松里公孝著「ウクライナ動乱」ちくま新書刊を読み終わった。新書版ながら500ページに及ぶ大著で、私はここ4~5日行きつ戻りつこの本と格闘した気がしてようやくたどり着いたことに正直ホッとしている。
著者はロシア帝国史やウクライナなど旧ソ連圏現代政治の専門家で、この分野では世界的に有名な研究者とのことである。
私のような門外漢には突如としか思えなかったが、2022年2月24日ロシア軍はウクライナの軍事施設にミサイル攻撃を仕掛けると同時に国境を越えて侵入した。
従ってこの戦争が始まってから3年半が経過しようとしている。ちなみに我々の最も身近な(と言っても私も戦後生まれだが)太平洋戦争は3年8ヶ月続いており、その悲惨な歴史を見聞している立場から見ても、ウクライナの人々のこの間の苦痛は察するに余り有る。
副題が「ソ連解体から露ウ戦争まで」となっているように、ソビエト連邦の崩壊、東欧諸国の革命、東西冷戦終結と云う1989年~91年に始まる社会の大変動が続いて来た結果として、現在のウクライナ情勢が有るとの認識をベースに、現地調査と100人を越える関係者へのインタビューを踏まえその実態を解明しようとするものである。
このロシアとウクライナの戦争を遠い日本から見ると、突然の侵略で国境線を変える目論見の言語道断、理不尽な戦争に見えてしまうが、この裏に有る、歴史的なもの、民族主義的なもの、経済的(貧困問題、非工業化など)なもの、ポピュリズムを含む政治的なものなどが複雑に絡み合った様相がこの本のなかで説明されていく。
特にマスコミの論調などでよく使われる、NATO の東方拡大や、親露派対親欧米派と云うことも確かに事実ではあるが、決してそれだけではないことも分かって来る。
折角なのでウクライナの動乱や露ウ戦争を理解する上で重要な特に印象記憶に残った記述を以下に挙げておきたい。
・戦争は悲劇である。しかし戦争は、平時には見えなかった当該社会の問題点を浮き彫りにする。~~平時の政治を研究することが内科的な診療方法だとすれば、戦争の政治を研究することは腹部を切り開いて患部を目視することなのである。
・歴史的な偶然から独立ウクライナは、ウクライナ語者やウクライナ民族主義に共感する人々が居住する領域よりもはるかに広い領土を取得した。
・ウクライナ現代史を概観すると、社会を分断し、紛争を暴力化しようとする力と、具体的な争点に取り組み、紛争のイデオロギー化を避けようとする力の相克であったという印象を受ける。
・プーチン政権が露ウ戦争を正当化した論拠は主に二点であった。ひとつはウクライナとNATOの協力関係の深化がロシアの安全保障にとって脅威であるということ、もうひとつはミンスク合意が実施されず、ドンバスでの(ロシア系住民に対する)「ジェノサイド」が続いているということであった。
(ミンスク合意とは2014年に始まったウクライナ東部紛争の和平合意でロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスが文書をまとめた)
(ドンバスとは「ドネツ川流域」あるいは「ドネツ炭田」を意味しウクライナの東南部ロシアと国境を接するドネツク州、ルガンスク州を指す)
◉今日の一句
今年は梅雨が非常に早く明けたので水不足が気になり、ベランダから見える溜め池の水位が低下するのを心配してずっと観察していたが、先日雨が2日に渡って降ったことで一気に水位が回復し少し安堵したことを詠んだ。
喜雨来たり溜め池水位戻し行く
◉健康公園のコブシ(辛夷)の実、コブシの名前は、実が握りこぶしのように見えることからつけられたと云う説がある。
私は垂水に引っ越すまでコブシの実を見たことがなく、最初にこの実を目にした際、これは一種の奇形ではないかと思ってしまった。





「ウクライナ動乱」
