著者は文藝春秋新社に入社、直接の松本清張担当や、月刊誌編集長時代の接触を含め長期間にわたり松本清張を編集の立場から支え見守り、現在は太平洋戦争などを題材にした主にノンフィクションの作家活動を行っている。
云うまでもなく松本清張は昭和を代表して、司馬遼太郎と双璧といわれる大作家で多作で知られ、著書が約750、作品は約1000点に及ぶとされる。
然し作家としてのデビューは遅く41歳のとき、森鷗外の小倉勤務時代に題材を得た「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞してからで、「点と線」などで社会派推理小説のベストセラー作家の仲間入りを果たすのは48歳のときである。
この背景にあるのが、清張さんの貧しい生い立ちや厳しい前半生であるのは明らかだが、著者は更に深堀りし、この作家が34歳のときに召集され、一家六人の家族を残して朝鮮に出征したことが膨大な作品群を生み出した根底にあることを作品と対比しながら説明していく。
抽象的な表現では、軍国日本の植民地統治と崩壊を見聞きした戦争体験、昭和の歴史体験と云うことになるが、これらのなかで著者は作品の中に実体験が織り込まれている二つの具体的な事実を挙げて説明する。
・34歳の年齢で一家の大黒柱が召集されるという余り例を見ない状況の中に、召集事務を担当する事務方の恣意的な取扱いがあった。
・軍隊勤務時代のなかで受ける私的制裁や理不尽な扱い、切実な望郷の思い、巨大な権力機構を構成する小さな権力の実態を実体験した。
私も昭和の時代松本清張さんの色々な作品を読み耽ったが、これらの作品群を読むと作者の権力の不正や腐敗に対する一貫した怒りを感じることが出来る。その激しい怒りが何によって出来上がっているかその一端が垣間見えたような気がしている。
🔘今日の一句
おとり鮎共に納まる魚籠のなか
🔘施設の園芸サークルの畑に植えられているムギナデシコ(麦撫子・アグロステンマ)





