 を読み終えた。
海坂(うなさか)藩とは広く知られているように作家・藤沢周平が創り出した東北にある所領7万石の小藩である。
この架空の藩には作家の出身地である山形県庄内地方の風土が色濃く反映しているといわれる。ただ江戸時代この地を治めたのは譜代の名門・酒井家で表高16万7千石、実収は20万石を超えると云われ海にも面した豊かな地である。
敢えて小藩にしたところに作家の意図や目指す方向が少しばかり見えて来るような気がしている。
この本はいわゆる海坂ものと云われる、長編「三屋清左衛門残日録」「蝉しぐれ」を始め短編の「竹光始末」などを詳細に解き明かしていくが、その文章から浮かびあがるのは藤沢周平本人とその小説が好きでたまらないと云う感情ではないかと思われる。
表題は「海坂藩に吹く風」であり海坂ものに特化した評論だと思って借り出したが、実際には副題の「藤沢周平を読む」の方が内容的に相応しいと思え、著者の筆は以下の分類の全作品に及んでいく。
・「剣が閃くとき」~「隠し剣シリーズ」や「たそがれ清兵衛」など剣の使い手・剣客や立ち合いが描かれる。
・「つつましく、つややかにー武家の女たち」~「用心棒日月抄」「玄鳥」などに出て来る凛とした女性像が描かれる。
・「市井に生きる」~「橋ものがたり」や「本所しぐれ町物語」などの庶民の生活や哀歓が描かれる。
・「歴史のなかの人間」~戦国末期の上杉家の行動を書いた「密謀」、藤沢周平の故郷の百姓の行動を書いた「義民が駆ける」などの精緻な想像力で組み立てられた歴史小説。
・「伝記の達成」~「白き瓶 小説長塚節」「一茶」などの伝記小説。
・「自然」からの出発~藤沢周平が詠んだ俳句の紹介。
◉著者は「あとがき」で「藤沢周平の文章は、人間について何かを喚起する力を持ち、人間の深くにまで届く想像力を内側に秘めている。」と書いているが、かなり共感するところがある。
全体を通じ著者は藤沢作品を深く読み込み、その分深く藤沢周平に傾倒していることが読むものに伝わり、もう一度藤沢作品を読んでみたいと思わせる力が有る。
私は俳句の初心者であり藤沢周平の俳句を評する力はないが、初めて藤沢周平が俳句を詠んでいたことをこの本で知り、俳句を始めて良かったと思っている。
◉今日の一句
朝歩き帽子に落ち葉連れ帰り
◉健康公園のイロハモミジ(伊呂波紅葉)







同じイロハモミジでもほとんど直射日光に当たらない葉は紅葉していない。紅葉が陽光と密接な関係にあることが良くわかる。

「海坂藩に吹く風・藤沢周平を読む」
